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第479話 新人魔王の正体

「セシーリア様、よろしいでしょうか」


 私の願いは聞き入れられたのか、それともスルーされたのかはわからないけれどダイヤモンドのエースが顔を上げた。


「御身の敵とはいかなるものでしょうか。目覚めたばかりの私にもお教えいただけないでしょうか」

「エース。無礼ですよ」


 エースから発せられた質問に対しジョーカーが目を細めた。

 けれど私はそんなことで怒ったりなんてしないので、軽く手を上げてジョーカーを控えさせる。


「特に決めてないよ。私が『敵』だと言えば『敵』だから」

「委細承知しました。ならば存分にこの剣を振るいましょう」


 カチャ、とエースが自分の剣に手をかけた。

 やや真面目過ぎるかなと思うところがないわけじゃないけれど、それを私のためだと思ってくれているところが何より嬉しい。


「ジョーカー。私は貴方達が素直に私に疑問を向けてくれることが嬉しいの。貴方の忠誠はすごく嬉しいけれど、エースを責めないであげて?」

「……差し出口でございました。我が君の思いのままに」


 二人とも納得してくれた。

 他にも口より剣で語りたいような人がいるけれど、彼等は剣が振るえれば良いみたいだし。例えばノアとかジェイとか。ジェイは剣の高みを、ノアはジョーカーとエースを足して二で割ったような性格……だと思うけど、ちょっと血の気は多いかもしれない。


「さて……私がいきなり全員を揃えたのは理由があるの。多分これからこの大陸にいるっていう新しい魔王が私に喧嘩を売ってくると思うんだ」

「……愚物が。早速滅ぼして参りましょう」


 私が話しているのに口を開いたのはノアだ。

 前言撤回、一番血の気が多いかもしれない。


「ノア、ちょっと待って。私の話はまだ済んでないよ」


 ノアへ顔を向けると彼は更に一つ頭を下げた。


「それで彼等の拠点を探ってみたらそこそこの力を持った人が何人かいるみたい。多分魔物もいるかな? 人数は数百人くらいだから私一人でも十分対処可能なんだけど……」

「はいっ、先生質問っす!」

「うん? どうしたのラーヴァ」


 元気良く手を上げたのはラーヴァ。

 運動部女子みたいに溌剌とした雰囲気の明るいガーネットを核にしている子だ。


「『そこそこの力』ってどのくらいなんすか? 屋敷の複合ダンジョンくらい?」

「あぁ……残念だけどそこまでじゃないよ。魔力だけが全てじゃないけど、百から千くらい。新人魔王でも三千くらいじゃないかと思う」

「なぁんだ……っとと! つ、続きをお願いしますっす!」


 相手が思ったよりも弱かったせいかラーヴァは乗り気になれなさそうだったけれど、ジョーカーとノアに睨まれて口を噤んでしまった。


「そんなわけで遠くから私達が魔法を撃つだけでも十分殲滅出来そうだけど……ヴォルガロンデの研究所を無傷で手に入れたいから」

「承知しました。中での戦闘を避け、外に誘き出すよう仕向ければよろしいのですね?」

「出来る?」

「造作も御座いません」


 アクアマリンのラメルとオパールのイリゼが揃って顔を上げた。

 私は力業で無理矢理ねじ伏せるのは得意だけど、謀って相手を潰すやり方はもっと上手い人にやってもらいたい。


「じゃあ作戦の立案とかはラメルとイリゼに任せるね。ジョーカーは参謀として手伝いを。他のみんなはいつでも作戦を実行出来るように準備を怠らないように」


 方向性は決まったと話を締めくくると十二人からそれぞれ了承の返事を受け取り、その場で目を閉じた。




 それから鐘二つほど時間が経過し、私はヴォルガロンデの研究所近くの丘で成り行きを見守っていた。


「……イリゼとラメルってばなかなかエグいことするね……。でもおかげで新人魔王の手下らしき兵士とか魔物はほとんど出てきたみたい」

「御当主様に満足いただけて光栄にございます」


 二人の作戦はとてもシンプルなものだった。

 ラメルの作り出した猛毒と強酸の霧をプレリの風でヴォルガロンデの研究所、その地上部分に流し込んだ上でイリゼが幻覚物質を出す植物を近辺に大量発生させて誘き出すというもの。

