第48話 やりすぎちゃいました
テヘペロ
広場の中程に佇む一人の男性。年齢で言うと40歳半ばくらいの中年?かな?
手にした大剣は私の背丈ほどもあり、あの重量武器から繰り出される攻撃を食らってしまったら骨が折れるくらいでは済まないかもしれない。
こっそりその男性に鑑定を使ってみると…。
ブルーノ
年齢:41歳
種族:人間/男
LV:46
HP:4,964
MP:3,651
スキル
言語理解 5
気配察知 3
身体強化 6
片手剣 6
大剣 MAX
槍術 5
戦斧 7
格闘 8
野草知識 6
鉱物知識 2
道具知識 6
ユニークスキル
戦闘マニア 8
タレント
慈悲ナキ者
突撃者
あぁ…なんか実にそれっぽい。
ユニークスキルの戦闘マニアって何よ…。あとタレントの慈悲ナキ者とか。ついでにスキル鑑定を、っと。
戦闘マニア:戦闘時間が継続されるほど加護を受けて自身の攻撃力、防御力が上がる。攻撃をするか受けるかするとHPが回復する。
何そのチート性能?!ちょっと欲しくなっちゃったよ。魔人化よりも使い勝手良さそうだしね?槍とか斧とか使えるようにならないと覚えられないのかな?
慈悲ナキ者:助けを求めようともただ薙ぎ払う者。
なんかこっちのタレントの方はよく解らない。私も突撃者を持ってるけど、それも似たような説明で要領を得ない。なんでもかんでもスキルやステータスに直結するようなものばかりじゃないってことなのかな?
ただそれ以外のスキルやステータスはかなり高い。レベル40を超えてるところからAランクの冒険者であることは間違い無さそうだし、さっきのおじさん達が「無理だ」って言っていたのも頷ける。
尤も、それは相手が私じゃなくて一般的な人だったらの話だけど。そもそもこの人相手に実力を見せられる人とかいるのかな?
「ブルーノさん、冒険者登録希望者の方を連れてきました」
「うむ!よく逃げずにここまで来た!それだけは褒めてやる!」
…なんだろうこのすごい上から目線は?
彼は私から少し離れたところから大声で私を迎えてくれてはいる。ちょっと上から目線が鼻につくけど、こっちは試される側なんだし文句は言えないよね。
「これより俺と戦ってその力を見せてもらう!幼少の身で冒険者が勤まると勘違いせぬよう全力で相手するので覚悟するがいい!」
「…お嬢さん、今からでも止めていいのよ?怖いから止めるのだって冒険者の資質の一つなんだからね?」
「リコリスさん、私は止めないよ。だから少し離れててくださいね」
私はブルーノさんの言葉に頷く代わりにベルトに差していた短剣を抜く。それを見せれば彼は試験を受ける気があると見なしてくれるだろう。そしてそれを見たリコリスさんも私達から離れて試験を見守るようだ。
「よかろう!では…試験を開始する!さぁ、全力で掛かってこい!」
そう言うと彼は大剣を両手で持ち構えを取った。とても重量武器とは思えないほど軽々と扱う姿は逞しく雄々しい。
ちょっと暑苦しいとかむさいとか思ったのは内緒だけど、あの頼り甲斐のありそうな筋肉は嫌いじゃない。…決して筋肉が好きというわけではない、断じて違う。
試験自体は私の力を見るのが目的だからなのか彼から仕掛けてくることはなさそうだ。かと言ってあまりじっとしていればさすがに向こうも動くだろうけど、そこまで私も気が長い方じゃない。
「行きます」
「存分に打ち込んでくるがいい!」
ほんといちいち暑苦しいね。
私は魔人化を使って肉体を強化する。一時的に身体能力が爆発的に高くなるがMPが凄まじい勢いで減っていくことになる。時間をかけるつもりはない。時間をかければかけるほどに彼はどんどん強くなってしまうから。
