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第44話 暇つぶしも仕事だそうです

今回から題名付きにしていきます。

過去の投稿分も順次題名を追加していきますが、気長にお待ちください。

「見ただけで…わかる、のか?」

「え、えぇ。このくらいの計算なら」


 インギスさんが掴みかからんばかりの迫力で私に迫ってくる。

 さすがにちょっと身の危険を感じて後ずさるが後ろにいたシャンパさんに当たってしまい、今度は彼に肩を掴まれた。

 全然力が弱いので全く痛くはないけど、自分より背の高いイケメン男性に迫られて顔が熱くなるのを感じる。


「た、例えばこの税の計算とか…?」

「えーっと…相殺分も合わせて白金貨6金貨4小金8銀貨3ですね。これ全部それぞれの硬貨換算するよりもひとまず銀貨で全部出してから計算した方が楽ですよ?」


 二人の私を見る目が更に変わる。

 このくらいの暗算は園にいたときに散々みんなとやったから余裕で解ける。数字も全然少ないので計算するのに1分もかからない。


「インギスさん…僕、自信無くなってきました…」

「…奇遇だな。私もだ…」

「あと、こんなに箇条書きにしてたら見る方も大変なのでちゃんと整理して表にしましょうよ」

「そういえばさっきも言っていたが、その『ヒョウ』とはなんだ?」


 なんですと?

 この世界の算数、というか数学は全然進歩していないってこと?ちらちらと書類を見る限りだと平均値や面積などは書いてあるものの、確かに表やグラフなどは見られない。

 仕方なく私は紙を一枚貰って先ほどの税収一覧を作成することにする。項目と単価、数量と金額だけの簡単な表なので数分で出来上がる。


「ほら、こうして纏めれば見やすくなるでしょ?全部の村や町の税収を同じ表にしてしまえば見る方も楽になりますから」

「君は天才かっ!!」


 インギスさんは私が書いた表を手に取って叫ぶとワナワナと紙を握り締める。あまりに強く掴んでいるため紙が破れてしまっている。

 この世界の紙はそこまで強度がないので少し強く握っただけで簡単に破れてしまう。せめて和紙みたいな強度ならあのくらい強く握っても問題ないのになぁ。


「天才でもなんでもないです。みんなの仕事がちょっとずつ楽になってみんながちょっとずつ幸せになってくれればいいんですよ」

「……強者で、天才で、人格者で…この可愛さだと…?神はこの御方にいくつの才能をお与えになっているというのだ…」

「いや、そんな大袈裟なものじゃないですからっ」


 というかインギスさん、どさくさに紛れて「可愛い」って言った?まさか…ロ○コン…?

 彼の疑惑は余所に置いといて。シャンパさんを見ると彼もまた同じような視線を向けてきている。さすがにかなり恥ずかしくなってきてどうしようかと思っていたところにギザニアさんが戻ってきた。


「お前ら、何やってんだ?」

「ギザニア!この子、いやこの御方は天才だ!」

「はあ?いいから落ち着けって。セシルがどうしたって?」


 インギスさんとシャンパさんは戻ってきたギザニアさんにさっきの出来事を説明し始めた。

 ギザニアさんも先程のアドバイスで魔物討伐の案件がうまく進んだようで大きく頷きながら同意している。

 同意しなくていいんだけど!


「ね、ねぇ二人とも。このことをナージュさんに話してセシルちゃんにここに来てもらおうよ」

「…しかし…ナージュさんが許可するだろうか?」

「許可してもらうまで頑張るんだよ!セシルちゃんをリードルディ様の武術教師だけにしておくなんて勿体ないよ」


 それだけになるつもりはないよ?

 頃合いを見て冒険者になるつもりなんだから。

 しかし三人はどんどん盛り上がって私の手を引いて隣のナージュさんの執務室に向かってしまった。

 なんで私まで一緒に行かないといけないのよ…。




「なるほど。話はわかった。…いいだろう、私からザイオルディ様に話は通しておく」

「やったぁ!」

「やったぜ!」


 ナージュさんから許可が貰えると三人は三者三様の喜びを浮かべた。その様子を鋭い視線で射抜くとナージュさんは言葉を続ける。


「君には彼等が効率よく業務が行えるよう指導してもらいたい。先程聞いた表のことやアドバイスについては見事だったので期待している」

「もし何か必要な物があれば揃えるから教えてね」


 はぁ…厄介なことをしてしまったかなぁ。

 でも彼等が問題無く業務できるようになれば私はお役御免でリードの訓練だけになるだろうし。それまでは我慢するしかないかな。


「君達の執務室の机が一つ空いていたな。彼女はそこにいてもらい君達の指導やアドバイスをしてもらうことにする。いいな」

「「「はいっ」」」


 私が特に何かを言う前に話がどんどん進んでいってしまっていた。もういいけどさ。


 文官執務室に戻ると彼等は空いていた机を片付け始め、私が席に付けるようにしてくれた。してくれたのだが…


「これ、椅子の高さが合わないよ」

「…すまない。まさかこんな小さい子が来ることなど予想もしていなかったので…」


 このまま座ったら私は机の上にやっと目が届くくらいで書類仕事なんてできそうにない。今日のところは仕方ないのでしばらくは応接セットで仕事をすることに。

 ひとまず税収一覧を作成するための表を作るところから始める。紙に線を引いて一枚ずつ手作業なので時間がかかる。それでも完成すれば税収一覧はあっという間に作成できるので面倒臭がらずにやることに。


「うぅ…これ全部の村と町の分やらなきゃいけないの…?」

「当たり前です。あとで見る人が早く仕事を済ませるためには大切なことです」

「これじゃ前と同じやり方の方が早かったんじゃ…」


 むー。文句が多いなぁ。

 でも確かに作るのはかなり大変だ。この世界にはコピー機なんてないし…魔法でなんとかできる、かな?

