表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

473/577

第445話 祭壇製作

 久しく味わっていなかったMPの完全枯渇である魔渇卒倒。

 強烈な乗り物酔いのような気持ち悪さと激しい頭痛。誰かに聞いたが物凄く酷い二日酔いのようだとか。

 MPが回復することで症状も治まるが、気分はすこぶる悪い。


「っ! ……はぁ……最悪……」

「ご主人様っ!」


 倒れたときにちょうど真後ろから支えてくれたラメルの膝枕で目を覚ました私の第一声はそれだった。


「先生っ、良かったぁ……心配したっすよぉ」

「セシル、大丈夫なの?」


 ラメルの隣から顔を覗き込むラーヴァも眉間に皺を寄せていて悲しげな声を出していた。


「チェリー、咄嗟に手を離させてくれてありがと」

「いいの。でも心配したの」


 チェリーに礼を言うと彼女は心配そうな顔はもう見せずに笑顔になっている。

 それにしても……。


「目覚めがラメルの膝枕っていうのも良いものだね」

「ふふっ……ご主人様さえよろしければ毎日いつでも差し出しますよ」

「お願いしたいところだけど、そうすると奥さん達に怒られちゃうからたまにね?」


 最後にラメルの太ももを一撫ですると、身体を起こして周囲を見渡した。

 あれ? メルがいない。


(メル?)

(セシル、目を覚ましたのだ?)

(うん。なんでいなくなってるの?)

(わっちはセシルのスキルなのだ。だからセシルのMPが無くなると姿を維持出来ないのだ)


 そんな性質があったんだ。知らなかった。

 メルクリウスを手に入れてから一度も、というか子どもの時以来魔渇卒倒なんてしてなかったから全然気付かなかった。


(とにかく目を覚ましたならその部屋のものを回収してくるのだ。特にさっきの小窓の中身は大事なのだ)


 そういえば金庫みたいな小さな扉を開こうとしてMPを全部吸われたのが原因だったっけ。


(あの取っ手は恐らく決まった量ではなく、取っ手を掴んだ者の全MPを吸収する仕組みだったのだ。でなければ鍵が開いた後も吸われ続けて魔渇卒倒する方がおかしいのだ)


 なるほど……ヴォルガロンデは案外意地悪だってことか。

 その内本人にあったら絶対文句言ってやる。

 膝に手を置いて立ち上がると、例の小さな扉を確認した。

 扉は薄く開いてはいるものの中身までは見えないので、手をかけて全部開いてみると中には大量の球体が入っていた。


ガラガラガラガラッ


「って多過ぎっ?!」

「わわっ?! な、なんなのっ?!」

「ご主人様っ、これ、スキルオーブです!」

「うそっ?! これ全部っ?!」


 小さな扉からはまるで滝のように大量のスキルオーブが溢れ出てきていて、一つ試しに見てみるとそれは『魔人化』だった。

 『身体操作』でも『身体強化』でもなく、『魔人化』?