私は右足に力を込めて踏み込むと一気に間合いを詰めていく。そしてその勢いのままに短剣を横薙ぎに振るう。
ガギィィィン
彼の大剣も私の短剣がぶつかり合い、大きな金属音が鳴り響く。この一撃で決まるとも思っていないのでそのまま短剣一本で相手に立て続けに斬撃を放つ。
横から斜め下から、フェイントを入れて斜め上から。
その全てをあの大剣で受けきっている。
魔人化を使っているのでスピードは常人のそれより遥かに上回るのだが、重量武器とは思えないほど軽やかに大剣を操り私の攻撃を全て受けてしまう。正直、ここまで受けられるとは思っていなかった。
しかし武器自体が大きくなればその分間合いも広くなる。私の短剣の間合いに付き合うとその分隙もできる。今まではあえてあの大剣に斬撃を当ててきたけど魔人化を使っていられる時間は限られているのでそろそろ次の攻撃に移ることにする。
「たあっ!」
「っ!なかなかいいぞ!それだけのスピード!その攻撃!幼い身とは思えぬ戦闘思考!どれも一流のものだ!」
「それはどう、もっ!」
短剣を強めに当て反動で距離を取ると魔法の詠唱の振りをする。実戦なら詠唱を止めようとしてくるのかもしれないが、今は試験中。私の力を見るなら傍観するだろう。
「魔法だと…?面白い!あれだけの短剣技を身につけながら魔法まで使うというのかっ!」
詠唱が完了した振りをして空いている左手を突き出すと、魔力を込めて魔法名を唱える。
「獄炎弾!」
威力抑え目、速度遅め、見た目だけは派手に大きくした火炎弾を放つ。恐らくあのくらいなら彼は弾いてしまうだろう。
予想通り大剣を大きく振りかぶって火炎弾に叩きつけると真っ二つになって消えてしまった。
確かにかなり弱く撃ったけど真っ二つにされて消える、とまでは予想できなかったな…。これならもう少し強く撃ってもいいよね?
「おぉっ?!素晴らしい火魔法だ!ベテランの魔法使い並みの威力があるではないかっ!」
「じゃあ続けていくよ?獄炎弾!」
先程と同じように左手を突き出し魔力を込めていく。今度は威力弱め、速度普通、大きさはさっきの半分。数は五十発。
「なぁっ?!なんだこ、こっ、これはぁっ?!」
彼の身体のどこかに当たるように撃っているが、さすがに数が多いと的から外れることも多い。しかし彼は身体の大きさが災いして殆どが直撃コースとなる。しかも一度遅い火炎弾を見せていたためか、速度に対応しきれずに十発以上をその身体で受けることになっていた。
十五発目あたりの魔法が当たったのを確認してすぐに私も再び間合いを詰めて彼の懐に入る。彼もさすがにかなりの実力者だけあってあれだけの魔法を受けたにも拘わらず、目をギラギラとさせながら大剣を振るってきた。かなり本気で斬りかかってきているのがわかる。このまま当たれば私の身体など完全に左と右とに別れてしまう。
魔人化さえ使ってなければね。
がんっ
「ばっ!馬鹿なっ?!」
「馬鹿じゃない、よっ!」
「ぐぼぉっ」
振り下ろされた大剣を右手の短剣で受け止めたことを彼は驚きの表情で見下ろしている。本来なら短剣を叩き折り私の身体はあの大剣に真っ二つにされていたはずなのだから。
驚いて隙だらけの彼の鳩尾に魔闘術で強化した左アッパーを入れる。私の身体の幅以上あるような大木すらへし折る威力がある拳だ。
彼の体が少し浮き上がる。
「おまけだよっ!」
追撃に私も跳び上がり、右脚で彼の背中に蹴りを落とすと地面に叩きつけられて動かなくなった。
それを見て私も魔人化を解除すると、自分のMPを確認してみることにした。
残り二百万以上…思ったより使ってないね?
