第376話 死刑執行
「親愛なる王国の民達よ! 先の動乱を忘れてはいまい! この者がっ、我が弟にして王国第二王子たるディルグレイルがっ! その首謀者だ!」
王宮前の庭園、というか今は破壊され尽くしてただの広場になっている場所に三階建ての建物と同じくらいの高さの演説台が作られていた。
その演説台で拡声器型魔道具を持って話しているのはアルフォンス殿下だ。
彼は広場に集まった王国の民衆の前でディルグレイルの罪状を読み上げている。
クアバーデス侯爵領で起きた連鎖襲撃。
新年の夜に謀反を企て王宮へ攻め入ろうとした。
同時にイーキッシュ公爵領での連鎖襲撃未遂。
そして先日黒い巨人となって王都にいる何の罪もない人々を数多く殺めたこと。
どれも最大の罪であり、その刑罰は死刑以外あり得ない。
オードロードもスパンツィル元侯爵もその婦人もニーレンヨード元侯爵も罪状に差はあれど、刑罰は全て死刑だ。
彼らのうち、オードロードだけはディルグレイルとともに演説しているアルフォンス殿下の後ろに鉄で出来た柱に拘束されていて、何やら口走ろうとしているけれど猿轡を嚙まされているので呻き声しか上げられない。
他の人は既に別の処刑人によって刑が執行されているため、演説台の下にある台にその首が晒されている。
「全く…何が心を入れ替えただよ…」
先日の陛下との話し合いの後、アイカを連れて彼らを訪ねてみれば嘘も嘘。
ひとまず心を入れ替えたようにして、いずれまた力を取り戻そうと画策していた。
確かに陛下は少し甘いところがあるから、そういう風に見せれば何とか命を繋ぐことが出来たかもしれないからね。
昔の私も似たようなものだったから、陛下のことを悪く言うつもりはない。
でもまぁ、ディルグレイルに関してだけは絶対に許せない。
「王都の民達よ。我が王国は諸君らの無念を、残された遺族の不安を、決して蔑ろにはしない。それは先だって通達した通りだ!」
そうそう。被害にあった人の治療は全て国が主体となって行っているので、怪我人なんかはもういない。
家族を亡くしてしまった人達に対しても十分な見舞金が支払われることになっているし、今後の仕事に不安があるなら優先的に斡旋することになっている。
その中には私がオーナーである総合商社デルポイも含まれていて、最低でも百人は雇い入れられるよう手配してある。
デルポイは常に人手不足だからね。
お店でも工房でも倉庫でも、従業員はいくらいても問題ない。
「そして王国はっ! 血の繋がった兄弟であろうと、罪無き民達に危害を加えた者を決して許しはしないっ! ディルグレイル、オードロードよ。民達の怒りをその身に受けよ! 執行人は本日侯爵へと陞爵したセシーリア・ランディルナ至宝伯にやってもらう!」
アルフォンス殿下に指名されて演説台へと上がっていく。
ついさっき陞爵の儀式を終えたところなので貴族服のままであり、冬の太陽に照らされて服だけでなく身体中に身に着けた装飾品の数々も歓喜しているかのように煌めいている。
打ち合わせではこのまますぐに死刑執行しようと話していたけれど、私からも何か言えとアルフォンス殿下からの圧力がすごい。
目の前には十万以上もの王都の民が集まっている。
アルフォンス殿下が私に拡声器型魔道具を渡そうとしていたけれど、それを制して胸につけたブローチへと手を添えた。
「王都の民達よ。セシーリア・ランディルナ至宝伯だ。私の声が聞こえているか」
声を張り上げず、ただ淡々と言葉を吐き出した。
