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第353話 レニマジム勧誘

 ベオファウムの冒険者ギルドで話をつけた私は、長距離転移(ゲート)を使いイーキッシュ公爵領へと向かった。

 この領地のダンジョンへは入場する際に許可証が必要だけど、それは以前訪れた際にイーキッシュ公爵…お祖父様から貰っている。

 私がダンジョンに入ったことがお祖父様の耳に入ったら、顔くらい出せと小言を言われるだろうけど、今はいろいろ立て込んでいるからそんな暇はないし、小言くらいは全てが片付いた後で付き合ってあげればいい。

 とは言え、今私が来ているのはこの領地でも未発見のダンジョンだ。

 他のダンジョンに行くかどうかはこれから決める。


「あとどのくらい?」

「現在三十四階層。あと十八階層なのだ」


 今のところは順調に進んできている。

 六十階層もないようなダンジョンなら何とか一日で踏破は出来る。

 今のところ変にいやらしいダンジョンはないからだけど、やたら一層が広いとか馬鹿みたいにボスが強いとかでなければいけるはずだ。

 私を止められるボスがいるようなダンジョンなんて誰も行かないと思うけどね。

 そんなわけでメルに案内されるまま進んでいくと最後のボス部屋の前に辿り着いた。


「結局このダンジョンは汚染されてるのかな?」

「現時点では確認出来ないのだ。明らかに汚染が進んだダンジョンでない限りはわっちやセシルでも感知出来ないと思うのだ」

「…ほんと、いやらしいね」


 溜め息を零しながらボス部屋の扉を開けるとそこには人間と同じサイズの鎧が数十体置かれていた。

 よくあるリビングアーマーだろう。私の屋敷にも百体くらいはいるし、特筆するようなこともない魔物である。

 油断ではないけれど、警戒する必要もないのでそのまま歩いて近寄っていくと鎧がガチャガチャと動き始め、次第に人の形へと組み上がっていく。


「全部で七十二体? で、これは…当たりだね?」

「うむ! リビングアーマーの中から汚染された気配を感じたのだ!」


 リビングアーマー自体はCランク冒険者でも討伐出来るような魔物だ。

 その装備品にもよるので一概には言えないものの、それほど脅威を感じる魔物ではない。

 けれど、ここのリビングアーマーは装備品自体がかなりの高品質であり、尚且つ汚染されていて魔物自体が強化されている。


「それでこの数じゃあ…脅威度Aくらいにはなるのかな?」

「セシル! 囲まれる前に早く始末するのだ!」


 はいはいっと、軽い返事をしながら左右の短剣に闘気を込めて振るえば斬撃が入り乱れて飛び交っていく。

 今更脅威度Aの魔物の群れくらいで私の足止めをすることは出来ない。

 全てのリビングアーマーを薙ぎ払った後、鎧を含めて光の粒になって消えたのを確認すると、私は短剣を腰ベルトの鞘へと挿した。


「さて、それじゃダンジョンマスターがどうなってるか確認しなきゃね」


 現れた宝箱の中身をじっくり確認することもせずに腰ベルトに収納すると、奥へと続く通路へと足を進めた。




 案の定、ダンジョンマスター自身も汚染されていて、まともな会話すら成り立たなかった。

 どうしたものかと思案した上で聖浄化(ホーリークリーン)を使ったところ、上手く浄化することができたのでダンジョンコアにMPを補給してダンジョンマスターが目を覚ますのを待っていた。

 それにしても襲い掛かってくることすらなかったのは、ダンジョンマスター自身に戦闘能力がないとわかりきってるからなのかな?

 ゴランガとか、連鎖襲撃(スタンピード)の最後に出てきた黒い魔物はすごい殺気を撒き散らしながら襲い掛かってきたのにね。

 ダンジョンマスターが起きるまでの間、宝石を加工したりスキルオーブを作ったりして時間を潰していたが、鐘一つ分ほどの時間が経った頃彼女は目を覚ました。


「…あれ…? 私、生きて…?」

「起きた?」


 ソファーに寝かせた彼女は目を覚ますと辺りをキョロキョロと見回しながら上体をゆっくりと起き上がらせた。

 チーちゃんの時もこのやりとりしたけど、前回と違って少しだけ状況が改善しているので言葉に棘はないはず。


「だっ、誰ですかっ?!」


 そうでもなかったらしい。


「私はアルマリノ王国の冒険者兼貴族のセシーリア・ランディルナだよ。貴女の名前を聞いてもいい?」

「きっ、貴族?! わ、我等ダッ、ダンジョンマスターは国の思うようになんかなりません!」


 …何、この子?

 いきなり敵意全開で私を睨みつけてきたダンジョンマスターの女の子…か、どうかはわからないか。ダンジョンマスターの年齢は見た目通りじゃないことばっかりだし。

 それにしてもユアちゃんとは違った意味でコミュニケーション能力に難が有りそうだね。


「私は別に王国のために働け、なんて言うつもりはないよ。私個人のためにしてほしいことはあるけどね」

「おっ、同じことじゃないですか! 貴族は自分達の利益の為には平気でなんでも利用するのでしょう?!」

「まぁ…否定はしないかな。私は私の目的の為に貴女の力、ダンジョンの力を貸してほしいと思ってるからね」


 ここで聞き障りの良い言葉で嘘を述べるのは簡単だけど、彼女に対してそれは絶対に悪手だ。

 正直に言うことでこちらの誠意を見せる方がこの後のやり取りがスムーズになると思う。というか私はそんなに腹芸が得意じゃない。


「…貴女の言う自分のためにって、どういうことですか?」

「私は貴女のダンジョンにダンジョンポイントをあげる。それの見返りに報酬で欲しいものがあったら都合してほしい。それと私や家の使用人達の訓練にダンジョンを使わせてほしい」

