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第335話 アネットも引き入れ

研修と出張で全然書けません…。

 ミックとアネットと話しながら待っていたけど、下級文官が私を呼びに来てしまったので執務室へと戻り、重なる書類と格闘していた。


「ねえセドリック」

「なんでしょう」

「この『蒼い血族』って団体からの招待状って、何? 招待状は基本断るように言っておいたはずだけど」

「私も存じ上げませんでしたが、貴族家の若者達が集まり意見交換などして国を盛り上げていこうとする者達のようです」


 貴族の若者?

 馬鹿者の間違いじゃなくて?

 それってあれでしょ?

 陛下主催の夜会で私にちょっかい掛けてきたあの僕ちゃん達みたいな集団。

 というか、あの様子を見て私に招待状送ってくる神経がわからないよ。


「こんなの出るわけな…」

「その集団の主催はディルグレイル第二王子殿下だという噂がございます。現にイーキッシュ公爵の長男、次男ともに頻繁に参加なさっているようです」

「…ひょっとして、影ギルドの調査にあった集会って」

「恐らくは。この招待状は一年ほど前から何度か届いておりましたが、セシーリア様から招待状は基本的に断りの返事を出しておくように言われておりましたので」


 けど影ギルドからの報告書を読んで、私の目に触れるよう書類の束に紛れ込ませていたってわけね。

 本当にこのナイスミドルは仕事が出来過ぎる。


「集会は七日後ね。今回は参加すると返事をしておいて。それとミオラを同行させるから休みと重ならないよう調整して」

「いえ。今回はユーニャ様をお連れになるのがよろしいでしょう」

「ユーニャを? なんで?」


 ユーニャは私の護衛なんて出来ないし、従者として訓練を受けたわけでもない。


「ユーニャ様はこの家にいる者であれば皆が認めるセシーリア様のパートナーでございますから」

「パッ?! ちょ、え、待って待って! なんで…」


 持っていた招待状を放り投げて勢いよく立ち上がった私をセドリックは「何を今更」という目で見下ろしてくる。


「ユーニャ様は毎夜セシーリア様の寝室にてお休みになっておいでですからな。貴族に同性の愛人というのは珍しくありませんが、部屋に招き入れるのは相応の相手。ただの火遊びであれば相手の部屋に行くものでございます。それとも、ユーニャ様とはそういう関係ではないと?」

「…いや、そういう、関係だけど…。でも跡取りのこととか、みんな気にするかもしれないと思って内緒にしとこうかなって…」


 いたずらが見つかった子どものようなゴニョゴニョと話す私に対してセドリックは至って冷静なまま話を続けた。


「出来れば男性の相手を見つけて跡継ぎをお作りになるのが最善ではございますが、いざとなればディッカルト様もいらっしゃいますし、養子を取ることも出来ます。何も珍しいことではございません」

「そう、なの?」

「はい。ですから、今後カーバンクル商会をより強固なものにするためにもお二人の関係をそれとなく周知させておけば良いのです」

「それとなく?」

「パーティーに同性の同伴者がおり、仲睦まじい姿を見せれば相手はいかようにも勘違いなさいます。実際問われたら肯定も否定もなさらなければ良いだけの話」


 むぅ…。

 確かに護衛としてではなく、パートナーとして連れていくならパーティー会場にも一緒に入れる。

 私一人でいろいろ話を聞いたりするよりもユーニャと一緒にいれば今後の展開にも幅が広がることは間違いない。

 あぁでも、ディック、イーキッシュ公の件についてセドリックにだけは伝えておいた方がいいかもしれないね。今後の我が家の方向性を決める時にも彼の話はやはりかなり参考になるし。

 けどまぁ、それは今じゃなくていい。


「…じゃあ、この招待状には参加するってことで返事をしておいて。ユーニャには私から説明するから」

「承知致しました」


 なんかセドリックにいいように丸め込まれた気がしなくもないけど、言ってることは正論だし、情報は多い方がいい。

 パーティーに参加したからって私が第二王子派に与したと公言するわけでもないから、決してどちらの陣営の肩を持つとかって話だけはしないようにしなきゃね。


「それと、セシーリア様が呼ばれておりますので今回はわかりませんが…彼等は全員男性であり、連れてくる女性は全て夜会後の肉宴用と聞いております。セシーリア様もですがユーニャ様もそのような者達と同等に扱われませぬようお気をつけ下さい」

「肉宴って…なんか嫌な言い方だね。わかりやすくていいけどさ。私はそういう目で見られるのは慣れてきたけど、私の目の前でユーニャにちょっかい出されたら……パーティ会場を灰にするかもしれないね…」

「お気をつけください」


 あ、ハイ。

 灰と掛けたわけじゃないよ?

 しっかし面倒だなぁ…。けど重要な手掛かりを得られるかもしれないし、参加しないのはちょっと勿体ないし…あぁ、面倒臭い。




 セドリックとの仕事を終えて応接室へ向かう途中、ちょうど帰ってきたユーニャと合流した。

 どうやらカンファさんは既にやって来ていて、話をしているみたいだ。


ガチャ


「お待たせ」

「やぁセシル。先に少しばかり話をさせてもらっていたよ」

「問題ないよ。ちょっとこっちの仕事も重なっちゃったからね。さて…改めて紹介させてもらうね」


 私はアネットとミックに最近王都で急成長しているヴィーヴル商会の商会長であるカンファさんを紹介した。既に自己紹介をお互いに終えているからあくまで形だけだけど。


「で、こっちはユーニャ。ユーニャ、ミックの隣にいるのがアネットだよ」

「久し振りだね、アネット」

「久し振りー。ユーニャはすっかりセシルのお気に入りで側近でもやってんの?」

「側近じゃないけど…まぁ、その…気に入ってはもらってる、かな…」


 ぼそぼそと最後の方はあまり聞き取れなかったけど、アネットの言うことを肯定していたのは間違いない。

 ちょっとユーニャさん? そんな真っ赤になってモジモジしてたら何も言わなくてもみんなに伝わっちゃうんじゃないの?


