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第299話 白竜王

 ドラゴスパイン山脈の最高峰に降り立った私は、そこにいた全身がオパールのようなドラゴン、白竜王と対峙していた。

 なかなか気さくなドラゴンで、ちょっと変なところはあったけど普通に話が出来る相手であり、いきなり殺し合うようなことにならなくて良かったと思う。


「しかしセシルよ。何故このようなところにやってきたのだ?」


 多分暇だったからなのか、そんな素朴な疑問すら投げかけてくる。


「あー…。この辺り一帯の宝石が欲しかったからどんなものがあるか一番高いところから見てみようと思ったんだよ」

「ふむ、宝石か。それならば確かにこの地にはいくつも眠っているだろう。例えば…」


 白竜王はその前足の爪をあちこちへ向けながら私に鉱脈の在処を教えてくれた。

 ここからもう少し北西に行くとカルデラ湖があることも教えてもらったので、特にそのあたりは重点的に確認する必要がありそうだ。マグマ溜まりがあれば必然的に宝石が産出されるからね。

 一部帝国の領土にもなるけれど山の中でこっそり回収したところでわかりっこないので遠慮無く貰い受けるつもりだ。


「こんなところだな」

「ありがとう、手当たり次第探す手間が省けて助かるよ」

「構わぬ。どうせ普通の人間には手に入れられぬ物だからな」


 確かに地下数千メテルにある鉱脈なんて掘り出しようがないもんね。

 時空理術で開いた地図に白竜王から聞いたポイントをメモると、話を続けながら最適な回収ルートを考え始めることにした。


「しかし、人間というのはそんなに宝石が好きなものなのか?」

「うぅん…どうだろう? 嫌いな人は珍しいと思うけど、私ほど好きな人はそんなにいないかもね」

「ふむ? 以前ここに来た者もセシルと同じように宝石を求めてきたのでな。我等が知らぬだけで人間はそういうものかと思うところであった」


 うん? 前に来た人も同じように宝石求めてきたんだ?

 その人とは友だちになれそう…いや、待て。

 逆にお互いに宝石を譲らなくてケンカになるかもしれない。私が今王都で使ってる屋敷の元持ち主であるジュエルエース大公もかなりの宝石好きで有名だったみたいで、地下室にはかつてのコレクションがそのまま残っている。それはもう見事な物がたくさんあるのでありがたく引き継がせてもらったわけだけど、同じ時代に生きてたらやっぱり仲良くなったか、ケンカしたかだと思うんだよね。

 やっぱり私は世界中の珍しい宝石は手に入れたいしね!

 キラキラした宝石に囲まれた生活は実現出来る夢だから!

