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第399話 クラン

 ミオラは呼び出すとすぐにやってきてくれた。

 今日は騎士団の本部にいたはずだけど、書類仕事を放り出してきたんじゃないよね?


「セシーリア様、お待たせしました」

「ミオリアーナご苦労様。この二人のことは知ってる?」


 ミオラはチラリとギルドマスターとクレアさんを見るとすぐに頷いた。


「王都の冒険者ギルドマスターのノミキス準男爵と受付のクレア女史ですね。冒険者関連のトラブルでも?」

「クレアさん、説明お願い」

「…はい」


 私はクレアさんに説明を丸投げするとステラが用意してくれたクッキーを一つ摘まんで口に放り込んだ。

 最近デルポイでもなんとか流通させられるようになったバターを使ったクッキーだけど、ここでは贅沢品だ。

 なにせバター一つで金貨一枚はする。日本円で十万円。

 転生組は馴染みの味だからと一つ二つ口にするだけで食べるのを止めてしまうけど、他の人は食べ出したら止まらない。

 さっきからクレアさんもチラチラとクッキーを見てるよ。


「そのことをランディルナ閣下に依頼するためにやってきた次第です」


 お、説明が終わったみたい。


「なるほど。それでセシーリア様が私を呼んだ理由をお窺いしても?」

「騎士団の隊長何人かに討伐させてみて」


 紅茶を飲みながらミオラに指示するが、そんな私の様子をギルドマスターもクレアさんも困ったように見つめ、ミオラにも同じような目を向けた。

 きっと止めてくれることを期待したのだろう。

 二人ともミオラのことは知ってるはずだしね。

 でも。


「一体ならば平気でしょうが、群れになっていたら困りますね。キリングフェンリルならばカタルが適任ですがザビーも同行させるべきでしょう」


 というミオラの言葉に驚いていた。

 つまりそれは『隊長』と呼ばれる人達なら脅威度Sの魔物を単独で討伐出来るという意味なのだから。

 当然だけど、副団長のノルファとエリー、それと目の前にいるミオラは脅威度Sでも下位なら複数でも討伐可能だし、単体なら中位まで討伐出来る。

 ちなみに脅威度Sの上位となると三年前の魔人薬を飲んだディルグレイルがそれに当たるかな?


「二人だけを行かせても良いのですが、行軍の訓練も兼ねて三番隊と五番隊で討伐に向かわせようと思います」

「キリングフェンリルの近くまで行ったら近寄るのは隊長だけにするようにね」

「勿論です」


 ギルドマスターとクレアさんが呆けている間にもどんどんと話を進めていき、早速ザビーは私の護衛を離れて討伐の準備へと取りかかった。


「そんなわけだから、討伐連絡は我が家の者が行くと思うよ」


 二人には報告をした騎士のギルドカードを更新するようにお願いすると、彼等はそれでも心配なのか何度も私が行かないことを確認しつつも帰っていった。

 こんなことで私が行ってたら何のために騎士団を作ったかわからなくなるのにね。




 それからひと月ほどして、季節はすっかり真夏。

 ジリジリと照りつける太陽を恨めしそうに見上げる家人やデルポイを従業員をよそに、私は冷たい紅茶で喉を潤していた。

 最近はあまり書類仕事も回ってこないし、デルポイへの指示は家でユーニャと話すだけで済む。

 体が鈍らないように我が家の地下ダンジョンに入ったり、宝石を眺めたり魔道具の開発をする日々だった。

 稀に眷属や騎士団からの応援要請で救助に行くことはあったけど、それだって届いたのは四回だけ。このくらいの頻度なら普段私が屋敷にいなくてもどうとでもなる。


「セシルー、邪魔するでー」

「失礼します」


 ノックと同時に執務室に入ってきたのはアイカ。ついでにその後ろからミオラも入ってきた。


「アイカ、ノックは相手の返事を待つものであって入る前の挨拶じゃないんだよ?」

「せやから『入るでー』言うたやん」

「…この話、百回くらいしてる気がする…」

「ほなするだけ無駄いうことやな! あっひゃっひゃひゃひゃ!」


 ケタケタと笑うアイカにジト目を送りながらも深く溜め息を吐いてソファーに座るよう促した。


「アイカ、先にミオラの用事を済まさせてもらうよ」

「かまへんで」


 私はミオラを机の前に来させると、彼女が持ってきた紙の束を受け取った。


「…あのギルドマスターめ…。味を占めて悉くウチに依頼回してきたね…」

「多分そうね。このひと月で脅威度A以上の討伐依頼回数が十一回。単体の脅威度Aなら副隊長あたりでもなんとかなるのよ。けどどれも群れだったから結局隊長や私やノルファ達が行くことになったのよね」


 脅威度Aでも複数体いれば脅威度Sを単体で相手取るのと変わらない。

 というか、そもそもなんでここ最近強い魔物がこんなに増えてきたのか、そっちも気になる。

 そのことを独り言のつもりで呟いた。


「恐らくオナイギュラ、オーユデック両伯爵の領地での目撃だったからでしょうな」

「どういうことなの、セドリック?」

「領地で脅威度の高い魔物が現れた場合、その討伐を冒険者ギルドに依頼すれば依頼料を払うのは領主。それを払う余裕が無い場合は王国から貸付という形で援助されます」


 つまりお金払いたくなかったから放置したかもってことか。


「現在旧オーユデック伯爵領はローヤヨック侯爵領となっております。かの侯爵家は領民の暮らしを守る善政を敷いておりますし、ランディルナ至宝伯家との繋がりで資産が大きく増えておりますので、冒険者ギルドへの依頼を躊躇ったりはしないでしょう」

