第378話 コルチボイスのやりたいこと(コルチボイス初期ステータス)
改めて私達三人のステータスを確認したところで、残ったコルのステータスへと目を向けた。
コルチボイス・ランディルナ
年齢:11歳
種族:人間/男
LV:11
HP:51
MP:188
スキル
言語理解 MAX
魔力感知 2
魔力循環 3
魔力操作 2
魔力自動回復 1
熱魔法 2
湿魔法 4
空魔法 1
石魔法 2
光魔法 1
闇魔法 1
身体操作 1
威圧 1
投擲 1
片手剣 1
格闘 1
算術 MAX
交渉 6
統括 7
人物鑑定 MAX
スキル鑑定 MAX
統治 8
馬術 1
礼儀作法 8
宮廷作法 9
詐術 2
弁明 3
ユニークスキル
凝縮思考 3
脅迫 4
戦術 4
隠蔽 1
コイントス 8
レジェンドスキル
ダウジング 6
神の祝福
賢王の杖
タレント
転移者
転生者
TS転生者
魔法使い
領主
大商人
詐欺師
ギャンブラー
おー、いえー。
「私も人のこと言えないけど、転生者とか神の祝福持ってる人ってさ、まずどこから突っ込んだいいのかわからないよね」
「せやな。けどセシルん時ほどやないなぁ」
一言で言うなら、この子すっごく頭良い。
なのに、賭事が大好き?
地頭が良くて、テストはヤマを張ると大体当たるとか、そういうタイプかな。
それと人の上に立てるタイプだね。
なんというか、跡継ぎにこれほどの適任者はいないんじゃないかって思うほどに。
あんまり家の方針をギャンブルで決めたりとかはしてほしくないけど。
「ちゅーか…なんやねんTS転生て。ウチそんなん初めて見たわ」
「私よくわかんないんだけど、その『TS転生』ってなんなの?」
私が読んでいた異世界転生モノの本にはそんなの出てこなかったと思うし、頭文字だけじゃ想像もつかない。
クドーに至っては既に目を閉じて会話が終わるのを待ってるくらいだ。
「TSっちゅうのはトランスセクシャルの略やな。性転換言うたらわかるんちゃうか?」
「あぁなるほど……って、ええぇぇぇっ?!」
私はアイカの言葉を聞いて驚きのあまり手を離してコルの肩を掴んだ。
「コ、コル? 貴方…女だったの?」
「…あは。実は…そうだったりするんですよね」
私はステータスの中身よりも、まずそのことに驚いてしまっていた。
「落ち着いたか?」
「…ありがと、クドー」
私はクドーに貰ったお酒を煽って気分を落ち着かせていた。
どうせ酔わないんだし、強いお酒をたまに飲むくらいバチは当たらない。
ちなみに当のコルはアイカと何やら話が盛り上がっていた。
なんとかというアニメキャラは受けだとか攻めだとか。
私には踏み込めない世界だ。
「それであいつは俺の手をやたら執拗に握り返していたのか」
「そんなことまでしてたんだ」
「どうでもいいことだがな。しかし性別の件は跡継ぎ問題として厄介なことになるんじゃないか?」
そう、なんだよねぇ。
コルには貴族家としてのランディルナ家を継いでってもらいたいから、普通にお嫁さん貰って結婚して子どもを作ってほしい。
ところが、元女となると恋愛対象が男の可能性もあるわけで? 跡継ぎ作ることが出来ないかもしれない。
私は私でそこらの男から種を貰ったくらいじゃ妊娠しないし、今のところパートナーであるユーニャと離れたくない。ついでに言うと恋愛対象は生き物ですらないから、とことん自然の摂理に背く女だったりする。
「はぁ、困ったね」
「セシルさん、どうしたの?」
私が溜め息を吐いていると、心配したのかコルが近くに寄ってきた。
ついでだから前世のことも聞いてみようかな?
「ねぇ、コルは前世で何歳まで生きたの?」
捻った話なんて私には向かないから、ストレートに聞いてみる。
「え、それ聞くんですか?」
「え、うん? 話して困るようなら無理には聞かないけど」
「…まぁ別にいいです。私は四十八歳まで元の世界で生きてました。死因は溺死ですね」
「溺死?」
「はい。私会社をやってたんですけど、求めるところが高すぎて、方々で恨みを買ってたようです。それで足に重りをつけて…」
「ストーーーーーップッ! も、もういいよ! そこまで聞いてないから!」
うっかり聞き返した私も悪いけど、何の抵抗もなく前世の死に方まで話すコルが怖い。しかも悲しそうな顔するならまだしもニコニコ笑いながらだよ?
「そんなわけで、まだまだ会社はこれからって時に死んでしまったので神様がこの世界に連れてきてくれたというわけです。セシルさんは?」
「私? 私は小さな会社の事務員だったよ。短大出て、就職してすぐの時に遊びにきた園の子と遊んでて…」
「園?」
「あぁ…私施設育ちだから。その園の子と帰る途中に通り魔に襲われて…」
そういえば和美ちゃんは元気でやってるかなぁ?
