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第298話 秘境にいるものといえば

 ウェリントンを出発して三時間くらい経ったところのこと。

 予想通りオーユデック伯は私達が町を出てすぐに監視のためか、それとももっと良からぬことのためかは知らないけど私兵を放ってきた。

 なんでそうまでして自分が真っ黒だと証明したいのか私にはわからないよ。

 そんなわけで私達の前にはクドーによってぐるぐる巻きにされた四人の男達が横たわっている。

 町から離れ、人目がつかない場所でメルによる邪魔法で一網打尽である。


「本当に面倒なことばっかりしてくるね」

「貴族なんてそないなもんや。ほんで? こいつらどないするん?」


 それなんだよねぇ。

 すぐさま始末しても特に問題があるわけじゃない。こそこそと怪しい男達が後ろをつけてきたから賊かと思って殺した、とか言ってしまえば、私が罪に問われることなんてない。

 けどこの男達が報告に戻らないと新たに別の私兵が遣わされるだろうことは明白。

 そうなれば私達がこの領地で自由にするのが難しくなる。

 少なくとも私だけは予定通りに鉱山へ行く必要があるだろう。


「はぁぁぁ…。なんとかこっちの意のままに操る魔法でもあればいいんだけどね」


 私のレジェンドスキル『擬似生命創造』なら死体を材料にフレッシュゴーレムを作ることは出来るけど、臭いし喋らないし動きが緩慢で見る人が見れば死体が動いてるとすぐバレてしまう。

 程よい魔石を使えば強力なゴーレムに仕立て上げることは出来るけど、今欲しいのは強いゴーレムじゃないからね。

 そんなものを送り込んだとなれば逆に争いの種になりかねない。


「困ったねぇ」

「あんまり気が進まんけどウチなら出来るで」

「…アイカって私よりチートだよね?」

「アホ抜かせ。ウチら全員チートやろ」


 うん、そうなんだけどね。

 私が成長チート。アイカが鑑定・生産チート。クドーは人外・鍛冶チート。

 お陰様で楽しませてもらってるけどさ。


(わっちが経験値1000倍を貰ったからなのだ。わっちに感謝するのだ)


 メルが貰ったかどうかじゃなくて、前世の私がいろんな知識を蓄えたからだと思う。

 話が逸れた。


「兎も角、アイカは出来るの?」

「夜人族の能力を使えば…やれるんやけど。後始末をどうするかや」


 アイカ曰わく、一度でも操れるようにしてしまうと相手が死なない限り解除されないとのこと。

 必要無くなったら始末してもいいけど、さすがにちょっと後味も悪い。

 とりあえずは私達の用事が済んだ後はこの辺りの薬草採集をするように指示して放置するらしいけど、本来は夜人族が定期的に精力を吸い取るための眷属にするための能力らしいので気に入った相手にしかしたくないそうだ。

 アイカに申し訳ないと言うと、一応微々たる程度でも眷属から力が送られてくるから全くの無駄ではないらしい。

 やっぱりアイカが私達の中で一番チート能力が高い気がするよ。

 それからアイカが男達の首に歯を立てて吸血、吸精を行い、自身の血を送り込むことで彼等の眷属化は完了した。

 思ったより簡単に済んだし、これによってアイカはユニークスキル『眷属化』を覚えたみたいで、もし次にやることがあれば今回よりもスムーズに済ませられると喜んでいた。


「ほんならこいつらにはウチら全員鉱山に向かったて報告させんで」

「うん。そしたら全員別れて行動しよう」

「あぁ、承知した」


 今まで腕組みをしたまま沈黙していたクドーはここにきてようやく口を開いた。

 確かに出番無かったもんね。

 アイカが眷属になった私兵達に指示を出すと彼らは「はい」とだけ返事をしてウェリントンへ続く道へと歩き出した。ひとまずはこれで私達が鉱山へ行ったことにはなる。

 その後また数日置きに「まだ鉱山にいる」と報告してもらうことになっているので、十日間はこの領地内で自由に動くことが出来る。


「よっしゃ。ほなウチは適当に薬草採集行ってくるで」

「うん。私はドラゴパイン山脈を一通り回ってくるよ」

「あぁ。俺は俺で好きにさせてもらう」


 言うが早いか、クドーはすぐさまその場から高速移動で離れていった。

 すぐ近くの森の奥に妙に人間が集まっている場所がある。地図にない村の可能性もあるけど、盗賊団かもしれないので、そこに向かったんだと思う。

 なんかクドーって盗賊とか山賊とか海賊…所謂『賊』に対して非常に強い憎悪を感じるんだけど、昔何かあったのかな?