 兵士達のレベルもそれなりの高さではあったけれど、ラメルとイリゼには及ばないし『異常無効』のスキルがない者はのた打ち回りながら這い出してきたというわけだ。

 とはいえ、内部には特にレベルの高い者がまだ数人いるし魔王だって出てきていない。

 多分それも時間の問題だろうけど。


「せーちゃん、中で動きがあるよー」


 ほらね?

 研究所から出てくる者を探ってみるけれど、結局それほどの強さを感じない。

 一人一人出てこられるのも面倒だからまとめて全部出てきてほしいんだけどなぁ。


「ジェイ、エース。二人で出てくる幹部っぽい人を相手してくれる?」

「はっ」

「承りまする」


 入り口付近で兵士たちを斬り捨てている二人に遠話(トーク)で話しかけると即座に了承の返事が入った。


「ソール、ラーヴァはジェイとエースの方に兵士が行かないよう速やかに殲滅して。レーアとシアンは二人のサポートを。三分以内でね」


 私が指示を出すと動きが変わり突然兵士を倒す速度が跳ね上がる。

 ソールの剣が兵士の首を切り落とし、ラーヴァの拳は兵士の胴体を吹き飛ばした。レーアのゴーレムで兵士の動きを制限しつつシアンは距離のある兵士達に剣魔法を放っていた。

 それこそ本当に三分以内、研究所内から幹部らしき者が出てくるまでに外に誘き出されていた兵士は全て片付けてしまった。


「ウチの子達が優秀過ぎる」

「せーちゃんが凄いからだよ」

「御当主様のお力によるものに御座います」


 私の力を譲り受けているからこそとイリゼから補足説明が入るけれど、それにしたってみんなきっと凄く真剣に訓練したんだろうね。

 ご褒美は弾まなきゃ!


「あ、せーちゃん。ちょっと強そうなのが出て……きたけどエースがもう倒しちゃったね」

「彼は生まれて間もないのに凄いね」

「さよなら名前も知らないちょっと強いだけの兵士さん」


 ルージュがなかなか辛辣な物言いをしたのを聞いて不謹慎ながらも失笑してしまった。

 それからレーアが作ったゴーレムで兵士達の死体を集め終えた頃、ようやく再び内部で動きがあった。


「今度は全部出てくるみたい。魔王も出るみたい」

「へぇ。やっと強制退去を受け入れてくれる気になったのかな」


 一応ここを攻める前に私達を監視していた兵士を捕まえて伝令を頼んだんだよね。

 とっとと出て行って山奥でひっそり暮らすなら見逃してあげる、と。

 当然盗聴用の水晶を取り付けておいたから、その兵士が幹部に殺された直後に作戦を始めたわけだ。

 まぁ幹部なんて言ったところで私達にとっては雑魚でしかないけどね。


「さて……それじゃそろそろ行こうかな」


 玉座から飛び下りるともう必要無くなった玉座(それ)をすぐに『ガイア』を使って分解、魔法の鞄へと収納した。

 ヴォルガロンデの研究所前で繰り広げられるであろう戦闘……のような弱い者虐めを見学するため。

 私が歩き出すとすぐ後ろにイリゼが、更にその後ろにルージュが続く。やや離れたところから見ていたけれど、魔王が出てくるよりは早く到着するはずだ。

 早足気味で歩き、研究所前に到着した時には既に幹部達がほぼ揃っておりまだ出てきていないのは魔王と恐らくその側近と思われる者が一人。

 今はエースがとても体の大きな戦士と向かい合い、ジェイは剣士らしき者と何度か剣戟を交わしていた。

 あと三人いるけれど一人は既にシアンによって首から下を氷付けにされているし、一人はジョーカーに弄ばれて既に瀕死。

 残る一人はというと……。


「もうっ、お姉ちゃんの胸ばっかり見ちゃ駄目よっ」


 何故かプレリにデコピンされていた。

 何、あれ?


