表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

507/579

閑話 テゴイ王国

ちょっと書きたくなったので更新するのを止めてこちらを投稿します。

 デルポイのテゴイ支社ではなく、敢えて国王がいる城へとやってきたかと思えば誰に止められることなく真っ直ぐ謁見の間へと向かっていた。

 俺は言われた通りついてきたが、正直何のために呼ばれたかわからないでいる。それもそのはず、何せウチの……ジュエルエース騎士団のおっかない副団長二人もついてきていて、これ以上護衛の必要はない。

 そもそも護衛対象のジュエルエース大公家当主様より強い者などいないのに何から守れば良いんだ?


「おっ、お待ち下さい! ただいま陛下をお呼びしますのでしばし……」


 突き進む当主様の前にテゴイ王国の貴族らしき男が飛び出してきて、何とか歩みを止めてもらおうとしていた。


「この私をつまらない用事で呼び出した挙げ句に待たせるつもりか? ジジョイル殿は随分偉くなったのだな?」


 男が制止出来るとは思っていなかったが、何も無かったように通り過ぎると謁見の間の扉の前に立った。


「開けて」


 当主様は口にするだけで良い。

 それだけで副団長二人は何も言わずに扉を開けて頭を垂れた。

 この謁見の間は何度が来たことがあるが、実はこれも当主様の手が入っている。

 いくつも飾られた見事な装飾品。明らかに普通ではない気配さえ感じる剣。宝石で出来た彫刻はキラーエイプを掘ったようで今にも襲い掛かってきそうなほど見事な物だ。

 これら全て当主様個人の持ち物であり、手元に置かなくても良いと思う程度の物でしかない。

 実際どれほどの資産があるのか想像も出来ないし、本人自身の強さは世界屈指だし、アルマリノ王国では王族に次ぐ爵位を持ち、今や世界一と言っていいほどの規模まで成長した総合商社デルポイのオーナーであり会長。

 そして俺はそんな当主様に仕えるしがない騎士の一人。かつてはSランク冒険者になるための腰掛けにしようとか思ってたが、騎士でありながらSランク冒険者にまでしてもらった上に並みのSランク冒険者よりも高い給料を貰っていれば辞める気になんてなれないし、あの強さに触れれば膝を折りたくもなる。

 まぁ丸くなったもんさ。自分でも驚いている。


「ふぅぅ……」


 どかっと音を立てて玉座に腰を下ろした当主様は苛つく気持ちを隠し立てするつもりもないのか、大きく息を吐き出した。


「ゾドア、貴方は私の隣に立って。ノルファとエリーはその反対に二人で。あ、剣は外しておいて」

「「はっ」」


 しかし出された指示は意外なもので、まさかこの俺が当主様のすぐ近くに立てと?


「おっ、俺なんかが良いんで?」

「ん? なんで? 今やSランク冒険者『氷牙』のゾドアなんでしょ?」

「……あんまりいじらんで下さいよ……」

「いいじゃない、カッコいいよ?」


 最初に騎士団の応募で真っ先に当主様にボコられたのは恥ずかしい思い出だ。

 あの時の同期の二人は隊長に。一人は目の前にいるエリーで今や副団長だ。

 俺はしがない平騎士で……。


「それとずっと役職無しのままテゴイ王国の警備部門を任せちゃってたけど、このままジュエルエース騎士団テゴイ隊隊長にしても良い? それともデルポイで警備部門の部長くらいになっておく?」

「セシーリア様、よろしいのですか? ゾドアの忠誠心はそれほど高いと思えませんが……」


 エリーが横から口を出すが、当主様はそっと手を上げてそれを制すると俺をじっと見てきた。


「たっ、隊長になれるんならなりてぇ……が、本当に良いんで?」

「構わないよ。野心的なところは無くなったけど打算的な人も嫌いじゃないしね。けど隊長研修はあるから必ず受講するようにね」

「おっ、おうよ!」


 まさかこんな仕事の途中で昇格の話を貰うとは思っても無かったぜ!


「良かったですねゾドア。今後はよりセシーリア様に忠誠を誓うのよ?」

「ああっ、絶対裏切らねぇしもっと強くなってやるさ」


 ぐっと拳を握ってみせるとエリーは嬉しそうに微笑んだ。

 ぎいっと音がしたのは俺達の話が一段落したところだった。

 入り口を見ると、テゴイ王国のジジョイル王と見知らぬ男が数人一緒に入ってきたところだった。

 この仕事の直前、ノルファ副団長から「お前はただ何も言わずに立ってろ」と言われているし、昇格で浮かれる気分を出さないよう顔に力を込めた。


「ジジョイル王、あの女はなんだね?! 何故王である貴方以外の者があの玉座にいるのだ?!」


 うわ、なんだあの男は!

