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第429話 エルフの国

 ケーヒャ首長国では約半年過ごした。

 広大な森林地帯を隈無く探索し、アイカがかなり喜びいさんで採集していたし何度か学園にいるナナを連れていったりもした。

 私は私で森の中にあった泉にソフィアを連れていって水浴びしたり、あの子のレベル上げなんかもした。

 ただ何かしらヴォルガロンデの手掛かりがあるかと思ってたんだけど、特に何もなかったんだよね。

 で、メルに聞いてみたんだよ。そしたら…。


「以前クドーがどこかの盗賊のアジトから回収した花形の装飾品…あのルビーがついてるものはまだ持ってるのだ?」

「…何年か前に鉱山視察した時に渡されたやつだよね? 確か魔道具だけど特に意味がない効果しかないって」

「それなのだ。それはな、『階の鍵』なのだ」

「きざはしの、かぎ?」

「うむ。セシルにはもう話したが、わっちが案内しているのはヴォルガロンデの軌跡なのだ。つまり、それを揃えることでようやくヴォルガロンデに会えるというわけなのだ。ここに来たのはわっちの案内ではなかったのだ。だからここにヴォルガロンデに繋がる手掛かりはないのだ」


 聞いた瞬間に私はメルを蹴っ飛ばした。

 かなり遠くまで飛んでいったけど…まぁアレは私のスキルだし、蹴っ飛ばして見失ってもすぐまた現れるからいい。

 そう思って放置したけど、案の定すぐ出てきた。

 で、結局紆余曲折あって。


「ようこそいらっしゃいましたセシーリア様」

「リーライン殿下、突然の訪問心よりお詫び致します。それに一国の姫である殿下が私のような一貴族に頭を下げるものではございません」


 私は東の大陸にあるエルフの国にやってきていた。

 以前来たことがあるので長距離転移(ゲート)ですぐなんだけどね。


「なりませぬ。セシーリア様こそ、私のことはどうか呼び捨てていただきたく存じます」

「えぇぇ…、なんでそこまで…」

「何故? セシーリア様は捕らえられた我々をいとも容易くこの国まで帰していただいた恩人。それに大きな力を持つお方。あの国に残りたいと言った同胞達をも温かく迎え入れて下さった。どこに貴女様へ頭を垂れぬ道理がございましょう」


 以前アルマリノ王国の三馬鹿伯爵に無理矢理奴隷にされていたこの大陸の亜人達を助けたことをとても感謝されているらしい。

 私にとってもメリットのあったことなんだからそこまで気にしなくていいのにさ。

 私は何とかリーライン殿下を宥め、ようやくお友だちレベルで納得してもらい、お互いに呼び捨てることで決着した。

 女王に会う前になんでこんなに疲れなきゃならないんだか…。

 そんなわけで私はエルフの国の女王に会うために謁見の間へ通されることとなった。


「セシーリア。一番奥にお母様…女王陛下がいるけれど、膝をついたり頭を下げたりしなくて良いですからね? 何度も言いますが、貴女はこの国の恩人。この国の友なのです。貴女に頭を下げさせるということは、我が国は友人に頭を下げさせる傲慢な国に貶められてしまうのです」

「わかった、わかったってば。リーラインがそう言うならそうするけど、本当にいいんだよね?」

「もしそれで女王陛下が気分を害したからとセシーリアに対して無礼な振る舞いをするようなことがあれば…私がお母様を女王の椅子から引きずり下ろします」


 それは怖いからやめて。

 衛兵が扉に手をかけ、謁見の間が開かれた。リーラインに言われるまま、足を進めていきカーペットの切れ間まで進むと隣を歩いていたリーラインもそこで立ち止まった。


「陛下。我が国の恩人セシーリア・ジュエルエース大公をお連れ致しました」

「おぉ…そなたが我が国の民を救ってくれたセシーリア殿か! 会えるのを楽しみにしておったぞ。妾はキューイラ・ジン・メイヨホルネ。このエルフの国を治める女王をしておる。このような高いところから話すのは心苦しいが、これも女王の勤め故容赦いただきたい」


