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第505話 新しい家族

 慌てて新婚旅行から戻った私達はランディルナ家の屋敷からジュエルエース家の屋敷へ運び込まれたルイマリヤに対面することなく、仕事を放り出してきたコルと合流した。

 前世での出産経験など私はないし、元女性であるコルにもない。

 とはいえ、今出産に立ち会っているのは何十回も経験のある医師や産婆であり、彼女達もそれぞれに経験しているので下手に私達が首を突っ込むようなこともない。

 態々屋敷に出産のための部屋を用意したり、医師や産婆を確保していたのも全てはルイマリヤのため。

 もちろん我が家の使用人が出産するのであれば使うつもりだし、私もその旨は通達している。

 今日がその最初の出番だ。


「長い、ですね……」

「そうだね」


 同じ女の身だけど、おそらく私には訪れる機会のないこと。ただただ、ルイマリヤが無事に出産することだけを祈る。

 同じようにコルも組んだ両手を額に擦り付けるように祈りを捧げていた。


 そして私達が帰ってきて、鐘二つと少しの時間が経った頃、ようやく待ちに待った声は聞こえてきた。


「……ぁ〜〜……っ!」

「っ! コル!」

「聞こえたよね?! 聞こえたわよねっ?!」

「うん、聞こえた!」


 私達は部屋から飛び出ることはしなかったが、誰かが部屋に入ってくるのを今か今かと待ち続けた。

 当然私は部屋に走ってくるメイドがいることを把握している。


ばんっ


「お生まれになりました!」

「えぇ、今行くよ。コル」


 私が声を掛けると同時にコルは椅子から飛び降りるように立ち上がるとそのまま廊下を駆けていった。

 その後ろからややゆっくりとした歩調で私達は出産部屋へと向かった。

 部屋に着くとぐったりとした表情のルイマリヤと対照的に穏やかに微笑むコルがいて、二人の腕の中にはそれぞれ小さな命が息づいていた。


「おめでとう、コル。お疲れ様、ルイマリヤ。二人とも今日からこの子達のお父さんとお母さんだよ」

「ありがとうございます、母上。まさか……自分がこのように父親になる日が来るとは思ってもみませんでした」


 いやいや。しっかり子作りするつもりだったんだからその時点で父親にはなるでしょうよ。

 そんなセリフが飛び出しそうになったけれど、無粋なことは言うまい。


「ルイマリヤも、本当によくやってくれたね。貴女が私の娘になってくれたことを誇りに思うよ」

「あ、あり、あ……あり、が、とう……ござ、ございます。あの、お義母様も子どもたちを抱いてあげてくれませんか?」

「えぇ、そうさせてもらうよ」


 私はルイマリヤからそっと子どもを受け取ると力が入ってしまわないよう全力で注意しながらそのおでこにそっと頬を擦り当てた。

 温かい。それに、赤ちゃん特有の良い匂い。

 よくお日様の匂いがするなんて言うけれど、なるほどと思う。


「この世界にようこそ。私達はみんな貴方達を歓迎するよ」

「母上、この子もどうか」


 抱いていた子はミルルに預け、コルの手からもう一人を受け取る。

 出産前診断の通り、コル達の子は双子。

 しかも男女でだ。


「貴方もようこそ。私達の家族になってくれてありがとう」


 赤ちゃんを抱くのは前世で園にいたとき以来か。

 ディックが生まれた時はイルーナがべったりだったしね。

 あの時はそれこそ育児放棄された赤ちゃんや小さな子の面倒を見てたっけ。

 私も最初はその中の一人だったけれど、大きくなるにつれて面倒を見る側になっていった。


「ねぇ、それで名前はどうするの?」

「そうだね。コルとルイマリヤはもう決めてるの?」

「はい。男の子は『ロードリング』。女の子は『エルジュベータ』です」


 おぉ、なんかこの世界じゃあまり聞かない響きの名前になったね。

 どっちの名前も凄く響きが良くてかっこいい。


「わた、わ、私、はもっと可愛くしてもいいと、思うって言ったのですが……」


 名前の響きに驚いていると反対とでも思われたのかルイマリヤが少し慌てて口を挟んできた。


「そんなことないよ。男の子はかっこいいし、女の子の名前だってよく通る綺麗な名前だよ。ロードリング、エルジュベータ二人ともよろしくね!」


 それから少しだけその場にいたけれど、医師と産婆から子どもも母親も少し休ませたいと申し出があったので私達はすぐに引き上げることにした。

 コルだけはまだルイマリヤの側にいたので、彼の愛人であり側近でもあるクロウを引き連れて執務室へと向かった。


「クロウ、これからコルは父親になったことでより一層張り切るかもしれないから今まで以上に彼のことを良く見ててほしい」

「は、畏まりましてございます。私めの命はコルチボイス様へ捧げております」

「うん。でも今まで通りコルの大切な恋人としての役割もお願いね?」


 執務机に体を預けながらクロウに伝えると彼はようやくニコリと笑った。

 やはりコルの子どもが生まれたことで自分から興味を無くしてしまうかもしれないと思っていたのかもしれない。

 そうなる可能性がないわけじゃないけど、結局美青年を侍らせたいと思っているのはコルの前世が女性だったからというのもあるしね。

 でも根本は変わらない。

 私が結局こうして私のことを『好き』と言ってくれる相手をすぐ近くに置いているのと同じことなんだと思う。

 そしてクロウを下がらせ、大きく一つ息を吐いた。

 何故かって?


