第483話 冥府の牢獄
---レジェンドスキル「戦帝化」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「戦帝化」9→MAX
---特殊条件を満たしました。レジェンドスキル「戦帝化」はオリジンスキル「アスタルテ」へ神化しました---
ナンデスカソレ?
気にはなるけど、どうせオリジンスキルは自分で調べたところでよくわからないから今は放置するしかない。
私は戦帝化で跳ね上がったステータスでまずはエイガンの剣を手刀で弾き飛ばした。
「なにぃっ?! まだ強くなるの、ぶおあっ?!」
何か喋ってたけど、まずは徹底的にどちらが上なのかわからせてやる。
回し蹴りでエイガンの後頭部を急襲して地面に打ち倒すと、そこですぐに戦帝化を解除した。
自分より遥かにレベルが低い相手とはいえ、あまりレベルが下がり過ぎるのも困る。特にエイガンはスキル強奪を持つ厄介な奴だしね。
「くっ……おのれっ!」
「煩い」
メキッとエイガンの背中を踏みつけると背骨が軋んだような音がする。
このまま踏み抜いても良いのだけど、それだと彼の心を砕くには甘い気がする。
「いくよ」
一言告げると私はエイガンの背中に向けて神気を纏った拳を振り下ろした。
神気、魔力、闘気の全てを身に纏う私の身体は金色に輝きながら、そして振り下ろす拳は音速を超えて雨の如く降り注ぐ。
「御当主様……まるで、金の星の雨……」
「お師匠様の、金星の雨?」
「ふむ? 我が君ならば拳でも剣でも同じことが出来るのでしょうね。 でしたら『金星霖』とでも名付けましょうか」
私とは空間が隔絶されているけれど、眷属達の話は聞こえてくる。
何故そんなことが起きているのかはわからないけれど、多分こっちの話も全て聞こえていたと考えてもいいはず。
イリゼ、レーア、そしてジョーカーが私の攻撃に技名を付けてくれるというなら私はそれを嬉々として受け入れるだけだ。
三人の方にほんの少しだけ視線を向けてあげればそれに気付かないはずもなく。ジョーカーとイリゼは深々と一礼し、レーアは恥ずかしそうに顔を扇子で隠してしまった。
ぐちゃり
霖、というほど長くはなかったけれど、それでも神気で殴られ続けたエイガンはとっくに肉塊になっており、途中で再生しかかったものの再び私の暴力によって潰され続けた。
死なないように何度も再生しようとしたせいか、エイガンのMPはかなり減ったようだ。その証拠に戦闘解析をすると彼の総合戦闘力は当初の半分を大きく切っていた。
更に追い討ちをかけるために私の周りに数千もの魔力球を浮かべ、その矛先を全て自分の足下へと向けた。
「新奇魔法 精霊の舞踏会」
いくつもの魔法を使う私だからこそ、編み出した当初とは大きく威力も形態も変えた魔法。
六つだけだった属性は更に雷や重力、爆発も加わり制限解除した状態ならば脅威度Sの中位くらいまでなら一発だけでも致命傷になり得る威力がある。
なので、この魔力球の雨で時間稼ぎをする必要があった。
(メル。暗黒魔法にセクメトの黒のアンクを上乗せってどうやればいいと思う?)
時間稼ぎとは、メルと相談しながら新奇魔法作成である。
特に暗黒魔法や生命魔法なんて魔法書らしきものが何一つないので、自分で編み出していくしかない。
(オリジンスキルならば意図せずとも勝手に発動したり、使いたいと思うだけで良いはずなのだ)
(なるほどね。じゃあ……こんなのはどうかな?)