 当主様に向かって「あの女」呼ばわりは……あーあぁ、やっぱり副団長達がキレかかってやがる。

 それもわかっているのか当主様がどこからか取り出した扇子で制したために二人は怒気を収め……きれてねぇな、ありゃ。


「しっしいぃぃぃっ! よ、良いのだ。あの者には玉座を好きに使って良いと言ってあるのだ」

「玉座を好きに? 一国の王ともあろう方が国の象徴たる玉座を、好きにさせるのかね?!」

「いや、それは……その……」


 んで、俺達ゃいつまでこんなのを見せられなきゃならないんだ?

 俺がうんざりしてきているということは当主様や副団長達はもっとだろうなと思っているとようやく当主様が口を開いた。


「ジジョイル殿、私を呼び出したのはそちらだろう? 何の話だ?」

「無礼者! 貴様っ一国の王に対してその口の効き方はなんだっ!」

「やっ、やめてくれズィルムー殿! セシル殿っ、この度は申し訳……」

「おい、今は商談の場か? それとも貴き者同士の会談か? まさかただの雑談とは言わんよな?」


 最後の一言の後、場の空気が一気に張り詰めた。

 Sランク冒険者にまで上り詰めた俺でさえ震えるほどの威圧感だ。

 予想通り入ってきた男達は息もろくに出来ないほどでその場に蹲ってしまっている。


「きっ、貴族との……会談、を……」

「ならば相応の呼び方があろう? よもや、私がジジョイル殿より格下だなどとは言わんよな?」


 思ったより当主様も怒ってるみたいだな。

 しかしこのままではろくに会話も出来ないと思ったのか、威圧を緩めると彼等は肩で大きく息をし始めた。


「はあっはあっ……も、申し訳ないっセシーリア……様……」

「ふんっ……まぁいいだろう。それで、何用で私を呼び出した?」

「じっ、実は……」

「貴様あっ! どこの国の貴族かは知らんがこの儂に攻撃するとはいい度胸だ!」


 態度を改めたジジョイル王とは違い、さっきズィルムーと呼ばれていた男はなんと当主様を指差した。

 今の今まで当主様の威圧で空気が張り詰めていたというのに、彼の怒鳴り声によって今度は空気がビリビリと震えているかのようだった。


「アルマリノ王国のセシーリア・ジュエルエースだ。大公の位にいる。そして総合商社デルポイの会長と言えば、頭の悪そうな其方でもわかるか?」

「そっ、そなた……? この儂を下に見るかっ?!」

「いい加減にしてくれっ! ズィルムー殿は商談に来たのではないのかっ?! 貴方の欲しいと思った物は全て彼女の物なのだ!」

「……で? 其方の名は? まさか貴族ですら無いのに私に声を掛けたとは、言わんよな?」


 当主様が俺の方に扇子を向けた。

 それを合図に俺は不機嫌顔をして背中に担いだ大槍に手をかけた。

 こいつはSランク冒険者になった際にジュエルエース家のクドー相談役からいただいた大業物で、世界に二つとない伝説級の槍だ。


「儂はエレガ共和国のズィルムー外務相だ! 我が国は時代遅れの貴族制を廃しておるわっ!」


 貴族制が時代遅れ? エレガ共和国そのものは豊かな国だが、確か商人達が作った国だ。そもそも爵位なんてないのだから時代遅れも何もないだろうに。


「そうか。それは失礼したな」


 当主様が俺に向けていた扇子を下げると、俺も槍から手を放した。


「で、この城にある私の私物を欲していると?」

「仮にも商会の会長ならば商談に入るのに相応しい場を用意するものだろうっ?!」

「……いい加減にしろよ? 私が話を聞いてやってる内にさっさと言え」


 当主様がその気になればエレガ共和国へ出店しているデルポイの店舗を全て引き上げさせて直接の販売を禁止することも出来ることをわかってないのか?

 まさかやらないとか出来ないとか思ってるような馬鹿じゃないよな?


「ならば言わせてもらおう。ここにあるキラーエイプの彫刻。二本の魔剣。煌びやかな装飾品を譲ってらいたい!」

「いいだろう。いくら出す?」

「白金貨千枚だ! これほど高値をつけられたことなど無かろう?!」


 何、馬鹿なこと、言ってるんだ……?

 ホラ見ろ、俺だけじゃなくて副団長達までびっくりして目を見開いてるじゃねぇか。

 そして遅れてやってくる忍び笑い。口元に手をやっているがクスクスと笑う声が隠し切れていない。


「ふむ、つまり聖金貨十枚か?」

「そうだ! それくらいあれば十分であろう?」


 こいつ本当に商人で作られたエレガ共和国の外務相なのか?