こっちの世界に来て十八年、思い出すことも随分なくなってきちゃったな。
「それで神様に連れてきてもらったんですか」
「…ううん。私は神様には会ってない、と思う」
「あれ? そうなんですか?」
「うん。メル」
呼び出すとすぐにぽんっと音がしていつもの顔文字が現れた。
「なんなのだ」
「うわっ?! なんですかそれ?!」
「『それ』とは失礼なのだ!」
コルは突然現れたメルを見て驚いたようだ。
突然空中に顔文字が現れたら驚くのも無理はないよね。
「驚かせてごめんね。これは私のスキルの一種なんだよ」
「セシルさんのスキルって…あぁ、偽装用のステータスなんかとは比較にならないくらい強かったですしね…」
「そうだねぇ…軽く百倍は強いかも?」
笑いながらそんな話をしていたけれど、突然呼び出されたメルから抗議の声が上がった。
「笑ってないでわっちを呼び出した理由を話すのだ!」
「そうだった。メル、私ってこの世界に来た時に神様に会ったの?」
「神? そんなものになど会ってないのだ。わっちやセシルとは管轄が違うのだ。奴等の仕事は運営で、わっちやセシルの仕事は管理なのだ」
やっぱり私は神様には会ってないらしい。
でもアイカやクドーも神様には会ったって言ってたよね。
「尚更わからなくなったよ」
「管理者になれば自然と理解するのだ。セシルは前に話した通り、転生ポイントを貯めるのと管理者代理代行を探すのだ!」
それだけ言うとメルはまたぽんっと音を立てて消えてしまった。
まぁメルのことはどうでもいいからそれよりもコルのことだ。
「ってことで、やっぱり神様とは会ってないんだって」
「…セシルさんって規格外なんですね…」
理不尽って言葉には慣れてきたけど、規格外かぁ。
似たようなものだけど、気にしないようにしなきゃ。
「それはそうと、なんで『セシルさん』なんや? 前世含めたら自分の方が年上やんか?」
私達の話を横で聞いていたアイカがコルに質問してきた。
確かに私も少し気になっていたところだ。
「いえ、なんとなく逆らったらいけないタイプの人だなと思って」
「まぁ間違いやあらへんなぁ…セシルがその気になったら、この国なんてカップラーメンの時間で更地や」
「ちょっと?!」
「出来るやろ?」
「…出来る、と思うけど…いや言い方!」
頷くコルもクドーもどうかと思うよ?
しないよ!
「まぁ冗談はさて置きや。ウチらは同じ転生した仲間や。変に気ぃ使うた話し方されるのも嫌やし、もっと気楽に、ほんでやりたいことやりたいようにやろうやないか」
「やりたいこと、やりたいように?」
「せや。コルかて、前の人生でやりたかったこととか、やり残したことあるんやないか?」
「やりたいこと…」
アイカの言葉に、コルは顎に指を当てて考え始めた。
本人は気にしてないかもしれないけど、この仕草って王子兄弟共通の癖だよね。
私達は彼が考えてる間、特に何か口にすることはなかった。
アイカはグラスを持ってお酒を飲んでいるし、クドーは刀を取り出して手入れをしていた。
かく言う私もアクアマリンの拳ほどもある原石を取り出して不純物、クラックの除去をしてはじっくり見入っていた。
「私は」
どのくらいそうしていたか、コルが声を出したことで三人とも手を止めて顔を上げた。
「私はやはり会社を経営したいのだと思います。仕事に追われていた人生でしたが、私が一番楽しいと思い充実していた時間だったと言い切れます。忙しくしているほどに、楽しかったと」
さすが私達の中でも前世で年上で現代に生きていた人なだけはある。
しかも女性社長でかなり成功していたみたいだしね。
クドーもかなり前世で長生きしたみたいだけど、年代が違うし半分くらい世捨て人みたいな生活してたっぽいしね。
「それなら、本当にちょうどいいかもね」
私には彼にぴったりの持ち物がある。
しかも自分の手にはかなり余ってしまっているものが。
「ちょうどいい、とは?」
「コルは名実ともに、私の後を継いでほしい。この貴族家も、会社もね」
「そういえばランディルナ至宝伯家は総合商社デルポイを立ち上げたばかりでしたね」
「コルには役員として入ってもらって…」
「いえ、それは駄目です」
私がオーナー権限でコルを役員待遇で招こうとしたところ、彼から反対されてしまった。
「それならば、きちんと実力を示して上に上がります。そうでなければ従業員に示しもつかないでしょう」
「…さすが元社長なだけはあるけど…本当にいいの? それに元王子なんだよ?」
「だからこそです。元王子の肩書きだけで役員に就任したなど言われたくありませんね。そのせいで辛い思いをするのだとしても、受け入れてこそ上に立つ者として認められるはずです。家のことも勿論セシルさんのお手伝いからさせていただきます」
どうやら彼の中での結論は出てるみたいだし、私から何を言っても聞いてくれないだろうね。
「大丈夫です。平日は貴族院へ行き、土日のみデルポイへ行くことになりますが、成人するまでに結果を出してみせます」
「はは…私がもう何を言っても無駄でしょ。じゃあコルが二十歳になるまでの九年。私は貴方にランディルナ至宝伯家の当主の座とデルポイの社長の座を渡すから、どちらも両立させられるか示してみて」
「セシルさん? そういう時、息子にはこう言うんですよ? 『それまでに結果を出して堂々と引き継いでみせろ』、とね」
コルは今まで見たことがないくらい獰猛で、それでいて自信に溢れた顔をしていた。
どうやら私の息子は、物凄い仕事人間で、それが堪らなく楽しいと思える人だったようだ。
今日もありがとうございました。




