表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
336/578

第313話 スーミの勧誘

予約忘れてました!

 王都の屋敷でいろいろ仕事を片付けた後、私は再びゴルドオード侯爵領へ戻ってきた。

 すぐに鉱山に向かうわけでなく、スーミの様子を確認するために。

 本当はもう少し片付けてしまいたいことはあったんだけど、屋敷で済ませられることが研究くらいしかなくなってしまったからね。リーゼさんのところとか、ザガンのところとかいろいろ行っておきたかった。

 あぁでもユアちゃんのダンジョンだけはこっそり行ってきたよ。まだしばらくいつでも来られる状況にならないけど、今度スライム達の研究に付き合ってってお願いするためにね。

 なんか顔を赤くしてやたらともじもじしてたけど、今回はそこまで長く会いに行かなかったわけじゃないから人見知りが酷くなったってことはないだろうし?

 よくわからないけど、ちゃんと待っててくれるはずだから、視察が終わって一段落した時にはちゃんと時間を取って研究に取り組もう。

 そんなわけで今は一人でてくてくと、ではなくしゅたたっと走ってスーミの村の前までやってきたよ。


「やぁ。久しいな」

「……あっ、アンタ…じゃなくて、貴女様はっ!」

「…無理して敬語なんか使わなくていい。それより村長に用があるんだが、通してもらっていいな?」

「はっ、はい! どうぞお通り下さい!」


 妙に畏まる門番のおじさんの横を素通りして村の中に入れてもらった。

 村は前と同じで特に騒ぎが起きてる様子はない。

 あれから帝国の兵士達は一網打尽にしたからこの領地内で誘拐事件が起きることはないと思うけど、捕まえ損なったのがいると思うから用心はしていてほしいところだね。

 私は既に知った村ということもあり、時空理術のマップも使いながら村長の家へと足を向けた。

 ここだけは他の家よりも大きいので近くまで来ればすぐにわかる。


「あっ、セシルさん!」


 聞いたことのある声に名前を呼ばれたので振り返ると、そこには薬草の入った籠を持ったスーミが立っていた。

 あれから三日くらい経ったからか、今ではかなり血色も良くなって表情にも明るさが溢れている。


「こんにちはスーミ」

「はいっ! セシルさんがあれからすぐいなくなっちゃったから私、お礼もちゃんと言えてなくて……って、貴族様を名前で呼ぶなんて失礼しました! え、えっと…こういう時ってなんて言えば…」


 最初は勢いのまま話してくれていたのに、私が貴族であることを思い出したせいで途端に歯切れが悪くなってしまった。

 元気な様子もなりを潜め、今はただ狼狽えているばかりだ。


「相手が貴族の当主だったら『閣下』って言えばいいんだよ。奥さんには『奥様』、子どもには『ご子息様』、女の子なら『お嬢様』。家の名前がわからない時はそれでいいかな」

「あっ、ありがとうございますか、『閣下』…」


 とは言え、スーミにはずっと『セシル』って呼ばせてたからちょっと違和感があるね。

 さて、ちょうどよく本人に会えたからこのまま一緒に村長に会いに行こう。


「スーミ。ちょっと付き合ってもらうよ」

「え? は、はい」


 私はスーミを引き連れて村長宅の玄関まで行くとドアを強めにノックした。


ドンドンドン


「村長いるか?」


 そうして呼び掛けてみたけれど、中からの返事はない。家にいることはわかっているから居留守かな? 何でそんなことしてるかはわからないけど…同じ部屋で奥さんと思わしき人とぴったりくっついているのが理由かな。

 邪魔するつもりはないけど、私もこの村に長居するつもりもない。


「村長いませんか? 私中に入って見てきましょうか?」


 後ろで様子を見ていたスーミは私の横から玄関のドアを開けようとしてきたので、手を横に広げて彼女が勝手なことをしないように後ろへ下がらせた。

 これで中に入ったら帝国兵達にされたことといい、トラウマになるようなことはなくても男女の交わりについて嫌悪感を抱くようになるかもしれないからね。


「スーミ、いいよ。それよりここから大声で呼んだ方がいい。私が大声を出すとちょっと問題になりそうだからスーミにお願いしていいかな?」

「あっ、はい。わかりました」


 スーミは返事をしてすぐに大きく息を吸うと、村中聞こえるんじゃないかってくらいの大声で村長を呼んだ。

 すぐ近くで聞いていた私が耳を押さえるくらいなので、家の中にいる村長でもさすがに聞こえているだろう。

 これでも出てこないならさすがにいろいろ暴露してやる。


バタバタバタバタ


 っと、どうやらその必要は無さそうだ。

 家の中から慌てて駆けてくる音が聞こえてきた。

 スーミにもその音が聞こえたのか、声を出すのを止めて私と一緒に村長が出てくるのを待っていた。


バタン


「こらぁっスーミ!! なんてぇ声を出しやがるっ!」

「ひゃぁっ?!」


 しかし勢い良く出てきた村長に逆に怒鳴られてしまい、スーミが身体を縮こまらせてしゃがみ込んだ。

 やれやれ…自分が盛っていたのを棚に上げて、村の女の子を怒鳴りつけるなんて。


「村長、スーミは私に頼まれて貴方を呼んだだけだよ。そう咎めないでやってくれる?」


 そこでようやくスーミの隣に立っていたのが私だったことに気がついた村長は体を一瞬硬直させたかと思った後、びしっと兵士の敬礼を返した。


「か、かか閣下! しっ失礼しました!」

「いや…まぁいいか。それよりちょっと話があるんだけど、スーミと一緒にお邪魔させてもらえるかな?」

「は、はっ! どうぞ!」


 やたら恐縮する村長を促して、私達は彼の後について村長宅へと入っていった。

 家の奥からうっすら香る臭い。

 所謂男の臭いじゃなくて、女性から漂う臭い。なんでこんな昼間から盛ってるんだろうね。

 別にいいけどさっ。

 私がしばらく禁欲生活してるからってイライラしたりはしないよっ!

