第380話 神聖魔法(ミオラ&ノルファステータス)
私は屋敷の地下にあるダンジョンへ来ていた。
最近我が家の使用人達も上層階には来ているんだけど、最下層のダンジョンマスタールームまで来られるのは私とアイカ、クドー、ユーニャくらい。
でも今日はもう二人連れてきていた。
「セシル…、も、もう無理ぃぃぃ…」
「セシーリア様…、私に構わず先に…」
ミオラとノルファだ。
この融合ダンジョンの最下層である四十一から五十階層までは単独で討伐しようとしたらレベル二千は必要になる魔物が群れで現れる。
自然界では絶対に起こらないような群れ。
何せ一体だけでも脅威度S中位。時折脅威度S上位もおり、それは国が滅びかねないほどの強さを誇る魔物なのだから。
このダンジョンが連鎖襲撃を起こしたら世界が滅びるんじゃないかな?
「駄目だってば。五十階層のボスで終わりなんだからもうちょっと頑張って」
二人とも単独で三十階層までは辿り着くくらいの実力は付けてきたけれど、あくまで常識レベル。
最下層は正しく魔境。
常識レベル程度の実力じゃ瞬殺されちゃうからね。
さっきからへばったようなこと言いながらもちゃんと私に着いてきてるし、やっぱりこの二人の実力は我が家の騎士団の中でも頭一つ二つは抜けている。
「ねぇノルファ。セシルって強い強いとは思ってたけど、ここまで人間離れしてたなんて知らなかったわよね?」
「初めて会った時も同じ人間とは思えないほど理不尽な恐怖を覚えましたけど、これほどとは知りませんでした…」
ついでに二人とも仲が良い。ミオラは騎士団長でノルファが副団長なのだからそうあってもらわないと困るけど、よく二人で談笑してるのも見かけるくらい。
それなら、肩を貸しあって必死に食らいついてきてほしいね!
「二人とも行くよ!」
それから二人を連れてダンジョンボスまでやってくると、神の祝福をロック解除してからボスを倒した。
「なんだか…すごく、力が…」
「またセシルが何かやったのね?」
何をしたかまでは秘密だけどその通りだよ。
私は笑って誤魔化すことにした。
ちなみにここまで頑張ってきた二人のステータスはこんな。
ミオラ
年齢:26歳
種族:人間/女
LV:1,761
HP:180,020
MP:825,714
スキル
言語理解 6
気配察知 3
魔力感知 2
魔力循環 5
魔力操作 4
魔力自動回復 6
瞑想 4
威圧 6
算術 2
投擲 7
弓 5
片手剣 4
二剣術 2
短剣 4
小剣 MAX
格闘 3
魔闘術 5
人物鑑定 1
道具鑑定 1
スキル鑑定 1
野草知識 5
鉱物知識 4
道具知識 5
解体 3
統括 2
馬術 6
礼儀作法 5
宮廷作法 2
料理 2
ユニークスキル
炎魔法 1
地魔法 1
理力魔法 1
超槍技 2
魔人化 1
隠蔽 1
異常無効 2
タレント
剣士
騎士
槍士
狩人
突撃者
七転び八起き
蛮勇
残虐
憤怒
ノルファ
年齢:26歳
種族:人間/女
LV:1,696
HP:177,287
MP:810,532
スキル
言語理解 6
気配察知 8
魔力感知 6
火魔法 1
土魔法 2
威圧 4
算術 4
交渉 3
槍術 2
棒術 1
格闘 6
魔闘術 3
人物鑑定 1
道具鑑定 1
スキル鑑定 1
野草知識 3
鉱物知識 2
道具知識 5
解体 1
統括 4
馬術 6
礼儀作法 7
宮廷作法 1
裁縫 5
料理 3
弁明 2
ユニークスキル
氷魔法 2
天魔法 2
上級光魔法 1
理力魔法 1
魔法同時操作 1
魔力運用 1
魔力圧縮 1
詠唱破棄 1
精神再生 1
超剣技 2
異常無効 1
タレント
剣士
騎士
狩人
魔法使い
大商人
蛮勇
突撃者
残虐
憤怒
怨嗟
私からスキルオーブを渡したから普通の人に比べるとかなりスキルは多い。特にユニークスキルが多い。
元々の資質もあってか、二人ともかなり多才ではあるけれど、それでもミオラの方が純粋な戦闘能力は高い。
反面ノルファは魔法もいろいろ使える上に精度も高い。ただ残念ながら広く浅くになりがちなので器用貧乏な性質も持っている。
ただまぁ…この国にいる人間なら束になっても二人には敵わないことは間違いない。
比べる対象がいつも私やその仲間内ばかりなせいで、二人がなかなか自信を持てないでいるから、そのうち何とかしてあげたいと思う。
とりあえず当初の目的のうちの一つは達成したので、もう一つの方も片付けちゃおう。
「チーちゃん、レニちゃん、こんにちはー」
ボス部屋の奥に現れた通路から先へ進み、ダンジョンマスタールームへとやってきた。
二人は私の協力者で、最近になってようやくかなり仲良くなれたかなと思ってる。
ダンジョンマスタールームっていうけど、ここは普通の一戸建てにしか見えないけどね。入り口もガタガタって音がする古いガラスのはまった引き戸だし、ダンジョンマスターである二人は掘り炬燵に入っている。
もう古き良き日本家屋にしか見えないのよ。古民家でしょこれ。
ちなみに二人はこのダンジョンが出来た時はよくケンカしてたけど、ここ数ヶ月は仲良くしてる。
「セシーリアか。よく来たのだ」
「いらっしゃいセシーリア。今日は見ない顔がいるのね」
尊大な態度なのがチーちゃんこと、チーハエギニ。
大人の女性みたいなのがレニマジム。