 あ、そういえば。


「それにしても、なんで私を普通に鑑定出来たの?」

「我等竜王には神の祝福による鑑定妨害など無意味だ。世界への役割が違う」

「世界への、役割?」

「今のセシルに話せるのはここまでだ。セシルには未だその権限が無い」

「権限? いろいろ教えてくれるって言ったのに逆にわからないことが増えてるんだけど?!」


 情報が増えるのは喜ばしいことだけど、寧ろ余計に頭がこんがらがっちゃうよ。


「そうだな…とは言え『資格』はあるのだ。いずれ話せる日も来るであろう」

「『資格』って管理者の?」


 私の問い掛けにこの白竜王は答えることなく、ただ私の瞳を覗き込むだけだった。けれど、おそらくはそれが答えだったんだと思う。

 これ以上は聞いても答えてくれそうにないので、質問を変えて他にも有用な情報が貰えないか試してみることにする。


「話は戻るんだけど、以前にもここまで来たことがある人がいたって言ったじゃない?」

「うむ。懐かしい話だ…。今から二千年ほど前だったはずだ」

「うわ…じゃあその人の話とか教えてくれない?」

「ふむ…。話せることといえば、名前とどんな人物だったかくらいのものだが、それでも良いか?」


 是非に。

 私の頷きと共に、白竜王は思いを遠い過去へと向けているようだった。

 そのかつて訪れたという人物がいかなる者だったのか、何しにこんなところへやってきたのか。

 私が聞いた理由は、そんなただの興味本位でしかなかった。

 はずなのに。


「あの者の名はヴォルガロンデ。並外れた魔法の才を持つ男だった」


 まさかの名前をこんなところで聞くことになるなんて思いもしなかった。




 白竜王のところから離れた私は空を飛び回りながら聞いておいた鉱脈のある場所を虱潰しに当たっていた。

 いつもなら一つ一つの宝石に一喜一憂しているのだけど、さすがに数が多いし大きいので作業感は否めない。


「こんな扱い、宝石(彼女)たちにしたら失礼だよねぇ…」

「よく言うのだ。発情期のサルみたいな顔してるのだ」

「誰がサルよ!」


 ちなみに、最初の一カ所目で全てを魔法の鞄に入れることは諦めた。

 それぞれがあまりに巨大な鉱脈であるため、魔法の鞄に入りきらないのだ。

 極端な話、山一つを入れるようなものなのだから。

 そんなわけで私とメルは二人で白竜王から聞いた鉱脈を一つずつ巡り、ガイアを使って全て一カ所に集める作業をしている。

 その中にはオーユデック伯爵が王国に報告していなかった鉱山がいくつもあり、それらはすぐ掘れるようなところを残してめぼしい鉱脈は全て回収させてもらった。あの脂ぎった強欲貴族に私の宝石を渡すなんて冗談じゃない。宝石(かのじょ)達は私が大切に保護させていただきますとも。

 まぁローヤヨック伯爵領、オーユデック伯爵領、ゴルドオード侯爵領だけでなく、一部帝国の領土にも勝手にお邪魔させてもらったんだけどね。

 あんな険しい岩山になんて普通の人間が行くことなんてほとんどないからいいでしょ。

 私は行くけどね!


「ふぅ…。とりあえず、こんなとこ?」

「白竜王から聞いた鉱脈はこれで全部なのだ」


 白竜王がいた岩山の近くに小さな岩山があったので、その中に純度を上げた宝石を全て移動させてもらった。小さいと言っても標高五千メテルほどなのでキリマンジャロと同じくらいはあるだろうか。

 その岩山の中には大量の宝石が文字通り山となっている。この量はさすがに屋敷へと持ち帰れるようなものじゃない。


「あぁ…私あの山に住もうかな…」

「セシルは相変わらず馬鹿なのだ。宝石好きもここまで馬鹿だと病きぎゃあぁぁあぁぁぁっ!」


 メルの暴言に苛ついたのでとりあえず真上に蹴っ飛ばした。

 白竜王のところにでも行ってればいいんだ。

 ちなみに現時点で白竜王のところを出てから既に四日目であり、さすがにそろそろ鉱山へ向かおうかと思っている。

 山に住むのは冗談だけど、多少の細工は施しておくつもりだ。

 岩山の中に宝石を入れておいても私はそれを見ることが出来ないんじゃ意味無いからね。

 ガイアの能力を使って岩山内にまとめた宝石を更に凝縮していき、それぞれを巨大な原石に変えていく。

 しかしそこでようやく気付いた。


「あれ? なんか岩山の中に空洞があるね?」

「晶洞の一種なのだ?」

「…うぅん、違うような…でも晶洞の一種かも。宝石も少しはある…けど、生き物の反応がある」

「ふむ? 魔力自体はほとんど感じないのだ」


 なんだろう。

 完全に密封された岩山の中に一匹だけいる生き物。

 こういうのってゲームとかなら封印された伝説の魔物とかがいたりするんだろうけどね。もしそんなのがいたら白竜王から注意されるはずだからいるわけない。

 とりあえずその空洞に向かってここからトンネルを繋げていくことにして、途中どうしても集めてきた原石が当たってしまうことになるのでそれらを眺めながら歩いていくことになるだろう。