 しないったら!

 そして前回案内された応接室へと再び通されると、私が上座に、スーミと村長がそれぞれ別れてソファーへと座った。


「本題に入る前に確認しておくけど、あれから帝国の兵士が現れたようなことはないよね?」

「はっ! 閣下が本日おいでになるまでに帝国兵が現れたようなことはございません!」


 …いちいち声が大きい。

 すぐ近くにいるんだからそんな大声出さなくていいのに。

 頭に響くような声を近くで出された私は顔を顰めてこめかみに指を当てた。

 なんか本当に頭痛がしてきた気がするよ。


「とりあえず気になっていたことが起きていないようで何よりだね。それじゃ本題なんだけど…スーミを連れていきたいと思ってる」

「えっ?!」

「はっ…あ、いえ…スーミを、ですか…?」


 何も説明していなかったからだけど、スーミの方も驚いたようで村長共々私の顔を凝視してきた。

 こうなるだろうと予想していた私は一つ息をついてから続きを話し始めた。


「こうして知り合えたのも一つの縁かと思ってね。何が出来るとか、そういうのは別に良いからウチで働いてみないかって、そんな話」

「それは…私なんかが貴族様のお屋敷に行って出来ることなんて…」

「いや、しかしこれはまたとないチャンスでもありますな…。閣下はスーミに何か……はっ?! ひょ、ひょっとして閣下は…その…」


 なんか嫌な予感しかしないからそれ以上喋らなくていいよ!

 村長に視線を向けると彼も察したのか、すぐに口を噤んでくれたもののスーミは村長が言おうとした内容が気になるようで小首を傾げていた。

 どうせ『貴族様によくある同性の妾として』雇おうと思ってるのでは、とか言い出したに決まってる。

 私が同性で肌を許してるのはユーニャだけだよ! って異性で許してる人はいないけどっ。


「…屋敷ではまだまだ人手が足りなくてね」


 具体的にどこに配置するかはセドリックやステラに任せてしまうことになるだろうけどさ。

 それでもこうして知り合った子が『今どこで何してるか』なんて気にしなくても済むのはちょっと嬉しいかも。


「そんなわけでスーミが私のところで働きたいと思えるなら連れていきたいんだけど」


 彼女に視線を送ると、困ったように慌ててキョロキョロと私と村長を交互に見たり、両手をブンブンと振りながら何かを考えているようだった。

 なかなか面白い動きをしてるけど、別に急かすつもりもない。


「私はこの後鉱山の視察に行かないといけないから、その帰りにでもまた寄るよ。その時に答えを聞かせてほしい」

「はっ、はい…」


 話はそれだけ、と言って立ち上がると村長も一緒に立ち上がり見送りに出てくれるようだ。

 そういえば最後まで奥さん出てこなかったな。

 身嗜みを整えるのが間に合わなかったかな?

 スーミは未だにいろいろな動きを交えながら考え込んでいるようなのでその場に残しておくことにした。


「…スーミは両親がおりませんから、おそらく閣下の元へ行かれるかと思われます」

「…そう。決してぞんざいな扱いはしないと約束するよ。両親がいないのは辛いものね」


 理由までは聞かない。

 どんなことがあったにせよ、家族を失うのは辛いことだからね。

 そのまま村長宅の短い廊下を歩いて外まで出てくると、空を見上げた。

 ランドールとイルーナの両親については、ほとんど聞いたことなかったっけ…。ランドールの両親は亡くなっているけれど、イルーナについては聞かされたことがない。

 今となっては確認のしようがないから気にしても仕方ないことと言い聞かせて、これからのことを考えて始めた。

 まだ日は高いので、今から鉱山に向かえば視察は可能だろう。時間が掛かって明日まで掛かってしまっても問題はないのだし。


「村長、それじゃ帰りにまた寄るよ」

「はっ! お待ち致しております! どうかお気を付けて」

「ありがとう。あぁ、見送りはここまででいいよ」


 村の入り口までついてこようとする村長をその場に残して歩き出した。

 村の中で見て回るようなものは特に無いのはわかっているので、そのまま村から出た。

 しばらく歩いて街道を進み、手頃な森を見つけたところで姿を隠した私は鉱山がある町の手前まで長距離転移(ゲート)を使うことにした。

 だいぶ馴染んできたおかげか、最近ちょっとだけ発動までの時間が短くなってきた。

 かなり難易度の高い魔法だし、時空理術のスキルレベルもちょっとだけ上がってくれた。レジェンドスキルはスキルレベルが一つ上がるのにユニークスキルの十倍くらい手間がかかるから、神の祝福『経験値1000倍』を持つ私でもなかなかレベルが上がらない。

 その代わり一つ上がるだけでも劇的に効果が上がっちゃうけどね。

 転移が終わり、目を開けるとさっきとは違う森の風景になっていた。

 ここから鉱山の町までは走ればすぐだ。

 さて、最後の鉱山視察へ行ってきますか。

今日もありがとうございました。

感想、評価、ブクマ、レビューなどいただけましたら作者がとても喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >どうせ『貴族様によくある同性の妾として』雇おうと思ってるのでは、とか言い出したに決まってる  そう連想したって事は、この村長が大声を出されて飛んでくるまで一緒にいたお相手は、愛人とか妾っ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