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第50話 洗礼?いいえただのテンプレです。

こういうテンプレ大好きなんです。

「これも使える。こっちも材料になる。この赤い花の草は解毒ポーション用っと」


 私は今薬草採集のためにベオファウムの近くにある森に来ている。リコリスさんからギルドカードを受け取った後に依頼で出ていた薬草を集めるためだ。

 ギルドカードを受け取る時もそれはそれで一悶着あったんだけどね。




「それじゃこれがセシルちゃんのギルドカードね。無くすと再発行に銀貨5枚かかるから気を付けてね。それと最初の登録料銀貨1枚なんだけど持ってる?」

「え?あぁ…いえ、お金ないです…」

「…そっか。でも依頼をこなして稼いだお金で後払いでもいいから」

「…いいんですか?」


 私はカードとリコリスさん、そしてブルーノさんに順番に視線を送った。さすがにお金払わないのは申し訳ない。下のホールにパトロンがいるとはいえ。


「構わんぞ。そういう奴もたまにいるからな。だが、ちゃんと払えよ。払わなかったらカードに登録料未払いって項目がいつまでも残るし、ランクアップもできないからな」

「はーい。すぐに払うよ」


 下のおじさん達がね。


「あと追加で注意なんだけど、カードの貸し借りはしないこと。発覚したら罰金、あまりに悪質な場合はカードの剥奪、ギルドから追放もあるからね。それと…」


 その後リコリスさんからの注意事項は幾項目もあり、聞いているとあまりに当たり前のことすぎてどうしようと思うようなものだった。

 ざっくり纏めると、一般人に迷惑を掛けない。盗賊行為、海賊行為を行わない。冒険者同士のトラブルにはギルドは介入しない。貴族とのトラブルも基本的に関与しない。怪我したり病気になったり死んでも文句言わない。依頼者の求める質に達していなければお金は払わない。

 ざっとこんなところだろうか。

 あくまでも冒険者同士の互助会といった感じがする。もちろん相応の能力さえあれば安定したお金を得られるというのは大きいだろう。

 説明を受けた私は実際の依頼がどういうものなのか知るためにリコリスさんとホールに行くことにした。そしてそこで先ほどの口の悪いおじさん達と再会したわけだが…。


「おぉっ!リコリスちゃん!お嬢ちゃんの試験結果はどうだったんだ?!」

「そりゃオメー、ブルーノさんが試験官じゃ不合格だろうよ」

「んでもお嬢ちゃんは怪我一つしてねぇんだぜ?」

「治療したに決まってんだろ!んで、どうだったんだよ?」


 おじさん達四人に囲まれてあれこれ言われる羽目になった。私の合否を賭けにしてたんだから気が気でないんだろうけど、さすがにおじさん達に囲まれていい気はしない。無論イケメンでも余りに勢い良く絡まれたらいい気はしないけどさ。

 私はリコリスさんに抱かれるように庇われてその様子に呆れた視線を送っていたが、いい加減面倒くさいし登録料を払ってもらいたいので先ほど渡されたカードをおじさん達の目の前に突きつけた。


「はい、これで結果はわかった?」

「おぉぉぉぉっ?!すげぇじゃねぇかっ!しかも『鉄』カードってなぁ大したもんだ!」


 やいのやいのと騒ぐおじさん達を無視して私はリコリスさんに抱かれたまま見上げると彼女は追加で説明してくれた。


「冒険者のギルドカードはランク毎にカードの質が変わるのよ。セシルちゃんのFランクは鉄。Sランクはオリハルコン、Aはアダマンタイト、Bがミスリル、Cが金、Dが銀、Eが銅ね。鉄はセシルちゃんのFランク。Gは革でHは木でできたギルドカードになってるのよ」

「ちなみに俺達はEランクだからお嬢ちゃんの先輩で格上の冒険者ってことだな!」


 ふむふむ。ということは相手のギルドカードを見せてもらえば相手の実力がわかるってことだね。その実力は単なる戦闘能力だけじゃなくて他の技能も含まれるから一概にランクが高いから強いってわけじゃないんだろうけど。

 そういえばSSランクのカードについては説明されなかったけどなんでだろう?本人が死んだ後につけられるランクがほとんどみたいだし、特にこれといって規定を設けていないのかもしれないね。


「とりあえず賭けは俺の一人勝ちだな!お嬢ちゃん、約束通り登録料は俺が払ってやるぜ?」


 そういうとさっき私に登録料を払ってくれると言っていたパトロンのおじさんはリコリスさんに銀貨を一枚渡した。

 怪訝な顔でそれを受け取るとリコリスさんは私をカウンターに案内してくれた。


「さて、それじゃあ…」


 リコリスさんが説明を始めようとしたところで冒険者の一角が騒がしくなった。

 どうやらさっきのおじさん達が絡まれているようだった。さすがに気になったので私もリコリスさんもその様子を窺っていると、どうやら私の賭けの件で絡まれているようだった。


「おいおい、どういうことだ?あんなガキが合格ってのは?しかもランクFだっていうじゃねぇか?ここのギルドはいつからそんな低レベルの集団になったんだ?」

「あぁ、それでこんな雑魚がギルドに入り浸ってるんだな。ブルーノってのも引退してすっかり気が抜けちまったんだろうな」

「ブルーノだけじゃねぇな。この雑魚共を見ればここの程度もわかるってもんだ」


 絡まれてるおじさん達はかなり怒ってるようで額に血管が浮かんできそうな程真っ赤な顔をしている。私は別に何を言われても気にしないけどブルーノさんまで低く見られるのはちょっと許せないね。それでも面倒なトラブルに巻き込まれたくもないので静観を決め込んでいたが、絡んでいた3人組はこっちに標的を変えると金属製の鎧をガッチャガッチャと鳴らしながら側に寄ってきた。おじさん達は結局何も言わずに真っ赤な顔のままぷるぷると震えているだけだった。