 聞きたいとも思わないし、私のことも話すつもりがないから別にいいんだけどね。

 国も平和になるしさ。

 そしてクドーが去った方向を見ている間にアイカも姿を消していた。

 効率良く回らないとこの領地の貴重な薬草を根こそぎ採集することは出来ないからね。

 ちなみに一般人にとっては雑草にしか見えないとのことなので、好きなようにさせることにした。


「さて、二人とも行っちゃったし。私もそろそろ動こうかな。メル」

「うむ。とりあえずドラゴスパイン山脈の真ん中まで行くのだ」

「おっけー。じゃあいくよ!」


 周囲には既に人っ子一人いない。

 人目を気にする必要がないので、そのまま空間魔法の浮揚(ホバー)で上空へと浮き上がっていく。

 千メテル、二千メテルと上がっていくも、ドラゴスパイン山脈の最高峰は私の目線よりも高い。それからもどんどん高度を上げていくと、今度は熱操作の効果が薄れてきた。


「なんか…息苦しくて寒いんだけど…」

「当たり前なのだ。高度九千メテル、前世のエベレストを超えているのだ。摂氏でマイナス四十度くらいなのだ」


 道理で寒いわけだ。

 気圧も下がって空気が薄い上に、そんなに気温が低いなら地上と同じ熱操作で同じように快適に過ごせるはずもない。

 天魔法で自分の周りに空気の層を作り出し、その中で熱操作を行ってみるとようやく常春のような感覚に戻ってきた。

 少しずつ高度を上げていく中、下を見れば既に先ほど二人と別れた場所なんてわからなくなっていて、王国どころか帝国、神聖国、ザッカンブルグ王国を含む大陸全土を見渡すことが出来る。このドラゴスパイン山脈が大陸のほぼ真ん中に位置しているせいだ。さすがに神聖国の向こうにある海までは見ることが出来ない。

 こことは違う大陸とは、どのくらい離れているのか、どっちの方向にあるのか気になるところだけど、今はそれを調べるつもりはない。

 最大の発見は、この世界の、今私がいる場所もちゃんと『星』であったことだ。

 地球と同じで、この『星』も丸かった。

 そのことに少し感動を覚えながらも、地球ならば既に成層圏に入ろうかというほどの高度に達した時、ようやく最高峰と私の目線が同じ高さになった。

 遠目から見たドラゴスパイン山脈の最高峰は尖った岩山だったけれど、いざこうして到達してみるとそれは全く違うものであり、近寄った時にそれはすぐにわかった。


ぶわっ


「ん? 何かあった?」

「結界なのだ。外敵を近付けないようなものではなく、強力な幻を見せるもののようなのだ」

「幻? なんで?」

「それはそこにいる者に聞けばわかるのだ」


 メルが矢印の形に変わったと思ったら、すぐ下を指し示した。

 尖った岩山のようにしか見えていなかった頂上はその実、広い台地であった。

 広いと言っても私が生まれた村くらいの広さなので、一般的な成人男性が走れば一時間くらいで外周を回りきれるくらい。

 とりあえず、ここの広場に物理法則とか大陸プレートとかの話をしちゃ駄目なんだろうなってことはわかる。

 ここは異世界。前世の世界とは違う。だからこういう不思議な地形があってもおかしいことじゃない。

 うん、大丈夫。ちゃんと納得してる。飲み込んだよ私は。

 広場に降り立つと目の前にいる相手と嫌でも対峙することになる。無視しようがないほどのサイズである以上、私からも相手からも丸見えなのだ。


「ほぅ。久しく訪れる者の無かったこの地にやって来る者がいるとは思わなかった」


 目の前の白いドラゴンは私に真っ直ぐ視線を向けるとすぐに声を掛けてきた。

 ユアちゃんのダンジョンにいたクリスタルドラゴンよりも秘める魔力は桁違いに多く、その身体はまるで遊色効果のように見る角度によってその輝きは変わっている様は巨大なオパールのようですらある。

 首をもたげた体高は十メテル、全長で三十メテルはある。竜王と呼んで差し支えない威圧感と迫力だが、それはそのサイズだけのものではないと思う。


「こんにちは。まさかこんなところにドラゴンがいて、しかもお話が出来るなんて思ってもみなかったよ」

「ぐふふふっ。こんな喋る竜がいるような秘境にやってくる物好きと再び話せる日が来るとは、こちらも思ってもみなかったぞ?」


 冗談に冗談で返されたことがちょっとおかしくて、私も口に手を当てて薄く笑うと白いドラゴンもぐふふと一緒になって笑ってくれた。

 単純な殺し合いなんかになるよりもこうしてお話が出来る方がよほど建設的で有意義なので、友好的なのはこちらとしても嬉しい限りだよ。


「まずは自己紹介を。私はセシーリア・ランディルナと申します。身近な者からは『セシル』と呼ばれています」

「我が名はファルドステラン。この大陸に住まう竜王だ。白竜王、とかつては呼ばれていた」

「白竜王様、ですか」

「畏まる必要などないぞ強き者、セシルよ」


 ふいにゾワリとした感触がして肩が震えた。

 まるで真後ろから無防備の背中を見つめられたような、そんな気色悪い感覚は私に対して『鑑定』が使われた証しだった。


「…全部見えてる、ということかな?」

「ふむ、いきなり鑑定した無礼を詫びよう。すまなかったな」


 確かに不快だったのは間違いないけれど、突然自分の家に強い気配を持った相手がやってきたらどんな者なのか気になってしまう気持ちはわかる。

 この場合突然やってきたのは私だし、まさかこんなところに住んでるドラゴンがいるなんて思ってもみなかったとは言え、明らかに礼を失しているのは私の方。

 それを咎めるのは正しくお門違いも甚だしいと言える。


「…いえ、突然やってきたのは私だし、こちらこそごめんなさい」

「ぐふふっ、なかなか礼儀正しい者だな。何もないところだがゆっくりしていくといい」

「ふふっ、ありがとうございます。じゃあこれで失礼をしたのはお互い様ってことで」

「面白い者よ。せめてもの礼だ。これでも随分と長生きもしているので、何か聞きたいことがあれば答えられる範囲で答えてやろう」


 おっと、思ったよりも話せるドラゴンみたいだ。

 これはひょっとしたら思わぬ情報が手に入るかもしれないね。 

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「面白い者よ。せめてもの礼だ。これでも随分と長生きもしているので、何か聞きたいことがあれば答えられる範囲で答えてやろう」  !?  まさか竜が「おもしれー女」を言ってくるとは(盛大な勘違…
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