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閑話 どこにでもいる穀潰しの話

ちょっと息抜き…。


最近ボツワナで世界三番目に大きなダイヤモンド原石が発掘されましたね。

作中でも書いたことがありますけど、ダイヤモンドがあれだけ世界中のいろんな人に愛されているのはカットされた美しいルースが故にです。

本来のダイヤモンドはあんな感じのゴツゴツガタガタした物なのです。それでもあれほど綺麗な原石はほとんど見たことがありませんけど。

アダマス、ディアマンテ、ディアマン、アルマースなど、世界のいろんな言葉でのダイヤモンドという意味ですが、日本にいても聞いたことのある単語ばかりかと思います。それほど世界の様々な人が愛してやまない宝石ですね。

ダイヤモンドの歴史自体は古く、紀元前のインドにまで遡ります。極一部の特権階級の人向けの宝飾品でした。

それから時は移り、産出地がインドからブラジルへ。そして南アフリカでダイヤモンドが発見された際にその市場の実に90%を支配したと言われている人物がいます。

セシル・ローズという方です。

その後市場の支配は当然崩れ、いろんなことがあった上で特権階級だけでなくいろんな人が楽しめる宝石となったわけですね。


主人公の名前にセシルを使った理由はここにあります。私が好きな名前の一つでもありますけどね。

セシルにはダイヤモンドだけでなく世界の宝石の90%を支配してほしいと思っています。


今回の件は良い機会だと思い、こんな前書きでお話させていただきました。

では、本編……ではありませんが、続きをお楽しみ下さい。

 俺はドドリィ。

 聞いて驚け。オーユデック伯爵領にある宿場町の町長の息子だ。

 この町じゃ貴族以外の平民はみんな俺の言うことには逆らえねぇ。

 権力だけじゃねぇぞ。

 俺はガキの頃から喧嘩じゃ負けたことがねぇんだ。そこいらの冒険者や兵士だって俺には手も足も出ねぇ。

 だから町にいる気の荒い奴らはだいたいが俺の部下だ。

 特に腕っぷしの強ぇ奴だけを集めていつも町で好きにしてる。

 勿論下手に住民に手を出したりなんかしねぇさ。奴らがいるから俺が好きに出来ることくれぇ馬鹿な俺だってわかってんだ。


 いつものように俺は部下数人と町をブラブラして、昼間から酒を飲んでた。

 んで夜になっていよいよ腹も減ってきたし、どっかの店でも入ろうぜって話してたんだよ。ちょうど目の前にジャブルのステーキを出す店があったんで、全会一致でその店に入ったんだ。

 中に入ると人気のある店なだけあってかなり混み合っていた。キョロキョロと店内を見回し空いてる席を探していると一つのテーブルが目に入った。

 そこには滅茶苦茶可愛い女と色気たっぷりの美女が一緒にいたんだ。

 おっさんと若い男も一緒にいたが、構うことはねぇ。

 俺は一直線にその女のところまで歩いていきテーブルについていた四人を見下ろした。

 近くで見るとより一層可愛い。もう一人もすげぇ色気だ。かなり上等な服を着てるが、こんな店に来るんだし貴族じゃなさそうだ。


「見かけねぇ顔だな。ちょうどいい。俺の隣で酌しろや」


 こう言っちゃなんだが、俺ぁこれでも面には自信がある。

 町の女どもは俺に抱かれるためにみんなすぐに寄ってくるぐらいだからな。

 けど、どいつもこいつも抱き飽きちまってる。

 そいつらに比べたらこの女はとんでもねぇ上玉だ。

 胸はもう一人の美女に比べたらあんまりねぇが、それでも女らしい膨らみはあるようだ。

 だが、そんな俺の誘いをこの女は…。


「嫌よ。お山の大将がやりたいなら後ろの取り巻きにでもさせなさい」

「ウチもパスやな。なんやおもろなさそうやしな」


 さっきまで機嫌良さそうに自分の仲間達と喋っていた時とは打って変わり、不快な様を隠そうともせずに言い切りやがった。

 連れの美女も同じだ。心底つまらなさそうな顔をしてやがる。

 この俺が声を掛けてやったってのに、何様のつもりだ!


「あぁ?! テメェら、俺を誰か知らねえのか?」

「今日この町に来た私達が知ってるはずないでしょ。話の邪魔よ、どっか行きなさい」

「俺はこの町の町長の息子だぞ! 俺に逆らったらこの町から出られなくなるんだぞ!」


 しかし何を言おうとこの女共は怯えるどころか妙に威圧的な態度に出てきた。

 加えて女共の連れのおっさんがこいつを貴族だとか言う。

 そんなもんあり得ねえ。

 この領地にいる貴族なら俺が知らないはずもねぇ。

 事実、女が出してきた短剣に彫られた紋章は俺の知らないものだった。

 こいつらの弱味を握ることが出来たせいか、口角が上がっていくのを止められない。


「領主や子飼いの貴族の紋章は全部覚えてるが、そんな変な紋章なんざ知らねえ。…おい、貴族を語るのは王国じゃ重罪だって知ってっか?」


 だと言うのに女共は相変わらず惚けたままだ。

 だいたい他の領地の貴族が来るなら事前に親父のところに連絡があるはずなのに、何も無ぇ時点でこいつらは好きにしていいってことだ。

 そろそろ本格的に脅して連れてった方が楽でいいな。散々俺を馬鹿にしてくれた礼をきっちり身体に払わせてやる!