二人とも完全にショタ、ロリにしか見えないけど、ダンジョンマスターだけあって私よりもずっと長生きだったりする。
「この二人は我が家の騎士団長と副団長だよ。ミオラとノルファっていうの。今後は三十一階層以降も来られるようになると思うよ」
「ほう? 今まではセシーリアとその仲間だけだったが、今後は期待出来るのだな?」
「お二人とも、よろしくお願いしますわ。それより騎士団を作ったの?」
「あー…、あれからいろいろあってね…」
私は二人が入ってる炬燵に何の躊躇もなく入ると、天板に乗っていたミカンに手を伸ばした。
そんな私の行動をポカンとした顔で見ていたミオラとノルファは炬燵には入らず私の後ろに座った。
まあ無理強いするものじゃないしね。
「今日も随分稼がせてもらったのだ。我らに出来ることなら遠慮なく言うがいいぞ!」
「セシーリアには感謝しています。ダン連協からランキング除外通知は来てしまいましたが、私達が消えずに生きていけるのは貴女のおかげよ」
「はは、じゃあ頼み事もしやすいかもね」
ダン連協とは『ダンジョンマスター連合協同組合』のことで、世界中にあるダンジョンとそのダンジョンマスターが加入している組合だ。
各ダンジョンのランキングだったり、日記のようなブログや研究報告、新しく発見した要素の発表などその業務は多岐に渡っている。
どこが管理しているのか知らないけど、ダンジョンマスター達をやる気にさせる良いシステムだと思う。
ちなみに私がよく遊びに行く王都管理ダンジョンのユアちゃんはランキング二位と三位を行ったり来たりしているらしい。
一位は帝国にあるダンジョンで、他のベストテン入りはこの大陸以外のダンジョンなんだって。
「セシーリアの頼み事とは、なんですか?」
「うむ、早く言うが良いぞ!」
二人は私から頼み事をされるのが嬉しいみたいだ。
死にかけのところを助けてあげたから恩を感じてくれているのだろうけど、外見が幼いこの二人から頼られるのは悪い気がしない。
「回復魔法の魔導書がほしいの」
「回復魔法? セシーリアは十分使えるではないか」
「普通の回復魔法ではない、ということ?」
レニちゃんの質問に私は首を縦に振る。
「確かに死んでなければ傷を治すことは出来るけど、腕や足が無くなったとか病気には対処出来ないから。それに死んだ…」
「死者蘇生は駄目だぞ。それは世界の管理から大きく外れてしまう」
「そうですわ。もし仮にそんな力を持ったらセシーリアから『管理者の資格』が剥奪、最悪『神の祝福』さえ剥奪される恐れすらありますもの」
管理者の資格も神の祝福も今は無くなったらちょっと困るかも…。
それに死者蘇生ではなく、私の眷属として生き長らえさせる方法はあるのだし、どうしても必要ないなわけでもないかな?
「じゃあ回復魔法の方は?」
「そっちは問題ないぞ! しかし本来強い信仰心を持つ者に与える魔法であるから、セシーリアが使えるかはわからないがな!」
「何か、強い拘りや信じていることがあれば良いのよ。セシーリアが見たことのない神様を信じろってことではないから」
…強い信仰心っていうと、神聖国の人なら使えるのかな?
でもそんな話ほとんど聞いたことがない。
せいぜい、神聖国の司教に腕を再生してもらったとか、医者が匙を投げた病気が治ったとかって噂を聞いたくらいだ。
それも馬鹿みたいなお布施を払ってね。
「セシルなら宝石には強い拘りがあるじゃない? それじゃ駄目なのかしら?」
「確かに。セシーリア様の宝石に対する思いは並々ならぬものがあります。それこそ信仰や愛とでも言うべきものかと」
今まで会話に入ってきていなかったミオラとノルファがうんうんと頷きながら呟いていた。
「いや…まぁ、そりゃ宝石は嘘付かないし綺麗だし大好きだし愛してるよ? 寧ろ私の本当の恋人は宝石だし? 今までいろんな宝石を手に入れるために散々苦労してきたし、これからもするつもりだけど。それが本当に信仰になると…」
「十分過ぎるほど強い拘りがあるのはわかったぞ?!」
「セシーリアは本当にちょっと変わった子なのね」
なんかチーちゃんとレニちゃんにまで強く頷かれてしまった。
「もうっ、私のことはいいからっ! 魔導書はあるんだよねっ?!」
「うむ、あるぞ。…ほれ、これが『神聖魔法大全』だぞ!」
チーちゃんは炬燵の中を何やらゴソゴソと漁ると一冊の本を取り出して渡してくれた。
渡された魔導書はやたらゴテゴテと装飾が施された無駄に煌びやかな本。
私も宝石は好きだけど、こんな風に原石のまま本の表紙に貼り付けようとは思わない。
さすがにちょっとセンスが無さ過ぎると思う。
「これ、誰が作ったの…」
「神聖国で昔から禁書とされている魔導書ね。そもそも初代教皇がこの本から得た神聖魔法を使って様々な『奇跡』を起こしたことが、聖イルミナ教の興りといわれているのよ」
聖イルミナ教。
アルマリノ王国では一般的に「教会」としか言われていないけど、神聖国ではそう呼ばれている。ちなみに神聖国も正しくは神聖イルミナス教国と言う。
そう呼ぶのは神聖国でも上層部くらいなもので、末端の信者だってそんな名前で呼ばない。
「とりあえずそれがあれば私の回復魔法と汚染されたダンジョンの浄化とか魔人薬を使った人の浄化も強くなりそうだね」
私は二人から魔導書を受け取ると早速新奇魔法の改良を始めた。
今日もありがとうございました。




