第449話 スキルオーブ確認
ダンジョンマスターのベノケンツス、呼びにくかったからベンちゃんと愛称を付けて協力してもらうことになった。
まずは引っ越ししてもらうためにダンジョンコアを持って神殿へと転移して、そこに新たなダンジョンを形成。
私のMPをダンジョンコアに譲渡して今までと同じくらいのダンジョンを作ってもらい、ダンジョンマスターの部屋の前に私専用の倉庫を作った。
上層階とは比べ物にならないくらいの広さで、一辺が五万メテルくらいある正方形の階層に沢山の部屋を作って貰った。
ちなみに下の階に行くための階段はこの倉庫とは完全に別であり、倉庫の前には私が作ったリビングアーマーが設置されている。
かなり力を込めて作ったので脅威度S下位くらいの強さはあるが、この国の人相手だと少し心許ない。けれどこの祭壇にはよほど悪意がある者じゃないと近付けないし、それだけの強さがあれば普通に格付け試験を受けているはずなのであまり心配はしていない。
「セシルの言う通りに作ったけど、これでいい? なんか変な感じだけど」
「いいのいいの。ありがとね」
「……それで我のダンジョンだけど、このあたりはあまり人がいないからなかなか成長出来ない。なんとか細々と運営してきたけど、人が来ないとその内消えることになる……」
「うん、知ってるよ。でもさっき渡した私のMPがあれば数日以内に消えることはないよね?」
コクリと頷くベンちゃん。
それならば何とかなる。
一度彼に断りを入れてから外に出ると、神殿地下に扉を設して認証装置も取り付けた。
但しこれは屋敷のターミナルからではなく、学園に設置した扉から来れるようにしたい。都合の良いことにベンちゃんのダンジョンはかなり初心者向けだしね。
そんなわけで一度アルマリノ王国へと戻り、学園に足を運んだ。
「セシーリア! 昨日から忙しそうだけど、突然来てどうしたの?」
学園の校長室に入ると、私に気付いたリーラインはすぐに立ち上がって抱き付いてきた。
ほっそりとした柔らかい身体を私も抱き返してあげると、彼女はうっとりとした顔ですぐに唇を重ねてくる。
「ふふっ、続きをしたいけれどきっとお仕事で来たのよね?」
「うん、ごめんね? 私もこのままリーラインとベッドに雪崩れ込みたいのはやまやまだけどね」
「そう言ってくれるだけで嬉しいわ。愛してるわ、セシーリア」
頬を真っ赤に染めたリーラインはもう一度だけ軽くキスをすると、私から離れていつも通りの冷静な表情に戻った。
「早速だけど、使ってない教室一部屋を使わせてもらうね」
「わかったわ」
事前に説明しなくても私に全幅の信頼を寄せてくれているリーラインはすぐに頷いて私と一緒に空き教室へと向かった。
そして空き教室にも扉と認証装置を取り付けると、祭壇の神殿地下に設置した扉と接続する。
「実は良さそうなダンジョンを捕獲したから生徒達の戦闘訓練にちょうどいいかなと思ってね。ここから行けるようにしたよ」
「まあっ。さすがセシーリアね。私も生徒同士の訓練だけじゃなくて、魔物との実戦経験を積ませたいと思っていたの」
「かなり初心者向けだからすぐに必要無くなるかもしれないんだけどね」
「そう思うのはセシーリアだけよ。普通は二、三年はかかるのよ?」
二、三年と言うけれど、ここの転生者クラスなら場合によってはすぐに相手にならなくなるだろう。
特にナナはアイカに連れられていろんな場所に行ってるから、他の生徒より頭二つは飛び抜けている。
「王都管理ダンジョンに行ってもいいけど、ここからじゃ行くだけで一日かかりそうだし、近い内に中規模ダンジョンも捕獲して使えるようにしたいね」
「……そもそも、ダンジョンって捕獲するもの、だったかしら……?」
後ろから何か聞こえたけれど気にしない。
私はリーラインに今日明日くらいには第一回目のダンジョンアタックに挑んでもらうよう依頼すると、
「別に構わないけど、誰か護衛くらい付けた方がいいんじゃないかしら?」
言われてみれば確かに。
初心者向けだから高レベルの騎士団副隊長クラスでも十分なんだけど……そもそも騎士団はクラン設立まで魔物討伐で忙しくてそれどころじゃない。
リビングアーマーじゃ臨機応変な対応が出来ない。私の眷属達は自分達のレベル上げに必死で屋敷地下の複合ダンジョンから出てこない。アイカとクドーに依頼するのは無理。
ということで早速出番だよ。
「わかったの! 任せるの! しっかり指導するの!」
チェリーが最適となった。
一回目は転生者クラスだからソフィアもいるけど、あの子の護衛にムースもついてるし、余程のことがない限り無事に帰ってくるはず。
レベル一万超えのスライムと魔王の護衛がついた初心者パーティーってどうなのよ。
チェリーにはしばらく引率を頼んだけど、そんなとこばかり行かせてたらストレスも溜まるだろうし、何日かに一回は複合ダンジョンに行かせてあげるつもりだ。
先日依頼した魔改造の結果も気になるし、一緒に行ってあげよう。
「ということで、今日か明日には冒険者パーティーが来るから対応よろしくね」