「プレリは『魅了』のスキルを得ましたから」

「『魅了』って……確かすごく危険なスキルじゃなかったっけ」

「人間の世界ではそうです。過去には『魅了』スキルを発現した者一人によって滅んだ国さえ御座います。プレリにその心配はいらないでしょうが」


 私の眷属達が国を滅ぼすのに『魅了』なんて使って時間のかかることをするわけがない。

 それこそプレリならその国の首都で超巨大竜巻でも発生させれば済むだろう。

 ただあくまでもそれは制圧するための力であり、強力な個に対しては心許ない。だからこそ『魅了』なんてスキルを手に入れたのだろう。

 でも、ね?


「プレリ、貴女のその大きな胸も全て私のものだよ。他の、しかも男に見せつけるのは感心しない」


 それほど大きな声ではなかったけれど、私の言葉が耳に入ったプレリはビクリと大きく体を震わせた。


「セ、セシルちゃん……ごめんなさい。お姉ちゃん、悪気があったわけじゃなくて……」

「わかってるよ。でも貴女は存在そのものが私のものなんだから、嫉妬でおかしくなりそうよ」


 本当なら日の光も入らない場所に大切に保管して眺めて愛でていたい。

 人と同じ体を与えても、その本質は何も変わらない。

 私の大切な宝石(ひと)達。宝石(みんな)に囲まれて生きていたい。


「だから、私のやりたいことを邪魔する奴は……絶対許さない。電撃魔法 神雷金剛鎚(トールハンマー)


ドゴオオォォォォォォン


 間近に落ちた雷は周囲の音と光を全て消し去り、その場にいた全員の動きを止めた。

 標的となったのはプレリが魅了をかけた敵幹部だけど、そのすぐ側にいた彼女には被害が出ないように並列思考で結界を張ってあげておいた。

 おかげで光にびっくりしただけで五感にも体にも異常はないはずだ。

 しかし私の魔法が直撃した敵幹部は全身を焼かれ炭と化しており、やがてガサガサと音を立てて崩れ落ちていった。


「ふふ、貴女の主はすっごく嫉妬深いんだからね?」

「はぁい、気をつけるわ。セシルちゃん大好きっ」


 一瞬で高レベルの敵を消し炭にした私から溺愛されていることに喜びしか感じていないプレリはいそいそと近寄ってきてその豊満な胸を私の顔に押し付けてきた。

 ユーニャのものとは違った柔らかさがあるそれに包まれているととても幸せな気分になるけど、一応戦闘中なのでプレリの背中をとんとんと叩いて下がらせる。

 こんなヤンデレみたいな主で申し訳ないけど、やっぱりみんなには私だけがいればいいって思っていてほしいからね!

 ……あれ? ひょっとして、私ってユーニャのこと言えないんじゃ……?

 プレリが魅了した敵幹部は私が消し炭にしてしまったけれど、それでも彼女は嫌がることなく私にその豊満な胸が潰れるほど強く抱きついてきた。

 私もその感触もたっぷり楽しんでいたのだけど、気付けばジョーカー達四人も敵幹部を倒していた。

 ジェイやエースは相手よりもかなりレベルが高いのにわざわざ剣で打ち合っていたあたり、自分の訓練程度に思っていた節がある。

 まぁそれはいい。

 とにかくこれで残るは魔王ともう一人の側近だけ。


「そろそろ出てきたらどう? それとも怖くて出てこれないの?」


 私が研究所の入り口に声を掛けると奥にいた二人がようやく姿を現した。


「久し振りだね……エイガン……っ!」

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[一言] >「久し振りだね……エイガン……っ!」  …………………だれ?  しか頭に浮かばない、頼りない我が記憶力。
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