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第40話 お菓子作りは女子の嗜みです。

そろそろ夏休みですね!

執筆速度は変わりませんけど、まだしばらくは毎日更新できそうです。

8/5 題名追加

 カーン カーン


 遠くで鐘の音が聞こえる。音が二つだからこれがナージュさんの言っていた二の鐘だろう。

 自分を鑑定して時刻を見ると確かに二の刻ちょうどになっている。

 実際は鐘が鳴るより早く起きていたんだけどね。こればっかりは習慣だろう。村ではだいたい日の出と共に起きていたし、魔法を使える人がいない家庭などは夜日没からそれほど経たない内に灯りを消して寝てしまう。

 我が家はイルーナも私も魔法で灯りを作ってしまうので割と夜更かししていた方だと思う。


 それで起きたのに何をしているかと言うと。

 さっき部屋を出たらすぐにファムさんとばったり会って、何かとやることはないか聞いてみたんだけど


「セシル様は家庭教師なので私達と同じことをしていただく必要はございません。朝食の用意が出来ましたらお声を掛けますのでそれまではお部屋でお寛ぎください」


 とバッサリ拒否された。予想はしてたけどさ。

 それで暇になったのだが、生憎と私はここでまだやることがない。結局何とか拝み倒して邪魔しないことを約束の上で調理場を見学している。

 ここの調理場を担当しているのはモースさんというシェフで、年齢は40歳くらいかな?ずっと料理の道を歩んできたその道のプロと言うべき人だ。

 見ていればわかるくらい料理を行う動作に淀みがなく、次々に食材を処理していく。その流れるような動作は彼の今までの研鑽の積み重ねによるものだろう。

 なのに。

 味はイマイチ…。

 決して不味いわけじゃない。ただ味付けが基本的に塩だけだったりするので料理の幅が無さ過ぎる。恐らくレシピもあるだろうがそれを忠実に作っているだけなので最低限の味は担保されているのだと思う。

 確かにこの世界には調味料の類が少ないのでこれだけの料理ができるのはそれだけでもすごいことなんだろうけどさ。ちなみに砂糖もあるけど、予想通りかなり高額のようでおいそれとは使われないらしい。但し蜂蜜は領内でも採れるみたいで貴重ではあるが砂糖ほど使用に制限がない。うちの村でも少しだけ採れたし、お裾分けで年に1、2回は一口くらい口にすることができたしね。


「セシル様は自分の料理なんて見てて面白いんですかい?」

「面白いっていうかすごい洗練されてるなぁって。私も料理はしてたけどモースさんみたいにはできないからね」

「ははは、セシル様はお上手ですな。さては大盛をご所望ですかい?」

「あ、いや…それはいいよ。それより私のこと『様』なんて付けなくていいのに。私はただの平民なんだからさ」

「いやぁ、そう言われてもリードルディ様の先生なんだしそういうわけにゃぁいきませんよ」


 むぅ。どうも家庭教師ってのは平民でもなかなかなれないみたいでファムさんに引き続きモースさんにも断られてしまった。教師というのは一定の敬意を向けられる職業ってことかな。


「それよりセシル様はどんな料理をされるんで?田舎の料理も自分としてはちょいと興味がありますな」

「簡単なものばっかりだよ。領主様にお出しできるようなものなんて何も無いしね。あぁ、でもデザートくらいなら作れるかな?」

「デザートですかい?果物を切って飾るくらいじゃ料理とは…」

「違うよ。ちょっとしたお菓子みたいなものかな」

「…お菓子なんて大量に砂糖を使うようなもの、高くて毎日は無理じゃあないですかい?」


 あー、やっぱりお菓子っていうと砂糖をたくさん使った料理としか思われてないのか。砂糖を使わないお菓子だっていくつかあるのに。それこそ園にいたときは小さい弟妹達によく作ってあげたものだしね。


「簡単にできるし、作ってみようか?」

「…本当に砂糖は使わないんで?」

「使わないよ。少しだけ蜂蜜と果物があるといいかもしれない」

「まぁ、そのくらいなら…」


 私は見学のために座っていた椅子から降りるとキッチンでボウルを取り出した。泡立て器も欲しかったけど今は時間もないし魔法で代用するとしよう。

 更に卵をいくつか卵白と卵黄に分けてボウルに入れ卵白を攪拌してメレンゲを作る。魔法で代用とは言ったもののかなり繊細な操作が必要で天魔法で空気の渦をいくつか作ってボウルの中で操作してる内に何とか出来上がった。

 次に卵黄に牛乳を注いでかき混ぜ、メレンゲに少しずつ加えながら混ぜていく。薄い黄色のメレンゲになったらOK。その上から目の細かい網で小麦粉を振るって入れてざっくり混ぜれば生地は完成だ。メレンゲを作るのだけは面倒だけど以前よく作っていた砂糖無しのパンケーキ。園の子ども達もほのかに甘いと好評だったし、高校の友だちにもダイエットにちょうどいいと絶賛されたっけ。まぁ彼女は安心して食べられるって言って食べ過ぎて結局太ってしまったけど。