 魔法でインクを宙に浮かせて完成品を強くイメージする。一枚出来上がっているのでイメージも何も見たままだけど。

 そのまま紙に魔力を通してインクを細く紙に通していくとちゃんと表の線や項目、単価などの文字もコピーされた。紙ごとの癖があるせいか一部歪んだり滲んだりしているが誤差範囲内としよう。

 折角なのでこれも特異魔法に登録しておくことにした。

 登録名は複写(コピー)で。

 その後特異魔法に登録した甲斐もあり先程までとは比べ物にならない速度で表を作り上げ、五分ほどで再来年の分までの表を作り終えた。


「…セシルちゃんって、なんか理不尽だね」

「それよく言われるけど、私が楽したいだけですからっ」


 シャンパさんの呟きに反論したあとは彼に表の書き方について教え、インギスさんにも同じように土木事業予定の一覧表の作り方を教えてあげた。

 少し考えれば前世の高校生くらいでもこのくらいのことはできるわけだしね。

 慣れない作業に戸惑いながらも彼等は必死に私が言った通りに書き込み、書類を纏めていく。このペースなら今日中に全部纏め終わるのは無理だろう。


「それじゃ今日のところはもう戻ります」

「「「はいっ!お疲れ様でしたっ!」」」

「…えっと…私にはナージュさんみたいにしなくていいよ?普通でお願いします…」


 彼等が敬意を向けてくれるのはくすぐったいもののとても嬉しいので蔑ろにするつもりはないけど、イケメン達にこうして見送られるのはさすがにちょっと引く。自分のことだけに恥ずかしさでいっぱいだ。




「セシル様」


 文官執務室を出たところで領主様の執務室から出たところのクラトスさんから声が掛かった。

 今度は何事だろうか。


「ちょうど良いところでした。セシル様、旦那様がお呼びでございます。こちらの執務室へ来ていただけますか」

「…はい、わかりました」


 私はクラトスさんが顔を出している領主様の執務室へ向かう。

 中に入ると領主様が机に肘をついて楽しそうな顔で私を待っていた。


「セシル、君はここに来てからいろんなことを仕出かしてくれるな」

「えっと…も、申し訳ありません?」

「何故こちらに聞く?……悪い意味ではないぞ。ナージュからも話は聞いているしな」

「…それにしても彼等文官達はあんなに効率の悪い作業をずっとしているのですか?」

「多分王国内のどの領地でも同じだろうな。文官登用試験で合格した者達に実際の業務を教えている連中が推奨している」


 あれを国家単位でやるの…?どれだけ時間とお金を無駄にするつもりなのよ。


「多分今教えた方法で慣れれば従来の半分以下の時間で税収計算は終わると思います。間違いが多いのも見にくいせいもあるでしょうから」

「なるほどな。…クラトス、セシルの給金に下級文官達と同じだけの給金を上乗せするようナージュに言っておけ」

「はい、かしこまりました」

「えぇぇっ?!いや、いいですよ。暇潰しみたいなものなんですからっ」

「駄目だ。働いた分の金は払う。下級貴族のように踏み倒すような恥知らずな真似が出来るものか。君がいらないと言っても受け取らせる」


 あ、下級貴族ってそんなことするんだ?覚えておこう。

 領主様は私の給金の話をした後、いつもの悪い笑顔を向けてくる。この顔の時はだいたい何かを企んでいる時だ。


「それに、この方法を王家に伝えれば私の覚えもよくなるしな。セシル、君のことも王の耳に入れておくことにしよう」

「お、王様、ですか…」


 ニヤニヤと黒い笑顔の領主様が何を企んでいるのかまではわからない。というか私をリードの婚約者にしたいんじゃなかったのだろうか。

 今のままのリードでは絶対にお断りだけどね。

 その後領主様の執務室を出た私は自室へ戻り、ティオニン先生から渡された文字の一覧表に目を通しているとあっと言う間に夕食の時間になる。

 今日も薄味の夕食を取り、微妙に満足していないお腹をさすりながら浴場へと向かう。着替えは持っていない。

 浴場で石鹸を一掴み取るとそれを布で包んで腰ベルトに入れ、素早く自室へと戻る。

 ちょっと石鹸をアレンジしようと思い、厨房で質の良い油とハーブも仕入れている。

 魔法でしばらく実験しながらなんちゃって精油を作り出し、それを石鹸と混ぜ合わせていく。本来手作り石鹸はじっくり1ヶ月くらいかけて作るものだけど、魔法で水分や熱を飛ばしてやればすぐに完成する。

 出来上がったのはハーブの香りがする石鹸。

 加えて細かく破砕したハーブを入れたシャンプーとレモンとハーブを使ったコンディショナーも作ってみた。折角なんだから少しくらい贅沢してもいい…よね?

今日もありがとうございました。

題名付けるのって実はかなり苦手です。だから小説のタイトルもシンプルに…(笑)

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