普通ならすぐ近くにいる人に話すくらいの声量だけど、空間魔法を使ってほぼ王都全域に私の声を届けている。
民衆がザワザワと近くの人達と話しているけれど、戸惑うのも無理はないね。
「私が元平民の成り上がり貴族であることを知っている者も多いと思う。三年前、クアバーデス侯爵領で起きた連鎖襲撃。あの時に壊滅した村が私の故郷だった。両親は魔物に引き裂かれ、幼なじみの友人はお腹にいた赤子を生きたまま食われた。ただ平和に、平穏に生きていたかっただけなのに、ある日突然終わってしまった」
静かに語る私の言葉を、民衆も静かになって聞いてくれている。
「それがただの災害なら、私も諦めがついた。だが、それを引き起こしたのは後ろにいる彼等だ。我欲のために罪無き者を殺め、それを当然と言い切る彼等のために私は故郷と両親、友を無くした」
私の頬に流れる涙はない。
そんなものは無くしてしまった。
「私はまだ生きている。だが、ある日突然命を奪われた者達の、残された者達の怒りは、悲しみは無くならない。王都の民達よ、そんな理不尽を押し付けられていいのか」
この世界は理不尽だらけだから。
でも。
「私は嫌だ! 世界が理不尽を押し付けようとしてくるなら、私はそれを否定する。それ以上の理不尽で叩き潰す!」
どれだけ私のことをみんなが理不尽だと呼んでも。
私は私が、私の仲間達が幸せで、前の人生で叶えられなかった願いを叶えるために、出来得る最大の努力は続けていきたい。
「みんなが幸せになれる道は、陛下や殿下にお願いする。私も微力ながらその力になる。その代わり、私は私と私の周りにいる人達を幸せにしたい。平和に、平穏に暮らすために」
何よりも宝石に囲まれてキラキラな生活を送りたいから。
「まずは、その一歩。ここから始めよう。…これより、公開処刑を執り行う!」
剣帯に佩いた儀式用のサーベルを抜き放ち宣言すると、一拍遅れて民衆から盛大な歓声が上がった。
公開処刑は滞りなく進行し、ディルグレイルもオードロードもみっともなく命乞いしながら絶望のままゆっくりと首をはねられた。
空間魔法によって血が噴き出ることを抑え、最期の瞬間まで息もしていたが、首が落ちると同時に盛大に噴き出した真っ赤な血に民衆は大いに歓喜した。
まるでショーをしているような気分だったけど、とにかくこれで一つ終わってくれた。
「ご苦労様だった、セシーリア」
「私の我が儘を受け入れて下さったことに感謝致します」
今は死刑執行が終わり、王宮の応接室にて陛下とアルフォンス殿下、レンブラント殿下と休憩中だ。
シャルラーン様は気分が悪いということで自室に戻られている。
さすがに目の前で息子が処刑される様を見たのだから仕方無いよね。
私と仲良くしてもらっていたけれど、今回の件で今後はどうなるかわからない。
「しかし、ディルグレイルの謀反を解決した件と今回魔人薬を使った件を合わせるとどれだけセシーリアに褒賞を渡せば良いかわからんな」
「いっそレンブラントと婚姻せぬか? レンブラントは婚約者がおらんぞ?」
「ち、父上?!」
突然話を振られたレンブラント殿下が慌てている。
けど…一番面倒臭い褒賞を提示してきたなぁ…。
何のためにコルチボイスを養子に迎えることにしたのかわからなくなるよ。
「ふふ…冗談だ。そこまで顔を顰めなくてもよかろう」
「…申し訳ありません」
とりあえず頭を下げたけれど、私以上にレンブラント殿下の方がほっとしていた。
私だって年頃の淑女なんだから、さすがにちょっと失礼じゃない?
