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閑話 ユーニャの異変

予約しないまま寝落ちしてしまいました…。

話の続きが気になるところですが、ちょっと官話です。

 セシルが視察から帰ってきて数日が過ぎていた。

 初日はもう抑えきれなくてほとんど襲うくらいの勢いでセシルをベッドに押し倒したもん。

 でもさ、あれはセシルも悪いよ?


「すごく恥ずかしいんだけど…私もユーニャといっぱいしたい」


 なんて言われたら我慢出来るはずないよ!

 うふふ、あの可愛い子が私の恋人なんだよ?!

 世界中に自慢したくなっちゃう。

 しかも子どもの頃からずっと好きだったセシルだよ。

 今や貴族、それも伯爵と同じ立場の、しかも初代当主!

 すごいよねぇ。やばいよねぇ。


「ユーニャさん、さっきからニヤニヤしてますけどどうかしたんですか?」


 カーバンクル王都本店で働いている従業員の一人が執務机で書類仕事をしていた私に声を掛けてきた。

 この商会では従業員は全員仲間に対して丁寧な言葉で話すきとと『さん』付けすることを義務にしている。

 これは商会長である私にも適用されるので、私も彼ら彼女らには『さん』付けで呼ぶことになっている。


「イリオさん、何でもないですよ。ちょっとした思い出し笑いなので」

「えぇぇ…どうせまたセシーリア様のこと考えてたんじゃないんですか?」


 図星です。

 そう、ここではセシルのことだけは『様』付けすることになっている。

 本人は嫌がったんだけど、彼女は貴族だからね。強制しました。

 ちなみに『さん』付けで呼ぶ規則を作ったのはセシルだったりする。

 理由は仲間意識を高めるためって言ってたけど、どれほどの効果があるかはわからないねぇ。


「まぁ…そう、ですね」

「きゃぁぁぁっ! セシーリア様ってユーニャさんにはどんな感じなんですか?! お姉様みたいな感じで『かわいいよ』とかいってくれるんですか?! それで頭撫でてくれたりとかっ?!」

「ちょ、ちょっとイリオさん、落ち着いて…」


 やたらと興奮するイリオさんは手に持った書類に皺が寄るほど強く握り締め私に詰め寄ってきた。

 彼女、仕事は出来るんだけどこういう話に目が無い。なんでも国民学校時代に同級生に『お姉様』を持った人がいたらしく、いつもいろんな話を聞かされていたんだとか。


「…セシーリア様に頭を撫でてもらったことなんて、それこそ子どもの頃の話ですね。あの頃から物凄く頭が良くて、とても強くて、とにかくいろんなことが出来る人でしたから」

「そういえばセシーリア様って元々平民ですもんね。すっかり貴族らしくしているので全然そんな感じしませんけど」

「ふふっ、それセシーリア様に言ってみたらどうかしら? きっと喜んでくださるわよ」

「えぇっ?! そ、そんな無礼なこと出来ませんよぉ!」


 私ならそんなことでセシルが怒るわけないのはよくわかってるけど、イリオさんにわかるわけもないしね。

 本当に言ったらきっとすっごく喜んでボーナスの一つでも出してくれると思うけど。

 イリオさんの実家はイーキッシュ公爵領北部にある町で、ごく普通の平民だったはず。数ヶ月に一度両親へ決まった額のお金をブリーチさんに渡して届けてもらっている。

 なかなか親思いの良い子だと思う。


「ちなみにユーニャさん、セシーリア様と一緒にお屋敷に住んでますけど、普段はどんな感じなんですか?」

「イリオさん? そういうことを聞く方が無礼だと思いますよ? それに、そろそろお仕事しませんか?」

「えぇ…はぁい」


 やれやれ。

 良い子だけど、ちょっと困った子だね。

 セシルは気に入りそうだけど。

 けど、あの調子で問い詰められたらセシルのことだからポロッと本当のこと話しちゃいそうで怖いなぁ。

 本当は頭撫でたりなんてことより、もっともっとすごいことしてる、なんてことがバレたら職場に行きづらくなっちゃいそうだ。

 握り締めて皺が寄ってしまった書類を必死に伸ばしながら仕事に戻ったイリオさんを苦笑いしながらぼぉっと見つめていた。




 今日はいつもより遅くなってしまった。

 すっかり遅くなり、暗くなった王都の町を屋敷へ向かって急ぎ足で歩いていた。

 普段は屋敷に戻ってから仕事の残りを片付けるのだけど、今日ばかりはその手が使えなかった。

 帳簿を付けるのは最近イリオさんに任せているし、発注関係はそれぞれに担当をつけて責任持ってやってもらっている。確認はするけども。

 でも今日の仕事はセシルへのプレゼントを兼ねていたからどうしても屋敷では出来なかった。折角だし、びっくりさせてあげたいからね。

 カーバンクル商会も大きくなって、既に支店は二つ。今後はもっと大きくなっていくだろう。

 自由に使えるお金も増えて、好きなように投資も出来る。

 そんな私だから出来ることを。

 胸の前で手をぎゅっと握り締める。

 これは、もらってばかりの私からの、せめてものセシルへの恩返しだから。

 決意を胸に、そんな思いを抱いていた私は屋敷へと続く道を急いでいた。

 国民学校の寮の前を過ぎて、後は真っ直ぐ道なりに。けどそこは灯りがほとんどない夜道。

 さすがにちょっとだけ怖くなって、背中にぞくりとした寒気を感じた。

 こんなことなら護衛にロジンかオズマを呼んでおくんだったかな。


じゃり


 暗い気分で溜め息を吐いていたところに、前方から誰かが現れた。

 心配してくれたロジンかオズマが本当に来てくれたのかと思ってちょっとだけ嬉しくなった。


「ロジン? それともオズマ?」


 明るく声を掛けて二人のどちらかが気の利いた言葉を返してくれることを楽しみにしていた。


じゃり じゃっ


 しかし二人からの返事はない。

 それどころか相手は一人二人ではないようで、近付いてきたことでようやくその姿が浮かび上がってきた。


「っ! 誰っ?!」


 聞いたところで答えてくれるとは思っていなかった。

 顔を黒い布で隠し、服装も夜闇に紛れるような黒い服。

 明らかに楽しいお話をしてくれるような様子ではない。

 どっちにしろ男からの誘いなんて絶対にお断りだけど! 私にはセシルさえいればそれでいいんだから!