 疑問を覚えたものの、溢れてくるスキルオーブの数があまりに多過ぎる。

 既にその球体によってこの研究所の床の半分が埋もれかけていた。


「ちょっと拙いかもっ!」


 このままだと部屋を全て埋め尽くすかもしれない。それに部屋の入り口は開いたままなので、このままだと数千メテル下へ落下してしまいかねない。

 咄嗟に小さな扉全体を覆うように剛柔堅壁(イクストルデ)で塞ぐと、今度は亜空間の入り口を別で作り出した。


「三人とも、床に散らばったスキルオーブをその中に入れて。床にあるものなら書類とか本でも何でも入れていいから」

「おっけーっすよ!」


 念の為入り口だけ別の剛柔堅壁(イクストルデ)で塞ぎ、万が一にも回収漏れがないようにしておいた。

 それから二十分くらい経ってようやく床にあるものを全て回収してもらった。

 続いて金庫? を塞いでいた剛柔堅壁(イクストルデ)を解除して、溢れ出るスキルオーブを全て亜空間の中へ入れていく。


「……セシル、まだなの?」

「まだ、みたい」


 いったいいつまで放出されるのかわからないが、既に数千個は入ったと思う。

 仕方無いので、三人にまた協力してもらい本棚の本も亜空間へ放り込んでもらうことにした。




 全ての作業が終わるのに鐘一つ以上の時間を要したが、やっと部屋の中を空っぽに出来た。

 まぁほとんどがスキルオーブの回収のせいだけど。

 置き場についてはちょっと考えないといけない、そう思っていたところで一つ思い出したことがある。


「ねぇチェリー。第一大陸にほとんど人が行かないような岩山みたいなところってあるの?」

「あるの。この塔からもっともっと東に行ったところなの。魔物も強くないし、食べ物もないから誰も行かないの」


 メルから聞いていた話と合致する。

 そこに新しく宝石や魔石、そして今回のスキルオーブを置くための倉庫のようなものを作ろうかな。


「へぇ。それは良さそうだね」

「セシル、あんなところに用なの?」

「私用の物置を作りたくて。作ってもいいかな?」


 メル曰わく、勝手に作って自分の土地だと言い張ればその内認められるとか。文句を言う奴は拳で黙らせろ、みたいなことも言ってたっけ。


「好きに作ったらいいの。文句を言う奴はぶっ飛ばせば良いの」


 メルと全く同じことを言われたんだが。

 まぁセキュリティーについては考えるとして、とりあえず強い人が偉いっていうこの第一大陸で大人気のチェリーからのお墨付きは貰った。


「町に戻る前にそこに行きたいんだけど」

「わかったの! 案内するの!」


 こうして私達は翔竜の塔を後にして、人が誰も近寄らない荒野へとやってきた。

 ちなみに、翔竜の塔までタンベルハイムから六日。翔竜の塔から岩山まで八日かかった。

 最後に私達以外の人を見たのは翔竜の塔を出て一日経った頃なので、ここから最寄りの村まで普通なら馬車で二ヶ月弱かかるだろう。

 うん、よほどの馬鹿じゃない限りはこんなとこまで来ようと思わないね。

 岩山のほぼ中心部までやってきた私達だけど、とりあえずここにまたすぐ来れるようになっていればそれで良いので目印だけを立てておくことにした。

 とは言え、私がいない間に誰かに盗られても困る。


「『結界魔法 祭壇(アルタリア)』」


 地面に突き刺した短剣を通して薄く広く私の魔力が広がっていく。

 この魔法自体には強い強制力はなく、ただ近寄りたくない気分にさせる魔法だ。なので強い悪意を持って入ろうと思えば入れてしまうものでしかない。

 今はこれで十分だけど、宝石を持ってきたらかなり強い結界を張ることにしよう。


「それはなんなの?」


 私が地面に短剣を突き刺したことに興味を持ったのか、チェリーがすぐ近くまでやってきた。


「ただの目印だよ。ここから普通の人が徒歩一日分くらいまでの範囲を私のものにするよって」

「誰か入ったらぶっ飛ばすの?」


 だからそうやってすぐ暴力で解決するのやめようね?


「近寄りたくないって気持ちにするだけだよ」

「……そんなのその剣を抜いたら終わりなの」

「やってみる?」

「やるの!」


 チェリーに短剣の前を譲り、すぐ隣で様子を見ることに。彼女は彼女で、いつでも戦えるような気迫で短剣の柄を握り込んだ。


「んんーーーっ!! んにににににににっ!」


 あまり大きな短剣ではなかったので柄を握るのが片手になってしまい、それほど力を入れられていないようだ。

 けれどそれを抜きにしてもチェリーは短剣を引き抜けずにいた。


「ふふっ、無理だよ。軽く挿しただけに見えても、その短剣は結界の一部だからね。結界魔法を破壊するか、結界魔法に干渉して無効にしないと抜けないよ」

「んにぃぃ……そ、ういう、のは、早く、言ってほしいの……」


 もちろんチェリーが全力で地面を殴りつけて半径二万メテルもの地面を捲るようなことをすれば解除は出来るけど、彼女がしたいのはそういうことじゃないしね。


「てことで、これでひとまずは準備完了だよ」


 私は三人を近くに寄せると長距離転移(ゲート)を使ってタンベルハイムへと戻ることにした。

 それから改めて国王陛下に挨拶すると、早速デルポイの出店許可証をもらうことが出来た。

 陛下とチェリーの兄である王太子殿下の連名でだ。

 すぐに店舗がある場所を見に行くと、格付け試験を行った試験場のすぐ近くであり、間違いなくそこはこの国での一等地である。


「父上も太っ腹なの!」

「ウチとしては助かるけど、こんな良い場所よく用意出来たね」

「本当なら試験を受けに来る者達のために宿屋を建てる予定だったの。でも良い場所だから安い宿に出来なくて、ずっと放置していた場所なの」

「まぁ、他の宿屋との兼ね合いもあるしね」


 今は以前使われていたであろう商会が出ていったままただの空き店舗になっているものの、それほど痛みは無さそうなので掃除さえすればすぐに店舗として稼働させることが出来そうだ。

 そのためにも私が出来る用意はしておかないとね。

 空き店舗にそのまま入り、人目につかなくなったところで地下に小さな空間を作った。

 そこに第三大陸にある我が家のターミナルポートへ接続するための扉を設置。入り口にもカード認証装置を取り付けたら完成だ。


「後は念の為ゴーレムでも設置しておこうかなぁ……でもこの国の人達の平均レベルを考えたら普通のゴーレムじゃ無理よね……」


 店舗の前で道行く人達を見ているとレベル四十くらいの人はゴロゴロいるし、百に届きそうな人さえみかける。

 警邏しているであろう兵士は百二十くらいか。


「セシルどうしたの? 何か悩みがあるの?」


 一人でうんうん唸っていたら隣にいたチェリーが私の眉間に指を当ててきた。

 眉間に皺が寄るほど悩んでいた覚えはないんだけど、顔に出やすいのはよう仕方ないと諦めている。


「お店の警備員を置こうと思うんだけど、この国は強い人多いでしょ? だから適当なゴーレムなんかじゃ役に立ちそうにないなぁって」


 尤も、私がそれなりに本気を出してリビングアーマーを作れば脅威度S中位くらいのものを作り出すことは出来るのだけど、そうすると今度は明らかに魔物だとわかってしまう。


「人でいいなら私が手配するの。城にいた私専属のメイドなら絶対大丈夫なの」

「……寧ろそういう人達なら私の屋敷に連れてきてもいいんだよ?」


 そういえばリーラインはそういうメイドとか召使いみたいなものを必要としてないね。あの子はなんだかんだ全部自分でしちゃうから必要ないかもしれないけど……いや、今度から一応パートナー全員に専属のメイドをつけるようにしよう。

 ステラは除いて。

 じゃないとメイドや執事達の仕事が増えすぎて可哀想だもんね。

 よし、今決めたよ!

気に入っていただけましたら評価、いいね、ブックマーク、お気に入り、レビューどれでもいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >もちろんチェリーが全力で地面を殴りつけて半径二万メテルもの地面を捲るようなことをすれば解除は出来るけど  つまりその距離は結界の範囲……(白目)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