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第383話 ケニアさんと再会

「宝石が採りたい!」


 朝食の席で私はみんなが揃っているのを確認してから宣言した。


「なんやねん藪から棒に」


 早速アイカが眠そうな目を擦りながら聞いてきた。

 よくぞ聞いてくれました。


「だってさ? 私視察から帰ってきてから王位継承問題にばっかりかまけて、全然宝石を採りに行ってないんだよ?」

「義母上…。その、申し訳ありません…」

「セシルはコルを責めてるわけじゃないから大丈夫だよ」

「ユーニャ母上…。しかしそれならば義母上は?」

「宝石集めはセシルの生き甲斐みたいなものだからね」


 さすがユーニャ。私のことをよくわかってくれてる。


「ユーニャ、コル。デルポイで私が急いで何かやらなきゃいけないことってある? ないよね?」

「義母上がいなければならない仕事はありません。昨夜確認した中ではランディルナ家として急ぎやらなければならない仕事もありません」

「…コルチボイス様。夜会についての打ち合わせが済んでおりません」


 コルの返事にステラから待ったがかかったけれど、コルはゆっくりと首を横に振った。


「侯爵以上の方々で急ぎ招待せねばならない家はありません。煩いのは伯爵以下の家なので、そんなものはこちらの都合で何とでもなります。文句を言うなら相応の誠意とともに参上させれば良いのですから」


 おぉ、さすがコルは言うことが違う。

 そういう政治的なことは未だにセドリックやステラに任せきりだったけれど、既にコルに任せても問題ないんじゃないかな?