「ダンジョンで訓練って…正気ですか? 死んだらダンジョンに吸われるんですよ?」


 確かにダンジョンで死ぬとダンジョンに遺体ごと吸収されるんだけど、一応プランも考えてるし危なくなる前に引き返させれば大丈夫だろう。

 それを守れないような使用人は我が家にいてもついてこれなくなるのは目に見えている。


「それくらいの覚悟がない使用人には入らせないから大丈夫だよ。どうかな?」

「…どのみち、我のダンジョンは町から遠い。そんなに頻繁に来られるような場所じゃない」

「それも解決済みだよ」


 ちなみに予めメルに二つのダンジョンが合体出来るのか、その場合どんなことが起きるのかは確認済みだ。


「どのみち、貴女ここにいたらまた汚染されて連鎖襲撃(スタンピード)起こしてダンジョンポイントが無くなって消滅しちゃうよ?」

「それは…避けたい、です。わかりました、貴女の言うことを信じます」

「よし、じゃあ早速準備しよっか!」




 そこからは早かった。

 新しいダンジョンマスター、レニマジム…愛称レニちゃんをチーちゃんもいるダンジョンへと連れていき、早速ダンジョンを生成。

 私の屋敷の地下には二つのダンジョンが生まれた。

 それらは内部で往き来出来るようになっているが、ダンジョンポイントはどちらのダンジョンに入っても加算される。

 デメリットはやたらと広いことだけど、下層へ続く階段は入り口の近くに配置してもらったので攻略自体は簡単だ。

 通常のダンジョンと違って報酬をもらうことに重点を置いてるため、魔物を倒してもドロップアイテムなんかは手に入らないこともデメリットと言えるかな?

 それと二人のダンジョンマスターで運営しているので、ダンジョンの内部はかなりカオスな状態になってしまっている。

 まぁこのくらいは別にいいよね。


「とりあえず、一段落かな」

「あの二人はすごく事務的にダンジョンを運営しているから管理しやすいのだ。ユアゾキネヌとは大違いなのだ」

「まぁまぁ。ユアちゃんはユアちゃんで頼りになるんだからさ」


 結局ダンジョンの報酬自体はダンジョンのランクによって異なるため、ユアちゃんと同じものを用意してもらうにはそれなりに時間がかかりそうだった。

 それでも私が必要としていた物は手に入れることが出来ているので、チーちゃんとレニちゃんの二人は今後に期待ってことで。


「それで、今の進捗はどうなのだ?」

「ようやく白竜王に言われたものは用意出来たと思うよ」


 『変身』スキルは村の北にあったダンジョンで。『出力制限』はチーちゃんから。『感覚共有』はユアちゃんに用意してもらった。

 それぞれ毎日経験値1000倍でスキルレベルを上げたから、かなり使えるようになっている。

 先日はステラの前でステラに変身したら怒られたけど、ステラを私に変身させたらしばらく姿を見せなかった。

 そんなに私の姿になるのって嫌なのかな?

 それとも主人と同じ姿は不敬だとか?

 気にしないのにね。

 出力制限も私が使ったことでタレントによる能力低下や上昇をコントロール出来るようになった。

 これは目を覚ましたユーニャにも使ってもらったので、ちょっとだけ安心した。

 ちなみにユーニャは目を覚ましたけど、自分が進化したことに戸惑っているのとうまく体を動かせないせいで療養中という名目で私の部屋のベッドにいる。

 あれから少しばかり日にちが過ぎ、新年まではもうあと五日しかない。


「今日はこれから地下で研究なのだ?」

「そう、だね。時間もないし、アイカ達もまだ帰ってこないから出来ることは全部やっておかないと」


 私がやらなきゃいけないことはあと一つだけ。

 これさえ完成すれば、今回の件はスムーズに終わらせることが出来るはずだ。

 アイカ達に頼んだ用事はうまくいけば最高だけど、失敗してもなんとかなる。


「よし、じゃあ始めよっか」


 私はメルと二人で地下に続く階段へと向かった。

 屋敷のことはステラとセドリックに任せっきりだけど、今のところは特に大きな問題も起こってなさそうだ。

 蒼の血族のメンバーと思われる人達が連日やってきてるみたいだけど、警備を担当してるミオラからも困ったことは起きてないと聞いている。

 これでユーニャが元気に、というか普通の生活が出来るようになってくれれば言うことなしなんだけどなぁ。

 地下の研究室に入ると、私は早速自分の左腕に着けたオリハルコンのバングルを外してテーブルに置いた。

 このバングルにはこの数年、私のMPを大量に注ぎ込んでいるので世界にあるどの魔石よりも多くの魔力を有している。

 そして、それこそが今から行う研究には必要になる。


「さぁ、やらなきゃね。私の、私だけの眷属を作り出すために!」

今日もありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >ステラを私に変身させたらしばらく姿を見せなかった。 >ユーニャは目を覚ましたけど、自分が進化したことに戸惑っているのとうまく体を動かせないせいで療養中という名目で私の部屋のベッドにい…
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