神気と魔力を暗黒魔法で練り上げていくと、私の周りにどす黒い波動が渦巻いてくる。
邪魔法では純真なる災いを作り出すのが精一杯だったけれど、今ならもっと強力な魔法が作れる。
「はーっ! はーっ! はあっ、はあっはあっ! ばっ、化け物めっ! くそっ……」
私の魔法が完成するのとほぼ同時にエイガンはおよそ大半の組織が再生治癒しており、ところどころ筋肉や骨が丸見えになっているものの喋ることくらいは出来るようになっていた。
「だから化け物は、あれだけバラバラにしても生きてる貴方の方って言ったでしょ?」
「くっ……ふ、ふふふっ、ふははははっ!」
「なに? バラバラにされすぎて頭おかしくなったの?」
「くふふっ! これが笑わずにいられるか。あれだけの攻撃を受けても俺は死なんのだ。つまりっ、貴様にこの俺を倒すことが出来ないということだ!」
それがそんなに面白いことなのかな?
エイガンは未だ狂ったように笑っているけれど、私の手の中にある魔法には気付いていないようだ。
「さあ、今度は俺の番だ。数百もの魔物を喰らってきた俺の力を……」
「残念だけど、私の番はまだ終わってないよ」
ぐぉん、と完成した魔法に魔力を注ぐとまるで魔獣が鳴いたように低い唸り声を上げた。
「それが次の攻撃か? いくらでもやってみるがいいっ! 俺はどんな攻撃を受けても死なんのだからなっ!」
「貴方の遺言はそれで……いえ、もうこの世界に貴方の痕跡を残すこと自体が罪だよ」
魔法を生み出した右手を前に突き出してエイガンに向けると、彼は撃ってこいと言わんばかりに両腕を広げた。
もう、なんていうか本当に馬鹿だよね。
「暗黒魔法 冥府の牢獄」
私の右手から離れた黒い魔力球は真っ直ぐエイガンに向かっていく。
速度は小学生のキャッチボールくらいのものだと思うが、すぐ近くにいたエイガンには一秒ほどで到達して彼の身体に魔法が染み込んでいった。
「なんだこれはっ?! 痛くも痒くもないぞっ!」
そりゃ痛くするのが目的の魔法じゃないからね。
「これで終わりか? では今度こそいくぞっ!」
エイガンは手にした剣を振り上げ、私に向かってこようとした。
しかし、彼の足はその場から一歩も動こうとはしなかった。
「な、んだ? 何をした? 何故動かんのだ!」
「無駄だよ。もう貴方はただ死に逝くだけの亡者だから」
「なにを……ぐっあっ……あ、あがっ……っ?!」
ガシャンと大きな音を立ててエイガンが手放した剣が地面に落ちた。
正確にはエイガンの体を構成していた組織が崩壊してしまったせいで、手首から先が砂のようにサラサラと零れ落ちていったのだ。
その時点で両足の足首から先も消滅しており、エイガンの身体本体も地面に倒れ伏している。
「何をした、って聞きたいんでしょ? さっきの魔法はね、貴方の命を削り落としていくものよ。その削り取った命を冥府の奥底に幽閉する」
「いの、ち? ふ、ふんっ! こんなものっ、俺の治癒力があれば……」
エイガンは倒れ伏したまま顔だけ上げて吠えていた。
しかしいくら彼が魔力を出そうとしても、それは形にならず先程までの驚異的な治癒力は一切発揮されないままだ。
「ばっ、馬鹿なっ……何故……」
「あの魔法を受けた時点で貴方はもう死んだも同然だからね。もっと強力にして一撃で、死んだことすらわからないまま絶命させることも出来たけど……こうでもしないと貴方死んでも反省しないでしょ?」
話している内にエイガンの腕は肘まで、足も膝から下は砂と化していた。
「いっ、嫌だっ……助けてくれ! 俺はまだ死ねないんだ!」
「それこそ嫌だよ。貴方は生かしておくだけ世界にとっての害悪だから」
