第5話 魔法使いの娘らしい
この前書きを書きながら寝落ちしてました。
7/25 題名追加
昼食は多少のお喋りはあるもののみんな淡々と済ませて近くの川で食器を洗った。
その後は私にも授乳を済ませ(木陰でね)て、午後の採集を再開することになった。
とは言え、午前と同じことを延々と繰り返すだけの作業である。
繰り返すだけの作業である。
退屈。暇。せめて見てるだけじゃなくてやりたい。
そういえば、昼食の準備時にイルーナの使った魔法。
あれをなんとか習得することはできないかな?そうすればこの退屈な時間もせめて訓練したりとかできるかもしれないのに。
先ほどイルーナがやったのと同じように右手の人差し指を立てて意識を集中する。
「あぃぁ。あぃぁ」
出ません。火どころか温まりもしません。
「ぃんお。ぃんお」
えぇ、当然こちらも風なんて起きるはずもありません。
なんでだろう?やってることは同じ、だと思う。いわゆるMPと呼ばれるものが私にはないとか?魔力?術力?TP?呼び方すらわからないし、操り方なんて魔法のない前世の経験なんて何の役にも立たない。
そもそもの話、魔法を使うには契約がいる場合もあるんじゃなかろうか?
考えても答えはいつも通りもらえないので、これまたいつも通り繰り返し試してみる。
「あぃぁ。ぃんお」
背中で引っ切り無しに喋る私を気にしながらもイルーナは野草や木の実をひたすら採集していくのだった。
「さーて。今日はこれで終わりにするよ!みんな集合!!」
「「はーい!」」
お昼休みのときと同じおばさんが採集に来ている全員に大声で集合を掛ける。
イルーナも目の前の黄色く光る草(私の野草知識スキルでそう見える)をまとめて刈り取るとカバンに放り込んで集合場所へ歩いていく。
みんなで集まって採集の成果を確認し合った後は全員で村まで戻り、各自解散となった。
「あぃぁ。あぃぁ」
私は懲りずに魔法が撃てないか試していた。が、何の成果も上がらない。ひょっとして私って魔法の才能無さすぎる?
「セシルちゃんはお昼からずっと魔法の練習してるの?」
昼からずっと同じことを連呼する私の様子と発してる言葉からイルーナが声をかけてきた。
「セシルちゃんにはまだ早いよー」
背負われているのでその表情までは窺えないもののきっと苦笑いしてるだろうことはわかる。
でも折角魔法がある世界なのだから使ってみたいじゃない?
「むーーー」
「あははは。セシルちゃんは魔法使いさんになりたいのかなー?…そんないいものじゃないんだけどなー」
優しく穏やかなイルーナからは聞いたことのないような暗い声だった。
過去に何かあったのかもしれない。それを知ろうとは思わないし、それはそれだ。私「が」魔法を使いたいんだ。
背中から抗議をするようにイルーナの肩を叩き「あー」だの「むー」だのと声を上げる。
「もー、痛いよー。ママいじめないでよー」
先ほどの暗い声ではなくいつもの穏やかな声だった。
「うーんとね。セシルちゃんにはまだ難しいと思うけど、魔法を使うには魔力が必要なのね?魔力はみんなの中に必ずある力なの。こんな感じでね?」
するとイルーナは空いた手を肩越しに背中へ向けると手の平を開いて見せた。
手の平の中央に渦巻いているような、揺らめいてるような「何か」が見えた。
---スキル「魔力感知」を獲得しました---
おや?魔力に関するスキルが手に入ったぞ?
「この魔力を使って、自然界にある現象を急激に発生させることを広い意味で『魔法』って言って、『魔法』を自分の意図した通りに使えて、四つの属性を使える人のことを『魔法使い』って言うんだよ」
イルーナは先ほど手の平に出していた魔力をテニスボールくらいの火の玉に変えた。そしてそのまま続けて水の塊に変え、手の平で渦巻く風に変えた後にぎゅっと手を握り込みもう一度開くとサラサラと砂がこぼれていった。
え?ということはイルーナは魔法使いってこと?
---スキル「魔力感知」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「魔力感知」1→4
「今の火と水と風と地を全部使えるようになって、初めて魔法使いって名乗れるんだよー。そして、セシルちゃんのママは魔法使いさんなのでしたー。ちょっと失敗しちゃってもう魔法使いらしいこともしないから魔法使いとは言えないかもしれないけどね」
えへへへ、と照れたように笑うイルーナだったが、私は声を発することなく黙って聞いていた。
イルーナを基準に考えるのはどうかと思うけど、ひょっとしたらすごい人だったのかもしれない。
遠くの山間に沈もうとしている夕日が重なった親子の影を長く映す。その影はとても濃く遠くまで伸びていた。イルーナの過去はこの影と同じくらい長く濃いのかもしれない。聞くことも出来ず察することも出来ない今の私はただ静かにイルーナの背中に掴まる手の力を込めることしか出来なかった。
「…セシルちゃんは優しい子だね。慰めてくれるの?ママはねぇ…もう大丈夫。ランドくん…パパもいるし村のみんなも優しいからね」
それが強がりなのか自嘲なのかはわからないけどもっと大人になって、イルーナがちゃんと笑って話せるようになったら聞いてみたいと思った。
その日の晩。
うーーーーん。
イルーナから魔法のことは教わったものの、どうやったら4つの属性の魔法を使えるのか糸口さえも掴めていなかった。
ただ魔力感知のスキルを手に入れたため自分の中に魔力があることはわかった。少なくともMP0ということだけはないらしい。
イルーナは手の平に魔力を集めていたが、さっきからやろうにも全然できない。そもそも自分の胸から臍のあたりにある魔力の塊を動かすことすらできない。
それにまだ気になるところがある。仮にこの状態がMP10だったとして。MP100ならどうなるのか。
今感じている自分の中にある魔力の塊は「今の」私の握りこぶし1つ分だ。MPが増えたらもっと大きくなるのだろうか?だとしたらこの大きさじゃ話にならないと思う。某国民的RPGの最初に覚える火炎魔法の消費は2くらいだったか。となると火炎魔法を5発打ったら打ち止めだ。魔法の使えない魔法使いなんて盾にすらなれない。
なんとかしようと思い、体内の魔力の塊を引っ張ろうとしてみたり膨らませようとしてみたりする。
---スキル「魔力操作」を獲得しました---
お?覚えた!よし、じゃあもうちょっとやってみよう。こう、魔力を膨らませる感じか?
