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第501話 料理人

コミカライズもよろしくお願いします!

 ヘイロンに指定された日時と場所は二日後にこの宿で、となった。

 あちらの店に行ってもいいのだけど、気を使われた形だろう。


「じゃあ折角時間を取れたわけだし、私も少し町中を見て回りたいな」


 という私の提案で六人全員でお出掛けする事になった。宿が取れるまでは安心して出歩けなかったし。

 ただ昨日私とは別行動をしたリーラインとステラは多少把握しているようなので、彼女達に案内を任せている。

 ちなみに、宿に着いた時に案内人から当面の活動費として百万ボルを受け取っており、食事なんかはこれで済ませろという意味だと思っている。


「部屋は広いしテーブルもあるから持ってきた食事だけで事足りるといえば足りるんだけどね……」

「何か言った?」


 ふいに口から出た言葉にユーニャが反応してしまったので「なんでもない」と返しながら振り向くと一軒の食事処が目に入った。


「折角だからたまには外食してみない?」

「私は構わないけど……ミルルとステラは平気?」


 私が指し示したお店はどう見ても庶民向け。

 基本的に貴族向けの食事ばかりだったミルルにはキツいかもしれないというユーニャの心遣いだったが、ミルルは問題ないと首を振った。


「庶民でも貴族でも、食べられるだけでも幸福であると存じてましてよ?」


 広げた扇子で口元を隠して表情の一つも変えない。ミルルも辛い目に遭ったし、私の眷属になった時はそれこそふっくらした体型だった彼女は肉が削げ落ちてガリガリに痩せ細っていたものだ。

 生体魔道人形だからと言っても食事は出来るし、ちゃんと栄養も摂取出来るので、今は出るところ出て引っ込むところは引っ込んだとても魅力的なスタイルをしている。まぁ相変わらず背は私より低いからナイスバディとは言えないけど。


「私も問題ありません。生体神性人形になったことで食事による魔力補給も行えるようになりましたので」


 当然リーラインとチェリーは賛成なので、私達は六人の大所帯で食事処のドアを開けた。


「こんにちは。六人なんだけどいいかな?」

「……うひぇ?! い、いらっしゃいませー。好きなところにどうぞー」


 誰もいない店内で一人だったせいか、店員の男性は椅子に座って居眠りしていたようだ。

 まぁそういうこともあるよね。


「なんですの? 店員があのような態度でよろしくて?」

「ウチの従業員なら減給かな」

「戦場なら死んでるの」

「授業中なら後でお説教と反省文の提出ね」

「屋敷のメイドであれば即日解雇します」


 みんな厳しすぎない?

 私は五人に落ち着くように言いながら苦笑いが止まらない。

 店員に聞かれてたら気まずいでしょう?


ことっ


 しかし店員は絶対聞こえていたであろう私達の話をスルーしてテーブルに水の入ったコップを置き、メニューを二冊渡してきた。


「あはは……すみません、ウチあんま流行ってなくていつもこの時間暇なもんで」

「ごめんね、みんな口が悪くて」


 ただ……流行ってないってことは味もそれに相応しい味ってことだよね?

 失敗だったかな。

 しかしふと目の前にあるコップを見た。

 水を、配るの?


「ねぇ、水は頼んでないんだけどこれは有料なの? 頼んでないもの出してぼったくる魂胆?」


 当然商人であるユーニャも気になったようで店員を睨み付ける。威圧を掛けてないのはまだ確証を得てないからだろう。


「いえいえ、それはサービスです。自分の故郷ではどこの店もそうだったんで」

「そうなの? 珍しい地域があるのね」

「地域というかまぁ……とりあえず、注文お願いします」


 どうやら質問自体はかわされてしまったみたい。

 けど私も店に来て何も頼まないというのは気が引けるので渡されたメニューを開くと、そこには見慣れた単語が並んでいた。


「ナポリタン、ミートソース、カルボナーラってステラも作れる料理なの」

「えぇ、セシーリア様にお教えいただいた料理ですね。こちらのトンカツやパンケーキもそうですね」

「でもこっちのマーボーナス? スブタ? とかは知らない料理だね」


 これ……確定なんじゃない?

