第357話 新年の祭
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5/1から5/5までのGW期間のみですが!
王都はその日新年を祝う祭りで沸いていた。
私も王宮に呼ばれ、陛下が新年の挨拶をしているのを謁見室で正装をして聞いていた。
陛下がいる壇上、その玉座の脇には宰相であるエギンマグル侯爵と反対隣にはアルフォンス第一王子殿下が立ち、すぐ近くにシャルラーン王妃殿下、ディルグレイル第二王子殿下以下王族達が並んでいた。
(メル、彼がここでコトを起こす可能性はあると思う?)
(よほどの馬鹿であればあると思うのだ。だがしかし、ここには自分達の手駒もいない上に捕縛、もしくは殺害対象が多すぎるから現実的ではないのだ)
(まぁ、そうだよねぇ。だとしたらやっぱり決行は新年のお祭りでみんなが酔いつぶれて寝静まる頃かな)
(のだ)
メルと話をしながらディルグレイル第二王子を見る。
武闘派で通っているだけあって鍛えられた肉体はかなりのものだと思う。発達した筋肉が王族が纏うローブを盛り上げ、彼自身から漂う雰囲気も威圧的で強者独特のものがある。
けれどそれ以上に傲慢な笑い顔。
あれが、私達の村を壊滅させた男。
絶対に許さない。
陛下の挨拶が終われば会場を移して祝賀会が行われる。あくまでも貴族同士がお互いの交流を深めるためのものなので、正装のままだし食事も多少あるがほぼ飲み物だけが振る舞われる。
開始の挨拶も陛下がするのだけど、今年はいつもと違ってアルフォンス殿下が壇上へと上がった。
「皆、今日は集まってもらったことを感謝する。中には顔を出せぬ者もいるようだが、私は己の責務を果たさんと尽力する彼等を好ましく思っている」
ちなみにこの祝賀会に参加していない者の筆頭は当然ながらクアバーデス侯爵だ。代官などで地方の領地の町を治めている者でさえ来てるのに何故かこういう集まりにはほとんど参加しない。
ゴルドオード侯爵も姿が見えない。最近また帝国からの間者が多く領内に入り込んでいると聞いてるし、その対処に追われているのだろう。
加えてオーユデック伯爵も見当たらないかな?
あの豚さんが何故いないか知らないけど、全く持ってどうでもいい。
「王侯貴族の間で騒がれている噂など、今の王国は乱れがちであるが、これからは皆の志をまとめ一本の剣に集まるよう努めていこうではないか! では、乾杯!」
アルフォンス殿下の挨拶が終わり、全員グラスを軽く上げて「乾杯」と唱えると一口口をつけた。
それからは毎回恒例の挨拶回りだ。
私も伯爵の順番になった時に陛下とシャルラーン様に挨拶へ伺った。
「セシーリア、今年もよしなに」
「はい、シャルラーン王妃殿下。私は今も変わらず王国を守る一本の剣であります」
「うむ。ランディルナ伯よ、そなたの働きには期待しておる」
「勿体なきお言葉にございます、陛下」
そんな軽い挨拶を交わし、壇上から下りるとすぐに私へと近寄ってくる人達がいた。
「やぁセシル」
軽い調子で声を掛けてきたのはレンブラント第四王子殿下だ。
その様子を壁際で見ていたと思われるオッズニス卿が顔を顰めているのが遠目にも見て取れる。
「お戯れを。レンブラント殿下、ご機嫌麗しゅう」
「あぁ…そういえばセシルは男性が苦手だったか」
レンブラント殿下はそう言うと私から一歩距離を取るために後ろへと下がった。
でも男性が苦手っていうのは誤解だけどね。
今でも私だって頼りになる男性に寄りかかりたいと思うことがないわけじゃない。
それが全然いなくて、ユーニャとばかり仲良くしてるからそういう噂が流れるんだろうけどさ。でもユーニャはほぼ本気の私に一撃以上入れたんだし、そういう仲になるのは問題無いはず。これは陛下も知ってる話だしね?
「それであれば我々がこうして話す分には余計な噂など流れまいよ。こうして改めて話すのは初めてになるな、ランディルナ伯」
「はい、アルフォンス殿下。改めまして、セシーリア・ランディルナ至宝伯にございます。お見知り置きのほどお願い申し上げます」
「ほう? 父上やレンブラントから高い戦闘能力と商業知識を持っていると聞いていたが、腹に抱えるものも感じぬ高潔な者ではないか」
高潔ときましたか。
私だって人並みの欲望くらいあるからそれはどうかと思う。やたら私の評価が上がっても面倒だし、適当に謙遜しおくとアルフォンス殿下は「そういうことにしておこう」と、この話を終わらせてくれた。
「今後、ザッカンブルグ王国より妻を迎えることになった際にはそなたにも協力を仰ぐことが増えるであろう。期待している」
それだけ言い残すとアルフォンス殿下はレンブラント殿下を引き連れて去っていった。
なんだったんだろう?
レンブラント殿下が私に声を掛けてくるのはいつものことだけど、今まで話したこともないアルフォンス殿下まで私に…?