ある程度関係者に根回しをした上でベンちゃんのダンジョンに戻った私は彼にダンジョン運営をしっかりと依頼しておいた。
もし彼のダンジョンが成長しちゃったら、またどこかで小規模ダンジョンを捕獲してこなきゃなぁ。
「対応って……?」
「普通に魔物をリポップさせたりするだけだよ。ダンジョンポイントを使わなきゃいけなくなったら新しい階層作ってくれたらいいから。その時は魔物のレベルを今の最下層よりちょっとだけ上げてね」
「わかった。セシルの倉庫との間に作ればいいよね?」
「そうそう。ランキング上位にはならないかもしれないけど、弱い魔物中心で運営して」
そうすれば大きなダンジョンポイントも入らないからこのダンジョンが成長するのにかなりの時間がかかることにかるはず。
ベンちゃんとの打ち合わせを終えた私は彼のダンジョン内で転移して、倉庫へとやってきた。
本当なら人手が欲しいところだけど、あまり人に見せられないしダンジョンに連れてくるのも面倒くさい。
なので一人広い部屋にやってくると、とある魔法の鞄の中身を全てぶちまけた。
ザララララララッ
魔法の鞄からどんどん溢れてくるスキルオーブ。
それを更に別の魔法の鞄へと収納していく。要するに分類分けである。魔法関係と武器関係とその他。
ここで大切なのはその他だけであって、魔法関係と武器関係は後日カンファに渡してカジノの景品にしてもらう。
スキルオーブなんて一つで最低白金貨一枚。それが例え最低ランクの魔法スキルであろうともだ。炎魔法のスキルオーブなんて下手をすれば聖金貨一枚くらいするだろうが、私にとっては何の価値もない。
あぁでも空間魔法スキルなら聖金貨十枚くらい取ってもらおう。日本円換算で十億円だ。
鐘一つ分くらい作業して、分類出来たのは全体の三分の一。お腹も空いてきたし、一度屋敷に戻ってから徹夜で作業することに。
そして翌朝には全てのスキルオーブの中から見たことのないスキルを選び出すことが出来た。
その数は七つ。
「……これ絶対いらない。というか、私は意味ないよね」
「セシルは自力で覚えられるスキルはすぐ手に入るのだ。それ以外は魔物のスキルくらいしか有用な物はないのだ」
『スキル強奪』スキル。
対象のスキルを無理矢理奪うスキルで、強奪された相手はそのスキルを失う、らしい。
「こんなの持ってる人いるの?」
「いるのだ。どのみちそのスキルは自分より高いレベルの者には一切通用しないのだ」
じゃあ私のスキルが奪われる心配はほとんどないね。
それに今の私が持ってるスキルでほとんど戦い方が決まってきてるし、変なスキル奪ったところで使わなくなるだけだ。
「他は『破滅魔法』? なにこれ?」
唯一魔法系スキルの中で残ったものがこれだ。
「それはあっても良いのだ。自分より遥かに弱い相手を一方的に殺すか洗脳する魔法なのだ」
「なんか、えげつないね? 神聖魔法の逆みたいな感じ」
「神聖魔法も聖魔法と融合進化するのだ。同じように破滅魔法も邪魔法と融合進化するのだ」
メルの話を聞いてすぐ私は破滅魔法を取得した。
「早いのだ……」
「まぁいいじゃんか。次は、っと『占星術』……いらないね」
「不要なのだ」
占いとかそういうのどうでもいいし。
「『演奏』『執筆』『念手』? どれもいらなさそうな……」
「『演奏』は楽器がうまくなるが、セシルの演奏スキル上限は3なのだ。『念手』は最大で手を六本追加出来るものの、自由に動かすためには相当な訓練が必要なのだ」
「面倒くさいからパスで」
「『執筆』はあっても良いのだ。今までのセシルの研究を纏めるのに役立つのは間違い無いのだ」
「……まぁ、メルがそう言うなら……」
メルがここまで言うのなら持っておいた方が良い。頭に来ることは多々あるけど、間違ったことや私が不利になることは決して言わない。
「最後は『戦闘解析』? これはどんなスキルなの?」
「『戦闘解析』は対象に使うと相手の種族、レベル、ステータス、所持スキルやタレント等、他にも体調や環境によって戦闘能力を数値化するスキルなのだ。極端に言えばス○ウターなのだ」
いや。
いやいやいや。
ちょっ、いきなりぶっこんできたね?!
「なんていうか、いろいろギリギリすぎない?」
「そもそも目安にはなるが、数値が全てではないのだ」
「それってレベルが物凄く高い私を貶してる?」
「なんでそうなるのだ」
便利そうといえば便利そうだけど……。
「そもそも鑑定阻害のアーティファクトとか『隠蔽』持ってたら見れないんじゃないの?」
そう、どんなに便利でも使えないんじゃ意味がない。
最近あまり鑑定を使わないのは、高レベルの人ほど鑑定阻害のアーティファクトを持ってることが多いからだ。
「関係ないのだ。『戦闘解析』は鑑定ではないのだ。ヴォルガロンデは随分便利なスキルを持っていたのだ」
「便利っていうか、ヴォルガロンデのことが尚更わからなくなったよ」
私と同じくらい宝石好きで、スキルや錬金術、鍛冶なんかも凄くて、しかも管理者代理代行だからね。
まだ見ぬ彼に更なる距離感を感じる私だった。
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