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第364話 陞爵

 馬車に乗りミオラを従えて王宮までやってきた私は最早顔パスにも等しいほど門番の兵士に形ばかりの紋章提示をして中へ入っていく。

 馬車を指定された位置に停めると御者をしてくれている厩舎に勤めている男性に馬の世話を頼んでミオラと二人で待合室へと通された。


「ふぅ…何度来ても慣れないわね」

「そう? じゃあもうちょっとミオラに付き添ってもらうようにしようか?」

「そりゃ私はセシルに雇われてる身だから『来い』って言われたら行くけど、私は貴族でもなんでもないのよ?」

「貴族になりたいの?」

「なりたいかって言われるとわからないわね」


 貴族になりたいなんて変わってるなぁとしか思わないのは私だけかな?

 このアルマリノ王国で貴族と呼ばれるのは準男爵以上の爵位を持つ人だけど、実はそれ以外にもいる。

 侯爵と公爵は自分の騎士団を持つことが許されているのだけど、騎士団の人数が十人を超えると団長を指名出来る。その団長は王国から正式に『騎士』と認められるのだ。

 王都にいる近衛騎士、第一から第三までの騎士団は全員『騎士』身分であり、準男爵と同程度の貴族身分とされる。

 実際には爵位を継げない貴族家の次男や三男が騎士になることが多いので平民や冒険者がなることはほとんどないのが現状だ。


「じゃあもし私が侯爵になることがあれば、もう少し警備部門の人数増やして騎士団作るから、ミオラを『騎士』に任命するよ」

「ふふっ、そうね。そうしたら私もセシルに忠誠を誓わないといけないわね」

「まぁそう簡単になれるものじゃないけどね」

「それはそうよ。侯爵って言えば平民からしたら雲の上の存在だもの。けど、セシルがそうなったら私も嬉しいわ。ふふっ」


 むぅ。年上の友達とはいえ、相変わらずミオラの色気は凄いな。

 ただ話してるだけなのに大人の雰囲気全開だ。


「まぁウチは友だちとか幼なじみの繋がりが多いから、そんな大袈裟にすることはないと思うけど」

「アイカさんやクドーさんなんかはその最たる例よね? セシルが冒険者として外に出るならあの二人じゃないとついていけないもの」


 最近じゃユーニャもその中に入っても不思議じゃないくらいの強さになってきちゃったけどね。

 まぁそれは言わないでおこう。

 ミオラと話してる間にこの部屋に数人の集団が向かってきていた。

 陛下とシャルラーン様、アルフォンス殿下とレンブラント殿下も一緒にいるみたいだ。当然この部屋に来るわけではなく、以前爵位を賜った際に使った応接間へ私達も移動することになる。

 しばらくして王族の方々が応接間へ入るとこの部屋にも使いの文官がやってきた。

 促されるまま待合室を退室し、陛下が待つ応接間へと向かう。

 文官が扉を開けて中に通されると既に王族の面々は椅子に座っており、私とミオラは部屋に入ってすぐ礼を取った。


「ご苦労だったセシーリア。さぁ座ってくれ」


 陛下に促されるままちょうど対面に位置する席に着席するとミオラは私のすぐ後ろに立った。


「貴女も席に着いてよろしくてよ?」

「恐れ多くも王族の方々と席を共に出来るような身分ではございませんので」

「貴女のことは存じてますのよ。セシーリアの貴族院時代の学友だと。優秀な成績を修めた、と」

「私のような者のことを存じておいでとは恐れ入ります。ですが、本日私はランディルナ至宝伯の護衛にございます」


 あまりウチのミオラに無茶言わないでほしいんだけどなぁ。

 私が少し困った顔でシャルラーン様を見ると、彼女もようやく折れてくれてミオラに声を掛けなくなった。


「さて、この度は息子であるディルグレイルの謀反を食い止めてくれたことに関する話だ。余の方でもある程度事態は把握しているが、セシーリアの知っていることを教えてくれまいか」

「承知しました」


 私は改めて今回の経緯を話し始めた。

 私が王宮で彼等と戦闘になったことはここにいる皆が見いるので、ミルルのことも包み隠さず話さなければならなかったことが一番辛かった。

 そしてディルグレイルが人為的に連鎖襲撃(スタンピード)を起こし、私の村が巻き込まれて壊滅したこと。

 更にイーキッシュ公爵領でも連鎖襲撃(スタンピード)を発生させようとしていたことも伝えた。


「クアバーデス侯爵領で起きた連鎖襲撃(スタンピード)にそんな裏があったのか。しかしイーキッシュ公爵領の連鎖襲撃(スタンピード)はどうやって回避したのだ?」

「事前にダンジョンマスターを治療しました。その後、溢れてしまった魔物はダンジョンの入り口にて我が家の者達によって全て殲滅。イーキッシュ公爵領が魔物達に蹂躙されることなく連鎖襲撃(スタンピード)を終わらせました」

