第487話 病み上がり
コミカライズされました!
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セシルもユーニャもとっても可愛く描いてもらっています!
目を覚ますと、そこには見慣れた天蓋があった。
いつの間にか誰かが私を屋敷に運んでくれたらしい。
首だけ動かして左右を確認するも、誰の姿もなく一人で広いベッドを占有していた。
元々私のベッドなので一人で使うのは普通のことだけど、ここ数年は独りで寝たことなど数えるほどしかないので妙に寂しさを感じてしまう。
ふと自分のステータスを開いてみると、時刻は五の鐘が鳴って少し経った頃であり、なるほど誰もいないわけだと納得してしまった。
そして更にもう一つ見慣れない文字がそこにあった。
---限界突破使用による活動停止中---
こんな風に出るんだね。
日にちもどうやら私が第四大陸でコスモス・グリッドナイトを発見してから二日経過しており、私が動けるようになるのはまだ丸一日かかると思っていいだろう。
「ステラ」
丸二日動けないでいたせいかやや掠れ気味の声で呟くとすぐにベッドサイドの空間が揺らいでステラが現れた。
「セシーリア様っ!」
いつもなら冷静に佇むステラだが、今は必死な表情でベッドに横たわる私に飛び付いてきた。
ほぼ首しか動かせないので、彼女の頭や背中を撫でてあげることも出来ず嗚咽を上げるステラを見ていることしか出来なかった。
やがてようやく落ち着いたのかステラは私から離れないまま顔だけ上げて微笑んだ。
「おかえりなさいませ、セシーリア様」
「……うん、ただいま」
それから私はステラから事情を聞くことに。
どうやら私をここまで連れてきてくれたのはやはりというかジョーカーだった。
いつまでも帰らない私を心配していたようだけど、異常なほどの魔力を感知したルージュとシアンとともに第四大陸を探してくれたらしい。
そして魔力を感知した地域にやってくると地面に倒れている私を発見し、屋敷まで連れ帰り私のパートナー達に託してくれたとのこと。
「みんなに謝らなきゃね」
「……はい。セシーリア様は私も含めた皆の主であり、光そのものなのですから」
「そうだね」
体の自由が利かないからか、声を出すのも億劫であまり長い言葉を紡げない。
どのみち活動停止期間が過ぎるまで何も出来ないのだから大人しくしている他ないのだけど。
「もう少し、寝る」
「はい、おやすみなさいませ。愛しております、セシーリア様」
「うん、わたし、も……」
言葉は最後まで発することが出来ず、私の意識は再び深い闇の中へと落ちていった。
次に私が目覚めたのは活動停止期間が過ぎた翌日の夜だった。
前回起きた時に全然動けなかったのはなんだったんだと言いたくなるくらい普通に起き上がることが出来た。
時刻は六の鐘が鳴って更に半分。つまり十九時半。このくらいの時間ならそろそろみんなが夕食を食べるために食堂に集まっている頃だ。
「装着」
多分ステラが着替えさせてくれたであろう寝間着から屋敷での普段着に着替える。
歩いて行っても良いのだけど、私もすぐにみんなに会いたかった。
「短距離転移」
屋敷の中で使うのは寝起きに裸のまま浴場に行く時くらいだけど、今は僅かな時間すらも惜しくて遠慮なんてしない。
すぐに目の前の空間が歪み、いくつもの灯りによって明るくなった食堂へとやってきた。
「セシル!」
そしてやはりというか、最初に気付いてくれたのはユーニャだった。
彼女は食事中だったけれど、カトラリーを投げ出して私に駆け寄ってくるとすぐに背中に手を回して抱き付いて……抱き……ぐっ。
「がっ……は……ユー、ニャ……ちょ、力、抜いて……」
「やだっ!」
めきめきめきっと私の背中からすごく嫌な音がしたかと思うと、今度はわき腹のあたりでゴキンと肋骨が折れる音がした。
あ、これ本当にヤバいやつ。
「ユーニャ! そこまでになさい! セシルが本当に死んでしまいますわ!」
「危ないのっ! セシルの骨が折れてるのっ!」
それを見かねたのかミルルがやや青ざめた顔で止めに入ってくれた。
しかしなかなか私から離れようとしないユーニャをチェリーが実力行使で引き離そうとするが、そもそも力ではチェリーよりもユーニャの方が強いので、抵抗するユーニャによってより強く抱き締められた私の意識はまたもや沈みそうになっていく。
「ユーニャママっ!」
そこへソフィアが声を上げた。
「……あ……ご、ごめ……」
おぉ……やはり娘の一言は偉大だ……。
「やりすぎよユーニャ。セシーリア、大丈夫?」
「セシーリア様、しっかりなさってください」
ユーニャの拘束から解放された私にリーラインがやってきて回復魔法を使ってくれた。
このくらいの骨折なら翌朝には治るけれど、さすがに痛いのでありがたい。
心配そうに覗き込むステラの顔は昨日よりは幾分か無表情に近いものになっていたので、一度起きた時に話せたことが大きいのだろう。
「ふぅ。ありがとうリーライン。もう平気だよ」
回復魔法を使い続けてくれたリーラインの手に触れると、彼女もそっと握り返してくれた。
そこからはステラに夕飯を用意してもらいながら、みんなに謝り倒すだけだった。
唯一私を絞め殺しそうになったユーニャだけがばつの悪そうな顔をしていたけれど、そもそもの原因が私なので気にしていないと告げた上でしっかり謝罪しておいた。
さすがに病み上がり? のため、夜は誰も呼ばずに一人にさせてもらった。
まぁ実際には一人じゃなくて当時の状況を詳しく聞きたかったから地下の研究室にやってきたのだけど……。
「ねぇ、この椅子、何?」
いつの間にか研究室には見慣れない椅子が置かれていた。
いや、椅子、か?