「もう貴様にちょっかいはかけん! 他の魔王にも手は出さんし、辺境でひっそり生きると誓う!」
何を言おうと私はそれを信じない。
貴方なんかを生かした結果、より多くの人が不幸になったことだろう。
だから今度こそ確実にその身、命を滅ぼしておく。
これは確定している前提条件だ。
「あああぁぁぁあぁぁっ! 死にたくないっ! 嫌だっ! 俺は魔王だっ! 魔王がこんな簡単に死んでたまるかっ!」
「死ぬよ。エイガン、貴方は死ぬ。この私の手で、今度こそ」
もはや、肩から先の腕もなく足も付け根から無くなっている。
エイガンは死ぬまでの間、ゆっくりと消滅していく恐怖を味わうことになるだろう。
「くそっ! くそっくそっくそがあぁぁああぁああぁぁぁっ! 死んでたまるかあぁぁっ! 『限界突破』!」
もうすぐ消滅するかと思っていたのだけれど、エイガンはすんでのところで最後のスキルを使った。
消えてしまった腕や足が元通りになるわけではないけれど、彼の魔力とは違う力によって何かしらのエネルギーで出来た擬似的な手足が生えて立ち上がっていた。
「往生際が悪いね」
「うるさいっ! お前なんかっ、お前なんか大っ嫌いだっ! 絶対殺してやるっ!」
ごおっとエイガンから溢れ出した力が収束して一気に私へと放たれた。
「ひぃえぇひひひひひっ! 消えろ! 貴様のような奴は消えてなくなれっ! いぃぃひひひひひひっ!」
今までの比ではないほどの攻撃。
放ったエイガン自身もあまりの威力に酔っているのかいつものような笑い声ではなく、狂ったように品のない嘲笑を上げていた。
レジェンドスキル『限界突破』はタレント『勇者』と『魔王』が持つ専用スキル。
自身の能力を十分間十倍にする代わりに三日間行動不能になる。
彼のレベルが三千だとすると、単純計算で三万である。
実際には他のスキルの影響などもあるし、単純にレベルだけで測れるものではないかもしれないが、普通に考えれば十分脅威だ。
「私はタレント『亜神』とレジェンドスキル『神技』で能力値が元の六万倍になってるけどね?」
まぁだからこそ、ユーニャみたいに私の防御を抜いてダメージを入れてくるのは異常なんだけど……エイガンにそこまでの芸当が出来るわけもなく。
「暗黒魔法 虚無回帰」
ぱしゅっと軽い音を立ててエイガン渾身の一撃は跡形もなく消えてしまった。
純粋な神気だけを使った攻撃でも同じことが出来るはずだけど、エイガンにはわかりやすく魔法を使った方が絶望感を与えられる。
「ひ? は、はひ? なぜだ……何故消える? 俺の最強の攻撃だぞおぉぉぉぉぉっ!」
攻撃を掻き消したことが信じられないのか、エイガンはまたもや狂ったようにもがき始めた。
もう、これ以上のことは出来ないかな?
「もう、最後の悪足掻きはお仕舞い? だったら、いいね?」
そして、彼の前に一歩足を踏み出した。
「暗黒魔法 冥府の牢獄」
私はトドメとばかりに先程エイガンに放った暗黒魔法を再度作り出すと、宙に浮かぶ機雷のように彼に向かって手のひらを広げると、周囲へと何個もの黒い球を放った。
あれらは時間とともに少しずつ近付いていき、やがて彼を滅ぼすだろう……が。
「いや……嫌だ……死にたく、ない……死にたくないっ! 俺はっ、まだっ!」
「貴方が生きてても力のない人達が苦しむことになるだけだから。とっとと逝ってね」
ぐっと右手を握ると、黒い球はすぐに動き始めてエイガンへと近寄っていく。
「ひいぃぃぃぃぃっ! いやだああぁぁぁっ! じにだぐない”い”ぃぃぃっ! じにだ、ぐっ……な”……ぁ……」
ボロボロと崩れていく自分の体を見ることなく、彼は最後に自分の頭が地面に落ちるところまで見届けて、この世から消えた。




