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第358話 新年の夜(セシル視点)

5/1から5/5までのGW期間連続投稿中!

 ユーニャ達から連絡があってしばらく。

 一人の兵士が齎したイーキッシュ公爵領内で連鎖襲撃(スタンピード)が発生したという事件。

 けれどこの兵士は城下町から一度外に出て、公爵領の兵士の姿に変えてから再度王都へと入っていた。

 城下町では蒼の血族が集まっている場所、ディルグレイル殿下がいる場所から出て行ったことも把握している。

 つまり嘘の報告である。

 本来ならイーキッシュ公爵領から王都までは馬車で一週間程度はかかる。それを発生してすぐ知らせに来ること自体がおかしいと気付けば良いのだけど、咄嗟のことにそこまで頭が回らないのだ。

 とはいえ、実際に連鎖襲撃(スタンピード)は起きている。けれど、イーキッシュ公爵領内に被害は出ていない。

 アイカ、クドー、ユーニャ、そしてジョーカーがいて中級程度のダンジョンにいる魔物に、いかに多くても遅れを取ることはない。

 被害のない連鎖襲撃(スタンピード)なんて起きてないのと同じことだ。

 だがしばらく騎士の詰め所が騒がしかったものの、二人の騎士が飛び出していってからは静かになった。


「殿下、一人の騎士が陛下の寝室へと向かっております」

「何? 誰だ?」

「他の騎士よりかなり強い人です。エイガンと同じくらいかと」

「であれば、近衛騎士団長のオードロード・スパンツィルであろう」


 どこかで聞いた名前だと思い、思考を巡らすと確か私の前に王国最強戦力と言われていた人だったはずだ。

 確かに普通の人に比べたらかなり強いけど、脅威度Sの魔物を一人で倒せる程度とは思わない。

 我が家の警備責任者であるミオラよりはちょっと強いかな?


「恐らく陛下へ連鎖襲撃(スタンピード)発生の報告に行かれたのだと思います。殿下もお戻りになられた方がよろしいでしょう」

「ふむ…確かにそうだが……連鎖襲撃(スタンピード)だとっ?!」


 アルフォンス殿下は私が戻るようにお伝えすると顎に指を当てて考えていたが、連鎖襲撃(スタンピード)のことをスルー出来ずに体ごと振り向いた。


「ご安心を。連鎖襲撃(スタンピード)は発生していますが、魔物が溢れることはありません。我が家の者達が抑えておりますので」

「…ランディルナ至宝伯家は当主だけでなく、兵達も一騎当千の猛者揃いか…」


 以前私が十万もの連鎖襲撃(スタンピード)を殲滅しているので、私の言葉を疑ったりはしないようだ。

 都合が良いね。


「殿下、王族の方々へは危険が起こらぬようにするつもりですが、万が一ということもございます。こちらをお持ち下さい」


 私は腰ベルトから親指大のアメジストを二つ取り出すとその場で魔石化、付与魔法を用いて御守りを作った。

 前にディックに渡していたものを更に改良したもので、咄嗟の攻撃に強力な障壁を作る機能や浄化、治癒の魔法が込められている。

 暗殺や毒や呪いによるダメージを少なくするためのものだ。普通の方法でなら一日くらい生き長らえることが出来ると思う。

 王都全てを吹き飛ばすような攻撃にはさすがに耐えられないけど。


「これは?」

「ランディルナ至宝伯家特製の御守りです。陛下にも一つお渡しください」

「わかった」

「それと、今から王宮の入り口は戦場となりますので決してお近付きになりませんようお願い致します」


 私の忠告にアルフォンス殿下は苦い顔をしたが、それもほんの僅か。すぐに頷くと翻り、バルコニーの出口へと向かっていった。

 が、出ていく前にもう一度振り返った。


「ランディ…いや、セシーリアよ。そなたにはまだまだやってもらわねば困ることが山ほどあるのだ。決して死ぬなよ」

「私の心配など無用にございます。少々うるさくなりますが、ご容赦下さい」


 優雅にカーテシーして頭を垂れると殿下は本来王族がするべきではないのに、ボウアンドスクレープをして応えてくれた。

 ちょっと驚きだけど、彼が私に対して相応の礼を持ってくれたことが嬉しい。

 じゃあまぁ…ちょっと頑張らないとね!

 気合いを入れ直した私はバルコニーの手摺りに手をかけると、その場から飛び降りた。




 王宮の入り口で待っているとガチャガチャと金属鎧の擦れる音がして数十人もの貴族達が連なってやってきた。

 その旗印になっているのがディルグレイル第二王子殿下。私はさっきアルフォンス殿下にしたのと同じくらい優雅にカーテシーを取った。


「こうしてお目にかかるのは何度目かになりますが、お話させていただくのは初めてとなりますので、改めてご挨拶申し上げます。セシーリア・ランディルナにございます」


 連なる有象無象の前で礼をする私へ先頭に立つディルグレイル殿下が大きく頷いた。


「セシル…」

「ほぅ…そなたがランディルナ至宝伯か。よくぞ参った」


 ディルグレイル殿下は私を味方だと思っているのか、不用心にこちらへと踏み出そうとした。


「殿下、お待ちください。セシルは、ランディルナ至宝伯は味方ではありません!」


 しかしそれは咄嗟に前へ出てきたミルルによって妨げられることになった。


「…なんだと? どういうことだランディルナ伯! そなたは我等に賛同したと聞いているぞ!」


 頭の中がお花畑としか思えないね。

 みんながみんな自分の味方だとでも思ってるのかな?


