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第379話 カイザックと再会

 ひとまずコルは五日くらい屋敷に滞在した後、男色イケメン執事クロウを連れて貴族院へと復帰していった。

 休んだのは年が明けてから一カ月と少しくらいだし、彼の知識は既に貴族院で学ぶべきものを蓄え終わっている。

 実に無駄だと言っていたけど、人脈作りや今後の付き合い方、派閥など貴族院にいないと出来ないことは多い。

 コルがこれからデルポイもランディルナ至宝伯家も継ぐならば絶対必要になってくるはずだ。

 ちなみにカンファとも顔合わせを済ませた。


「セシルの養子だろうと、従業員として入社するなら私は甘く出来ないけどいいのかい?」

「望むところ。カンファ社長も私が元王族だろうが義母上の息子だろうと遠慮はしないでいただきたい」

「なるほど…。将来、私の座は彼の物になりそうだ」


 嬉しそうに笑うカンファには顧問兼相談役としての席を用意すると私とコルの二人で、その場において書面化した。

 実際、カンファには社長として表舞台に立って活動してもらうよりも裏の世界でいろいろ動いてもらったほうが何かと都合が良いことも多い。

 彼の姉であるベルーゼの仕事は増えそうだけどね。

 早めにそっちも何かしらの組織を作り始めた方が良いかもしれない。

 まぁアウトロー的な仕事はミックと相談しながら進めることにしよう。

 あれ? 私の仕事が減るはずだったのに新しく増えてるのはなんでだろう?

 そして休日。

 コルはクロウと共に屋敷に戻ってきた。


「おかえりコル」

「義母上、ただいま戻りました。クロウ、荷物を置いたらすぐに仕事に行く。悪いがお前も休めないと思っていてくれ」

「承知致しております」


 コルは私に丁寧なお辞儀をした後、すぐに部屋で着がえるとさっさとデルポイへと出社していった。

 私はポカンとしながらそれを見送ったのだけど、ちょうど入れ替わりでミルルが屋敷へやってきた。無論フィリライズ…男の姿に変身している。今日はベルギリウス公爵とランディルナ至宝伯のお茶会なのだ。


「ようこそベルギリウス公爵。少し慌ただしくて申し訳ない」

「こちらこそ少し早く着いてしまい悪かった。さっきの彼はコルチボイス第五王子かい?」

「えぇ。今は私が養子として引き取り、つい先程貴族院から戻ったというのにさっさと仕事に行きましたよ」

「そうか。そのあたりの積もる話もしよう」

「そうですね。では御案内しましょう」


 私が自らホストを務め、ミルルをお茶会が開かれる客間へと案内する。

 今日連れてきている従者は最近雇った者で、ミルルが強く指示すると大体従うようだ。


「ゲブン、私はランディルナ至宝伯と二人で話がある。お前は別室で待たせてもらえ」


 これだけで済む。

 私だったら必ず誰か着いてきちゃうんだよね…特にノルファが護衛に就くとトイレさえドアの前で待つほどだから異常だとおもうよ?

 私はミルルと一緒に一番内装が豪華な客間へと入った。

 シャルラーン様が来られた時にも何度か案内したことがあるけれど、基本的に彼女は庭のガゼボでのお茶会を望むのでほとんど使われたことはない。

 お祖父様…イーキッシュ公爵でも来たら案内するだろうけどね。


「どうぞ。……部屋に遮音結界(エリアミュート)がかかってるから、もう普通に話して大丈夫だよ。誰も入らないようにしてあるから」

「ふぅ…ありがとう、セシル。ずっと男の話し方は疲れますの」


 ミルルはすぐに変身を解くと、肩をコキコキと鳴らしながらソファーへと腰掛けた。

 私はステラを呼んでお茶を淹れてもらうと、ミルルの前の席に座った。


「それで、話って?」


 今日のお茶会はミルルからの提案によって開かれたものだ。私の方からも話があったのでちょうど良いタイミングだったけれど、まずは彼女の話を聞いておこう。


「えぇ、お父様へ私のことを話しましたわ。とても驚きになられましたけれど、少なくとも生きる気力は戻って参りましたので、そのご報告に」

「そっか。ベルギリウス前公爵も元気になったんならいいよ」


 私を無理矢理貴族にしたのもあの人みたいなものだから、恨みがないわけじゃないけどそれほど怒ってるわけでもなし。ミルルが喜ぶなら良いことをした。


「じゃあ今日はその報告だけ?」

「私からはそれだけですわ。あとは、『ご主人様』にお会いしたかったくらいでしょうか」

「そ、そうなんだ」


 ミルルは頬に手を当てながら少し照れていた。

 照れるくらいなら『ご主人様』なんて言わなきゃいいのに…。私も恥ずかしくなって顔が熱い。


「じゃ、じゃあ私の方からも一つ話があるんだけどいい?」

「えぇ、セシルの言うことならなんでも致しますわ。脱ぎましょうか?」

「まだ昼だよ! っていうか私が同性愛者っていう噂がすっかり広まってるのってミルルのせいでしょ?!」

「あら、バレましたの?」


 確信犯め…。

 おかげで下級貴族から娘を行儀見習いに、なんて話がひっきりなしに来るようになった。

 変に息子を婿にって言われないだけマシだけど、余計なトラブルの種を抱え込みたくはない。


「では、セシルの用件をお伺い致しますわ」

「…なんか前よりかなり性格悪くなったんじゃない?」

「うふふ、それは公爵家の令嬢たらしめんと思う余計な重圧から解放していただいたからでしょうね」


 素直に話しているのか、うまくはぐらかされているのか、ミルルの常に微笑んだ表情からは読み取れない。

 これ以上話しても私がそれを見抜くことなんてないし、とっとと本題に入った方がよほど建設的というものだろう。


「ミルルが姿を変えてベルギリウス公爵になったとはいえ、まだ元の公爵家の威光を取り戻すまでには至ってないよね」

「…承知しておりますわ。長年積み上げてきたものが崩れさるのは一瞬。されどもう一度積み上げるのは最初の石すらままならないものですもの」

「それがわかってるのはさすがだと思うけどね。とりあえずまずは公爵家のために忠誠を誓って働いてくれる人を雇い入れなきゃね。さっきの従者も、とりあえずお金で雇った人だったみたいだし?」