「だがレンブラントの件はともかく、何かしら褒賞を用意せねばならんのは事実だ」
確かにあれだけの被害を出した事件を解決したのに何の褒賞も無しとあれば、民や貴族達から褒賞をケチる王家だと言われてしまう。
けれど私も欲しいと思うものが特にない。
前回の褒賞だけでも過分なくらいなのだから。
「では、至宝伯の権限をもう少し強くさせていただくのはどうでしょう」
「権限?」
「はい。一つ、未発見の鉱山を自ら発見した場合は領主の採掘権よりも優先される。二つ、粗悪な宝石を取り扱う店舗を取り締まる権限。三つ、修道院送りにした貴族の子息達が更生した後、彼等を引き取らせていただきウチの商会で雇いたい。それと最後に…ローヤヨック伯爵を侯爵へと陞爵させていただきたい」
私が提案するとまずはレンブラント殿下が「ふむ」と頷いた。陛下とアルフォンス殿下はそのレンブラント殿下に目をやる。
「どうだレンブラント」
「そうですね…鉱山の採掘権は最初の一年とさせてもらえないか。王国の資金源となりうるだろう。粗悪な宝石店の取り締まり権は問題ないが、あまり過度にすると他の貴族が絡む店では余計な軋轢を生むので匙加減を誤らないように。貴族の子息達の件は構わないが…更生されるのはいつになるかわからないので、正確に『いつ』と約束出来ないぞ? ローヤヨック伯の件は、かの領地から王家へと一定数の宝石、または装飾品を献上した後ならば。というのはどうだ?」
さすがレンブラント殿下。
かなりうまい落とし所にしてくれた。
正直、どれも私にはそれほどうまみはない。単純に困ってる陛下のために無理矢理「このくらいのことが出来たらいいな」という内容を伝えただけだから。
「それで結構です。貴族の子息達は…そうですね、三年後で良いと思います。更生してなければ、引き続き我が家で地獄を見せてやります」
「…だが、本来は反逆罪を犯した集団。それを貴族家に戻すのは…」
「彼等の行き先は、我が家の風俗部門です。男性向けの、格安の、以前の肩書きをつけたまま接客してもらいますとも」
「……悪魔か、お前は…」
レンブラント殿下がドン引きしてる。
いいじゃん。
国家反逆罪だよ?
死刑にしないなら、生き恥を晒し続けてもらわないと。
平民の皆さんから安いお金でしっかり掘られ続けてもらわないと。
「よ、よし。ではレンブラントよ。急ぎ書類の作成をせよ」
「承知しました、父上」
ふふっ、引き取った貴族の子息達はアネットの風俗部門で大活躍してくれるだろうね!
アイカにお願いしてちょっとした洗脳状態にしてもらえば完璧だもん。
願わくば、我が家に迎えるまでにしっかり調教されてるといいのだけど。
売れなくなったら、ウチの使用人達の訓練相手にすればいつまでも使い道はあるし、使い捨て出来る命っていいね!
しかし、やれやれ…ようやく面倒くさい褒賞の話が終わってくれた。
コッソリ一息ついたつもりだったけど、その様子をアルフォンス殿下にバッチリ見られていて苦笑いされてしまった。
「さて、次だが…あれを」
陛下がアルフォンス殿下に指示して出させたのは私のコルチボイス引き取りに関する書類だった。
「今日からコルチボイスをセシーリアの養子とする。話自体はまとまっていたからこれは最終確認だ。受け入れ準備は出来ているか?」
「はい。屋敷には既にコルチボイスの部屋を作ってあります。いつでも迎え入れることが出来ます」
「よろしい。では帰る時にコルチボイスを連れてくるので、そのまま引き取ってくれ」
なんか実の弟なのに扱いがペットの里親みたいになってない?
まぁコルチボイスも私のような転生者がいるところなら少しは楽に過ごせるだろうし、迎え入れられるなら問題ない。
「たまには余にも会わせてくれ。養子に出すとは言え、あれは余の息子なのだから」
「承知致しました」
やっぱり陛下、少し寂しそうだね。
それが普通だよね。
少なくとも貴族院を卒業したら王宮へ頻繁に行けるよう何か手を打ってあげよう。
「それとスパンツィル元侯爵家で何やら工事をしているようだが?」
「はい、我が家と商会の従業員を育成するための教育機関と寮を作っています。隣はゼッケルン元公爵家で今は空き家ですのでご迷惑はお掛けしていないかと」
「なるほど…教育機関とは面白いことを考える。だが急成長中のそなたの商会ではすぐに溢れてしまいそうだな?」
「その時はイーキッシュ公かクアバーデス侯に土地を借りたいと申し入れるつもりです」
「ふむ…。どちらもそなたと関わりの深い者だな。ゼッケルン元公爵家の跡地も褒賞で譲ろうかと思ったのだが…」
「それでは王都に人が集中しすぎてしまいます。中央に人や金、権力が集中するのは地方創生の妨げとなりましょう」
ここで地方創生とは何か、とアルフォンス殿下とレンブラント殿下に食いつかれてしまい、私は更に話を続けることになった。
今日もありがとうございました。
新章を書き始めましたがプロットが曖昧でなかなか進みません…。すごく難産になりそうです…。