どう見ても玉座にしか見えないんだけど?
振り返るとたまたま研究室にいたレーアと目が合う。
じぃっとレーアを見つめていると彼女は大きく溜め息と共に事情を吐き出した。
「先日の会談や魔王討伐の際、お師匠様が座っておりました玉座に皆が惚れ惚れ致しましたの。それで各々の宝石を集めて作り出したのですわ」
「惚れ惚れって……あれは他の国の王様とか偉い人に対してはったりを仕掛けるために……」
「気に入ってくださいませんの?」
言い訳しようと身振り手振りを始めたところでレーアは持っていた扇子を畳み、両手で握り締めながら私に対して上目遣いで訴えてくる。
それ反則だよ?
なんで私の女性眷属ってこんなにみんな可愛いのっ?!
それはともかくとして……椅子として見た場合のこの玉座。巨大な水晶の結晶が土台となり、そのまま椅子の形になっていて内部にインクルージョンの代わりとでも言わんばかりにカット済みの宝石がこれでもかと並んでいる。私が座る座面だけは柔らかそうなクッションが敷かれており、背もたれも水晶の一枚板のような中に全員分の宝石が円を描くように並んでいた。
「……良い」
肘掛けは特に目につきやすいからか、青や緑といった宝石が並んでいる。
ぱっと見てエメラルドやアウイナイトばかりかと思ったけれど、デマントイドガーネット、ブルーダイヤモンドなども入っているようで芸が細かい。
いいね。
宝石がたくさんでキラキラしてる。
でも、宝石は光を受けることでその輝きをより魅力的に見せてくれる。
私は拳大の水晶を異空間から取り出すとすぐに魔石化して光灯を付与して玉座の下部に土台となっている水晶と合わさらないように設置した。
これなら私が意図して魔力を流すことでいつでも光を放ってよりキラキラと輝いてくれることだろう。
更に追加で手持ちのルースにした宝石をいくつも玉座の中に入れていくと、それだけで宝石の博物館が完成した。
「レーア、これ最高だと思わない?」
「さすがですわ、お師匠様」
レーアは両手を胸の前で組み、完成した玉座をいろんな角度から眺めていた。
「早速座ってみてくださいませんこと?」
「そうだね。折角みんなが作ってくれたんだしね」
レーアに促されるまま玉座へと向かい、彼女の方を振り返るとそのまま腰を下ろした。
意識して玉座下の魔石に魔力を送り込むと、下から照らされた透明な玉座はキラキラと色とりどりの宝石を輝かせる。
なんとも、夢見心地だ……ちょっと眩しいけど。
「はあ……素敵ですお師匠様。心よりお慕い申し上げます」
「ふふっ、ありがとう。可愛いレーアに言われると私も本当に嬉しいよ」
私が彼女に手招きすると、真っ青なショートカットを揺らしながらレーアはすぐ近くまでやってきてくれたので、そのまま手を取って引き寄せる。
私の足の上に座ったドレス姿のレーアはいつものツンとした澄まし顔ではなく頬を緩ませて私の首に腕を回してきた。
「はぁ……皆さんは訓練に行っているのに私がお師匠様を独り占めなど……幸せすぎますの」
レーアのデレ具合が凄いね。
そのまま彼女の唇に吸い付くと、緩ませた頬は赤く染まり首の後ろに回された腕に力が入ってより密着していく。
このままここで致してしまいたかったけれど、いつ誰がやってくるかわからないので今はこれだけにさせてもらうことにした。
そしてしばらくレーアと二人きりの時間を過ごしていると、研究室内で空間が揺らいで数人の眷属達が戻ってきた。
「セシーリア様!」
私がいることに最初に気付いたのは最も目覚めの遅かったエースだ。
彼はすぐに私の前にやってくると片膝をついた。
「……とても、とても心配しておりました。我々がこうして存在しているので、ご無事であることはわかっておりましたが……」
「うん、ごめんね心配かけて。みんなもごめんね」
エースの後ろで遅れてやってきた眷属達もそれぞれ膝をついていた。
「今後はお一人での外出はお控えいただきたく存じます」
「え……いや、でも……今回はたまたま……」
「セシーリア様がお強いことは我々が一番わかっております。それでも何かあればすぐに対応出来るようにしたいのです。決してセシーリア様を煩わせようというものではございません」
……まぁ、今回は私も悪かったなと思うけどさ。
普通は貴族家当主が一人で出歩くなんてしないし、普段の外出はそれこそパートナーなり愛人なり騎士団なりがついてくる。
残る第五大陸にだって誰かしらを連れていく予定だし。
「わかったよ。今度から外に出る時は必ず誰かに同行してもらうことにする」
そう約束すると眷属達は安心したのか揃って微笑みを浮かべた。
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