「おいガキ。お前みたいなのが冒険者なんて十年早ぇよ。カードを返してとっとと消えな」

「そうそう、ガキがギルドにいると小便臭くてかなわねえ」


 椅子に座ったまま彼らを見上げるとなかなかの悪人面をしている。三人とも髭も剃らず多分水浴びも碌にしていないようですえた臭いが漂ってきた。


「おじさん達ほど臭くはないよ。後で窓開けて空気の入れ替えするのが手間だからさっさと山に帰ってくれないかな?それとも迷子になって道案内してくれる冒険者を探してるの?」


 煽ってきた相手に対して私も同じように煽り返してみる。

 正直前世ではこんなこと言ったこともないので煽り文句はそこまで得意ではないけど、彼らの表情を見るとそれなりに効果はあったようだ。さっきのおじさん達四人組と同じ真っ赤な顔をしている。その赤裸顔を見て後ろの方でクスクスと笑っているが、目の前の三人組の一人が睨むと口を噤んで黙ってしまった。

 このまま煽り続けていれば向こうから襲いかかってきそうだけど、ざっと鑑定したところ全員レベル二十前後なので私からすれば相手にすらならない。

 ちなみにリコリスさんは私と彼らの様子を見て頭を抱えている。ここで暴れると片付けも大変そうだし、どうせやるなら外でやるべきだろう。やるかどうかは別としても。


「ガキ、俺達が『黒鉄の暴風雨』と知って口を聞いてるんだろうな?」

「知らないよ、私はさっき登録したんだから。それに黒鉄なのに暴風雨?鉄が錆びて真っ赤になっちゃうよ。あ、それでさっきからそんな赤い顔してるんだ!すごいピッタリな名前だね!」

「「ぶふぉっ?!ぐっ、ぶぶっぷっ」」


 嬉しそうに柏手を打って頷いていると三人組のリーダーらしき男の顔が赤を通り越して褐色のようになってきた。それでも私は納得したと言わんばかりにニコニコしている。

 彼らの後ろの四人組は笑いすぎてそろそろ腹筋が限界のようだが、それは私のせいではなく目の前の三人組の顔芸のせいだ。


「もう勘弁ならねぇ。ガキちょっと痛い目見せてやろうか?」

「痛いのは嫌だけど、ここでやるとリコリスさんに迷惑がかかるから外の方がいいかな。おじさん達を外に捨てる手間も巡回の兵士に連絡する手間も掛からないからね」

「…言わせておけばあぁぁっ!面白ぇっ!表に出やがれ!」


 三人組のおじさん達は連れ立って外に歩いて行った。やっと静かになった。


「さて、それじゃリコリスさん。続きを聞かせて?」

「え?…あの、いいの?さっきの…?」

「だって私に何の得もないもん。あ、でもこういう風に冒険者同士で喧嘩した場合って何か処罰はあるの?」

「何も、ないけど…相手が高名な冒険者の場合はセシルちゃんが不利になることはあるかも」

「さっきの彼らは?」

「あんな山賊紛いの連中が高名なわけないじゃない?ランクも討伐ばっかりでDランクになった腕っ節だけの単細胞よ」

「なら何かあっても問題ないね。それで…」


ガアァン


 リコリスさんから依頼のことを聞こうとしたところで入り口の方から大きな音がしてリコリスさんがびくっと肩を跳ねさせた。驚かされて可哀想に。

 そしてギルド入り口のドアは勢い良く開かれたせいで大きく割れて蝶番も外れて内側に倒れてしまっている。


「ガキィィッ!!いつまで待たせれば気が済むんだっ!小便チビって逃げたかっ!」

「…うるっさいなぁ。そもそもなんで私がおじさん達の相手しないといけないのよ」

「んなっ?!…ここまでコケにされたのは生まれて初めてだ!」

「よかったね、人生初。初めての体験。祝、童貞卒業」

「も、ももももう許さねぇぇっ!」


 言うが早いか彼は入り口から全力で走って私に突進してきた。右手を振り上げたまま、その勢いで私にぶつけるつもりなんだろう。

 もちろん、そんなパンチじゃブルーノさんの大剣の一撃に比べたら風船を受け止めるようなものだけど。

 私は魔闘術の応用で右手にだけ魔力を通してそのパンチを受け止めた。受け止めたまま勢いを殺したので彼の身体だけが私にぶつかりそうになる。


「よっと」


 おじさんに抱きつかれて喜ぶ趣味はないので、今度は左足にだけ魔力を通して前蹴りで蹴り飛ばす。勢いそのままに百八十度反対方向へ飛んでいくことになる。自分の勢いと私のキックの衝撃で彼の着けていた鎧に私の足形がついてしまうけど、可愛い足跡だと思ってもらおう。

 当然魔闘術で撃ったので勢いは凄まじく、そのまま外まで飛んでいった。突然飛び出してきた連れに驚きながらも警戒の色を強めている他の二人。ちなみに今の一撃で私に突進してきたおじさんは完全に白目を剥いている。


「あのさ、私はリコリスさんからギルドの説明受けないといけないんだから邪魔しないでくれる?」


 さすがにちょっとだけイライラしてきたので私は席を立つとゆっくり歩いて外に出た。少しばかりお灸を据えてあげることにしようかな、とか脅かして追い払うか考えながら、今日の帰りは遅くなりそうだなとも心の中で溜め息をついた。

今日もありがとうございました。

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