第4話 チート開始
熱中症で倒れてました。。。
セシルはまだまだ赤ちゃんです。
7/25 題名追加
あれから何度か意識を持って起きた。
私が意識を持って起きるのは毎日ではなく、本当にたまにだった。
何度か起きてる内にわかってくることがいくつかある。
まず私の名前はカタカナでセシルで間違いなさそうだということ!
え?大事なことよね?刹死涙とかじゃないんだよ?!
それと母親の名前はイルーナ。年齢は17歳とのこと。
若い、よね?
京子の世界なら17歳で子持ちとなると世間の目が厳しいものだった。高校を出てないというだけでも差別の対象だったはずだ。だからこそ私も必死に勉強して高校、そして短大まで卒業したのだから。
話が逸れた。
イルーナは専業主婦のようだが、たまに畑で作業したり森に採集へ出掛けたりしている。
少しおっとりした感じのする文句無しの美少女。優しい表情と垂れ目の中に煌めく橙色の瞳、肩より少し長い緑掛かった金髪が美少女力を上げている。
スタイルは良い方だと思うが胸は少し小さめなのは何度か確認している。それでも前世の私よりは大きい。
羨ましくなんかないもん。嘘です。羨ましいです。せめてそのくらいあればといつも思っていました。
そして父親がいた。
私、セシルという存在がある以上父親はいるのは普通のことだろうけど。
父親はランドール。19歳。
やっぱりこっちも若い!!
濃い目の灰色の短く刈った髪と瞳、ちょっと厳つい顔ではあるけれどかっこいい部類に入るんじゃないかな?私の好みではないけれど。
ランドールは村の中で自衛団という警備を担当してるらしい。勤務体系は2交代制で日勤か夜勤。
日勤はその勤務中に森の奥で狩りをするようで、家で弓の整備をしているところを何度か見た。ランドールの腕前がどのくらいなのかはわからないが、村の中では弓の名手と言われているようだった。
二人とも若いが親として私をとても大切にしてくれていることだけはよくわかるし、前世の両親と比べて遥かに仲が良いことも非常によくわかった。
「セシルちゃん、パパにいってらっしゃいは」
「セシルぅ…パパ行ってくるね。また夜には帰ってくるからね」
「…あー、あー」
「ランドくん、いってらっしゃい。んー」
「行ってくるよイルーナ。ん」
…毎日コレである。
結婚して2年も経ってないようだけど、毎日こうしていってらっしゃいのキスをする二人。
新婚ってこんなものなのかな?私が前世じゃ結婚してないから知らないだけなのだろうか?
どうでもいいが、娘の前でやるのはどうかと思う。もっとも…私がまだ気付いてないだけで夜には夫婦の時間もあるのかもしれない。さすがに目撃したら冷静でいられる自信がない。
「さて、パパもお仕事行っちゃったし。セシルちゃんもママとお出掛けしよっか」
イルーナはランドールが出勤した後に掃除や内職(?)をして自分も出掛ける準備を始めた。
自由に動けない私にとって外を見る機会は今までほとんどなかった。あっても村の中のママ友の家に行くくらい。
そしていつものようにおんぶ紐で私を背負うと大き目のカバンを手にして外に出た。
ランドールとイルーナの家は村の中心から少し離れた郊外にある。
村の中心までは徒歩で20分くらいだが、その途中にある畑で作業するための小屋がぽつぽつと建っている。
歩きながらイルーナは畑仕事をしてる村人に手を振ったり大声で話したりしてる。
「森に行くなら今日は気を付けるんだよーー!」
「はーい!大丈夫でーーーす!」
「昨日でっかいブーボーがいたみたいだから、旦那さんに頑張ってもらわないとねー!」
「ランドくんならきっと大丈夫ですよー!」
そこ、こっそり惚気ないように。
またしばらく歩き続け、村の中心にある広場に着いた。
一緒に森に行く人は朝のこの時間に集まりまとまって行動するらしい。確かに一人で行くと迷うこともあるだろうし、野生の獣がいるなら尚更だ。
集まっているのはほとんどが女性で、イルーナが一番歳若いと思う。
他にも小さな子どもを連れている人もいるのだが、だいたい5歳くらいまでだと思われる。というのも7歳になると親の仕事の手伝いのために、父親に同行したり他の仕事をしてる大人について行くことになるらしい。それが畑仕事だったり、大工仕事だったりする。
結局集まったのは子どもを除いて4人。
さっき畑にいた人から注意されたように猪が出たために森に行くのを躊躇ったせいだろう。森への採集は怪我をしても自己責任。そのため参加不参加は事前に知らせることもないようだ。最低限として3人集まらなかったらその日は中止になる。隣にいた奥さんが「なんとか3人は集まってくれてよかった」と言っていたから推測したに過ぎないけど。
4人と子どもを数人連れて森へ入ると薬草や食べられる野草、木の実などを採集していく。
私にはどれがどれだかさっぱりだが、イルーナは他の人よりもスイスイと野草や薬草を集めている。
種類によって葉っぱだけだったり、根も採集するものもある。どこで見分けているかわからないのでじっと観察してみる。
---スキル「野草知識」を獲得しました---
はい?え?じっくり見てただけなんだけど?それでスキルが手に入るの?