「ですので、義母上。私が家にいる今日明日の二日間であれば何とでもします。どうかゆっくり羽を伸ばしてきてはいかがでしょう?」

「…出来の良すぎる息子が出来て良かったやんな? そういうことやったらウチもたまには出掛けてきたいんやけど、ええかいな?」


 アイカが出掛けるとなると薬草採取だろう。

 仕入れもしてるけど、アイカの作る薬はいくつか普通の薬師が使わないようなものを使うせいで本人が採ってこないと在庫は減る一方だ。


「クドーは?」


 アイカの隣に座るクドーにも声を掛けたけれど、彼は首を横に振ったので出掛けないってことだろう。


「じゃあ明日の夜まで私とアイカは出掛けてくるから、それまで家のことよろしくね」


 全員から了承の返事が返ってきたところで、私は急いで朝食を済ませることにした。

 それから私はゴルドオード侯爵領に行きたいというアイカを翡翠が採れた谷まで連れて行った後、久し振りにワンバへやってきた。

 オナイギュラ伯爵領にあるザッカンブルグ王国との国境を跨いでいる交易都市である。

 ここには私の大事な友達がいる。

 裏路地に入り、人通りが少なくなっていく道をのんびり歩き、目的のお店を発見する。

 一回しか来てないのに案外覚えてるものだ。


「セシル、ここは帝国の冒険者がやっている店なのだ?」

「そうそう、ケニアさんっていってね。私と同じ宝石が大好きな人なんだよ」

「宝石を採りに行くんじゃなかったのだ?」

「折角だからね。一人で行くより友だちと一緒に行けばもっと楽しいかと思って」


 私は浮かんでいたメルを消すと『ワラリス秘石店』と書かれたお店のドアに手をかけた。


ガチャ


 ドアベルなども設置していない、シンプルなドアに鍵は無く、開けた先には前と同じようにいくつもの宝石の原石が並んでいた。

 店の中央にあるテーブルにはよく磨かれた大きな花崗岩が鎮座しており、その上にいくつもの木箱に入れられた原石達が見栄え良く展示されている。

 また壁際には天井まで届く大きな棚が設置してあり、やや圧迫感を受けるものの、こちらにも珍しい原石やメジャーながらも形の良いクラスターがいくつも飾られていた。


「こんにちはー」

「はーい、いらっしゃい。じっくり見て、って…って、セシルちゃん?!」

「お久しぶり、ケニアさん」

「ひっさしぶりだなー! あれからなかなか顔出さなかったからちょっと気になってたんだよ! ホラ、こっち来て!」


 ケニアさんは私を急かすと、書類が散らばったテーブルをすぐに片付けてお茶の用意を始めてくれた。

 のんびりしたいわけじゃないけど、久し振りに会った友だちとお茶を楽しむくらいの時間はある。


「それにしてもホント久し振りだ! 前は制服だったけど、今もう成人してるんだろ?」

「うん。いろいろあって、Sランク冒険者と貴族になっちゃった」

「…はあぁ?!」


 そこからはしばらく私の説明タイムに入ることになった。


「ふへぇぇぇぇ。ただ者じゃないとは思ってたけど、まさかそんなことになるなんてなぁ。それにデルポイって最近この町にも店を出し始めた商会だろ?」

「会社自体は私のものだけど、何をやってるかまではあんまり把握しないんだよ。それに冒険者のときよりもずっと忙しくて、最近かなりストレス溜まってたんだ」

「あぁ、それで久し振りにアタイと宝石の話がしたくなったのかい?」


 ケニアさんは嬉しそうにお茶を啜ると、最近手に入れたという石を見せてくれた。


「これな! なんか薄ら青白い光が浮かんでるように見えるんだ! 水晶かと思ったんだけど、なんか違う気がしていろいろ調べてるのさ!」


 よく見ると、確かに光の具合によって青白いもやみたいなものが宝石の中に浮かんでいる。

 オパールのような遊色効果でもない、これはシラー効果だ。


「これはムーンストーンだね。そういう独特な効果があるんだよ。中には虹色のもやみたいなのが見えるものもあるし、同じようなシラー効果を持つものにラブラドライトっていう黒っぽい石もあるね」


 ムーンストーンの原石をケニアさんに返しながら、説明すると彼女は少し残念そうに苦笑いを浮かべた。


「…なんだ、やっぱりセシルちゃんは知ってたのかぁ…」

「たまたま知ってただけだよ。でもムーンストーンは私持ってないんだよ! ケニアさん、私が今日ここに来たのはケニアさんと一緒に宝石採集に行きたかったからなの。私もムーンストーン欲しいし、一緒に行こう?! ね!」

「また凄い急な話だな? …まぁいいか。店に客が来るようなこともほとんどないし、それも楽しそうだからな。でもこのムーンストーンは買ったものだし、採れたのは帝国との国境近くだって聞いたぞ?」


 帝国との国境近くかぁ。

 それなら多分ランカを捕まえたあの岩山辺りかな?

 ムーンストーンは流紋岩から採れるから、確かあの近くに溶岩ドームも見た気がする。

 温度の低い粘り気のあるマグマが冷えて固まった溶岩ドームは流紋岩がたっぷり噴き出してるはずだからね。


「大丈夫! 私ならすぐだから! ケニアさんは採集道具だけ持ってきて!」

「はは…セシルちゃんには敵わんねぇ。あいよ、じゃあ店も閉めちまうからちょっと待っててくれ」


 そう言うとケニアさんは立ち上がり、早速準備を始めてくれた。




 準備の終わったケニアさんを連れて長距離転移(ゲート)を使い、早速やってきました帝国との国境!