戦闘時間が短かったのもあるし、前にゴブリンの村に行った時のように移動に時間が掛かったわけでもないのでこんなものなのかもしれない。
それでも十分程度の戦闘でMPを八十万を使うような危険なスキルであることは間違い無い。やっぱり本当の強敵以外には使わない方がいいんだろうね。
それはともかく、頭を叩きつけられたから彼は地面に赤い水溜まりを作り出しているが、全く動く素振りが見られない。
「……すみません、やり過ぎちゃいましたか…?」
「ぶ、ぶぶっブルーノさんっ!」
リコリスさんが離れた場所から慌てて駆け寄ってきた。幸い、私の放った火炎弾は既に鎮火しているし熱も冷めている。初めてイルーナに教わった時くらいの威力にしていたらこの辺りが溶岩みたいにドロドロになっていたか、ガラス状になった岩が針の山の如く鎮座したことになっただろう。
それにしても強い人だと思っていたからちょっと力を入れてみたけど、やっぱりやり過ぎだった。魔人化せずに時間を掛けて攻めても十分余裕だったと思われる。このあたりの判断が甘いのが今後の課題だろうと一人納得することにしておく。
「ぶ、ブルーノさんがピクリともしないんですけどぉ…」
半泣きになって私を見上げるリコリスさんを見ているとさすがにいつも理不尽と言われる私でも罪悪感が勝ってくる。
理不尽という悪名を認めたわけではないからね?
リコリスさんの隣にしゃがむとブルーノさんに右手を翳して回復魔法を使う。しばらくすると全身にあった軽度の火傷や地面に叩きつけられた傷が塞がり、頭から流していた血もすっかり止まって呻き声を上げながら体を起こした。
それを見て私も回復魔法を止めて様子を確認していると彼はプルプルと震えながら何かに耐えてるようだった。痛みはもうほとんどないはずなので、ひょっとしたらこんな子どもに負けたのが悔しすぎるってことなんだろうか?
と思っていたのだが、突然彼が大声で笑い始めた。
「いやっはっはっはっ!負けたなあ!」
「ブルーノさん『負けたなあ』じゃないですよ!貴方に何かあったら困るのはギルドなんですからね!引き際をちゃんと考えてください!」
「そうは言うがこのお嬢さんの力は本物だし、手も足も出なかったのは本当だぞ?」
「あ…う…。セシルさん!」
「はっはい!」
蚊帳の外にいたのに突然声を掛けられてびっくりしてつい気を付けの姿勢を取ってしまう。
これって日本人の習性なんだろうね。
「セシルさんがそこまで強いなら、もっと手加減して戦うこともできたんじゃないですか?!」
「や…まぁ確かにそうなんですけど…。手加減しない方がいいのかなって思ってたし、ブルーノさんもとっても強そうだったし…」
「おい、リコリス。この子を責めるのは筋が違うぞ。我々の方から実力が見たいと言い、全力で来いとも言った。であれば実力の足りなかった俺が悪いのであって、この子には一切非はないだろう?」
「それは…そうなんですけど……はぁ。もう解りました。とりあえず無事だったんならそれでいいです。ブルーノさんも一旦着替えて表に来てくださいね」
「いや、着替えてる間にこの子を部屋に通しておいてくれ。回復魔法まで使ってくれたんだからお茶くらい出してやらねばな」
そう言うと彼は一足先に立ち去っていった。確かに怪我は治したけど服は砂まみれだし血で汚れてるし、何より…加齢臭というか汗臭いというか…とにかく水浴びしてきてほしいと切に思った。
私も巻き上がった砂を被ったりしたので少し汚れてはいるものの、この程度の汚れなら村にいたときは日常だったしわざわざ洗浄を使うまでもない。
「それじゃ案内しますのでついてきてください」
彼女も彼女で私の返事を聞く前に歩き始めてしまった。先ほどの不満をまだ引き摺っているのだと思うけどあからさまな態度まで取っていないことはプロとしての最低限のラインなのかもしれない。
私も特に何も言わずに彼女の後をついていくのだった。
今日もありがとうございました。
ところで更新の時間をなんとなく22時にしてるのですが、もう少し早い方がいいですかね?
できない日は遅くなることもあるでしょうけど…。