 本当に膝つかなくて良いらしい。

 エルフの国の謁見の間は巨大な木をくり抜いて作られたようなところだ。

 城自体がその巨木で出来ているため、ここより上は王族の住まいらしい。

 魔道具で灯りを灯しているけれど、あちこちに明かり取りの穴が開けられて薄暗いこともない。

 なんというか、とても温かい空間だった。


「お初にお目にかかります。アルマリノ王国において大公の位を賜っておりますセシーリア・ジュエルエースと申します。キューイラ陛下に拝謁出来、感謝致します」

「ふむ…。本当に良き人物よな。妾はこの国を治める者として、そなたとは長く友好的でありたいと思っておる」

「私もそう思います。…かつては我が国の者達がこの国の民へ働いた許されざる行為を、この場にて謝罪致します。こちらが、我が国の王より預かった書状にございます」


 私はリーラインにアリマリノ王から渡されていた書状を手渡し、そのまま壇上にいるキューイラ陛下へと届けてもらった。


「ふむ…。…うむ、アルマリノ王からも心よりの謝罪が記されておる。これを持って今回の件は終わりにしようではないか」

「ありがとう存じます」

「そなたが帰るまでに妾もアルマリノ王へ親書を認める故、届けてもらえるか」

「はい。間違いなくお渡し致します」


 ひとまず謁見という社交辞令は済ませた。

 今からは場所を変えて個人的な交渉の始まりだ。

 というわけで謁見の間から応接間へと移ってきた私とリーライン、女王陛下と宰相はソファーに腰掛けてまずはお茶をいただくことに。

 エルフの飲むお茶は薬草茶が主流で森で採れる様々な薬草がお茶用に乾燥されて用意されている。


「どう、セシーリア? このお茶は森の奥地にある泉でしか採集出来ない薬草で作ったものなの」


 今いただいているお茶のことを説明してくれるリーライン。

 薬草茶に限らず野草を使ったお茶というのは独特の青臭さがどうしても風味に出てしまうことが多い。

 しかしこのお茶はそういう青臭さはほとんど無く、ハーブティのような爽やかさと深みのある風味と旨味さえ感じられる。

 それこそ緑茶のような味わいだった。


「とっても美味しいよ。大袈裟でもなく生まれてから一番美味しいお茶だと思うよ」

「ふふっ、ありがとう!」


 リーラインは私の隣に座って親しく…というより、王族としてはどうなんだと言わんばかりに私に触れてくる。

 彼女はエルフ特有の長い耳とスレンダーな身体、そして日焼けとは無縁の白い肌を持っており、控え目に言っても美人だ。

 だからそんな人に触れられたら私も悪い気はしない。

 最近、本当に女性としか閨を共にしないせいか綺麗な人や可愛い子をそういう対象に見てしまうことがあるから、注意していたのだけど…オリジンスキル『アフロディーテ』のせいで、リーラインが私に惚れやすくなっているはず。

 ちょっと申し訳ない気持ちになる。


「あらあら…本当にリーラインはセシーリア殿と仲が良いのね」

「えぇっ、だって私の命の恩人だもの! セシーリアが男だったら間違いなく嫁いでいるわ!」


 すいません、私の嫁…というかパートナーは全員女性なんです…。


「あのねリーライン? だいたい嫁ぐって言うけど、この国の次期女王はどうするの。王女様がそんな簡単に嫁いだりとか出来ないでしょ」

「え? だって人間の寿命なんて長くても七十年でしょ? 亡くなったら国に戻れば良いだけよ。それに、妹もいるしね」

「…そうなんだ」


 妹に女王を継がせることにリーラインは納得しているらしい。

 そもそも奴隷として捕まってしまった時点で王族の女としての価値はゼロになっているから、と女王陛下からも説明された。

 普通に考えれば汚されてしまったと見えるしね。


「捕らえられた者達を引き連れてリーラインが戻ってくれたことは本当に嬉しかった…。けれど今のリーラインは外にもなかなか出せず、私達としても苦しい思いをしているわ」


 あ、なんか話の方向がヤバい気がする。


「リーラインをウチに預かってほしいということでしたら構いませんよ」

「セシーリア? ほんとに?」

「まぁっ本当によろしいので? 確かセシーリア殿は同性のパートナーを沢山娶ってらっしゃるとか。その中にリーラインを入れていただけると?」


 あちゃぁ…私のことはやっぱりバレてたかぁ。

 単純に預かるってだけなら適当にデルポイの仕事を割り振って終わりにしようと思ったのに。


「えぇっ?! セ、セシーリアって…そっちの、人なの? あ、でも…男とは近寄りたくないからちょうどいいかも」

「…いや、ウチにだって男の人はいるよ? 養子だけど息子だっているし、従業員や使用人に男性は多いから」

「そのくらいは平気よ。ここにいる宰相だって男だけど、床を共にするわけじゃないんだから」


 まぁリーラインならユーニャやミルル、ステラともうまくやってくれそうな気がする。

 今後のことは連れて帰ってから話し合えばいい。

 まぁ問題があるとしたら。


「ただ、私は『人間』じゃないから寿命が来たら戻ればいいとは思わないでよね」


 この場にいる三人から私に視線が集中する。

 このことを知ってるのはデルポイの幹部とジュエルエース家の主要メンバー、それとディックも含めた家族だけ。


「私は『英人種』だから、あと四百年くらいは寿命があるよ」


 このまま私の目的通り管理者代理代行、いや管理者までなればそれこそ寿命なんてなくなるかもしれないけどね。

 まだそこに至れていない現時点では多分四百年くらいだと思う。


「ほほぉ…これはまた随分珍しい。人間から進化出来ることは知ってますが、だいたいがかなり老齢になってからだと。お若いのに素晴らしいですな」


 そう答えてくれたのはさっきまで空気だった宰相だ。


「ですが、それなら姫様が寂しくなることもかなり先の話。ジュエルエース大公閣下のお眼鏡に叶いましたら、姫様のことをお願いしたいと存じます」


 私はリーラインに目を向けると、彼女はコクリと頷いて熱の籠もった目で見つめ返してきた。

 これ完全にアフロディーテの能力でやられちゃったのかもしれない。まぁそれならそれでちゃんと責任は取るけどね。


「わかった。じゃあリーラインは私が娶らせてもらうよ。女王陛下もそれでよろしいでしょうか?」

「えぇ。リーライン、良い方と巡り会えたことを森の神に感謝するのよ」

「はいっ! お母様、私幸せになります!」


 久々に再会しただけで何故かパートナーとして迎え入れることになっちゃったけど…リーラインは美人だから大歓迎ってことで。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「私は『英人種』だから、あと四百年くらいは寿命があるよ」  なお世界管理者になるのがゴールであると予想されるため、400年じゃ済まなくなる可能性がある模様。
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