第437話 ご褒美タイム
「ふ、ふふふ、ふふふふふふっ!」
「気持ち悪いのだ……」
メルが横で何か言ってるけど気にしない。
エルフの国からリーラインを連れて帰ろうとしていたのだけど、王族として行っていた仕事のいくつかを誰かに引き継がないといけないということで、数日の猶予が出来た。
その時間を使って戻ってきましたアディス火山連峰!
ついさっき赤竜王のところへ行って宝石のありそうなところを聞いてきたよ!
あからさまに「何しに来たんだ」って雰囲気出してたけど、白竜王は快く教えてくれたって話したら呆れながらも教えてくれた。
そんなわけでアディス火山連峰でゼレディールがいた溶岩の池にほど近いところにある活火山にやってきている。
その山の麓で宝石を探知していたら、さっきの笑いが込み上げてきたわけですよ!
まさにご褒美タイム!
「ここにあるのはほぼ火山岩だから本当にいろんな宝石があるね!」
「カンラン石玄武岩なのだ? 大半がペリドットのはずなのだ」
「海の底にはいっぱい落ちてると思うけど、ちゃんと他にもあるでしょ。ルビーもあるし、ダイヤモンドだってあるんだから」
「わっちはセシルほど宝石に興味はないのだ。魔物が近寄ってきたら教えるから、それまで好きにするのだ」
「そうさせてもらうよ」
早速意識を探知に集中、ガイアも使って地下にある宝石の鉱脈を探っては近くに引き寄せていく。
ところどころマグマが滞留していることもあって、引き寄せるのには随分時間がかかってしまったけれど、凡そ一日ほどの時間が経った頃にはこの近辺にあるめぼしい宝石は全て集めることが出来た。
「……ジルコンだ」
「大丈夫なのだ?」
「うん。そんなに強い放射線を出すのはほとんどないから。けど念の為インクルージョンは魔法で隔離して離れたところに廃棄しておくよ」
「それが良いのだ」
ジルコンには微量にウランを含んでいる。
基本的に極微量だし、都会の放射線量よりも少ない程度でしかない。ただ稀に多くウランを含んでいるらしいので、不純物は取り除いておくに越したことはない。
「ダイヤモンドに似たファイアがあるとことか素敵だよねぇ。折角だし、いっぱい持って帰って熱処理とかやってみようかな?」
「好きにするのだ」
無色透明のジルコンを作ったらこの世界の人じゃダイヤモンドと勘違いするかもしれないけど、実際ほとんど見た目は変わらないからね。
私はダイヤモンドもジルコンも大好きだし、どっちも欲しい。
それから更に少しだけ産出したムーンストーンも回収。
やはりほとんど岩山一つ分くらいの宝石を集めることが出来た。
さすがに私の魔法でも収納しきれないので、今はまだ岩山に偽装させている。
「ふふふ……この山一つが全部宝石なんて、やっぱすごいよね!」
「順調にコレクションが増えてるようで何よりなのだ。しかしドラゴスパイン山脈の宝石もまだ回収していないのに、どうするのだ?」
「……どうしよっか……」
「屋敷の地下にも『ガイア』で宝石に変えた魔物も大量にあるのだ。そろそろ本格的に置き場を考えた方が良いと思うのだ」
「そうだよねぇ。何かいい方法ないかな?」
ドラゴスパイン山脈とアディス火山連峰に作った偽装宝石山は高さ千メテル、幅二千メテルほどもある岩山だ。
ちゃんと宝石質のものだけを取り出して、岩石質の部分を取り除いたところで数万トンになるだろう。
少しずつ運べばこの山だってなんとかなると思うけど、それにしたって置く場所はない。
「いっそ広大な土地を手に入れて、そこに全て置いておくしかないのだ。移動させるのは少しずつ地道にやるしかないのだ」
「そうなるよね。でもアルマリノ王国にはそんな土地ないよ?」
第三大陸にあるアルマリノ王国は大陸内でもそれほど大きな国ではない。豊かな土地ではあるものの、帝国のような広大な土地があるわけじゃない。
テゴイ王国の一部を私が買い取って、という方法も使えなくはないけど、あの国に私の大切な宝石たちを置きたくないし。
「別に第三大陸に限定する必要などないのだ。この第二大陸の真ん中は砂漠で誰も来ないのだ。他にも第一大陸に岩山だらけで誰も来ない土地や、第五大陸に毒で汚染させて誰も近寄れない土地なんかもあるのだ」
「……毒で汚染されてたら私も入れないじゃない……」
「『異常無効』スキルで遮断出来るのだ。毒以外何もないから普通の者は誰も近寄らないのだ」
まぁ確かに私の宝石たちは誰かに見せる為に集めてるわけじゃないから、誰も来ないのは寧ろありがたい。
「でも土地って誰かのものなんじゃないの?」
「第一大陸と第五大陸にそんな考えはないのだ。『ここは自分の土地』と言い張るだけで、文句を言う奴は叩き潰すだけなのだ」
「どんな修羅の国よ……」
そういえば、第五大陸と第一大陸は魔族がいるんだっけ。魔族ってそんな脳筋な思考する人ばっかりなのかなぁ。
「じゃあとりあえずそれまでは保留だね。ちなみに第二大陸の砂漠は却下ね。日差しが強すぎて宝石が劣化しちゃう」
「ならば第四大陸も避けるのだ。あそこは第三大陸のように土地全てに持ち主がいるのだ」
第三大陸もドラゴスパイン山脈のあたりは持ち主らしい持ち主なんていないけど、一応アルマリノ王国と帝国、神聖国の土地になっている。