 どこを見ても岩山しかない。

 私だけがわかる目印をつけてある岩山には大量の宝石がまだ眠ったままだけど、今回は…見るだけにしておこう。 


「…瞬きしてたら知らない場所に連れてこられた…。アタイ、セシルちゃんに置いてかれたらここで野垂れ死に確実だな…」

「そんなことしないって。それより宝石採りに行こう!」


 能力をフル稼働させて近くの宝石を探ってみると、ここから鐘一つくらい歩いたところに溶岩ドームがあるのがわかった。

 まずはそこを目的地にして早速向かおう。

 歩いて向かっているためどうしても時間がかかってしまうのと、多少魔物が現れるのでケニアさんの休憩が多くなってしまうのが難点だった。


「セシルちゃんってホントに強いな。アタイも結構やる方だと思ってたけど、なんか自信無くなってきちまうよ」

「戦うのだけは得意だからね! あ、それよりホラ!」

「ん? おぉ? ちっちゃいけど水晶だな!」

「目的地までもうちょっとだから、ケニアさんも頑張ろう!」


 ケニアさんを励ましつつ、少しずつ進んでいくとようやく目的の溶岩ドームへと辿り着いた。

 この中と下からはいくつもの宝石の反応があるけれど、ずっと下にはまだマグマが溜まっているのでガイアを使っての採集には注意が必要だ。

 それでもこっそり鉱脈を地面の下で移動させて地表近くまで持ってきておいたけど。


「とりあえず私はこの溶岩ドームを崩していくね」

「崩すって…結構デカいぞ? アタイの背の何倍もある」

「平気平気」


 地魔法で宝石が無いところだけ砂のように崩していき、鉱物操作で小さな結晶を集めて大きくする。

 ガイアを使えば簡単に済ませられるけれど、それだとやっぱりちょっと味気ない。

 ガラガラ、サラサラと崩れていく溶岩ドームの様子にケニアさんは放心していたけれど、ようやく自分が何をしに来たか思い出したのか早速崩れた流紋岩を手に取って確認し出した。


「早速あった! ガーネットだ!」


 ガーネットは流紋岩や安山岩などの火山岩によく含まれてるからかなり多く見つかるはずだ。

 私も目の前で小さなガーネットをたくさん集めて大きな結晶を作ってるしね。


「トパーズもあったぞ! こっちは…アクアマリンか?」


 流紋岩だけかと思ったけど、花崗岩も下から出て来ていたらしい。

 おや?


「ジオードかな? 中に宝石らしきものが……あ、瑪瑙だ!」

「どうしたセシルちゃん?」

「瑪瑙だよ。まだ割ってないけど、これも宝石なんだよ」

「へぇ? 見た目はただの岩にしか見えないのに?」

「帰ったら見せてあげるよ。これ一個だけとは思えないし、他にもあるかも?」


 あれもこれもと採集している内にどんどん私の鞄に宝石が入っていく。

 今はわかりやすい成果を見るために敢えて普通の鞄を使ってるけど、帰りはちゃんと腰ベルトへ収納するつもりだ。

 そしてしばらく二人して歓喜の絶叫を上げながら採集して、ケニアさんの鞄もだいぶいっぱいになってきたところで、やっと目当ての物が見つかった。


「あったーーーーー! ムーンストーンだ!」

「おおっ?! 見つかったかっ?!」


 私の手には拳大もある大きなムーンストーンの原石が乗っていた。

 カットされる前なのに、しっかりとシラー効果が確認出来る極上品である。

 虹色のシラー効果が出るムーンストーンではないけれど、しっかり慎重に処理すれば見る者を魅了する美女のような宝石になるのは間違いない。

 こんな宝石(ひと)と夜会で会ったら絶対フラフラと近寄っていっちゃうよね!

 万が一誘われたら断れる気がしないよ!

 ユーニャごめんね、私やっぱり宝石を誰よりも愛してるし宝石しか本気の愛を注げないみたい!

 はぁ…素敵だ…。

 月の光を浴びて逆光の中で冷たい目を向けてくる美女のよう。

 なのにその実、とても優しく柔らかく包み込んでくれる姉のような存在感。

 ムーンストーンって本当に不思議な宝石だよね。


「セ、セシルちゃん? また心の声が漏れてるぞ…?」

「へあっ?! …ご、ごめんね…つい。って、ケニアさんも涎垂れそうになってるよ!」

「ふぉっ?! いっ、いっけね! ジュルッ」


 二人揃って巨大なムーンストーンに完全に魅了されていたらしい。

 そして苦笑いした後、二人で爆笑し、もう一度採集へと戻っていった。

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >二人揃って巨大なムーンストーンに完全に魅了されていたらしい。  この二人を一緒の所で生活させちゃあいけねぇ……。  コイツらだけで世界が完結して、話もなにも進まなくなるぞ(驚愕)
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