「いい加減にしやがれっ!」


 勢い良く蹴り上げたテーブルは天板が外れて床に転がった。

 こういう時、デカい声と音で脅すのはかなり効果的だからな。


「俺をコケにした奴がどうなるか思い知らせてやる! テメェとそこの女は二度と日の目が見れねぇようにしてやるからな!」

「はぁぁ…。セリフまで三下モブのチンピラかぁ。というか、もう煩いからそのくらいにしてね」

「うるせぇっ! おいっ、こいつらやっちまえ!」


 俺は後ろを振り返って部下達に声を掛けた。

 全員で武器を持って脅せばこの生意気な女もいい加減大人しくなるに違いねぇ。


「電撃魔法 電気触(スパーク)


 バチッと音がした瞬間、俺の全身に味わったことがないような激痛が走り、そのまま動くことも出来ないまま床へと倒れこんだ。

 あの女共の声が時々耳に入ってくるが、それよりも身体を全く動かせないことに恐怖で背中が凍り付くように寒くなって、それどころじゃない。

 こんなことをするくらいだ。

 俺のことをあっさり殺すこともあり得る。

 嫌だ。死にたくない。

 俺はまだまだやりたいことがあるんだ。

 しかしあの女は俺達を、まるでゴミでも扱うかのように店の外に放り出した後、踏みつけていったくらいで何もしてこなかった。

 助かった。

 その時の俺は確かにそう思ったんだ。




「くそがっ!!」


 ズガァン


 俺の前に置かれたローテーブルは叩きつけられた拳に抵抗出来ずにバラバラに砕けた。

 あの後、やっと動けるようになったのは日付を跨いだ一の鐘が鳴った頃。それからやられたことを思い出して部下共に命令して宿に泊まる女を攫いに行かせたが、誰も戻ってこないどころ翌朝になって全員捕まったことを別の部下から聞かされた。

 なんなんだあの理不尽な女は!

 脅しも、闇討ちも、男も駄目。あの身なりからして金をチラつかせても効果的じゃないだろうさ。


「ア、アニキ。手紙が届いてますぜ」

「あぁっ?! んなもん後にしろ!」

「へっ、へいっ! …け、けどゼッツのアニキからですぜ…?」

「なにぃ? 寄越せっ!」


 ゼッツとは俺の弟分でもある盗賊団を率いる男だ。

 昔はよくつるんで馬鹿なこともしたが、今のあいつは俺よりデカい組織を持った奴だ。今でもヤバい仕事の時には手を借りることもある奴だがこんな時に一体何の用……?


「ほう…。こいつは…面白ぇ。おい、すぐに集められるだけの奴集めて町を出る準備をしろ」


 俺の前で手紙を渡してきた部下にそう告げると、ゼッツから届いた手紙を握り潰した。

 ゼッツの野郎、あの生意気な女…本当に貴族だったみたいだが、奴を捕まえる仕事を領主から頼まれたらしい。

 なんでこんなに都合がいいのか知らねぇが、使えるもんは何でも使ってやる。俺をゴミのように扱ったあの女はただじゃ済まさねぇ。


 それから鐘一つ分の時間が経った頃、五十人くらい集まった俺の部下共と一緒に女の乗った馬車を追い掛けた。

 追い掛けたんだが!


「なんなんだよあの馬車は!」


 とてつもない速度で駆けていきやがる!

 こっちの馬も全力に近い速度で走ってるってのに全然追い付く気配がない。それどころか徐々に離されていく始末だ。

 その様に部下の用意した馬が駄馬だったのではと八つ当たりもしたが、町でも有数の名馬として聞いていた馬だった。

 確かに何度か乗った覚えのある馬ではあるが、それならなんでこんなに遅いんだ?!

 だが馬がバテ始めてきた頃、ちょうど良くゼッツの野郎が指定してきた場所へと辿り着いた。

 尤も、俺が着いた頃にはゼッツは既に馬車に対して金と女を要求していたところだったがな!