でもあそこは稀に人が来るから最初から候補に入れていない。
「こうして岩山に偽装しておけば誰も気付かないだろうし、数年くらいは平気でしょ」
「ランカのような魔物がいなければ良いのだ」
「う…………い、一応結界で覆っておくよ……」
私のペットであるジュエルスライムのランカは魔石を食べてしまう。
ちゃんと後で吐き出してくれるけど、横取りされたみたいで気分が良くない。それに限界まで魔石の魔力を吸い取ると宝石質を保てず、崩れ落ちてしまうので普段は壊れても良いようなフォルサイトだけを与えていた。
「適当な量のジルコンだけ持ったら結界張って帰ろうか。そろそろリーラインの用事も終わってるだろうし」
「わかったのだ」
そうして、更に一日くらい作業をしてから私達は再びエルフの国へと戻っていった。
エルフの国での用事を片付けておいてくれたリーラインを連れて、私は自分の屋敷へと戻ってきた。
時間は夜。
当然みんな自分の仕事を終えて戻ってきている時間である。
「リーライン・ジン・メイヨホルネと申します。この度セシーリア様の妻の一人として末席に加わらせていただくことになりました。宜しくお願い申し上げます」
リーラインは最初だからと丁寧な挨拶で全員の前でカーテシーをした。
基本的には主だったメンバーだけがここに集まっており、さすがにジュエルエース家の使用人含めて全員というわけにはいかない。
最近では私の知らないメイドもいるくらいだし、どこから呼び寄せているんだか……。
で、集まったのはリーラインと同じパートナーという立場のユーニャ、ミルル、ステラを筆頭にコル、ルイマリヤ、ソフィア、ミオラ、ノルファ、エリー。クドー、アイカ、カンファ、アネットの十三人。残りはおいおい紹介していけばいいと思ってる。
当然リーラインには我が家のカードを渡してある。
「よろしくね、リーライン」
「お願いしますわ」
「こちらこそよろしくお願い致します」
最初に同じ立場のユーニャ達が代わる代わる挨拶をし、続いて。
「母上の新しい妻となれば、リーライン様も私の母上も同然。息子のコルチボイスと申します。こちらは妻のルイマリヤです」
「セシルママの新しい奥さん。私はソフィアです。よろしくお願いしますリーラインママ」
さすがにソフィアが『リーラインママ』と呼ぶのは長いと思って、今後は『リーラママ』と呼ぶことになったが、それよりも。
「……セシーリア……貴女、子どもが、いらっしゃったの……?」
「そうだよ。二人とも義理の子で血の繋がりはないけど、大事な家族なの。血が繋がった弟が一人いるけど、彼は遠くにいるからね」
ディックは元気でやってるかな?
それぞれ自己紹介を終えた後に夕食の時間になったが、騎士団のミオラ達は辞去して、残ったメンバーでの食事となった。
違う大陸のとはいえ、相手は元王女だけあって少しはみんなの間に壁でも出来るかなと思ったけれど杞憂で済みそう。
ユーニャとアネットも普通に話しかけているし、ソフィアも懐いてくれている。
ちょっとだけ心配していたけれど、一安心だね。
「ほなウチらは先に風呂行くでー」
「セシル、例の資料についてはまた改めて説明してくれ」
アイカとクドーはさっさと食事を終えて湯浴みに行ってしまった。
明日資料の説明したらまた数日はお風呂に入らない生活になるだろう。
それに続いてカンファ、アネットも食堂から出ていくとコルもルイマリヤを伴って自分の屋敷へと帰っていった。
「セシーリア様。紅茶のカップはそのままで構いませんので、私はソフィア様と湯浴みに行って参ります」
「わかった。また後でね」
「ママ達みんなおやすみなさい」
私やユーニャ達はソフィアの言う『ママ達』という呼び方も最近ではすっかり慣れてしまったけれど、リーラインは初めての呼び方に少し戸惑っていた。
「ママ、ですか……。なんだか、不思議な気分です。私は子宝には恵まれないと、思っていましたから」
「大丈夫だよ。ここにいるみんなはそれぞれ似たような境遇だから」
実際にユーニャも魔人に進化してしまったために、普通の人間とは子どもを持つことが出来ない。実はアイカの夜人族もそうなんだとか。
上位種族は寿命が長い分、子どもが出来にくい上に上位種族同士でなければならないという制約がつく。
ついでに言えば、種族特性や技能、魔法などの才能や素質を引き継ぐなら同じ種族同士である必要がある。
世界全体で上位種族数万人。その中でも同じ種族はせいぜい二千人くらいなので、よほど運が良くなければ偶然出会うことはないと思う。
「もしリーラインさえ良ければ、貴女もソフィアの母親になってくれると嬉しいよ」
「母親、というものが私に出来るかはわからないけれど……断る理由はないわ」
「よかった。ありがとね、リーライン」
これでソフィアにもっと家族の温かさを与えることができるならそれはとても嬉しいこと。
あの子が優しいまま大人になって、自分で作る家族にも優しい温かさを伝えていってくれることを切に願うよ。
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