「なんか、いいよね子どもって」

「そうですわね」

「えぇ、私達も欲しくなってしまうわね」

「セシルとの子どもが欲しいのっ!」


 絶対こういう話になると思ったからだよ!


「あの、普通に無理だからね? 種族はともかく性別の壁は越えられないから」

「わかってますわ。それに、私は特にどうすることもできませんもの」


 この中ではステラとミルルだけはどうしても子どもを宿らせることが叶わない。

 どのみち女同士で子作りは出来ないけどね。


「その分はソフィアに愛情を注いであげてほしいな。もちろん、ソフィアだけじゃなくて他にも引き取りたいと思ったら相談してくれていいよ」

「そうだね。特に私達は普通の人間よりも長く生きることになるんだしね」


 この中で一番寿命が長いのは私。何せ老衰での寿命無しだから。次いでミルルとステラは私の魔力頼り。リーラインが数千年。ユーニャとチェリーは約千年。

 またどこかで子どもを育てたいと思ったらその時考えれば良いよね。


「何年生きようと私達はずっとこのまま仲良く過ごしていきたいね」


 そんなユーニャの言葉に全員で頷いた。

 もちろん久し振りの我が家での夜はみんな張り切ってしまって、私もすっかりトロトロに蕩けさせられてしまった。




「はああぁぁぁ……可愛いかったぁ……」


 蕩けた顔を浮かべているのは娘のソフィア。

 この子も引き取ってから約二年。

 今ではすっかり親子が身についていると思いたい。


「ソフィアもこれでロードリングとエルジュベータの叔母様になるね」

「む。それを言ったらセシルママだってお祖母様だよ?」

「……確かに」


 ソフィアに言われるまで考えてもいなかったけど、確かにコルが息子である以上はロードリング達にとって私は祖母ということになる。

 よし、第五大陸の件が片付いたらイーキッシュ公爵親子を招待……ん?


「あれ? そういえば、ディックのところもそろそろ生まれる頃じゃなかったっけ?」


 執務室の応接セットで寛ぐ面々に問い掛けると書類に目を落としていたユーニャとリーラインが顔を上げた。


「夏に行った時七ヶ月って言ってたし、時期としてはもういつ生まれてもおかしくないね」

「ディッカルトにも携帯電話は持たせているのでしょう? なら生まれたらすぐ連絡があるはずよ」


 以前イーキッシュ公爵領の湖に騎士団と共に避暑に行ってから三ヶ月ほど経過している。

 気付かなければ突然連絡が来て驚いてしまっていたかもしれない。


「でもこういう噂をしていると、案外すぐ連絡が来たりするよね」

「まさか。そんな都合良くいくわけないでしょ」


 しかし真実とは案外言った通りになってしまうことがあるものだ。

 笑い話のつもりだったのに、私の頭の中で短いコール音が響いた。


「うそぉ……この感じは、本当にディックからだ」

「噂をすればやってくる?」

「それか夏瓜から火打石?」


 どちらもこの世界の慣用句だけど、前世での「噂をすれば影が差す」「瓢箪から駒が出る」と同じ意味である。

 驚きを隠せないまま脳内に響く音に集中すると、ディックへと回線が繋がった。


「ディック?」

「ねえね! 生まれたよ!」


 次の目的地は決まった。

 それから私達はソフィアも連れてすぐにイーキッシュ公爵領都、シャイアンへ飛んだ。

 私の長距離転移(ゲート)ならば一瞬で到着するのだけど、さすがに大公が公爵家の中へ玄関も通らずに入るわけにはいかない。

 仕方なく領都の外からゴーレム車で入り、門で先触れを出してもらってからゆっくりとイーキッシュ公爵の屋敷へと向かう。


「久しいな、ジュエルエース大公」

「ご無沙汰していますイーキッシュ公……お祖父様」

「そのような畏れ多い呼び方では恐縮してしまいますな」

「いや……あんまりいじめないで下さいよ……」

「ははは、何を仰るのやら」


 絶対揶揄って遊んでるだけでしょ!

 しかしさすがのお祖父様も奥さん達から訝しげな視線を向けられたことで漸く遊ぶのを止めて向き直ってくれた。


「まさか、これほど短期間で公爵である祖父を超えてくるとは思わなんだ。本当に、よく来てくれた」


 と、くるりと手の平を返してくる。

 以前会った時にはこんなお茶目な面は見せてくれなかったけれど、これはこれで親しみやすい。


「爵位だけです。私は私のやりたいようにやってるだけなので」

「それでもだ。しかし……女好きなところは祖父に似てしまったようだな」

「それは……まぁ、はい」


 お祖父様も確か追い出すまでは奥さんやら側室やら愛人やらがすごく多かったという話を聞いた。

 私の母であるイルーナを育ての親諸共殺そうとしたことで全員追い出したと。

 なるほど、私に奥さんが多いのは遺伝か……って、別にイルーナはランドールしか相手いなかったし。

 言い訳を探したくなるくらい奥さんや愛人が多いけど、それはオリジンスキルのせいでもある。

 それはともかく折角来たことだし、久し振りに祖母の墓参りにも行かせてもらおう。

 でもまずは。


「それより、ディックのところへ案内してもらえますか?」

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― 新着の感想 ―
 生まれた子に鑑定をかけなかった事になにか作為的なものを感じてしまう、メタ読み脳の自分……。
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