第345話 ユーニャのステータス(17歳)
「はぁっはぁっはぁっ!」
荒く息をついているのは暴走しているユーニャだ。
私も軽く息は切れているのはユーニャの攻撃を全て避け続けているため、精神的な摩耗によるものだ。
一撃でも受けたら戦闘不能に陥る可能性が高く、全ての攻撃を避けるか逸らすかしなければならない緊張感は私の神経をすり減らしていく。
それでもようやく終わりが見えてきた。
ユーニャの力はかなり衰えてきて、今は普通に受け流すことが出来るようになってきたからだ。
あくまで受け流すだけでまともに受け止めたらまた骨くらい折れる。
「さすがにそろそろ終わりにしてほしいんだけどな…」
「一度完全に力を使い切るまで無理なのだ。あの様子ならもう三分ももたないのだ」
三分って言うけど、本当にきつい。
邪魔法の状態異常系のものは一切効かない上に、結界魔法で閉じ込めようにも動きが速すぎるし、多分力ずくで粉砕しちゃうと思うから、ずっと身体能力のみで回避し続けている。
「はぁっはぁっ…あぁっ!!」
息を止めてこちらに突撃してきたユーニャ。
余裕を持って回避しようとすると無理矢理体の軌道を変えてくるのでなるべくギリギリで避けないといけない。
そして突撃をやり過ごしたところで私も攻撃していく。
「電撃魔法 雷神槍墜撃!」
頭上から落ちてくる雷神の槍にユーニャの身体が貫かれる。
脅威度Aの魔物すら一撃で葬る威力がある魔法なのに、ユーニャの身体を一時的に止めるくらいの効果しかない。
メル曰わく、『黒乱気』の効果で魔法に対する抵抗力が大幅に上がってるとのこと。
ただでさえ魔人は魔法抵抗が高いのに、更に上がっているためあまりダメージが通らないけど、これ以上強い魔法だとユーニャを殺してしまいかねない。
「がああぁぁっ!」
ドグッ
「っつぅっ?!」
少し意識を逸らしただけでユーニャの拳を受け止めてしまった。
辛うじて右腕で受けたものの、やはり骨を折られてしまったみたいで激痛が走り抜ける。
「もうっ! これで終わって! 爆発魔法 暴発領域!」
ズドドドドドドドドッ
魔法を放つと数瞬置いた後に自分の周囲が連鎖的に爆発していく。
いくらユーニャが早くても面での攻撃にはまだ対処出来ず何度も爆発に巻き込まれ、土煙の中に消えていく。
ズアッ
しかしそのまま倒れることなく、土煙を吹き飛ばしながらユーニャは私目掛けて突っ込んできた。
速度はそれほどでもないけど、私も右腕の治療が出来ていないので咄嗟の反応が遅れた。
「はあっ!」
ゴキンッ
「いぎっ?!」
なんとかギリギリ左腕で防いだものの、肘の近くで受けてしまい衝撃で肩が脱臼してしまった。
マズい。
そう思った時、私の目には次の攻撃を繰り出そうと腕を振り上げているユーニャの姿が映った。
「はぁぁぁぁ…」
結局、ユーニャは最後の一撃を繰り出すことなく、その場で倒れてしまった。
もしあの攻撃を受けていたらきっと私も無事じゃ済まなかった。
今は倒れたユーニャを膝枕しつつ、自分の腕を治療しているところだ。
左肩が外れたのを治した時には悲鳴が出そうになったけど、右腕の骨折も治すのに時間がかかっている。
「それにしても何故『戦帝化』を使わなかったのだ?」
「それを使ったら私のレベルが下がっちゃうでしょ」
実は戦闘の途中で思いついたことがあって、申し訳ないと思いつつもユーニャで試させてもらっていた。
「それがユーニャとパーティーを組んで『神の祝福』のロック解除をしたことと関係あるのだ?」
「前にユーニャと心の中でケンカしたことがあるんだけど、その時ユーニャのレベルがすっごい上がったんだよ。ひょっとしてレベル差が大きいほど戦闘後に上がるレベルも多くなるんじゃないかと思ってさ」
「確かにその通りなのだ。しかしまさか戦ってる相手とパーティーを組むなど、普通はやらないのだ」
「ま、『普通』なんてものはとっくにどこかに置き去りにしてきたからね」
多少右腕の痛みが引いてきたところで、改めて周囲を見回してみる。
私達の攻撃の余波だけで、岩山は崩れ地面は陥没、その上近辺には生き物の気配すらない。
某有名漫画で主人公とエリートが戦った場所みたいな、そのくらい荒れ果てた感じになってしまった。
それでもその内魔物や動物が集まってくるとは思うけれども。
ちなみに、私達の服装も完全にボロボロだったりする。私の白いドレスは土埃や血がついて汚くなっている上に、スカートは完全に千切れ飛んで下着丸出し。何度も攻撃を受け止めた腕のグローブは手首から先を残して消失。
ユーニャに至っては申し訳程度に布が引っ掛かってるだけという状態だ。
さて。
「ちょっとユーニャごめんね」
私はユーニャに身に着けさせていた腕輪を外した。
実はこれが鑑定阻害を起こすアーティファクトで、左腕の上腕に装着してもらっていた。ユーニャが身に着けるにはちょっと大きかったせいだ。
アイカの神の眼なら鑑定阻害に影響されることはないのだけれど、これを外すことで私にもユーニャの鑑定が出来るようになる。
じゃあ早速久し振りにユーニャの能力を見てみよう。
ユーニャ
年齢:17歳
種族:魔人/女
LV:2,952
HP:311,933
MP:2,287k
スキル
言語理解 6
魔力感知 6
火魔法 5
水魔法 3
風魔法 3
光魔法 6
威圧 MAX
算術 6
交渉 6
道具鑑定 7
野草知識 7
鉱物知識 7
道具知識 7
解体 5
統括 3
礼儀作法 5
宮廷作法 3
裁縫 6
料理 8
弁明 3
ユニークスキル
理力魔法 3
魔力運用 7
魔力圧縮 9
詠唱破棄 1
精神再生 8
暴虐 5
黒乱気 6
全力 5
知覚限界 5
異常無効 4
タレント
格闘マスタリー
大商人
女中
暴虐女帝
蛮勇
残虐
途閉ザス者
憤怒
滅ボス者
レベル約三千っ?!