 普通の目利きならそうはならんだろっ?!

 ただの冒険者でしかなかった俺でさえもっと高そうだと思うぞっ?!


「それだと私の後ろに控えた彼の槍ならなんとか買えるか。だがそちらに展示している物はどの品も一つにつき、桁を一つ上げたまえ」

「桁……? 聖金貨百枚だと言うのか?! 馬鹿にするのもいい加減にしろ! それだけ出すなら後ろにいる美女も一緒に寄越してもらう必要があるわ!」


 あ、死んだなこのおっさん。

 当主様の女癖が悪いのはジュエルエース家で働く者ならみんな知ってることだが、あの二人は当主様の忠実な騎士であり愛人でもある。

 しかも当主様は一度でも自分が手を出した相手は絶対手放さないくらい独占欲強いらしいからな。

 ……ところで、さっき聞き捨てならないこと言ってなかったか?

 俺の大槍……聖金貨十枚もするの? そもそも俺の月給だって白金貨十枚っていう破格なのに?


「……商談は不成立。だが手ぶらで帰すのも気が引ける」


 当主様は玉座から立ち上がると両脇に副団長達を侍らせ、片手を突き出した。


「うっ……ぎっ、あ……ぎゃああぁあぁぁぁぁぁっ!」


 突然上がった獣の咆哮にも似た叫び声に視線をずらすとズィルムーについてきていた男の一人の足下がキラキラとした何かがまとわりついている。

 いや違う……あれは、水晶、か?

 まさか、当主様は人を水晶にする魔法を使えるっていうのかよ!


「助け、助けて……ズィルムー殿! 助けてくれえぇえぇぇっ! ジジョイル王っ! セッ! セシー……」

「スマンな、其方にはズィルムー殿の土産になってもらうだけだ。何、故郷には連れ帰ってくれるだろうよ」

「いっ、嫌だああぁぁぁああああぁぁ……」


バキィィィィィン


 男の断末魔と同時に水晶化は完了して、彼は見事な水晶像へと姿を変えた。

 その絶望を表す表情はとても現実味のあるもので、今まさに死にかける男の顔そのものだった。

 そしてそれを見たズィルムーはその場で気を失って倒れた。




「コル、エレガ共和国での店舗を全て引き上げて。それとかの国への直接販売禁止」

「母上をそれほど怒らせるとは、また愚かなことをしたものですね」

「だって私の宝石を聖金貨十枚だよ?! 黒聖貨一枚くらいの価値があるのに、そんなに安く見積もられたら怒るよ! しかも私のノルファとエリーまで寄越せって! コルだってクロウを横取りされそうになったら怒るでしょ?!」

「いっそ乗っ取りますか? テゴイ王国のように。エレガ共和国は商人達の国ですから港もありますし、ちょうど欲しいと思っていたところなのです」

「……社員を働かせ過ぎないように約束出来る?」

「現在ブランド部門は店舗営業時間も短縮、本社での労働時間も短縮、全ての無駄を省いて時間内で最大の成果を出す方向へ向かっています。それに、こういう時に働くのは渉外部門でしょう?」

「ミックならいっか。今度特別ボーナス出しておいてくれる?」

「あと母上のところのジョーカー殿達をお借りしたく」

「わかった。ただ……コルでもあの子達に手を出したら許さないよ?」

「出しませんよ。母上の逆鱗は理解していますから。……ところで、副団長達はともかく彼に聞かせて良い話だったのですか?」


 というのが、俺がデルポイ本社の社長室で聞かされた話だ。

 あの謁見の間での貴族らしい威圧的態度を見た後だけに、その姿が年齢相応でとても好ましく思えた。

 しかし、俺の記憶はその後に受けた隊長研修によって当主様が素晴らしい人であるという認識に変わった。

 当主様、いやセシーリア様は素晴らしい人だ。

 俺はあの方に仕えられることが最高の幸せだ。

 あの方のためにもっと強くならなければ。


「ふふ……今回も成功です」


 薄く笑うクラシックメイド服に身を包む筆頭使用人ステラ様の笑い声だけが響いていた。

 数年後、エレガ共和国の議会はデルポイの傀儡と化して国そのものを支配してしまうことになる。

 アルマリノ王国と友好関係を結んでいなかったせいか、より凶悪な方法を使われることになるのだがそのことさえセシーリア様を称えるものにしか感じなかった。

気に入っていただけましたら評価、いいね、ブックマーク、お気に入り、レビューどれでもいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  勇者のタレントよりも魔王のタレントの方がふさわしいムーヴ(白目)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