第438話 次は第一大陸へ!
チャポン
上に上げていた手を下ろして湯船の中に沈める。
広がる波紋は他の誰かが起こした波紋とぶつかって、すぐに消えて無くなってしまった。
「すごく、豪華な浴場なのね」
「うん。ここは結構拘って作ったからね」
新しく私のパートナーに加わったリーラインも含めて四人で湯浴み中。
残念ながらステラは湯浴みに参加しない。
とりあえず仲良くなるには裸の付き合いですよ!
「それにしても……セシルがまさか他で奥さんを見つけてくるとは思わなかったなぁ」
「本当ですわ。この調子だと、まだあと何人かは見つけてくるに違いありませんの」
ひどい言われようだ。
「私だってちゃんと自制してるよ? リーラインは……その、まぁ言い訳出来ないけど……」
「セシル、それだとリーラインを傷つけちゃうよ。ごめんね、リーライン。セシルは悪気があって言ってるんじゃないからね?」
なんで私はこんなに言われなきゃならないんだろ。
「大丈夫よ。付き合いは短いけれど、セシーリアのことは理解しているつもり。強いし、一人でいろんなことが出来る女性だけど、人一倍寂しがり屋なのよ」
「あ、寂しがり屋なのは当たってるかも。もうずっと夜は一人で寝てないしね?」
「たまにこっそり夜抜け出してますけれど、それくらいは大目に見ますわ」
ぶくぶくぶくぶく……。
お湯の中に顔を半分ほど漬けて隠れようと試みてみるも、何の意味もない。
すぐ近くで私のパートナー達は楽しそうに談笑していた。
浴場で私の性格診断を経て、性癖暴露までされ、そのままの流れで寝室に入った私達はステラも加えて深夜まで過ごした後、ほどほどにして眠りについた。
リーラインは初日だったからね。
いきなり激しいことはしませんとも。
今朝はあまり乱れていない私のベッドの上で三人とも安らかな寝息を立てている。
「おはようございます、セシーリア様」
「おはよう、ステラ。彼女達はもう少し寝かせてあげて」
「承知しました。私は朝食の用意に行って参ります」
「わかった。私は隣にいるね」
首肯したステラはそのまま転移で姿を消した。
彼女は私が「家の敷地」と認識しているところになら自由に転移で移動出来る。
私もいなくなったステラを追うように、そっとベッドから抜け出した。
「装着」
昨夜ベッドに入る際に服は全てベッドサイドに落としていたため、すぐに魔法で屋敷用の服に着替えた。
最近少し魔法を改良して、下着も装着出来るようにしている。無駄に拘ったせいでかなり複雑な魔法になったのだけど、個人的にはとても満足している。
音を立てないように寝室の隣の部屋、執務室に移動するとソファーに腰掛けてゆっくりと息を吐き出した。
「ふぅぅぅ……。次は、第一大陸ね。ジョーカー、いる?」
ステラにするのと同じように誰もいないところに声を掛けると、すぐに空間が揺らいで一人の男が転移でやってきた。
「お呼びでしょうか、我が君」
彼は私の眷属の一人。
フォルサイトから作った擬似生命体だ。
派手な配色を施されたスーツを着こなし、大袈裟な身振り手振りをする芝居掛かった仕草がいつも気になるけど、優秀な諜報員でもある。
どうやって情報を仕入れているのかまでは教えてくれないんだけどね。
「近い内にまた別の大陸に赴く予定なの。誰か新しく目覚めてたりするなら一緒に連れていこうと思って」
「なるほど。我が君のお心配りに感謝申し上げます。恐らく近い内にガーネットとアクアマリンが目覚めるかと思われます」
「確か……スタイル抜群のお姉さんタイプ、だったかな」
二人とも背が高くて出るとこ出て引っ込むところはキュッとなった女性タイプ。
やや顔立ちが幼いので女子高生くらいに見えなくもないけれど、間違い無く美少女。
ガーネットはキッチリと揃えられたボブカットで深い赤色の髪で、どことなくリードの髪色に似ているかな。対してアクアマリンはふわりとしたセミロングでアクアマリンのように澄んだ水色をしていたはずだ。
「今から楽しみだね」
「とはいえ、今のところ数日から数ヶ月かかると思われます」
「それは……仕方ないね。今回手に入れた資料の研究もあるし、気長に待つことにするよ」
ジョーカーを下がらせると、執務机に溜まっていた書類に目を通していく。
面倒くさい貴族関係のアレコレは基本的にコルに任せているので、私のところに回ってくるのは最近だと学校関係と騎士団関係のもの。
「……うん、学校は問題ないかな」
というより思ったより進捗が良さそうだ。
これならソフィアも一度ダンジョンで研修させて良いかもしれない。
ソフィア以外の子達はパーティーを組んで冒険者活動をしてもらいたいし、そろそろ騎士団の隊長格に実力を見てもらうように言っておこう。
けど騎士団も魔物退治で頻繁に遠征しているからあまり暇がない。
今も屋敷に残っているのは主に警備を担当している第二騎士団オズマのところだけ。
ジュエルエースの屋敷、ランディルナの屋敷、デルポイ本社、従業員の寮や各職人の工房や倉庫にはリビングアーマーが巡回しているから犯罪は起きることはないものの、ちょっとしたケンカの仲裁に騎士団が出ていくこともある。