「ベルギリウス家に忠誠を誓ってくれる者を得るためにも、まずは信用。しかしその信用を得るために先立つものがお金以上にないのですわ」

「知ってる。だから、これはお願いというか取引だね」


 私は自分の眷属達に感覚共有で声を届けるとすぐに部屋に入ってきてくれた。


ガチャ


 突然開いたドアに驚き警戒するミルル。しかし入ってきた者達を見てすぐに体に力を抜いた。


「感覚で解るだろうけど、彼らはミルルと同じ()()だよ。ミルルに彼らを貸してあげる」

「それはありがたいのですけど…何をすればよろしくて?」


 さすがに察しがいい。


「そんな難しいことじゃないよ。今後貴族や王族の間で起こりそうな不祥事を事前に教えてほしいだけ。私が私のやりたいことを、余計な雑事のせいで出来なくなるようなことがないように」


 ここに来てもらったのは特に暗殺や情報収集に長けた者ばかり。私のスキルも覚えてかなり使えるようになってると思う。残念ながら私じゃ彼らのより良い運用を思いつかないから、こういうことが得意な身内に任させられると安心だ。


「それと、もう一つ。まぁ今更って感じがしないわけでもないけど」


ガチャ


 ドアを開けて一人の男がフラフラしながら部屋に入ってきた。


「うそ…。カイザック…?」


 カイザックにかつて綺麗な騎士然とした姿はなく、だらしなく伸ばされた汚れた金髪に、手入れのされていない無精髭、暗い感情に飲み込まれた濁った瞳…どれもが堕ちるところまで堕ちた者の風貌を物語るものだった。


「マズの路地裏にいたところを見つけて連れてきてくれたの。ただ、ね」

「ただ?」


 ミルルの問い掛けに私は答えることなくカイザックに近付いていく。


「カイザック、聞こえてると思うけど今貴方の前にミルルがいるよ」

「お、嬢様…が…? …ううぅぅっ、うああああぁぁぁぁっ!」

「カイザック?!」


 ミルルは慌てて立ち上がるとカイザックに近寄ってその手を握った。

 しかし同時にミルルの表情にも驚愕の色が浮かぶ。


「カイザック……貴方、手が…」


 カイザックの指は、両手合わせて五本しか残っていなかった。


「それに片足もうまく動かせなくなってる。…今までミルルの前に出てこられなかった理由とか、姿を見かけなかった理由、話そうか?」

「どういう、こと、ですの…?」

「それは…」

「やめろっ!」


 私が話し始めようとしたところへ、カイザックは大声を出して止めた。

 その目には強い恨みの色が籠もっていて、私に対しても怒りを露わにしていた。


「…私は話さなくてもいいと思ってるけど…ミルルは聞きたいんじゃない?」

「わた、しは…」


 床に座ったままでは話しにくいと思い、彼に肩を貸しながらソファーへ座らせるとミルルも彼の隣へ腰を下ろした。

 そして、とつとつと話し始めた。


「お嬢様とディルグレイル殿下が正式に婚約された日の夜、私は殿下に呼び出されました。『今後は自分と配下の者が護衛につくから、解雇する。これはミルリファーナとも話し合った正式な決定である』と」

「なっ?! なんですかそれはっ! 私初めて聞きましたわっ!」

「…今となっては、それが嘘だったことなど明白です。しかし当時の私は食い下がりました。お嬢様に確認させてほしい、と。ですが、私は彼等に連れ去られました。それから拷問にも等しいほどの暴行を受け、剣が持てぬよう指を……斬り落とされ、足も粉々に、くだ、かれ…」


 そこでカイザックの声が嗚咽に飲み込まれて続かなくなった。


「私さ、カイザックにこのことを聞いて…あの馬鹿をもっと惨たらしく殺すんだったと後悔したよ」

「…あの男…、本当に私の何もかもを滅茶苦茶に…」


 既に私が処刑している以上、カイザックの恨みを晴らす方法はない。

 でも、これほど死んでくれて良かったと心から思えたのは初めてかもしれない。


「それで、ミルル。カイザックをもう一度雇う気は、ある? 間違いなく、貴女自身に命まで掛けてくれる人だと思うよ」

「待てセシル! 私はっ、もうっ…戦えないのだぞっ?! 私の騎士としての誇りをっ、お前まで踏みにじるつもりかっ!」

「確かに今のカイザックでは戦うことは出来ないね。座学の成績も平凡だったから文官にもなれない」


 カイザックがギリッと強く拳を握り込んだ。

 貴方に怒鳴られようが恨まれようが、私には関係ないし害されるとも思ってないけど、五年間一緒に過ごしてきた仲間だとは思ってる。私の親友を守って戦ってくれるのは貴方しかいないとも。


「その身体、治してあげるよ」

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「私さ、カイザックにこのことを聞いて…あの馬鹿をもっと惨たらしく○すんだったと後悔したよ」  もっとってなると、何度も首を刎ねられた直後に治されたりとか、そんな体験を繰り返させる位しか無…
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