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第304話 ゴルドオード侯爵領

 ゴルドオード侯爵領領都バスタルザに着いたのは領地に入ってから更に二日移動してからだった。

 王都の屋敷と旅先を行ったり来たりの生活もこれで大体半分くらい予定を消化したことになる。

 それにしてもゴルドオード侯爵領はどの町も防壁がしっかりしているため、町に入るには毎回門番のチェックを受けることになったのは予想外だった。

 しかも私の紋章を見せても例外なくチェックが入る。平民が並ぶ列に混じることは無かったけど、それでもオーユデック伯爵領やローヤヨック伯爵領では見られなかったことだ。

 領都バスタルザも当然それは同じであり、話を聞くと国王陛下であっても馬車のチェックはするのだとか。

 一体何を警戒しているのかわからないけど、乗員と積み荷を全て確認していたのでそれなりに時間を取られてしまった。

 そして私はアイカとクドーの二人と共に領主館へとやってきていた。


「なんや屋敷っちゅうより砦やな」

「質実剛健を絵を描いたような屋敷だろう。俺は好感が持てるな」

「結構あちこちに魔道具も設置されてるみたいだし、防衛力って意味では王宮と同じくらいあるね」


 王宮ほどの大きさがあるわけじゃないけど、外から魔法を撃たれてもびくともしないかな。私やアイカくらいになれば話は別だけど。


「とりあえず入ろうか」


 私を先頭に領主館の門へと近付いていくと門番の二人が私達の接近に気付いて槍を交差して行く手を遮ってきた。

 今の私はわかりやすい貴族服を着ているけれど、この領地では貴族服なんてあまり役に立たない。

 実際今こうして足を止められたこともここに来るまで何度となくチェックを受けてきたので慣れっこになってしまっていた。


「止まれ。ここはゴルドオード侯爵領領主館である。いかなる用で参ったか」

「私はセシーリア・ランディルナ至宝伯。ゴルドオード侯爵領における鉱山視察の件でゴルドオード侯へ挨拶に参上した」


 ランディルナ家の紋章を手にして門番から離れたところで用件を伝える。

 すると門の中から一人の青年が現れて門番達が交差していた槍を引っ込めさせた。


「ようこそおいでくださいましたランディルナ伯。ご到着をお待ちしておりました」


 文官風の青年は丁寧に腰を折って礼をすると私達のすぐ前までやってきた。

 ここまで近寄って小声で話せば門番にも聞こえないだろう。


「ご無沙汰しております、セシルど…セシーリア様」

「以前通りで構いませんよ、サイード殿」


 貴族院で何度も顔を合わせ、仲良し三人組の従者という同じ立場にいたサイード殿と約二年振りに再会することになった。

 ババンゴーア卿より先に挨拶してしまうことになったのは仕方がない。

 次期侯爵が直々に門まで来て出迎えるわけにもいかないだろうしね。


「ご紹介します。こちらの二人は私の従者兼冒険者パーティーのアイカとクドーです」

「アイカや。よろしゅうな」

「クドーだ」

「私はババンゴーア・ゴルドオード次期侯爵様の筆頭従者をしておりますサイードと申します。ランディルナ伯には貴族院時代お世話になりました」


 過去形にされると私が故人みたいに聞こえちゃうんだけど。

 でも叙爵して貴族になった場合は『おります』では駄目なんだよ。それだと特別目をかけてもらってる平民って意味になっちゃうからね。

 いろいろややこしいのよ。


「では早速ご案内しましょう。ババンゴーア様も領主様も首を長くしてお待ちです」


 サイード殿に無言で頷くと私達は四人で門をくぐって領主館へと入っていく。

 その際に門番達から最敬礼をされたので右手を軽く上げておく。さすがによく訓練された兵士達だね。

 ほとんど砦のような外見と違わず、内部も同じように効率的な仕組みになっていた。

 ほとんどが兵士達の宿舎のようになっているみたいで、ゴルドオード家の者達が使う場所はほとんどない。

 聞けば三階がそれに当たるとのこと。けれど、ゴルドオード侯もババンゴーア卿もあちこちに出歩いているため三階へは事務仕事か寝食のためにしか使っていないらしい。

 クアバーデス侯とは全然違うよね。あの人はほとんど執務室に籠もってたから。

 しばらくサイード殿に案内されるまま領主館の二階へと上がり、一つの部屋の前に辿り着いた。

 「こちらです」とサイード殿が呟くと同時にドアにノックをすると中から野太い声で返事が返ってきた。


「失礼します。領主様、ババンゴーア様、ランディルナ至宝伯閣下をお連れ致しました」


 ドアを自身の身体で開いてくれているサイード殿の前を通り部屋の中に入ると、そこは簡素な応接室になっていた。

 いや簡素に見えるだけでこの領地では普通の応接室なのかもしれない。

 そしてその部屋のソファーにドカリと腰を落ち着けていたのが、この領地の長であるライオード・ゴルドオード侯爵だった。


「遠いところからよくぞ来てくれたなセシルど…おっと、今はセシーリア・ランディルナ至宝伯だったな!」

「お久しぶりでございます、ランディルナ伯」

「ご無沙汰しております。ゴルドオード侯、ババンゴーア卿、夜会の時以来でございます」


 ひとまずは貴族らしい挨拶を交わして彼等の近くまで歩み寄っていくとアイカとクドーも後ろからついてくる。


「そちらがランディルナ伯の従者殿かな?」

「はじめましてや。ウチはアイカいいます、よろしゅう」

「クドーだ」


 アイカはとりあえず少しばかり丁寧に挨拶していたけど、クドーは誰に対しても変わらず。

 この人達なら気にしないと思って連れてきてるから別にいいけどね。


「ぬはははっ! さすがランディルナ伯の従者を任されるだけのことはあるな! 滞在中は我が家だと思って寛ぐとよかろう!」


 ね、気にしないでしょ?