引っ張るような扱いよりも風船に空気を入れて膨らませる感覚でやってみる。
んんっ!?なんか、魔力の塊が少し大きくなったかな?拳よりも手の平広げたくらいの大きさに?
---スキル「魔力操作」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「魔力操作」1→4
スキルレベルが上がったことでよりやりやすくなって更に大きくしてみる。が。
「ぅえ?」
急な脱力感に襲われて変な声が出た。
さっきまでは少し大きくなってもあまり変わらなかったが、調子に乗って大きくしてしまい今は自分の胴体とほとんど変わらないくらいの大きさを感じる。しかし、最初に感じた魔力と違って今は非常に希薄な感じがする。
なに?これ?……まさか、MP切れ?なんか気持ち悪くなってきた…。
「う…うああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!ああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
頭の中がグルグル回るような、乗り物酔いに似た感覚に私は目を強く閉じて耐えていたがどうにかなってしまいそうな不安からつい感情を抑えられなくなり泣き出してしまった。
私が大声で泣き出したことで隣で寝ていたイルーナもランドールも起き出して私の寝ているベッドへやってきた。
「どうしたのセシルちゃん?ほら…ママはここだよー。怖くない、怖くないよー。……あれ?」
「どうかしたか?」
「え?…うぅん、なんでもないよ。セシルちゃん、ほらぎゅーってしてあげる」
イルーナの様子に何かを感じたランドールがそれを聞いてみるが、イルーナにはぐらかされ怪訝な表情を浮かべる。
私はそれを見ただけで、自分の中の不安を消化できずにまだ泣いていた。
だってどうしたらいいか、どうなってるかもわかんないんだから不安以外の何物でもないもん。
でもイルーナに抱かれてるおかげで少し冷静になってきた。MPが切れてこの状態になってるのならMPをなんとか回復させればいいのだと思う。宿屋に泊ってMP全快とか、怪しい薬を飲んで回復とかはできればやりたくない。理想はズバリ「自動回復」だ。
先ほど広げた魔力の塊が希薄に感じたのであれば、濃密になるようにイメージすればいけるかも。
目を閉じて感情も抑えるようにしながら、コップに水が満たされるようにイメージしながら体内の魔力の塊に神経を集中させる。
---スキル「瞑想」を獲得しました---
---スキル「魔力自動回復」を獲得しました---
---スキル「魔力循環」を獲得しました---
スキルをなんかたくさん覚えたけど、今はそれどころじゃない。引き続き集中して魔力を回復させていく。
---スキル「瞑想」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「瞑想」1→4
瞑想のスキルレベルが上がったせいか脱力感も気持ち悪さも一気に無くなり、なんとか気分を落ち着けることができた。
ただ、ちょっとやりすぎたかもしれない。
「まさか…。セシルちゃん…。でも、どうやって…。なんで…」
「おい、イルーナどうした?セシルがどうしたんだ?」
ランドールパパ空気だね。
イルーナは…目を見開いて私を見下ろしてる。そりゃそうだよね。イルーナは私の魔力切れに気付いていたはず。魔力の存在に気付けば魔力感知のスキルが獲得できるし、魔法使いであるイルーナがそのスキルを持っていないはずがない。ただ何故それが起こったかもわからないし、突然魔力が回復した理由もわからないはず。
もちろん教えてあげることもできないけど。
すっかり落ち着きを取り戻した私はイルーナに抱かれたまま狸寝入りをすることにした。それしか誤魔化す方法がわからなかったというのが最大の理由だけど。
「イルーナ!」
「……寝ちゃったみたい。うぅん、大丈夫。セシルちゃんは多分ちょっと怖い夢を見ちゃっただけだよ」
「…そうか。それならいいんだ。今夜はセシルと一緒に寝てあげたらどうだ?母親と一緒ならきっと怖い夢も見ないだろう」
「うん、そうだね。じゃあランドくん今日は一人で寝てくれる?」
「おいおい、オレは子どもじゃないんだからそんなこと言わなくてもいいだろう?かわいい妻と一緒に寝れなくて残念なのは本当だがな」
「うふふ、私もだよー」
そこ、私が狸寝入りしてるからって頭の上にイチャイチャしないでくれないかな?
だからチュッチュやめてっ!
イルーナはそのまま私を抱いてランドールと違うベッドに入ると、私の背中をトントンと優しく叩きながら一緒に横になった。その振動が心地良くて私の意識は徐々に闇に沈み始めた。
最近は意識を持って目覚める間隔が短くなってきているとは言え、次はいつになるだろうか。
できれば魔法を使えるようになった感覚を忘れずにいたいところなんだけど。
なんとか抗おうとしてみるが、このセシルの体が睡眠を望んでいて意識を保つことが難しくなってきた。
そしてそのままイルーナに抱かれて眠りについた。
ありがとうございました。
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