「はんっ。いかにあの女が理不尽な力を持っててもこれだけの人数を前にしたら手も足も出ねぇだろ」

「へへっ、今頃震えて泣いてるんじゃねぇですかね」

「はっ、いいザマだ。あの女は俺の手で泣かせてやらねぇと気が済まねえ」

「泣かすのは手じゃなくてアニキのアレでしょう?」

「違いねぇっ!」


 はははっ、と部下共と下卑た笑いを上げていた時、ちょうどあの女ともう一人の美女が馬車から降りてきた。


「自分から身体を差し出すなんざいい度胸だ。殊勝な態度に免じて少しくらい可愛がってやってもいいな!」


 上がる口角をそのままに女共に近寄ろうと足を踏み出したその時だった。


「な、なんだありゃぁ…」


 二人の女達がそれぞれ片手を俺達に突き出した後、空には光る柱のようなものが大量に現れた。

 見惚れている間にも光の柱はどんどん数を増やしていくが、そこでようやく俺は気がついた。

 あれは柱じゃない。

 光の槍だ。

 そう認識した途端、光の槍は俺達やゼッツの盗賊団に向かって降り注いできた。

 それからはもう地獄だった。

 さっきまで俺の後ろで股間を膨らませていた部下は短い悲鳴とともに光の槍で地面に、文字通り釘付けにされた。

 いつも相手が謝っても手を緩めず半殺しか殺すまで殴るのを止めない部下は七本もの槍に貫かれて即死だった。

 ゼッツの盗賊団も同じようなものだ。どいつもこいつも光の槍に貫かれて死んでいく。

 俺達を乗せてきた馬も問答無用に貫かれ、身体中から血を噴き出して倒れていく。


「なんなんだよ。なんなんだよてめぇはあぁぁぁっ!!」


 理不尽の権化のような女だった。

 あんな女に楯突こうなんてのがそもそもの間違いだったんだ。

 昨日やられた時に大人しく町のボスを気取ってりゃ良かったんだ。

 部下も馬も死に絶えて、俺一人だけ無様に地面でうずくまっていると光の槍が俺の前にズラリと並び、その鋭い切っ先を真っ直ぐ俺に向けていた。

 あ…駄目、だ…。俺は、ここで…。




 くそ、くそくそくそくそくそっ!

 ウェリントンに入って入り組んだ路地の奥にある廃屋に身を潜めながらも恨みの言葉ばかりが口をついて出てきやがる。

 それもこれもあの女のせいだ!

 光の槍に貫かれると思ったら、それは光の玉になってぶつかってきた。

 一発一発がウォーハンマーで殴られたような痛みだったのに、気がついた俺は縄で縛られて身動き一つ取れない状態だった。

 しかし騎士団の一人が俺の縄を切った上でここの廃屋まで町の外から直接入れる地図を渡してきたことで、俺は裁かれることもなくこうして町の中に身を隠していた。

 騎士団を率いていたのは副団長のボグリノースだった。

 あいつは親父のところにたまに顔を出してきちゃ騎士団への献金名目で金を受け取っていた屑みてぇな男だったはずだ。

 ま、騎士団長ほどじゃねぇけどな。

 ここの騎士団長は屑のボグリノースに輪を掛けて屑だからな。だが、俺ですら全く相手にならねぇくらい馬鹿みてぇに強い。…それでもあの女ほどじゃねぇだろうがな。

 まぁいい。

 どのみち俺も早いとこここから出て町に戻らねぇとな。

 何かやるにしてもこんなとこにいたんじゃ何も出来やしねぇ。


「今度こそあの女を踏みつけて徹底的に犯して殺してやらねぇと俺の気が済まねぇ」

「ほほっ、なかなか物騒なことを仰るのねぇ」

「誰だっ?!」


 俺しかいなかったはずの廃屋にはいつの間にかもう一人誰か立っていた。

 有り得ない。さっきまで俺が入り口のドアをずっと見張ってたんだ。目を離したのなんか数秒くらいだし、何よりあのボロボロのドアを音も無く開けるなんて無理だ!


「まぁまぁアテクシが誰かなんてどーでもいいの。それよりぃ、あの生意気な女に一泡吹かせてやりたいと思わなぁい?」


 そいつは奇妙な喋り方をしながら俺の近くまで滑るように近付いてきた。

 動きが人間のそれじゃねぇが、これだけはわかる。

 こいつは俺なんかよりよっぽど危ねぇ奴だ。


「…やってやりてぇさ。だがあの女は化け物だ!」

「ほほっ、そうねぇ。間違いなくアレは化け物よぉ? けど、それでも一泡どころかあの綺麗な顔がグチャグチャに歪ませることも出来るとしたら…どぉおぅ?」

「そ、そんなことが…出来るのかよ…?」

「えぇぇぇ勿論よぉ。アテクシについてきたら出来るのよぉ」


 絶対危ねぇ奴だが…。このままここにいたっていつまた捕まるかわからねぇ。それどころか次にあの女の視界に入ったら即殺されてもおかしくねぇ。

 あいつは本物の貴族だったみたいだしな。

 だとすれば、こいつについていくしか、俺に道はない。


「…わかった…。アンタについて行く」

「ほほっ、それが賢明よぉ。安心していいのよぉ? お友達もついてくるって言ってたしぃ、新しいお友達もたぁくさん出来るわぁ」


 新しい、友達?

 何を言ってんだ?

 しかし俺が問い質すより早く、暗闇が俺の身体を覆い、感覚さえも失っていく。

 ウェリントンの廃屋から俺の姿と意識は完全に消えてしまった。

今日も読んでくださってありがとうございました。

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