 作業自体はガイアを使っているのであっという間に終わり、私は魔法で灯りを灯してメルと二人で奥まで進んでいくことにした。


「それにしても何がいるんだろ?」

「虫か何かなのだ。気にしても仕方ないのだ」

「あのねぇ…。普通の虫なら動物と同じで酸素が無きゃ死んじゃうでしょ」

「酸素を必要としない虫なのだ。セシルの前世にはいなかったが、他の世界にはそういう虫だってたくさんいるのだ」


 確かにメルは私よりも多くの世界を見てきてるだろうけど、この世界ではそんな虫なんて見たことがない。

 推測はいろいろ出来るけれど、もう少し歩けばその生き物のいる場所へ辿り着くのだし、今は考える必要もないね。

 しかしトンネルの半ばくらいまで歩いてきたところで、生き物の反応が少しずつ動いているような気がしてきた。


「動いてるね」

「のだ。這うくらいのスピードなのだ」

「ちょっと急ごうか」


 少しだけ歩く速度を速め、トンネル内を疾走していく。私が歩く速度を速めたらそれはもう歩く速度じゃなくて走るのとほぼ同じこと。

 それから数分したところで、ようやく私達は目的の生き物と対面することになった。


「スライム?」

「スライムなのだ。だが…これはまた随分レアなスライムなのだ」

「そうなの?」


 魔法の明かりで照らされているとはいえ、薄暗い洞窟の中でぐにぐにと蠢くスライム。

 その体は妙にカラフルでいろんな色が混ざり合っている。色の三原色ってものを教えてあげたくなるような混ざり具合である。

 しかし当のスライムは現在食事中。

 それは私にとっての大問題が発覚した瞬間でもあった。


「ああぁぁぁぁっ!! 私の宝石食べてる?!!?!」

「うっ、うるさいのだ…。洞窟の中で馬鹿デカい声を出したら駄目なのだ馬鹿セシル…」

「それどころじゃないでしょ! ちょっとそこのスライム! それ私の宝石なんだから食べたら駄目だよ!」


 どれだけ私が大きな声を出そうとも、魔力を向けたり殺意を向けたりしても、そのスライムは全く動じない。

 ちょっと困るんだけど!

 折角私が苦労して集めた宝石を!

 それはアナタのご飯じゃないの!

 私の愛しい宝石(ひと)達なの!


「だっ、大丈夫なのだセシル」

「何が大丈夫なのよ! 私の宝石食べられちゃってるんだよ?!」

「ジュエルスライムは食べた宝石を吐き出せるのだ。宝石の中にある極微量な魔力を食べているだけなのだ」

「…そうなの?」


 私は今もアメジストに覆い被さっているスライムへと視線を移した。

 ちゃんと吐き出せるなら文句はないけど、私の精神衛生上よろしくない。だって宝石がどんどんあのキラキラしたゼリーに溶けていくんだよっ?!


「ついでに母岩や不要な不純物は完全に溶かしているのだ。セシルにとっては有用なスライムなのだ」

「…まぁそうかもしれないけど…というか、魔力食べるだけならフォルサイトも食べるかな?」

「勿論なのだ。自然界にはフォルサイトなど滅多に現れないからこいつらにとっては無二のご馳走なのだ」


 ふむ。それはいいことを聞いた。

 ガイアを使いこなすために何度か実験した結果、私の腰ベルトや亜空間には大量のフォルサイトが眠っている。それならいくらでも食べてもらって構わない、というか私がいればいくらでも作れるからね。

 試しに腰ベルトからピンポン球サイズのフォルサイトを取り出してジュエルスライムに翳してみると、アメジストの塊からもぞもぞと離れてこちらに寄ってきた。

 本当に宝石、というか魔石に反応するんだね。

 地面にフォルサイトを置くとジュエルスライムはフォルサイトに覆い被さり、その体の中に取り込むとじわじわと溶かし始めた。


「なんか飴でも舐めてるみたいな感じだね」

「このジュエルスライムにとっては初めてのご馳走なのだ。セシルもあまり近寄ると身に着けた魔石を食べられるのだ」

「それは困る。あ、じゃあムースみたいに捕獲したらどうかな?」


 ムースとは私が以前ユアちゃんに出して貰って捕まえたミューズスライムの名前だ。

 魔力さえあげておけば、私のコレクションを身体に取り込んで流れるように私に見せてくれる、まさに動く博物館のようなスライム。地下室で励む時にはいつもいつもお世話になっているので、今ではとても可愛がってるよ。


「ふむ。捕獲した魔物は主人の言うことを聞くし、良いと思うのだ。そうすればフォルサイトだけを食べるようになるのだ」

「うん。じゃあそれでいこう。悪いけど、私に従ってね」


 フォルサイトを食べているジュエルスライムに対して捕獲スキルを使うと、簡単に捕獲を成功することが出来た。

 とりあえずこれでこの洞窟の中にある宝石は食べられてしまう心配もなくなりそうだ。

今日もありがとうございました。

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