「ご冗談を。私は叙爵する際に宣誓したはずです。『陛下と王国と民達を守るための剣になる』、と。その誓いのために、今こうしてその剣自らやってきたわけにございます」

「無礼なっ! 我等にこそ正義はある!」


 礼を取った姿勢のまま、彼の口から垂れ流される演説を聞き流していると、ようやく終わりそうになったところでチラリと視線を向けた。


「強き私が王となり、この王国をより強い国へと導いてゆくのだ!」

「…殿下の夢は理想高く立派なものにございます。ですが…一本の『剣』に理想を語っても詮無きこと」


 そこで立ち上がり、真っ直ぐにディルグレイル殿下を見据える。

 薄暗い王宮の中庭だけど、彼の煌びやかな鎧はとても目立つ。


「御託はいいからさっさとかかってきなさい!」


ゴオォウッ


 詰まらない話ばっかり聞いててうんざりしてきた。

 強い国だの強い王だのと言ってた気がするけど、そんなに強さに拘るならまず私を倒してもらわないとね?

 『出力制限』スキルによってタレントの能力低下分まで加味した力の加減が出来るようになったおかげで、魔力、闘気を合わせた力の奔流が周囲を薙ぎ払っていく。

 今までゼロの次が半分くらいの力加減しか出来なかったものが、普通に一から百まで使えるようになった感覚。

 今の出力はせいぜい十五%くらいだろう。

 まるで嵐のような力の奔流と、冷たい棺桶の中に押し込めていくかのような純粋な殺気を受けて力無い同士達はその場で膝をつき意識を無くしていく。


「ちぃっ! イーキッシュ公爵家の兄弟が籠絡したのではなかったのか!」

「…セシルをあのお二人が籠絡するなど無理なことでございます」

「黙れっ!」


 鋭い音が鳴りミルルの身体は後ろに倒れた。

 叩かれた頬は真っ赤になり、衝撃で切れた唇の端から一筋の血が流れた。

 そこから更にディルグレイル殿下は倒れ込んでいるミルルの頭を蹴り飛ばし、その背中を何度も踏みつけていく。


「うるさいうるさいうるさいっ! 生意気な口をききおって! 貴様のような薄汚い女が私に意見するなど言語道断っ!」

「ぐっ、うっ、ぐぅぅぅ…」


 …私の親友に何してくれてるんだ?

 決めた。

 こいつは絶対殺す。

 心も体もズタズタにして最後にプチっと潰す。

 絶対に、絶対絶対許さないっ!

 でも、今は駄目だ。

 こいつの処分は死刑台の上だ。

 それまでなんとか耐えなきゃいけない。


「ディルグレイルで…陛下。ここは私に!」

「はぁはぁ…オードロードか。よし、貴様もランディルナ伯と同じSランク相当だったな。即刻あの無礼者を始末しろ!」

「ははあっ!」


 散々ミルルを甚振ったディルグレイル殿下……いや、もう敬称なんていらないか…彼は興味を無くしたように彼女から視線を外すとオードロードと呼ばれた男に私を殺すように指示を飛ばした。

 指示を受けたオードロードはスラリと鞘から剣を抜くと、真っ直ぐに私に向かって歩いてくる。

 彼の持つ剣から伝わる気配からして普通の剣では無さそうだ。

 クドーから話は聞いたことがあるけど、あれって魔剣かな?

 クドーが作ってくれた武器に比べたらたいしたことない気がするけど、お土産代わりにもらっていこうかな。


「貴女が王国最強と言われるセシーリア・ランディルナ至宝伯であらせられるかっ」


 私から二十メテルくらい離れたところで立ち止まると彼は口上を述べ始めた。

 仕方ないので私も騎士の流儀に従って付き合うことにする。


「えぇ。そちらは?」

「我が名はオードロード・スパンツィル! 弱き王国を大陸の覇者とすべく立ち上がったディルグレイル陛下の剣よ!」


 名乗りを上げながら武器を構えるオードロード。


「そう。貴殿がかつての王国最強戦力と言われたオードロード卿か。けれど…今となってはただの逆賊の暴徒。その魔剣も泣いてるだろうな」


 とりあえず煽るだけ煽ってみる。

 別に油断を誘おうとか考えてるわけじゃないし、よほどのことが無ければ決闘しても負けることは考えられない。

 けれど虚仮にされたオードロードはこめかみに血管を浮き上がらせて激昂していた。


「私を愚弄するかっ!」

「事実だ。かつての王国最強戦力がこれとは、嘆かわしい」

「…ならば、その身を持って我が力味わうといい!」

「いいだろう。新旧の王国の剣と剣であるならば、斬り結ぶことこそ何よりの対話となろう」


 私は短剣を抜かずに手招きをすると彼は更に激情に駆られたのか大上段に魔剣を掲げ、その身からは想像し難いほどの速さで私に斬りかかってきた。

今日もありがとうございました。

明日も投稿します!

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