 二人を紹介し終わったところで私もソファーに座るとサイード殿が紅茶の入ったカップを私の前に置いてくれた。

 ゴルドオード侯が飲むより先にそちらに口をつけると彼はとても愉快そうに笑った。


「父上、お二人に自己紹介しなくては」

「む? そうであったな! 私がこのゴルドオード侯爵領の領主ライオード・ゴルドオードである!」

「その息子、ババンゴーア・ゴルドオードと申す」


 豪快な領主と無骨な息子。相変わらずです。


「折角遠いところを来られたのだ。久し振りにババンゴーア(これ)を揉んでやってはくれぬか?」


 そう言ってゴルドオード侯はババンゴーア卿を指差した。

 感じられる気配から卒業してからも訓練を欠かさず研鑽を重ねてきたのだろう、随分と力強いものを感じられる。

 けど、私の目的はそれじゃない。


「ゴルドオード侯にそう言われましたら断れません。ですが、今回私は国王陛下より鉱山視察の命を受けて来ております。そちらを優先させていただきたく」

「勿論構わん! サイード、後でランディルナ伯へ鉱山への地図と私が書いておいた手紙を渡しておけ」


 うん。とりあえずこれで当初の目的は果たせそうかな。


「セシル、それならお前が視察に出ている間に俺が訓練を見てやろう」

「クドー? …それもいいかな」


 クドーはリードにも一度だけ稽古をつけてあげたことがあったはずだ。内容は全然教えてもらってないけど。

 それにユーニャのような素手による格闘やあらゆる武器を使いこなす近接戦闘のプロフェッショナルだ。この領地における訓練なら間違いなく彼に頼むのが最良だろう。


「ゴルドオード侯、クドーは私との武器戦闘による訓練においても勝ち越しをするほどの実力者です。あらゆる武芸に精通しておりますので、ババンゴーア卿だけでなく希望者への訓練にお貸ししますが、どうでしょう?」


 後ろに立つクドーへと親指を向けるとゴルドオード侯は不敵に顔を歪め、その身体から闘いたいという気配がどんどん濃厚になっていく。

 これって闘気に近いものなんじゃない?


「ほう? それならば私も一度手合わせ願いたいものだな?」

「俺は誰が相手でも構わん」


 二人の了承が得られたところで私も「ではそういうことで」と言って話を終わらせた。

 アイカは領地内でまた薬草の採集をしてもらってもいいし、私についてきてもらってもいい。

 どのみち私には護衛なんて必要ないんだからね。


「そうそう。ランディルナ伯は大丈夫だろうが、一応注意をしておこう」


 話も終わってそろそろ部屋に案内してもらいたいなと思っていた矢先、ゴルドオード侯が私に手を向けたので浮きかけた腰を下ろした。


「注意ですか?」

「うむ。我が領地は帝国、神聖国それぞれと面しているのはわかっているな?」

「えぇ、勿論。そのためこちらの領地では小競り合いが絶えないとか」


 貴族院でも普通に教えてもらえる当たり前のことだ。だからこそこの領地では普通の兵士達でさえ練度が高く、並みの兵士ですらCランク冒険者と同じくらいの実力がある。

 騎士団に至っては全員がBランク、ババンゴーア卿と同じくらい、団長ともなればAランク相当だと聞いている。


「最近帝国からの間者が多く不法入国している。それに伴って帝国兵と思わしき者達との戦闘があちこちで発生している。また領民達が誘拐されているらしく、小さな農村では行方不明者が後を立たないのだ」

「それは…。それで国王陛下には?」

「無論報告済みだ。だが陛下、いや王族の方々のお立場も今は昔ほど強くはない。それはランディルナ伯も知っていよう?」


 知ってる。

 というか陛下だけでなく、シャルラーン様からも相談を受けているくらいだからね。


「であるからして、我々としても帝国に抗議申し立てるには確たる証拠が無ければ何も出来ぬ。奴らは頑なに口を割ろうとせぬのでな」

「…とりあえず、注意します。もしそういった場面に遭遇した場合、私の判断で行動してもよろしいので?」

「我が領民に不利益になりそうなことが行われていた場合、即刻殲滅して構わん。怪しい者を見掛けた程度であれば捕らえて連れてきてもらえると助かるが、無理はしないでもらいたい」


 余程の実力者じゃなければ無理はないけど、捕まえても私じゃ尋問なんて出来ない。そうなったらアイカにお願いするのが一番だろう。

 ただでさえいろんな厄介事に巻き込まれてるんだからこれ以上イベントはいらないよ。

 お願いだから変なフラグは立たないでほしい。

今日もありがとうございました。

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[気になる点]  とりあえず失礼(何様だ発言)を失礼します。 >約二年振りに再開することになった。 再開:再び開始すること 例 :止まっていた連載を再開する  最近はどこも再開と再会を間違えて…
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