そうなると……子ども達の実力を見るのは眷属たちに任せた方がいいかもしれない。
カチャ
と、私が思考をまとめながら部屋の真ん中を見つめていたら寝室のドアが小さな音を立てて開いた。
「おはよう、セシル」
「おはよう、ユーニャ。二人は?」
「まだ寝てるよ。ステラが起こしに来るまで寝かせてあげようかなって」
「それが良いね」
昨夜は別に激しくしたつもりはないんだけど、特にリーラインはまだ慣れない環境だし、ちゃんと休ませてあげたい。
それからややあってステラが朝食に呼びに来たのでリーラインとミルルを起こして食堂へと足を運んだ。
それから約一か月くらいは資料の仕分けや新しい研究もやっていたけれど、今回の資料の大半は鍛冶関連だったこともあって、私自身はすぐに手が空いてしまった。
どうしようかと悩んだ挙げ句、とりあえず第一大陸に向かい転移出来るようにしておいた。
ついでに第四、第五大陸まで向かい転移ポイントを設置して戻った頃、ようやくアクアマリンとガーネットが目を覚ました。
「おはよう、二人とも」
「お待たせして申し訳ございませんでしたご主人様」
「ふわあぁぁ……まだちょっと眠いっすよぉ……せんせぇ、おはよっすぅ」
ちょっと固い挨拶をしたのがアクアマリンのラメル。特大の欠伸をかました方はガーネットのラーヴァだ。
お姉さん系かと思ったけれど、見た目はもう少し若い。どちらかといえば女子校生とか、そんな風に見えないこともない。
目を閉じた状態でしか見てなかったから仕方ないのかもしれない。ただまぁなんというか、スタイルだけは抜群に良いしアイドルかってくらい可愛い。
今の私も容姿には自信があるけど、二人の前では霞みそうだなぁ。
「ラメル、ラーヴァ。二人とも起きて早々だけど、私と一緒に第一大陸に向かってほしい」
「眠っている間のことも把握していました。ジョーカーからも聞いていますので問題ありません」
「アタシも大丈夫っすよ!」
多少の不安を感じないわけじゃないけれど、二人だって私の眷属である以上は一定のレベルには達している。
この第三大陸でなら我が家の者を除いて彼等に勝てる者はいないものの、これから向かう先は知らないことも多い第一大陸。
慎重に、しかし大胆に進んでいかなければならないだろう。私の寿命はまだまだ尽きないけれど、ヴォルガロンデに迫るための時間はもう多くはない。
「ステラ」
「はい」
「今話してた通り、また少し家を空けるよ」
空けると言っても昼間いないだけで夜はだいたい帰ってくるんだけど。
ステラもそれがわかっているからか、「承知しました」と頭を下げた。
翌日からでも良かったのだけど、早めに状況を確認したかったので私はすぐに長距離転移で第一大陸へと向かった。
降り立った地はリーラインのいた第二大陸ほどではないものの、まばらに草木が生えるだけの荒れ地。
第二大陸から真っ直ぐ第一大陸へと向かい、海岸線から少し内陸に入ったところにある。
「なーんにもないね? ここが第一大陸?」
「そうだよ。一応遠くに強い魔力の反応はあるけど近くは……まぁ歩いて数日くらいのところに村みたいなのがある」
その村から感じられるのは数で言えば四十人くらい。でも一人一人は冒険者のランクで言えば平均でB程度。一番強い人はSランクに相当すると思う。
Sランク冒険者って言ってもピンキリだからあまり当てにはならないんだけどさ。
「ご主人様、ひとまず情報もないことですし、その村に行ってみませんか?」
「いっすね! アタシも強い人に会ってみたいっす!」
ラーヴァは両手を上げてやる気を出しているけれど、あの村にいる一番強い人ってジュエルエース家騎士団の副隊長クラスでしかないからね?
……そう考えると我が家がいかに魔境と化しているかがよくわかるね。
私は二人と一緒に低空を飛行しながら考え込んでいた。
我が家で一番強いのは間違い無く私だけど、次って誰だろう、と。
レベルやスキルだけを考えればランカ、ムースと続くと思う。
でも戦い方がうまいのはクドーとアイカ。次いでユーニャ、ミルルと続く。ミオラ、ノルファ、エリーの三人に最近は大きな差はないし、私の眷属も今はそのくらいの強さだと思う。で、騎士団の隊長、珠母組、副隊長。
このくらいまでが冒険者ランクS相当で、我が家のメイドの一部はランクA相当だし、あちこちに配置しているリビングアーマーも脅威度AからB相当。
我が家だけで部隊を作ったら強者揃いの第一大陸全部と戦争しても勝てる気がする。
まぁ大半は私が殲滅させちゃうだろうけどね。
高速で飛行しているため、徒歩数日の距離もあっという間に進み、日が暮れる前には目的の村までたどり着くことが出来た。
私が育った村よりも小さいながらも、同じように柵なんかもなく、細々と農業をしながら日々の生活を送っているようだった。
なんとなく落ち着く気がするのはノスタルジーを感じるせいだろうが、そんな気分に浸ることなく私達は近くにいた村民に声をかけた。
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