ふと思い、さっと会場内の気配を感じようと感覚を広げてみると、ある一点から強く睨まれていた。
目線を合わせないよう時空理術で把握すると、どうやらディルグレイル第二王子殿下のようだ。
なるほど、私が自分の派閥にいると思っている彼からしたらアルフォンス殿下が声を掛けているのが面白くないわけか。
けど以前、ベルギリウス公爵家で行われた蒼の血族の集会に参加したことを知ってる彼は私が第二王子派だと勘違いしているはずだ。勿論あれは情報収集とミルルを助けようとしただけに終わったんだけど。
って、ミルルのことを考えると会場中に殺意が漏れそうになっちゃう。落ち着こう。
それからしばらくは壁の花になっていると、声を掛けてきたローヤヨック伯と今後の商売の話をしたり、イーキッシュ公…お祖父様と社交辞令的な挨拶だけを交わした。
祝賀会も終わり、貴族達は挨拶をしながらそれぞれ帰途についていく。
中にはこれからどこぞの屋敷でもう一杯、なんて話も聞こえてくるけれど、果たしてそれは叶うのだろうか。
時刻は六の鐘が鳴ったところ。
七の鐘が鳴ればほとんどの人は就寝する。つまりこの世界での深夜ということになる。
第二王子派が動くとすれば、そのくらいの時間になるだろう。
私は帰る振りをして、王宮のバルコニーで待ち構えていた。
時空理術で城内にいる人は全て把握しているし、ディルグレイル殿下が王宮から抜け出して蒼の血族と合流していることもわかっている。
(セシル、何者かが近付いてきているのだ)
(うん、わかってる)
ガチャ
その人はバルコニーに通じる扉を開けると、一人佇む私を見つけて近付いてきた。
驚いた様子がないことから、ここにいることはわかっていたのだろう。
「このような場所で何をしている」
「…皆、新しい年を新しい気持ちで迎えられたことに喜んでおられます。その様子を」
「随分と感傷的なことだ。先程も驚いたが父上やレンブラントから聞いていた話とは随分違うのだな」
「どのようなお話かは存じ上げませんが、私はいつでも私が思うままに。そして誓いを上げた通り、王国を守る一本の剣であります」
私の言葉にアルフォンス殿下は「そうか」と一言呟くと、私の隣に立って眼下に見える城下町、新年の祭に湧く民衆を見やった。
「私は父上の跡を継ぎ、この国を守っていかねばならん。国を豊かにしていくために、我が国をより大きく強大にしていくというディルグレイルの気持ちもわからんでもない」
何を思ったかアルフォンス殿下は私の隣で独り言のように呟き始めた。
「だが、戦になれば国は荒れる。勝てば国は豊かになるやもしれんが、そこに民の幸福があるとは思えん。ランディルナ伯よ、そなたは私が戦を怖がる軟弱者だと思うか?」
ちらりと横を向くと、彼の目はすがるような光を宿していた。
「私は…いえ私も戦は、戦争は嫌いです」
「そなたは王国最強戦力だろう? そなたより強いものなど、この大陸を見回してもそうはおるまい。それでもか?」
「はい。私は私が幸せになれればそれで良いと思っております。それでも望んで戦などしようとは思っておりません。軟弱者? 言いたい者には言わせておけば良いでしょう?」
この世界に来てから散々流されていろんなものと戦ってきたけど、ギルドの仕事以外で自分から戦いに行ったことはそこまで多くはない。
食べるために狩りをしたこと、怒りに任せて暴力を振るったこともあるけど、決して私自身好戦的なわけじゃないからね。
「…そなたは、戦っていなくても強いのだな」
「殿下、戦争とは外交のための手段の一つでしかありません。『国』として考えるからわからなくなるのです。兄弟でも、意見が違えば喧嘩になる。それは殿下が今一番わかっておいでなのではありませんか?」
アルフォンス殿下もディルグレイル殿下も、本当は話し合って全て解決出来れば良いのに、周りがそれを許してくれない。
そして、もう引き返せないところまで来てしまっている。
なのにまだこうして悩み、罪の意識に捕らわれていることはとても好感が持てるところだ。
私の寿命はこれからまだ四百年余り。アルフォンス殿下が次代の国王陛下になるのであれば、それを見守り見届けるのも良いんじゃないかと思う。
まぁ先のことなんてわからないけどさ。
そんなことを話していたところへ、私の脳内に声が届いた。
『セシル、聞こえる?』
「ユーニャ?」
突然私が声を出したことにアルフォンス殿下が振り向くが、突然聞こえてきたユーニャの言葉を聞くのに意識を集中させ、遠話を使ってユーニャに声を届ける。
『あ、聞こえたんだね! セシル、ジョーカーが始まったって言ってる。表にはまだ魔物は出てきてないんだけど』
「そう。じゃあ予定通りに。絶対無茶や無理は駄目だからね」
『わかったよ。それとダンジョンの中にまだ残ってる冒険者がいるみたいなんだけど、どうしたらいい?』
「放っておいていいよ。逃げてきた人は保護してあげればいいと思うけど、基本的に冒険者は全部自己責任なんだから」
『そっか。そうだよね! わかった、じゃあまた何かあったら連絡するね!』
その言葉を最後にユーニャからの通話は途切れたが、今度は別の声が聞こえてきた。
『セシル、こっちは始まったで!』
「うん、ユーニャ達の方も始まったってさっき連絡がきたよ。アイカとクドーなら丸ごと任せちゃって平気だよね?」
『勿論や! こっちで好きにしてえぇっちゅうことやな?』
「判断は任せるよ。でも魔物は絶対漏らさないで」
『お任せや! ほな、ウチらは好きなようにさせてもらうわ!』
アイカは言いたいことだけ言うとすぐに通信を切ってしまった。
お祖父様のイーキッシュ公爵領が荒れるのはちょっと困るし、領内が平穏に済むなら多少のイザコザはなんとでもなる。
お祖父様も黙ってはいないだろうしね。
さて、そろそろかな?
何故か血相を変えて走ってきた兵士が騎士の詰め所へ向かってるみたいだし、どうやら本格的に始まるらしい。
今日もありがとうございました。
また明日も投稿します!