「モースさん、フライパン貸してね」


 彼からフライパンを受け取ると炎魔法で高温の火の玉を作り出してじっくりと火を通していく。

 両面焼いて中まで火が通ったのを確認すると皿に盛り付けてシナモンパウダーを振り掛け、半分に切った後で蜂蜜を少しだけ掛ける。あとは果物をカットして添えれば完成。


「はい、セシル特性パンケーキの出来上がり!」

「おぉ…なんか王族が食べてそうなケーキが簡単に出来ちまった…」

「さ、味見してみて」


 私はモースさんにフォークを差し出すと彼は匂いや見た目を観察してからパンケーキを口に運んだ。


「おおぉぉぉぉっ?!美味いなっ!ふんわりとした食感もいいし、蜂蜜をかけたところだけはしっかりとした甘さがあるが、それ以外はシナモンの香りが心地良く広がる」

「美味しいでしょ?」

「すげぇ…すげぇよセシル様!これ今朝の朝食に領主様にお出ししよう!」

「え…。や、流石に私が作ったこんな拙いものをお出しするのは…」

「大丈夫だって!絶対満足してもらえますから!」


 うーん…?モースさんがそこまで言うならいいのかな?本当は彼にレシピをいくつか教えて、ここでの料理の改善を促したかっただけなんだけど。

 仕方ないので私は全員分のパンケーキを焼いて同じように盛り付けて用意した。今朝は私は朝食に呼ばれていないので、他の使用人達と一緒に食事を取るつもりだ。なので使用人達の分も焼いていく。流石に使用人全員分となると蜂蜜は高価すぎるので、こちらはシナモンパウダーを振り掛けただけになったけど。


 モースさんの料理が終わると昨日夕食を食べた食堂へ料理が運ばれていき、それぞれお付きの人達が領主一家を呼びに行った。その間に使用人達の料理も別の部屋に運ばれて準備だけはされる。食べられるのは領主一家の食事が終わってからになる。

 手持ち無沙汰のまま待っていた私のところにモースさんが慌ててやってきたのはお腹と背中がくっつきそうになる少し前だった。


「セシル様、領主様がお呼びです。さっきのパンケーキのことで」

「えぇ…。やっぱり呼ばれたじゃんか…もう…仕方ないなぁ」


 流石にあんな拙い料理を勝手に作って出したから怒られるんだろうなぁ。

 モースさんと一緒に食堂へどんよりとした気分のまま重い足を引き摺って歩いていく。扉が開くと領主一家は既に朝食を終えていて食後の紅茶を飲んでいるようだった。


「今朝の朝食でデザートを作ったのがセシルだと聞いたんだが間違いはないか?」


 挨拶も前置きも無しで領主様は真剣な顔で聞いてきた。


「はい…すみません、勝手なことをしてしまって。あの…クビ、ですか?」

「ん?クビ?何のことだ?私はこのデザートをセシルが作ったのかと聞いているのだが?」


 やばい、かなり怒ってる?

 さっきよりも目がマジになって迫力が増してるよ。


「あなた、そんな顔していたらセシルさんが怖がってしまいますよ」

「む?そんな、怖い顔をしていたか?」

「してましたよ…まったく。ねえセシルさん?このお料理とても美味しかったわ。この人ったらすごく気に入ってしまってモースを呼び出したんだけど聞いたらこれを作ったのは貴女だって言うから、それで急いで呼んでもらったのよ」

「あー…すまんな。勘違いさせてしまったようだ。この料理、名前を何と言うのだ?」


 なんだ。怖がって損しちゃったよ。


「パンケーキです、領主様。簡単に作れるデザートなのでモースさんなら私より美味しく作れると思います」

「ほぅ…?つまり君はこの料理のレシピを我が家に売ってくれるわけか」

「…はい?…いや、売るも何も…こんなの仰ってくださればすぐにでも…」

「よし、クラトス!次回のセシルの給与にパンケーキのレシピの買取料を上乗せしておくようにナージュに言っておけ」


 買取?!こんな簡単に作れるような料理のレシピにお金出すの?!

 あぁしかもクラトスさんもしっかり了承してるし…いいのかなぁ。


「セシル、まさか戦闘能力以外に君にこんな才能があるとは思わなかったよ。一体どこでこんなことを覚えたんだ?」


 どこでって言われても前世ですとも言えないし…。真面目にタレントの縛りで口にすることが出来ないからね。


「父様、セシルに関しては何故知っているのかと聞くだけ無駄です」

「あぁ、そうであったな」


 私が困っていると、リードが助け船を出してくれて追求されることはなくなった。彼の顔はどこか呆れたようなものであり、それが私には納得いかないところだけど、今回は助けられたらので見なかったことにしよう。


「モース、セシルがまた何か変わった料理のレシピを作っていたらなるべく便宜を図ってやれ」

「はい、わかりやした」


 というかモースさんのこの山賊みたいな喋り方を領主様は気にしないのかな?…気にしないんだろうなぁ。

 その後食堂を辞した私達は片付けをメイドさん達にお任せして使用人用の食堂に行く。中に入ると既に手が空いた使用人達がそれぞれの食事を取り始めていた。私も空いた席に座って朝食をいただくことにする。

 しかしやっぱり塩味だけのスープっていうのは味気ないなぁ。出汁もないからか旨味もコクもない。すごくさっぱりしてるから健康にもダイエットにもいいとは思うんだけど。

 味気ない食事を気にしないようにしてお腹を膨らませていくと周囲の声が嫌でも耳に入る。中には私のことを噂しているテーブルもあったがほとんどがパンケーキの話題になっている。否定的な話は無く皆さん気に入っていただけたようで何よりだよ。

 私も久々に食べるパンケーキに舌鼓を打ちながら、やっぱり砂糖使いたかったなぁとちょっとだけ不満に思ったのは胸の内に秘めておくことにした。

今日もありがとうございました。

パンケーキがとても食べたくなりました。

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