元がどのくらいだったのかがわからないから何とも言えないけど、上がりすぎじゃない?
そりゃ進化の一つもするよね。
進化のせいだろうけど、新しいユニークスキルもあるし、いきなりユーニャが強くなった理由はこれか。
暴虐:暴力の進化スキル。スキルレベルによってより強大な膂力を手にすることが出来る。スキルレベル分五十倍化。
全力:エネルギーを消費しながら攻撃し続けるスキル。一度発動するとエネルギーを使い切るまで解除不可能。全能力十倍。スキルレベルが上がる毎に時間当たりのエネルギー消費量減少。対象エネルギーは魔力、黒乱気。使用後はエネルギーが全快するまで行動不能。
黒乱気:体内にある魔力とは異なるエネルギーを扱うことが出来るスキル。上位種族の証。
めっちゃくちゃ脳筋になってないっ?!
暴虐と全力。この二つがあったから私よりもかなり低いレベルのユーニャでも私にダメージを受けさせるくらいの攻撃が出来たってことだよね…。
暴虐のスキルレベルが今5だから、既に暴力の時よりも力が強くなっている。
ユーニャに渡している過重操作の魔石一つで十倍の重さに出来るものが五つ。アダマンタイトのガントレットが成人男性一人分くらいなので、彼女の両手両足にはそれぞれ三トンずつくらいの負荷がかかってるはずだけど…二百五十倍にもなったユーニャの力の前では心許ない。
これは、ちょっと方法を考えないと駄目かな。
私みたいに能力に制限がかかるタレントでもあるなら別だけど…。
見たことのないタレントがあったし、あれが能力を制限してくれるものなら日常生活で困ることも無くなるかもしれない。
「そうだ、そうだよ。ユーニャのタレント…うぇっ」
見覚えのあるタレントがいくつもある。
これ、魔王に進化するのも時間の問題なんじゃないかな。それに…。
暴虐女帝:力奮い全てを薙ぎ払う者。戦闘中の能力が倍化する。
これデバフじゃないじゃん。
能力が上がるだけのやつだ。
本格的に何かしら対策を考えた方が良さそうだ。
「でも、こんなこと誰に相談したらいいんだろ。ユアちゃんかな…」
「何を相談するのだ?」
「私はまだしも、ユーニャの力が強くなりすぎて日常生活に支障が出そうなんだよ。だからそれを何とかする方法」
「ふむ。わっちは制限してくれるようなスキルなら知ってるし、どうやったら身に付くかも知ってるのだ」
「そうなのっ?!」
「しかし今回の場合は生まれつきや別の上位種族に進化することが条件だから無理なのだ」
むぅ…。役に立ちそうで立たないね。
それでもユーニャのスキルについてわかるだけでも全然違うけど。
「必要なものがあればユアゾキネヌから強奪すれば良いのだが…あまりアレとの関係を悪くしたくないなら自分のダンジョンを持った方が良いかもしれないのだ」
「嫌だよダンジョンマスターなんて。ダンジョンから出られなくなるんでしょ」
「自分の子飼いのダンジョンマスターを作れば良いのだ。方法はいくつかあるのだ」
それはいいかもしれない。
欲しいスキルや魔法関係の書物なんかはダンジョンマスターがダンジョンポイントを使って得られるものにはかなり有用な物が多いからね。
まぁでも今はそれどころじゃないからとりあえず置いておこう。
「あとは…そういうスキルとかに詳しい人なんていたっけ。アイカやクドーもそこまで詳しいわけじゃないし…」
「それなら人じゃないが詳しい者がいるのだ」
「え、いたっけ?」
「白竜王なのだ」
白竜王?
ドラゴスパイン山脈の山頂に隠れ住んでる人の言葉を話す竜だよね。
世界を監視だか観察だかしてる竜で世界には同じような竜が何匹かいるって話だった。
確かヴォルガロンデと会ったこともあって、彼が私と同じような宝石好きだったことも教えてくれた。
それが二千年前。
なるほどかなり長生きだし、この世界のこともスキルのこともいろいろ知ってるのは間違いないね。
ただ…。
「前に聞こうとしたら私に『権限』がないからって教えてくれなかったじゃん」
「それは世界のことを聞こうとしたからなのだ。スキルのことや技術の相談で、世界に関わることでなければ答えてくれる可能性はあるのだ」
むぅ、一理ある。
ユーニャのことは放っておけないし、年明けまでそんなに時間があるわけじゃない。
ここは藁にも縋る思いで聴きに行ってみてもいいかもしれない。
「わかった。じゃあ一度ユーニャを屋敷に連れていって、ちゃんと寝かせたら行ってみようか」
「ステラにちゃんと事情を話しておけば数日くらいなんとでもなるのだ。ちゃっちゃと行くのだ」
いらっ。
生意気なことを言うメルを軽くドリブルした後、私はユーニャを抱きながら屋敷へと転移していった。
今日もありがとうございました。