「…あー…ごめん、本当に気に入っちゃってたのね。まぁ懐かしい話はまた後でするとして、先に仕事の話しちゃいたいんだけど」

「アネットから話振ってきたくせに…はぁ。それじゃカンファさん」

「あぁ、さっきの話の続きをさせてもらうよ。途中で補足があればセシルやユーニャさんから話してくれるかい?」

「ユーニャから?」

「ユーニャさんはランディルナ至宝伯家が抱える二つの商会のうち、カーバンクル商会の商会長だよ」


 アネットは信じられないと言わんばかりに大きく目を見開いてカンファさんとユーニャを交互に見回していた。

 というかミック、話してないの?

 そう思ってミックを見てみると…うん、ただ単純に伝え忘れてたみたい。

 顔全体に焦りが見てとれる。


「ま、まぁいいわ。ふ、ふぅん…そっかぁ…」


 落ち着きを取り戻したように話すアネットだけど、どうも視線の動きがおかしい。

 あれは人物鑑定を使ってる時の視線だね。

 私は早い段階でアドロノトス先生に視線の動きを矯正されたから不自然にならないように出来るけど、アネットはまだそれが出来ていない。

 今日から屋敷に入るのだし、そのあたりをちょっと矯正してあげた方がよさそうだ。

 ただねぇ…。


「ん、あれ?」

「…アネット。ユーニャに鑑定は使えないよ」

「え、なん…まさか?」

「当然」


 ユーニャにはしばらく前から鑑定を妨害するアーティファクトを身に着けてもらっている。

 資金難になっていた子爵家から買い取ったものだ。

 ちなみにもう一つ伯爵家から買い取ったものもあるけど、そちらはカンファさんの実の姉であり、護衛でもあるベルーゼさんに身に着けてもらっている。

 彼女にもいろんな装飾品を身に着けてもらって能力を底上げ…いや、爆上げしてある。

 そういえばユーニャの鑑定は最近私もしてなかったっけ。

 たまには鑑定させてもらおうかな。


「はぁ…さすがセシルが手元に置いてるだけあるよ。この理不尽ぶりは昔と変わらないけど、それが懐かしいよ」

「どうも。それじゃ早速話を進めよう」


 いい加減そろそろ話を詰めていかないとカンファさんの時間が無くなってしまう。

 彼もかなり忙しい身だから、あまり長く拘束するとそれだけヴィーヴル商会に影響が出る可能性がある。

 それからカンファさんから引き継ぎという形でアネットに事業の説明をしてもらった。

 いきなり代わるのではなく、徐々に移行していく形にするのはヴィーヴル商会が貴族の顧客を多く抱えているためだ。

 当然そうなるとヴィーヴル商会の売上は相応に落ちることになるわけで。

 気になった私は話が一段落したところでカンファさんにそのままの質問をぶつけてみた。


「はぁ…。セシル、前に話しただろう? そのうちすべての商会を統合しようと。そうなればヴィーヴル商会もカーバンクル商会も、アネットさんがこれから開く商会も全て関係無くなる。私一人でその全てを切り盛り出来ると思うほど私は傲慢ではないよ」


 おぉ…大人な意見だ。

 私はてっきり今回アネットに譲り渡す部門の売上が落ちた損害を補填するような何かを提示させられるのだと思ってたよ。


「勿論、全ての商会が統合された暁には相応に相応しい立場を用意してくれると思っているがね」


 …うん、ちゃっかりしてる。

 それでもちゃんと提示してきてくれるだけ、私を信用してくれているって思うことにしよう。

 彼だって一流の商人なんだし、そのくらい求めるのは当然のことだしね。


「あぁ、ちなみにブリーチさんにも話はしておいたから、あとはセシルがやると決めればいつでも実行可能だから」


 根回しもさすがです。

 ニコニコしながら話す様は全くわからないけど、その腹の中…いや、頭の中にはどれだけの計画や企みを抱えてることやら。


「ブリーチさんて?」

「私のお店に商品を卸してくれてるモンド商会の商会長だよ。王国内のあちこちに行っていろんな商品を仕入れてきてくれてるの」

「へえぇ。じゃあその人が流通部門を統括することになるの?」


 流通部門って…何気にアネットが商人としての知識を持っていてびっくりしたよ。

 この子は国民学校とかに通ってたわけでもないのになんでこれほどの知識を持ってるんだろう?

 もしかしたら転生者かなと思ってみたりもしたけど、普通に私が鑑定出来た時点でそれはない。

 多分、いろんな人と床を共にしながらたくさん話を聞いたり、それを元にたくさん考えたり調べたりしたんだろうね。

 とにかく元々頭の回転は早い子だったけど、これは予想以上の人材かもしれない。

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >『蒼い血族』  ブルーブラッドねぇ。  いわゆる貴族以上の地位の者は特別な存在だってのを言い換えた言葉だったと思うけど。  ……実際の語源は日焼けしない肌に浮かぶ、静脈を指して言ったとか…
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