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第300話 オーユデック伯爵領鉱山

 ジュエルスライムを捕獲、テイムした後はすっかり大人しくなって私から貰った物じゃないとその身体に取り込むことは無くなった。

 更にムースと同じように直接私の魔力を餌にすることも出来るようになったので、わざわざ宝石や魔石を食べる必要も無くなったのは僥倖。

 それでもなんとなく宝石の方を見てじっとしているので、実は食べたいんじゃないかと推測する。


「あとは名前決めなきゃね」

「それは良いのだ。魔物に名前を付けるとより強力になるし、捕獲した魔物なら主人との絆をより強固にするのだ」

「さて…ジュエルスライムだからって宝石って付けるのも安直だし…」

「自分の欲求には安直なくせによく言うのだ…」

「………ふんっ!」

「のだぁぁぁぁぁっ?!」


 相変わらずあのボールはよく飛ぶしよく跳ねる。洞窟の壁にぶつかって複雑な跳弾をしながら遠ざかっていった。跳弾跳弾跳弾跳弾跳弾みたいな?

 メルを蹴り飛ばした後、腕を組み、顎に指を当てて考える。

 宝石じゃなくて、洞窟かな。ずっと地下にいたんだし。

 スペランカー?

 …なんだかちょっとした段差に躓いただけで死んじゃいそうな名前は嫌だな。

 スペラ、ペラン、ランカー…ランカ?


「よし、じゃあ貴方の名前はランカ! これからよろしくね、ランカ」


 ランカの身体に手を近付けるとランカもズリズリと身体を這わせて近寄ってきた。そして私の指にその身体を押し付けて跳ね返る感触を楽しんでいるかのようだ。


「ふふっ、最初会った時は怒っちゃったけど、こうして見ると結構かわいいね」

「まったく…非道い目に遭ったのだ…」


 気付けばいつの間にかメルが戻ってきていて、私の後ろでブツブツと文句を言っていた。自業自得だよ。


「それより、そろそろ予定の鉱山に行った方が良いのだ」

「それもそうだね。じゃあここの空洞をちゃんと作ってランカのご飯も置いたら出発しよう」


 ガイアがあればどっちもあっという間だからね。




 ランカと別れた私とメルは当初の予定通り鉱山へと足を向けた。

 オーユデック伯から聞いてはいたけど、この鉱山は一つの町になっている。

 町を治める貴族を置いて鉱山の管理から税の管理、領民の管理まで行っているそうだ。そのため、町自体は領都に比べたらかなり小さいものの宿や店舗もあるし、冒険者ギルドの出張所もある。

 まぁ用があるのは鉱山だけだから町には何の興味もない。

 けどローヤヨック伯爵領の時みたいに馬鹿正直にいきなり正面から入ったりはしない。

 馬鹿なことをしてくる領主だから何かと企んでるかもしれないし、ちょっとくらいやり返したいしね。

 ちょうど鉱山がある山の山頂で時空理術を使い、鉱山内の鉱脈を調べていく。

 白竜王がいたところである程度大雑把にこの辺り一帯は調べたけれど、こうして入念に調べるとどの程度の鉱脈が眠っているかがわかる。

 それもここに来るまでにいくつかの場所で試験的に試していたので、今ではスムーズに調査することが出来たのだが、なかなかに面白いことがわかった。


「この鉱脈、今のまま掘ってたら近いところには無くなっちゃうね」

「うむ。今人間が掘ってるところから二千メテル地下にはまだまだあるが、よほど地魔法に長けた者でなければ到達しないのだ」

「んー、そんなに地魔法が得意な人なんて王国にいるのかな?」


 王国民全員を鑑定したわけじゃないからわからないけど、多分地魔法のスキルレベルが高い人はいないと思う。

 下級の石魔法や中級の土魔法ならスキルレベルが高い人はいるし、地魔法を持ってる人もいたはずだ。けれどそれでもせいぜいがスキルレベル2くらいだったはず。

 地下二千メテルにある鉱脈まで掘り下げるような大規模な魔法を行使するには些かレベルが足りない。それに付随して膨大なMPも必要になる。

 はっきり言ってそれだけの魔法が使える人が仮にいたとしても、鉱山で掘削作業をしてくれるとは思わない。それなら冒険者なり王宮勤めの魔法使いをやってた方が遥かに稼げるからね。


「強欲な人間には良い薬なのだ。どうせ掘り出せないならわっち達で貰ってしまっても良いと思うのだ」

「うん、まぁそうしてもいいんだけどね。けど鉱山が枯れてるのに私が大量のエメラルドを持ってたら絶対言い掛かりをつけてくると思う」


 それならこの鉱脈は残しておいた方がいいかな。

 ついでにオーユデック伯爵には痛い目を見てもらっておこうか。

 ついつい口角が上がってしまうのを抑えきれず、ガイアを使って地下にある鉱脈を更に地下へと押しやっていく。


「セシル、悪い顔してるのだ」

「メルだって、悪魔みたいな顔文字になってるじゃん」


 うふふ、わちゃちゃと二人で暗い笑顔を浮かべる。

 そして準備が整ったところで改めて鉱山の入り口へと向かうのだった。

 人目につかないような場所へ着地して名に知らぬ顔で鉱山の入り口へ近付くと、門番らしきムキムキに鍛えられた上半身裸の男に声をかけられた。ちなみにメルはとっとと消している。


