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第495話 第五大陸へ新婚旅行

「それじゃ、行ってくるね」

「うん、行ってらっしゃい」

「母上方、こちらはなんとでもしますのでどうかごゆっくりなさって下さい」


 ソフィアとコルに見送られて、私達は屋敷の馬車用ロータリーの前に立っていた。

 二人の後ろには屋敷の使用人達、ミオラ、ノルファ、エリーもいる。


「何かあったらすぐに連絡してくれていいからね?」


 ソフィアのレベルが上がったことでいくつもの魔法が使えるようになり、私と遠話(トーク)で第一大陸から屋敷までの遠距離でも話せることがわかった。

 こんなことを言っても責任感の強いソフィアだからよほど困った事態にならない限り連絡はしてこないだろう。

 だから私が屋敷を離れている間は眷属達も訓練を休んで見守ってもらうことにしている。


「セシル、それ四回目ですわよ?」

「セシーリアは本当に家のみんなが好きよね」


 いつまでも心配していては出発出来ないとミルルとリーラインに苦言を呈されてしまった。

 二人ともかなり呆れ顔でややうんざりしているようだ。

 なので意を決して魔法を唱えた。


「今度こそ、行ってきます。長距離転移(ゲート)


 魔法を使うと目の前の空間が歪み、第三大陸から私達の姿は消えた。

 そして視界がハッキリしてくると、第五大陸特有の薄暗くどんよりとした空気を感じる。ここは湿地帯も多く、土地自体が汚染されていることで人体にとっては猛毒となるようなガスが発生しているところもある。

 一般的に想像がつきやすいのは硫化水素だが、第五大陸で多いのは魔力欠乏ガスという吸うとMPがどんどん無くなっていく。

 ただでさえ強力な魔物が多い第五大陸でMPが無くなることは魔物に対抗出来なくなる恐れがあるため、とても恐ろしい毒ガスというわけだ。

 とはいえ、私達六人の中で異常無効のスキルを持ってない人はいないのであまり関係ないけど。


「それにしても、学校の卒業試験から二週間でよく準備出来たわね」

「いろいろ無理矢理だったことは認めるけど、どこかで一度私達がいない状況を作る必要はあったと思うよ」


 あれからソフィアを更にレベルアップさせ、卒業してクランに入った子達も急速成長させた上でチェリーやミルルと訓練。

 脅威度S下位の魔物なら十分対応可能なまでに育てた。

 ソフィアに至っては中位程度までなら危なげなく倒してしまえる。

 一部特殊な能力を持つ上位や魔王なんかと戦うには不安が残るけれど、そんなのは滅多にいないしね。

 眷属たちも訓練が一段落したので、ほとんどのメンバーはリビングアーマーに混じって屋敷の警備をしている。

 イリゼ、ラメル、レーアの三人はデルポイに出向して仕事を手伝ってくれているし、ジョーカーとジェイの二人もクラン『宝石箱』で運営や活動を補助してくれる。

 一度落ち着いて整理したいとは思うけれど、ヴォルガロンデに辿り着くまではやっつけ仕事ばっかりでも仕方ないと思っている。


「心配したらキリがないし、切り替えていこうよ。それでセシル、最初はどうするの?」

「基本的には竜王のいる場所を見つけるのが早いかな? だいたい高い建物とか山の上にいることが多いし、そのためにもまずは人が多い町に行かないとね」


 以前この第五大陸に来た時は海岸線から少し入ったところまでしか立ち入らなかった。

 本当に転移地点を置きに来ただけなのでそれで十分だったけれど、いざこうしてパートナー達とやってくることになるともう少し下調べしておくべきだったかと後悔している。


「セシーリア様、周辺を探ってみたところ北西方向にやや強めの魔力を持った集団がいるようです」

「あ、そっか。ステラも時空理術が使えるんだよね」


 普段のメイド服ではなく、私達に合わせて町娘風の旅装をしているステラ。

 生体神性人形に入っていても表情が乏しいのは変わらないけど、私達と一緒に旅が出来ることを一番喜んでいるのも彼女だろう。


「じゃあ折角ステラが見つけてくれたのだし行ってみてはどうかしら?」

「賛成なの! いつまでもこんなところにいたら気分までじめじめしてくるのっ!」


 気分がじめじめなのは良くないね、とチェリーに笑いかけると彼女は先頭を切って歩き始め、私達もそれに続いた。

 ステラの見つけたやや強めの魔力を持つ集団だが多分町ではない。

 何故なら弱い反応がほとんどないからである。

 普通の町なら強い人もいれば弱い人もいるはずだから、これは軍隊や騎士団、もしくは盗賊や山賊といった荒くれ者の集団だろう。

 反応がある場所の建物は砦のようなところなのでどちらなのかはこの場で判断しかねるね。

 万が一盗賊であれば討伐してしまえば済むし、このメンバーで対処出来ないようなレベルの相手はいなさそうだ。


「随分歩いてきたけど、あまり景色の変わらない土地なのね」

「第五大陸はかなり不毛の土地だってクドーが言ってたの」

「それにしてもこれではまともに作物さえ育たないのではなくて?」


 私が会話に入らなくてもそれぞれで話をして進んでいく。

 ステラの見つけた集団まではこのまま歩いていけば相手からも見つかるだろうけど、それでいい。

 別に奇襲を仕掛けたいわけじゃないし、相手が友好的じゃなくても正面から蹴散らせばいいだけのこと。

 そんなことを考えていたらどうやら相手にちょうど見つかったらしい。


「セシーリア様」

「うん。気付かれたね」


 時空理術で感知出来る彼等の動きは焦っているような、そんな慌てふためいたものだった。

 そんなに焦らなくてもゆっくり進んでいくんだけどね。

 ちなみにまだかなり距離があるので戦闘解析の範囲からは外れているものの、魔力だけは感知出来る。その魔力も最も高い者でさえジュエルエース騎士団で三番手を任されるような者と同じくらい。