スキルの便利さは言語理解のときに思い知ったし、このスキルは何ができるようになるのかな?
イルーナの肩越しに地面に生えている野草を見てみるとさっきまではただの緑一面だったものが、黒い網掛けのようなものがチラチラしている。イルーナが採集しているものはそういった網掛けが全く見えない。
---スキル「野草知識」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「野草知識」1→4
まただ。言語理解のときと同じように少し野草を見ていただけでレベルが上がった。
でも、どう考えてもレベルが1から4に一気に上がるのはおかしいと思う。
もしかして、これってチート能力!?多分スキル経験値n倍とかそういうものだと思うけど、基準がないからどの程度か全然わからない。いっそ鑑定とか解析とかそういうスキルが欲しいのに何でそれじゃないかな。チートをくれた人(神?)には申し訳ないけど、知識ゼロで放り込まれるなら鑑定スキルは必須だと思うんだけど…違うのかな?
やれやれと薄く覚えてる記憶の中の少年に悪態をつきながら、再度肩越しに地面を見る。スキルレベルが上がったせいか、今度は網掛けされていない草の中に青、赤、黄の3色の光で分かれていた。ただ、その色が何を示しているのかが分からないので私がやるとしたらその3つに分類しておくくらいのものだろう。
「あー。んーーー」
「うん?どうしたのセシルちゃん?」
背中から声をかけるとイルーナは採集の手を止めて立ち上がりいつものように跳ねるように歩き出す。
「うぁ?うーあーーー」
「うん、そうだよ。草だよー。これはミュンナ草っていう薬草なんだよ」
「いゅんぁ?」
「そうそう、ミュンナ草。お薬の元になるんだよー…。って今セシルちゃん喋った?!」
イルーナが跳ねる歩きをピタっと止めて背中に声をかけてきた。
ちょっと頑張りすぎたかな?でもできればコミュニケーションは早めに取れるに越したことはないよね?
「いゅんぁ。いゅんぁ」
---スキル「野草知識」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「野草知識」4→5
はい?マジで?
ミュンナ草のことをイルーナから教えてもらっただけで更にスキルレベル上がった。
ここまで簡単にスキルを獲得するのはどうなの?
「うーん?さすがに違うかな?…そうだよね。まだ『ママ』とすら呼んでもらったこともないんだから」
どうやらイルーナは勝手に勘違いしてくれたようだ。
多分『ママ』くらいなら発音できると思う。それでもまだやめておいた方がいいと思う。多分、現在の私は生後半年程度。寝返りはできるし、ハイハイくらいはできると思うけどお喋りをするのは確か1歳くらいになってからだったはず。
こんなチート持ちや前世の知識と記憶が残った子どもを不気味に思ってもおかしくはないのだから。
その後大人しくなった私に安心したような落胆したような「よしっ」と声を出してイルーナは再び採集を始めた。
「みんなーーー。お昼にするよーーーーーー」
森のどこかから一緒に採集に来た人の声が響いてきた。
イルーナは切りの良いところまですることもなくすぐ立ち上がり声のした方向へ歩き出した。
私たちが到着するとほぼ全員が既に集まっており、いないメンバーも少し離れたところから歩いてくるのが見えた。
「じゃあいつものように準備するよ」
「「はーい」」
「イルーナ、火を熾しておくれ」
「うん、わかったよー」
他の人が準備していた薪を並べ大き目の石を組んだだけの簡易な竃に向かうとイルーナは左手で薪の一本を掴んだ。
右手の人差し指をその薪に向けると
「小火」
右手の人差し指の5cmほど先から100円ライターを最大出力にしたかのような火が出て薪に着火した。
火が付いた薪を竃に入れ、燃え広がるのを補助するように続けて他の薪に火を向けた。パチパチとしっかり火がつくと最年長と思わしき女性が鍋を竃にセットした。
「微風」
今度は右手を左右に振って扇ぐように微風を竃の中に送り込む。
煙もこっちに来ないし火は順調に大きくなっている。
でだ。
もう驚いていいかな?
え?これ、魔法ってやつ?こんなのあるの!!?
年甲斐も無くワクワクしてきた!あ、私今0歳児でした。
しかし、これで確実なことが一つ増えたね。ここは異世界。魔法を使うことが出来て、スキルってものもある。前世の京子が生きていた世界とはあまりに違いすぎる。
あ、でも待って。魔法が使えるのはイルーナが特別なだけ?それともみんな使えるの?
でもさっきイルーナに頼んでたし、みんなが使えると思うのは早計だよね。
私がそんなことを悶々と悩んでるうちに食事は出来上がり、気付いたときにはみんなが器を持って食事をしていた。
暑くなってきました。
熱中症ってかなりシャレにならないくらいきついんですね…気をつけます。。