「更に旧オナイギュラ伯爵領も三つに分割されてクアバーデス侯爵の寄子のノハウノム子爵、エギンマグル侯爵の寄子のニーキス男爵、テュイーレ侯爵の寄子のベルト男爵の領地になってるわ。三侯爵は王国への忠誠心がとても高いし、魔物討伐依頼を渋るような寄子もいないでしょ」


 なるほど。

 王国が盤石な体制になってきたからこその魔物討伐依頼だったわけか。


「前提とする話はわかったよ。それでミオラはどうしたいの?」

「今のままじゃとてもじゃないけど手が足りないわ。本来の騎士団の仕事がままならないもの。部隊を増やすか、依頼を断るかの判断が必要なんじゃないかしら」


 ミオラの要求を聞いて私は椅子の背もたれに体を預けた。

 恐らくだけど、今回の魔物討伐依頼を出してきたのはレンブラント殿下だろう。

 王国騎士団はあまり動かすことが出来ない。

 アルマリノ王国は戦時下ではないけれど、三つの国と国境を共にしている以上は隙を見せたら何が起きるかわからない。

 現に帝国からはちょくちょくゴルドオード侯爵領に偵察の斥候部隊が入り込んでいるのだから。


「ちょいえぇかな?」


 私がどうしようか悩んでいたところにアイカから声が上がった。


「あ、ごめんね。思ったより長くなりそうだから…」

「それは別にえぇねん。てか今の話なんやけど、騎士団とは別にクラン作ったらどないや?」

「クラン?」


 聞き返したことで、ミオラからクランについての説明が入った。

 冒険者同士数人で組むのがパーティで、そのパーティをいくつも抱えるのがクランなのだそう。


「なるほど…。でも王国内の優秀な冒険者を何人も騎士団に入れちゃったし、これでまたランディルナ家が冒険者を囲うのは良くないと思うよ?」

「せやろうな」

「えぇぇ…話がわかんないよ」

「せやから、一から育てたらええねん。セシルの大好きな慈善事業の一つとしてな」


 『慈善事業』と言った時のアイカの本当に嫌そうな顔が気になったけど、『一から育てる』という部分には閃いた。


「旧スパンツィル侯爵家の敷地はまだまだ余っとるんやろ? そこに作ったらえぇんや。この国は豊かな方やけど、孤児もおるし浮浪児もおる。そういう子どもが、なぁんも戦い方知らんままに冒険者になって死ぬようなことが後を絶たへん。ちょうど今帝国やら神聖国でも『訳あり』な奴探しとることやし、まとめて面倒見る施設作ったらえぇ思ってな」

「…つまり、幼稚園から大学までの一貫校を作れ、と」

「学費無料、衣食住提供。但し、洗脳付きでランディルナ家に絶対忠誠、途中退学不可、離職不可の超絶ブラック企業や」

「ちょ…ブラックにはしないからっ」


 私とアイカの間でだけ話が進むにつれ、セドリックとミオラの顔には不安な色が滲んでいく。

 ステラにいたっては「洗脳ではなく初期教育です」とぼそっと呟いている。

 とりあえず今アイカと話していた内容を他の三人にも共有することにしたけれど、さすがにこれは話の規模が大きすぎる。


「ちなみに、今現在ウチが出資してる孤児院と保護してる子どもってどのくらいいるのかな?」


 誰とも無しに呟くとまずはセドリックから話し始めた。


「現在ランディルナ家が寄付を行っている孤児院は国内で十七カ所になります。そのうちランディルナ家のみの寄付と住民からの寄付のみで成り立っているのは九カ所。児童数の把握はしておりませんが、三百から五百程度の人数になると思われます」

「只今ランディルナ家の敷地内にいる成人未満の人間は六百三十一名。デルポイの各店舗にいる者を除いて五百八名。更に騎士団寮とデルポイの従業員寮にいる者を除き二百二十五名。これが簡易保護施設にて預かっている未成年者の数です」


 ステラの数の把握が遠回しすぎっ!

 ざっくり五百人くらいの未成年がいる上に、更に他国からも集める場合は千人規模の学校が必要ってこと?

 ちょっとした町を作れって言ってるようなものじゃないの?!

 まぁ最終的な目標はそのくらいにするとして、今保護してる子どもや孤児院、他国で有望な子ども、転生者は優先的に引き取るようにしよう。

 それで最初は数十人の有望な子ども達の教育から始めて、徐々に大きくしていくのが良いよね。


「どのみち、これは我が家だけの話じゃ済まないかも…」

「規模を大きくするしないはええやん。ただその中でも特に有能な子だけを騎士団の隣くらいに施設作って急速培養すんねん。ノルファやエリー見てみぃ。あないなBランク程度やったんが一年でSランク相当やで?」


 …確かに。

 元々の地の強さはあったけれど、レベル上げとスキル習得で人間ではトップクラスの強さになっちゃったからね。


「とりあえず、孤児院の延長みたいなところから始めていこっか。ミオラ、特効薬にはならないから少なくとも一年はなんとかやりくりしてみよう」

「わかったわ。私だって、騎士団長だもの。当主様がやれって言うならやってみせるわ」

「頼もしい言葉だね」


 ミオラに笑いかけると、同時に頭の中でしっかりプランを練っていくことにした。

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >国からも集める場合は千人規模の学校が必要ってこと? >まぁ最終的な目標はそのくらいにするとして >それで最初は数十人の有望な子ども達の教育から始めて、徐々に大きくしていくのが良いよね。 >…
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