 つまりは並みの魔法使いレベル。


「気付かれたと言っても何の問題もありませんわ」


 早速ミルルは彼等を蹂躙すべく人差し指を立てて魔力を集中し始めた。


「ミルル待って。まだ早いってば。相手に敵意があるかどうか確認しないと」

「そんなこと言って先に攻撃されたらどうなさいますの?」

「多少攻撃されたところで私達に被害が出る?」


 人間をやめてしまってからのミルルは貴族院時代とは大きく変わってとても好戦的な性格になってしまった。

 それも全ては私の眷属になってしまったのが原因かもしれないけれど、無差別に攻撃を仕掛けようとするのは止めてほしい。

 それからは相手を無闇に刺激しないようこちらからは敵意を向けないまま近付いていった。

 やがて。


「……そろそろ姿を見せてもいいんじゃない?」


 私の前方五十メテルの岩陰に隠れた者へ声をかけた。

 半日近く移動したので荒れ地から森へと入ったが、それでもこうして木が乱立する中でも大きな岩が聳えていることもよくある。

 そんな大岩の陰に三人もの気配を感じ取っていた。


「それとも言葉がわからない?」


 基本的な言語は世界共通なので通じないことはないはず。大昔に失われた言語の中には今と異なる発音をする言葉もあったらしいけど、それをこの第五大陸でだけ続いているとは考えにくい。


「……言葉はわかる」


 私の呼び掛けに応じた三人の中の一人が岩陰から出てきた。

 姿を現したのは浅黒い肌に真っ黒い髪をした筋肉質の男。

 纏う気配からもすぐにわかった。


「魔人?」

「そうだ。お前たちは何者だ? ……一人、我等の同朋もいるようだが?」


 魔人の同朋といえば確かにいる。

 しかし普段は他の人と同じ肌の色をしているためにそれと気付かないだけで。


「ユーニャのことなの」

「えぇ、そうね。でもユーニャは第五大陸の出身というわけではなくて……」

「私は進化して人間から魔人になったんだよ。だから正確にはあなた方の仲間というわけじゃないよ」


 わかりやすくするためにユーニャはその場でレジェンドスキル『闇黒鬼』を発動させた。

 肌と髪の色が黒く染まり、辺り一帯にユーニャの強い力が撒き散らされてピリピリと空気が緊張していくのがわかる。


「な、んだ……その力は……同じ魔人とは、思えぬ……」

「それで、貴方はどうするの? 私達と戦う?」

「勝ち目など……あろうはずもない」


 彼はまだ全力にはほど遠いほどの実力を持っているユーニャと対峙しただけで自分との差をはっきりと感じ取ったらしく、両手を上に上げて首を振った。

 ユーニャもそれを見て、彼等に戦う意志がないことを確認したうえで闇黒鬼を解除して元の姿へと戻った。

 すると魔人の彼と一緒にいた仲間と思わしき二人の男も現れたので、後方にある砦と合わせて少しだけ警戒レベルを上げる。


「で、貴方はあの砦にいる人達の仲間?」

「違う! 我等はあの砦に捕らわれた仲間達を助けに来ただけだ」


 捕らわれた仲間、と聞いて砦内部までより詳しく確認してみる。

 なるほど、確かに動きのない人が十何人かいて数人ずつに分けられている。多分牢屋か何かがあるということか。

 とりあえず敵対しないことがわかればそれで十分なんだけど、この大陸のことをいろいろ聞き出すために協力するのは良いかもしれない。


「手を貸そうか?」

「……何が目的だ」

「貴方達をどうこうしようというわけじゃないよ。今のところはね。いろいろ話を聞かせてほしいだけだから」

「今のところ、とはどういうことだ」

「話してみて、私達と敵対しないならってこと」


 彼はそのまま俯くと、後ろを振り返って他の二人と相談し始めてしまった。

 砦の方でも気付かれているからあまり悠長にしてる暇はないと思うんだけど。

 私の心配は杞憂に終わり、彼はまたすぐこちらに向き直ると「頼む」と短く答えた。

 私の後ろでもミルルとステラがやや苛立ちを感じているみたいで「なんでセシルがこんなことを」「セシーリア様のお手を煩わせるなど」とかブツブツ言ってる。

 まぁいつものことなのでスルー。


「じゃあ確認させてね。貴方達が助けたい人はあの砦に捕まってる人だけで、襲ってくる相手は生死不問で」

「あぁ、それでいい。我等の仲間がお前たちを襲うことはない」

「ついでにあの砦を無傷で取り返したいとかもない?」

「いつからあるかもわからんような砦だ。我等の仲間を救出した後はどうなろうと知ったことではない」


 なるほど。

 私も後ろを振り返り五人に対して一つ頷くと、彼等に協力すべく一緒に砦へと向かうことにした。

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― 新着の感想 ―
 さてさて?  どっちの勢力が倫理観の無い行動をしているのでしょうかね?  それとも、どっちもまともで、不幸な行き違いとか?  それか魔人達の独善をこじらせた若気の至り系の暴走とか?
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