第469話 第四大陸と新しい眷属
とりあえずいろいろ片付けたいことが一段落した。
結局国王陛下に呼ばれてクアバーデス侯と悪巧みしていた内容の罰を受けることとなったけれど、この国を見守り続けるというのは私も考えていたことだから実質罰なんてないようなものだった。
いよいよ新しい大陸に足を伸ばそうかなと考えていたところへ、嬉しい報告が入った。
「我が君。新たな眷属が目覚めましたのでご報告に上がりました」
ということで、私は眷属達が眠る部屋へとやってきた。
中に入ると、二人の少年が跪いて待っていた。
「おはよう、二人とも」
それぞれルビーとサファイアから生まれた二人で、その容姿は髪と瞳の色以外はほとんど同じだ。
しいて言うならルビーはやや人懐っこい感じで、サファイアはちょっと人見知りが激しいのかな?
「ルビーの貴方はルージュ。サファイア、貴方はシアンだよ」
彼等に名前を付けてあげると、かなり増えたはずの私のMPの大半を彼等に吸い取られてしまった。
軽い目眩を感じながらも、魔渇卒倒しなかっただけマシだと思うことにしよう。
……私が不問にしようとしてるのに睨んじゃ駄目だよジョーカー?
二人は虹色の光に包まれ、その光が収まると纏っていたシーツをはらりと落とした。
「せーちゃんありがとうっ! これからよろしくね!」
ルージュは、思ったよりもチャラいというか軽いみたい。
「セシル様、よろしく」
と思ったら反対にシアンは無愛想なくらい淡々としていたよ。
彼等はそれぞれ赤と青の衣装であるが、まるで小学生の制服みたいにジャケットとハーフパンツというスタイルで、その手には杖よりも短いバトンのような物を持っていた。
それにしても……二人とも可愛いなぁ。中学生くらいにしか見えないよ。顔立ちも幼いし、明るく笑うルージュも少し無愛想なシアンも同じくらい可愛い。
昔のディックもこんな感じだったっけなぁ。
さて、あまり二人を見つめていても話が進まないのでまずは今後の話をしなきゃ。
「二人にはこれから私と一緒に第四大陸へ向かってもらうね。そこにある『階の鍵』を手に入れるのが目的だよ。ここまではいい?」
「はーい」
返事をしたのはルージュだけで、シアンは一つ頷いただけだ。
それでも理解している体で話を進める。
「その上で脅威になるもの、または敵対するものは排除する。特に脅威度Sの上位の魔物の魔石は集めたいから必ず仕留めるよ」
他にも宝石がありそうな鉱脈の当てをつけておくとかあるけど、それは私がまた一人で来れば良いだけの話。
「大丈夫ならすぐにでも出掛けたいけどいい?」
「いつでも大丈夫」
「僕もいいよー」
二人から許可も出たことだし、私はステラにだけ出掛けることを告げると、転移前にちらりと部屋の奥へと目をやった。
まだ起きてこないのはダイヤモンドとグリッドナイト。
これまたどちらも男性型。
目覚めるのが遅いほど能力が高いわけじゃないけれど、第五大陸に行く時は彼等を連れていけるといいね。
そして長距離転移を発動させると、私を含む三人は地下室から姿を消した。
目を開くとさっきまで屋敷の地下室にいたのに、今はもう別の景色が広がっている。
降り注ぐ日差し。
白い砂浜。
寄せては返す波。
季節は春なので水温はかなり低いけれど、浜辺にやってきた。
ここは第四大陸の東端にある浜辺で、ここから南へ行けば小さな漁村があるのだが、今はあまり関係ないので訪問はなしでいい。
「それにしても、春先とはいえ綺麗な海だねぇ。マズの海も綺麗だったけどあそこは漁港だし、ここはすごく綺麗な海水浴場って感じかな」
そういえば久し振りにマズでお刺身食べたいなぁ。
小型犬サイズの伊勢海老のそっくりな海老とか!
イカもタコも食べたい。
シーサーペントも美味しかったっけ。
でも、出来ればそろそろ本格的に白いご飯が恋しい。食べられるだけ幸せだと思っていたけれど、故郷の味というのは魂にでも刻まれるのだろう。
元日本人としてはやはり米が欲しい。
米があればお酒も出来る。アイカに錬金術でお酒が作れると聞いた時はクドーの目が見開かれたっけ。
でも二人は第三大陸以外にも行ったはずなのに、どこかで米を仕入れられなかったのかな?