 まぁでもとりあえず注文かな。

 私は見慣れたメニューの中からロールキャベツとエビフライを選び、食後にスフレチーズケーキとカフェラテも頼んでおいた。

 みんなはどれがどんな料理がわからないからか、食べ慣れたパスタとパンケーキを選んでいる。


「承りました。それじゃ少々お待ちを」


 店員の彼は私達の注文を書いたメモを持って店の奥へと引っ込んでいったが、その歩く姿はまるでスキップしているかのようだった。

 ひょっとしたら本当にお客さんがあまり来ないから、六人だけでも嬉しいとかそんな話なのかもしれない。


「本当に大丈夫なのかな? セシルは聞いたことない料理を頼んでたよね?」

「そうだね。エビはマズの漁港で捕れる海虫のことだと思うよ」

「あぁ……セシルが行くと必ず分けてもらってるあの気持ち悪い虫のこと? 外食部門で人気が出てることは知ってるけどよく食べられるよね」


 相変わらずユーニャが酷い。

 海虫はマズの漁港では廃棄されていたエビとカニの総称。

 数年前にデルポイ出資の巨大冷凍庫を設置して、規定より大きい物はその冷凍庫に保管してもらっている。

 漁業組合には毎月保管料として白金貨五枚支払っているので、私もたまに回収に行って現地で解凍しつつ舌鼓を打っていた。

 当然外食部門で使用するサイズのエビやカニはマズにあるデルポイの支店から指定された何店舗かのレストランへと卸されている。

 見た目の問題もあってか、外見そのままだとなかなか食べられないようだけど。


「エビフライなら見た目は悪くないから食べてみたら? たこ焼きだって姿がわからなくなればユーニャは食べられるでしょ?」

「そうだけど……」


 ちなみに私はお刺身をいただいております。

 だからこそ、白いご飯が欲しい。そろそろ本格的に探したいなぁ。

 そうして雑談することしばらく。


「お待たせしました」


 店員が持ってきたのはみんなのパスタからだった。そこそこ量もあるのでチェリー以外の胃袋ならばしっかり満たしてくれるはず。

 チェリーはよく食べるから。

 推定で私の倍は食べるよ。

 みんなのパスタが行き渡ると、私の前にも料理が置かれた。

 それはとても懐かしい、普通のエビフライとロールキャベツ。

 そしてテーブルの真ん中にバスケットに入ったパンが置かれる。


「その中のパンはいくら食べても構わないので」


 などと軽く言っているけれど、私の握り拳くらいあるロールパンはしっかりと焼き色が付き、芳ばしい香りが食欲をそそり早く食べてとせがんでいるかのようだった。

 早速バスケットのパンに手を伸ばす。


「柔らかい……ちゃんと酵母を使ったパン生地を作ってるね」

「王国ならよく見かけるようになったけど、まさか第五大陸にもあったなんてね」


 当然王国で広めたのは私からレシピを買い取ったクアバーデス侯爵の手によるもので、貴族院に入学する頃にはかなり広まっていたはず。

 ただ私が作れたのは山型食パンとコッペパンくらいで、こんなに綺麗な形のロールパンは再現出来なかった。

 私の料理スキルのせいではないと思いたい。

 はむっとパンを頬張ると、芳ばしい香りが鼻から逆に出ていき、より一層香り高く感じられた。

 しかも砂糖等の甘味が入っていないのに感じられる僅かな甘味。

 上等な小麦粉を使い、程よく焼き上げられたからか外側は確かな歯応えもあるのに中はもちっとしている。

 これは私が広めたパンより遥かに美味しい。

 膨らむ期待を抑えながらロールキャベツにナイフを入れると中から溢れる大量の肉汁、嫌でも食欲が湧き上がるような肉の匂いに我慢出来ずに口に入れると挽き肉と玉葱の絶妙な味わいに手が止まらなくなった。

 エビフライもパン粉と植物性の油を使い、尚且つ肉厚なエビの持つ淡白な味わいと共に暴力的なまでの香りがやはり私の手を止めることを許さない。

 結局食べきるまで無言で食べ続けた私はみんなが見つめていることに気付かないまま食事を終えてしまった。


「セシーリア様が、あんなに無心で……くっ」


 ステラは奥に引っ込んだ彼を敵のように睨み付けている。けどステラの料理は毎日でも食べたくなる良い味わいなんだけどね。


「あ、でも美味しい」


 パスタを頼んだみんなも彼の料理をしっかりと堪能したようだ。


「食後のデザートです」


 そして彼は私達が食べ終わるのを見計らって私のスフレチーズケーキとみんなのパンケーキを持ってきてくれた。

 当然ながらスフレチーズケーキは口の中で溶けてしまうほど口当たりが良く、はっきりとしたチーズの味もさることながら爽やかな甘味と僅かな酸味を楽しめる一品だった。


「これは……間違いないだろうねぇ」


 私はキッチンで洗い物をしている彼に対して『人物鑑定』スキルを使ってみた。


ぱちん


 何かが弾けるような音がして鑑定が弾かれてしまったので、彼には何かしらの神の祝福があるに違いない。

 ただアイカやクドー以外にも人間以外の種族に転生している人がいたことに驚いた。

 そして私から鑑定されたことに気付いた彼は洗い物をする手を止めてこちらへやってきた。


「いくらお客さんでも勝手に自分のこと探られるのは気持ち良いものじゃないですよ」

「ごめんね。あまりにも美味しかったから料理スキルはどのくらいあるのかなと思ってさ」

「聞かれたらちゃんと答えますって。一応最大まで……」

「っていうのは建て前で」


 勝手に鑑定したことを咎めるようなことを言いつつもヘラヘラと笑う彼に私は言葉を続けた。


「転生したのは別の世界から?」

「は? えっ?! 嘘だろ、聞こえたぞっ?!」

「私もだからね」

「……うおぉぉぉぉっ! すげえ! 初めて会った!」


 喜びを露わにする彼は興奮を隠そうともせずに大きな声を出していた。

 そのまま店の外に出ると、ドアに閉店していることを示す札を下げてきたようだ。

 続けて詳しい話を聞く前に、私以外の五人にお茶かコーヒーを出してくれたので落ち着いてゆっくり話すことが出来そうだ。

 それからしばらく私と彼だけで話していたけれど、五人は私の言葉がところどころ聞こえ難い部分があったと思う。

 自分が転生者だということは結局お互いに転生者でないと話すことが出来ない仕様なので仕方ないけれど、ユーニャは私が男と二人きりで話していること自体気に入らないのか、時折凄い目で睨んできていた。

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― 新着の感想 ―
 これは、ナポリタンの時点でほぼ間違いなく日本人。  発祥は日本で、むしろ現地のナポリの方なんかは「なにそれ?」な料理だから。  となると。今の店は不人気だし、こりゃ大陸越えてのヘッドハンティングか…
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