「…そんなことが…。どうやら王国はランディルナ至宝伯家にとてつもなく大きな恩が出来てしまったようだな」


 それにしても、実は今回の件でわからないことが一つだけある。

 なんでクアバーデス侯や私のように今回の件を直接解決しようとした者にだけ謀反の決起日が知られてしまったか、だ。

 普通それだけは知られてはいけないこととして最も隠しておかなきゃいけない情報だと思うんだけど。

 終わったことだから別にいいんだけど、なんとなく喉の奥に引っかかる感じがする。


「今回の件、そなたへの褒美も含めて今のところ確定していることをまずは伝えておく。レンブラント」


 陛下から話を降られて一番端の席に座っていたレンブラント殿下が立ち上がり、手に持った書類を目を落としながら読み上げていく。


「まず今回の首謀者であるディルグレイル兄上は王宮前の広場にて公開処刑。執行人は…セシーリア・ランディルナ至宝伯にお願いする」

「ありがとうございます」


 ようやくこの手で村のみんなの仇を討つことが出来る。


「次にスパンツィル、ニーレンヨード両侯爵は当主、夫人は処刑。成人済みの息子達も処刑。未成年、または娘達は貴族籍を剥奪の上で放逐。事実上の取り潰しとなります。また今回謀反を防いだランディルナ至宝伯には彼等の家、財産などが与えられることになります」

「両侯爵は軍務大臣、外務大臣を務めておったが、軍務大臣はマカフォント侯爵に、外務大臣はゾノサヴァイル公爵にやってもらうことになった」


 話を聞くと、マカフォント侯爵家はスパンツィル侯爵家と同じくらい騎士を輩出している家系なんだとか。

 ゾノサヴァイル公爵についても、前当主が前の外務大臣であったため多少のノウハウは知っているだろうからとお鉢が回ったみたいだ。


「更に今回謀反に加担した貴族の子息達だが…」


 レンブラント殿下はそこで一度言葉を切った。

 何か言いにくいようなことがあるのだろうか?


「彼等は全員貴族籍を剥奪、廃嫡の上、修道院送りとなった」

「貴族籍剥奪とかはわかりますけど、修道院?」

「あぁ。ホムキャバラ修道院は男子専用、女子禁制の修道院でな。貴族の男子が罪を犯した場合や性根を叩き直したい時に送られる非常に戒律の厳しいところだ」


 うわぁ…。

 なんかアイカが好きそうな場所だね。

 しかも彼等は今まで散々集会で女性を嬲り者にしてたから、女性がいなくなれば大変なことになるね。

 ざまぁ! としか思わないけど。


「また近衛騎士団は全員、第一騎士団でディルグレイル兄上の派閥に与していた者はゴルドオード侯が引き取り最下級騎士として最前線での任務に当たることとなった」

「レンブラント、スタイナンとゼクセルスは違うだろう」

「マカフォント侯爵家のスタイナン、ゼクセルスはそれぞれ近衛騎士団長と第一騎士団長に就任が決定しています」


 なんかすごく淡々としているけど、これって多分予め決められてたことなんじゃないかな。

 報復リストじゃないけど、もしディルグレイルの派閥を一掃したらやりたいこと、みたいなさ。


「残るは現在離れに幽閉中のコルチボイスと…先ほどそなたから話のあったミルリファーナ嬢のことだな」

「ベルギリウス公爵は直接加担しておらぬとは言え、お咎め無しとはいかん。かと言ってミルリファーナ嬢は死んだことになっているため表舞台に出ることも出来ぬ。彼女もディルグレイルの婚約者であった以上、処刑は免れぬ」


 わかっていたことだけど。

 自己満足でしかないって。

 それでも何とか助けたいって思って私の眷属扱いにしちゃったけど…法の裁きは受けなきゃいけないって、ちゃんとわかってるけど。

 でも納得いかない。


「これセシーリア。そのように顔をしかめるな。すぐ顔に出るのはそなたの悪い癖だ」


 陛下に諭されはっとした。

 ここには王族の方々がいるのだから不敬な態度は駄目だ。


「申し訳ありません…」

「ふむ。それでな、ミルリファーナ嬢は一度そなたの手によって死んだ。これは間違いないか?」

「…はい。私が間違いなくミルリファーナ嬢を殺害しました」

「で、あれば彼女は既に処刑された身ということだな?」


 何を言ってるのかよくわからない。

 しかし陛下の顔はとても優しく微笑んでいる。


「化粧や変装でもいい。姿を変え、なるべく表舞台に出てこないようにし、子を作ることをしなければベルギリウス公爵家をそのままにしても良い」

「ほっ、本当ですか?!」

「勿論、命の恩人としてセシーリアには絶対服従を条件とするがな」


 それなら眷属になっているから既に解決済みだ。

 子どもだって肉体自体は元のままだけど、その能力は恐らく無くなっているから宿すことは出来ないだろう。


「しかし、貴族会議でミルリファーナ嬢を補佐する役目が必要となろう。よって、今回空いた二つの侯爵位のうち一つをセシーリア・ランディルナに送ることとする」

「はいっ! …は、はいぃぃっ?!」

「アルフォンス、レンブラント。至宝伯の名はどうする?」

「はい、そのままで宜しいかと。ザッカンブルグ王国には帝国との国境に『辺境伯』と名がつく侯爵家と同等の爵位を持つ者がいると聞いています」


 な、なんかとんとん拍子に話が進むんだけど。


「よかろう。陞爵の儀式はまた後日に行うが、ランディルナ家は侯爵家と同位の爵位とすることを内定する」

「は、はい。有り難く拝命致します…」


 なんか、さっきミオラと話していたことが本当に実現しちゃったんだけど…。

 こうして私は事件解決のご褒美として? 侯爵になることが決定したのだった。

今日もありがとうございました。

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[気になる点] >「彼等は全員貴族籍を剥奪、廃嫡の上、修道院送りとなった」  全員、セシルが止めた時に威圧で気絶したあいつらですよね?  大丈夫? 直接荷担して捕らわれたのに、┏(┏ ^o^)┓の刑…
[一言] ホモキャバレー修道院、じっくりと調教もとい叩き直してくれそうな響きだなw
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