シュッ


 警戒していた私の頬を何かが掠めた。

 何かしらの飛び道具を使われたのだと思うけど、セシルの魔道具をたくさん身に着けている私には並みの刃物が直撃しても傷一つつけられない。


「危ないことするね。私ならそんなものでも脅えさせて捕まえられるとでも思った?」


 私は両手のガントレットと両足のグリーブにつけた魔石の効果を()()()()解除した。

 途端に手足の動きが軽快になり、少しだけ動こうとした私の思いを置き去りにして体が前に出てしまっていた。


「っ?!」


 驚いたのは私だけじゃなく、黒ずくめの四人組もだった。

 すぐに一番先頭に立っていた人の片手を左手で掴み、その腕を背中に回して制圧しようとした。

 そうするつもりだった。


 ブチブチブチッ


「いっぎぃああぁぁぁぁあぁっ!!」


 けれど相手の身体は思ったよりも頑丈ではなく、その腕を肘関節から捻り切ってしまっていた。

 飛び散る血が私の頬にかかるけど、あまりの出来事に呆然として拭うことすら忘れていた。

 突然の激痛に絶叫を上げる男。

 地面に転がりながら無くなった腕を押さえながら叫び声を上げ続けている。


「…うるさいっ!」


 ゴキョッ


 あまりに煩く喚くものだから、苛ついて呆然としていた意識が戻ってきた。

 黙らせようとして地面に転がる男の顎を軽く蹴ったつもりだった。

 しかし思った以上の力が入ったせいか顎関節ごと粉砕してしまい、男は気を失った。

 多分死んではいないと思う。

 なんか私セシルに似てきた気がする。


「…私ならなんとかなると思った? これでもなんとかなりそう?」


 周囲を三人の黒ずくめに囲まれたままだけど、このくらいの相手ならわざわざ警戒するほどでもないのかも?


「ユーニャ! 伏せて!」


 その時、屋敷の方から聞こえた声に従ってその場にうずくまるようにしゃがみ込んだ。

 直後、頭上を通り過ぎる衝撃波。

 次に顔を上げた時には黒ずくめの三人組は全員倒れていた。


「…ありがとうミオラ。でもなんでここに?」

「あまりに遅いから迎えにきたのよ。まさかこんなに屋敷に近い場所でユーニャが襲撃されてるなんてね」


 ミオラは私の近くまでやってくると、真っ白いハンカチを手渡してくれた。


「顔に血がついてるわ。セシルが心配するから拭っておきなさい」

「えぇ、ありがとう。でもセシルも気付いてるんじゃない?」

「どうかしら? さっきまで打ち合わせでカンファ殿と話していたわよ。私は貴女を迎えにいくって言って抜けさせてもらったけど」


 セシルもなかなかに仕事中毒で、集中して仕事していたり、濃い内容の打ち合わせをしてる時なんかは周りの様子に気を配れない時がたまにある。

 ちょうどそのタンミングだったら私の危機だったとしてもこの場に来れない可能性もある、かぁ。

 なんだかちょっとだけ寂しいかも…。

 

「余計な心配かけるよりも、いつも通りにしていた方があの子も喜ぶわよ」

「そう、だね。うん」


 そして近くにはもう変な気配はしないけれど、とりあえず屋敷の敷地内までは護衛するというミオラと一緒に暗い道を歩いていくことになった。

 ちなみに襲撃してきた黒ずくめの四人組はミオラがロープで縛って引き摺っている。

 敷地内に入るとすぐにミオラはステラを呼び出し、襲撃者達を預け、自分はセシルに報告してくると言って先に戻っていった。


「はぁ…」


 不意に漏れた溜め息。

 多分あの四人組くらいなら私一人でも対処は出来たと思う。

 でも咄嗟に動けなかったら一緒かなぁ。

 それに、狙うところが悪かったらさっきの人達なんて一瞬で挽き肉にしてたと思う。

 私はもう一度右手のガントレットについている魔石を一つだけ操作して過重操作を解除すると魔法の鞄から一本のインゴットを取り出した。

 そして徐に握り締めると、インゴットはまるで粘土のようにぐにゃりとその形を変えてしまった。

 以前は魔石を全て解除しなければこんなこと出来なかった。

 そもそも過重操作だって三つも付ければ重くて思うように動けなかったのに。

 それが今や両手両足に五つずつ身に着けて、それでも尚慎重に動かすよう努めている。

 私の身体ってどうなっちゃったんだろう?

 何か悪いものにでも取り憑かれちゃったのかな?

 こんなのセシルにも相談出来ないのに、どうしたらいいんだろう。

 私、こんな『暴力』なんて力、欲しくなかったよ…。

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >何か悪いものにでも取り憑かれちゃったのかな? >私、こんな『暴力』なんて力、欲しくなかったよ…。 ユーニャ「チカラisパワー!      やはり暴力……!! 暴力は全てを解決する……!!…
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