「止まれ! ここはオーユデック伯爵様所有の鉱山だ! 用のない者は立ち去れ!」

「セシーリア・ランディルナ至宝伯だ。オーユデック伯から許可を貰っている」


 ダミー用の鞄からオーユデック伯に渡された許可証を取り出して門番へと渡すと、彼は書面を開いた後近くにいた文官風の男へとそれを渡した。そしてそちらの男が一つ頷くと門番は声を張り上げた。


「どうぞ、お通りください!」

「あぁ、ご苦労」


 それにしてもいちいち声が大きいね。


「お待ちしておりましたランディルナ閣下。私はこの鉱山の管理を任されているニビヤイサ・フェルコスと申します」

「オーユデック伯より聞いている。フェルコス準男爵だな。よろしく頼む」

「ではまずは当鉱山の説明からさせていただきますので、あちらへ」


 そう言ってフェルコス爵に案内されたのは鉱山の近くにあるわりには綺麗な建物だった。

 内部もそれなりに掃除が行き届いており、それなりの数の使用人もいるようだ。応接室へと通された私の前に使用人が紅茶を置いて去っていったので、今室内にいるのは私とフェルコス爵だけだ。


「しかし当初聞いていたよりも到着が遅かったようですが、何かございましたか?」

「道中で少しな」

「…お連れの方もいらっしゃらないようですし、トラブルでも?」

「気にするな。それより鉱山の説明をしてくれるのではなかったか?」


 質問に質問で返すのは良くないけど、こちらの腹を探られるのも良い気分じゃないのであえて高圧的に先を促した。伯爵と準男爵では持ってる力が違いすぎる。準男爵なんて平民でもお金さえ出せば買えるような爵位だし、名ばかりの貴族なので平民に対する扱いとほとんど変わらない。

 別に普段から平民に高圧的なわけじゃないよ?

 貴族として振舞わないといけないことが多いからなるべく偉そうな話し方はするけどさ。案外疲れるんだよ?

 しかし効果は覿面でフェルコス爵は顔を青くさせてテーブルの上に置かれた資料を開いた。


「え、えぇ、ではまずこの鉱山が見つかった経緯から…」


 いや、馬鹿なの?

 そのくらいのことは調べてきてると思わないのかな。なんなら王国に報告してる産出量だって事前に調べてあるんだけど。


「先代オーユデック伯が当時広大すぎたゴルドオード侯爵領を分割して治めることになった際、譲り受けた物だろう。先々代ゴルドオード侯はドラゴスパイン山脈に宝石や金属の鉱脈があることを代々知識として受け継いできたものの、戦を義務付けられている彼等はその調査を先代オーユデック伯へ依頼。鉱脈の少ないこの辺り一帯を王家より任され、この鉱山の開発に成功した。エメラルドの産出量は多いものの、他の鉱脈は見つかっていない」

「お、仰る通り、です…」


 若いからって馬鹿にされてるのかな?

 前世まで含めたらもうアラフォーなんだから任された仕事はちゃんとやるよ。普通で当たり前のことでしょうに。


「君は私が何も調べないままここに来ていると思ってるのか?」

「いっ、いえっ、しっ、失礼しました! さ、さすがはし、至宝伯閣下でいらっしゃいます」


 何がさすがなんだかよくわからないけど、これでまともな案内をしてくれるならいいかな。

 今更わかりきってるような説明から入られたら時間がいくらあっても足りないからね。


「では早速鉱山へ案内してもらおうか」

「いっ、いえ閣下、お待ちください!」

「…まだ何かあるのか?」

「こ、ここ数年の産出量と魔物の出現数増加に伴う検証を進めた報告が」


 うん。それはちょっとだけ興味あるかもしれない。

 でも宝石は魔石じゃないから産出量とは無関係なんじゃないかな?


(宝石は魔力を蓄えやすい性質があるのだ。だから魔物の中にも宝石を体内に取り込んで魔力を蓄えようとする個体がいるのは事実なのだ)

(てことは産出量が増えると魔物も増えるってこと?)

(そこにそれだけ宝石があるとわかれば魔物が寄ってくるのも自明の理なのだ。セシルの屋敷のように結界で覆われていたり、魔法の鞄のような亜空間に保管していれば魔物に探知されないから安心なのだ)


 なるほど。

 その話をさも今考察したかのようにフェルコス爵に告げると彼は二の句を告げることも出来ずに俯いてしまった。

 ちょっと悪いことをしたかもしれないけど、こんなわかりやすい時間稼ぎをされたら良い気はしない。


「さて、もういいな? では今度こそ案内してもらおう。フェルコス爵が案内出来ないのであれば別の責任者を連れてきてもらっても構わない」


 そんなわけで少し助け舟を出してあげることにした。

 極端な話、ここの鉱山に入る必要はほとんどない。

 私がここに来たという実績さえあれば良いのだから。

 しかしそんな私の思惑など知る由もないフェルコス爵は案内人を連れてくると言って、嬉々とした表情で部屋を飛び出していった。


(多少中を見たらとっとと出て、ランカを回収しよう)

(良いのだ?)

(実際、もう手は打ってあるじゃんか)

(それもそうなのだ。なら残りの日にちで脅威度の高い魔物を狩っておくのだ。さっきこの男が出してきた検証の書かれた報告書が正しいと言われたら宝石の産出量が減っていく可能性があるから、今のうちに食い止めておくのだ)


 ふむ、いい案だね。

 ここを出てからのスケジュールを考えながら案内人を待っていたが、結局やってきて鉱山に入れたのはほんの一時間程度だったのは私も予想外だった。

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >さっきの論文が正しいと言われたら宝石の産出量が減っていく  論文?  推測とか推論とか報告とかでなく? [一言] >何がさすがなんだかよくわからないけど  ふむ。  じゃあ今後は…
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