って、食べ物のことばっかり考えてても仕方ない。
「ルージュ、シアン。二人で近辺を探ってみて、どこかに大きな町がないか確認してくれる?」
はーい、と元気よく返事をするルージュに対し、シアンはやはりコクリと頷いただけだった。
しかし表に見える仕草や表情だけが全てではない。
あれでシアンは私から指示されるのを楽しみにしているように見える。
前世の園にもいたけれど、自分の感情表現が苦手なだけで内心ではいろんなことを考えてるのかもしれない。そう思うと可愛く見えてくるね。
「……セシル様」
ニヤニヤしながら二人が魔法を使っているところを見ていたらシアンが眉を顰めた。
「どうしたの?」
気になって彼に声を掛けると、ルージュも何か気付いたようでわかりやすく表情を歪めた。
「せーちゃん。少し離れた村でどんどん人が死んでる」
「人が? 盗賊でも出たのかな?」
この世界では珍しいことでもない。
平和に見えるアルマリノ王国でさえ、盗賊を生業として稼いでる者はいる。騎士団のような大人数では近付く前に逃げられてしまうので、少数精鋭で全滅させなければならない。
私が一番得意なやつでもあるね。単騎で大群を殲滅。チェリーも得意だろうけど。
「とりあえず向かってみようか。ここからどのくらい離れてるの?」
「僕達ならすぐだと思う」
なら少しだけ急いでみよう。
私は二人に「行くよ」とだけ声をかけると、そのまますぐに駆け出した。
走り始めてすぐ、パンっという音と共に身体に強い衝撃を受け、尚も速度を上げて加速する。
ルージュとシアンは走って追い掛けてくるのは早々に諦め、空間魔法の飛行でついてきていた。
しばらく走り続けるとやがて見えて来るのは空へと立ち上る黒煙。
「盗賊にしたって村を焼き払ったらもう何も奪えないのに馬鹿なのかな?」
普通はまた奪うために村人を無闇に殺したりなんてしないのに、火を放ったら村人が生きていけなくなる。
出来たばかりの盗賊団だとそういうこともあるかと思いながらそのまま進んでいった。
更に二つほど山を越え、川も飛び越えて平原を疾走し続けた私達はようやく目的地である村を視界に収めるところまで到着した。
「……盗賊じゃ、ない?」
村の近くにいたのはボロボロの盗賊ではなく、統一された鎧を纏う騎士らしき者達。
そして彼等の近くには村から略奪したと思われる物資や二十人程度の女性。
「セシル様」
「せーちゃん、アレどうするの?」
シアンとルージュから問われ私は即答しようとしたが一度言葉を飲み込んだ。この大陸の情勢がまだわからないまま、どこかの勢力と敵対するのは控えたいからだ。
かと言って見殺しにするのは気が引ける。
騎士達の人数は五十人くらいなので、私達三人ならば数分で皆殺しに出来る。
でも実は村の方が犯罪者の集団だった、なんてオチがあるかもしれないし。
さて。
数分悩んだ結果、私達はそのまま歩いて村へ向かうことにした。
彼等が私達にまで危害を加えてくるならやり返すし、村の方に非があったなら見なかったことにして彼等の仕事の邪魔はせず話だけ聞かせてもらえばいい。
私よりも少し背の低いシアンとルージュを連れていれば旅をしている姉弟くらいには見えると思い、ゆっくり村に近付いていくと私達に気付いた二人の騎士が馬に乗ってやってきた。
「止まれ! この先に何用か?!」
馬上から尋ねてくるとか礼儀がなってないけれど、彼等からしたら私達は平民の旅人に見えるだろうから仕方ない。
「山の向こうにある漁村から旅をしてきたの。このあたりに村があると聞いていたから休ませてもらおうと思いまして」
私達が転移でやってきた場所から漁村までは徒歩で一日くらいで、その漁村からここまでは徒歩で四日程度。
まぁ歩いて旅しているにしては私達は全然汚れてないから怪しいだろうけど。
「ふむ。だがあの村に行っても今は何もない。軒下を借りて休むくらいのことしか出来まい」
「そういえば先ほどあの村から煙が上がっていたようですが、騎士様方は何かご存知で?」
「さて。野焼きでもしていのであろう。村に行くのは構わぬが、何を見ても余計なことは考えないことだ」
ではな、と続けて騎士達は去っていった。
村には多分死体がたくさんあるから騒ぐなよ、とそういうことか。
念の為、騎士には小さな水晶を飛ばしてくっつけておいた。私が普段から持ち歩いている遠話と位置登録を付与した魔石であり、相手の居場所と盗聴するための物である。
ちなみにアルマリノ王国でも数十箇所設置しており、それらはジョーカーが有効活用しているとか。
「シアン、ルージュ。さっきの騎士の会話をたまに聞いておいて。この大陸での振る舞いをどうするかの判断材料にするから」
二人の返事を聞き、村の近くにいた騎士達がようやく移動を始めた頃、私達もまた村に向かうべく歩を進めた。
二十分ほど歩いて村に辿り着くと、そこには予想した通りの光景が広がっていた。
通りには無惨に斬り捨てられた村人の死体が転がっており、腹から飛び出した内臓から濃すぎるくらい血の匂いが広がっている。
噴き出した血が建物に飛び散ってあちこちが赤く染まる中を進んでいくと、小さな物置小屋だったであろう焼け崩れた建物が見えた。
どうやら火を放たれたのはこの建物だけみたいだ。
「なんでここだけ燃やしたんだろ?」
「セシル様。村の中に生きてる者いる。助ける?」
火を放たれた建物の前で考え事をしていた私にシアンが更に村の奥を指差した。
勿論私も気付いてはいたけれど、成り行き次第で良いかと思って放置していた。が、あまりに情報が少ないので私はルージュにも付き添うように指示をして、生き残りを一カ所に集めておくように追加で命令する。
そして再び、建物へと目をやる。
焼け崩れた建物の残骸。
そしてその中に見えた、見えてしまった。
「人……。しかも、子ども……?」
数はそこまで多くないかもしれない。十人くらいか。
火を放たれてからそれほど時間は経ってないはずなのに、焼き殺された子ども達は腕も足も直角に曲がっていてそれなりの高温で焼かれたことがわかる。
ゴブリンじゃあるまいし、いったいこの大陸はどうなってるの?
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