第295話 盗賊退治のテンプレは鎧袖一触
「ん……ふぁぁぁぁ…。あれ? 知らない天井だ。 …あぁそっか、昨日は宿に泊まったんだったっけ」
起きて目を開けると目の前には私の私室にある天蓋付きの大きなベッドではなく、見慣れない木の天井だけが見えた。
昨夜は屋敷に一度戻ってから大人しく宿にいることにしたことを寝起きの頭でようやく思い出すことが出来た。
わざわざ町の宿に泊まった理由は、部屋の床で痙攣してる男達にある。
「分かり易すぎでしょ…まったくもう」
四人の男達はいつ部屋に入ってきたか知らないけど、ずっと麻痺、盲目、無音無臭の状態異常にかかっていたはずだから、ひょっとしたら廃人になってるかもしれない。
でも女の子の部屋に無断で入ってくるような輩に容赦なんてする必要ないしね。
時空理術のスキルレベルが上がってきたおかげで、新奇魔法から切り離した結界魔法としての絶対領域。プイトーンの町で襲ってきた冒険者崩れに使ったものより更に極悪仕様にしておいた。
その分指定出来る範囲は狭くなっちゃったけど、この部屋くらいなら問題ない。
ベッドから降りて服を着替えると転がる男達は放置したまま部屋を出る。そのまま宿の受付までやってくるとアイカとクドーは既に待っていて、その足下には五人の男達が転がっていた。
「おはよう。変わった敷物だね?」
「おはようさん。昨夜の内に宿の主人が用意してくれたらしいで。ウチの好みやないからどう落とし前つけるんか聞こ思ってんねんけど…」
アイカの視線が受付のカウンターへと流れていくが、そこは無人であり、奥にも人はいない。
「主人がいない」
「ふぅん? とりあえず、私の部屋にも似たようなのがあるからクドー持ってきてくれない?」
クドーにお願いすると彼は何も言わずに立ち上がり、私の部屋へと向かってくれた。
「まさかこないにわかりやすく襲ってくるとは思わへんかったで」
「右に同じ。けど昨日のあの男はいないね」
「命令だけして待っとっただけやろ」
なるほどねぇ。
仮にこの男達が失敗して誰からの命令か口を割っても知らぬ存ぜぬで通すつもりだったってことか。
本当にどうしようもない小悪党だね。
「待たせたな。どうやら店主もグルのようだ」
クドーが床の転がせた四人の男の中には確かに昨夜見かけた店主の姿があった。
今朝私が気付かなかったのは見る必要もないからと数しか数えてなかったからかな。
ひとまずこのままだと会話も出来ないので仕方なく店主に対してだけ状態異常を解除してあげた。
「は…はふぁ…」
「もしもーし? ちゃんと喋れる?」
「…はっ?! お、おま、えは…」
気が付いていきなり『お前』呼ばわりは私も気分良くないね。
「貴様の無知には寛大に対処してやる。私はランディルナ至宝伯家当主セシーリアだ。それで、これはどういうことだ? 貴様の店では客の部屋に押し入るというサービスを店主自ら行っているということでいいんだな?」
殺意スキルを使って店主に脅しをかけると彼は真っ青な顔で全てを話してくれた。
どいつもこいつも小物というか。
プイトーンの町もそうだったけど、上が屑だと町中に屑が蔓延ることになるものなの?
カボスさん達と合流した私達は宿の店主と暴漢共を放置してすぐに町から出ることにした。
本当に気分が悪い。
寝込みを襲われたことが?
違うよ。
今も後ろからこっそりついてきてることだよ!
「次が領都ウェリントンかぁ」
「あぁ。あそこは門から領主館までの道が全部宝石店になっていてな。他領や他国の宝石もかなり取り扱ってるんだ。中にはセシルちゃんが好きそうな装飾品に加工されてない宝石や原石を売る店もある」
「へぇ…それはすごく楽しみだね!」
カボスさんから聞けた話はとても有意義で興味深い。
だからこそ、後ろからコソコソとついてきてる連中がうざったくて仕方がない。
それでも最初よりもちょっとずつ引き離されているのは彼等が普通の馬を無理矢理走らせているせいで馬の体力が落ちてきているからだろう。
このまま走り続けていればそのうち勝手にいなくなりそうだけど…、そうもいかないみたい。
「セシルー?」
私が気付いたのとほぼ同時に、幌の上で寝転がっているアイカからも声が掛かった。
「このペースだと二十分くらい?」
「そんなもんやな。後ろと合わせて全部で二百くらいおるで」
「ん-、それだと護衛の人達だけじゃ厳しいかもしれないね」
アイカの「せやな」という言葉通り。
後ろから追ってきるのは五十人くらいだけど、前方の林の中に潜んでいるのは全部で百五十人くらいいる。
「…セ、セシルちゃん? 今の話は…」
カボスさんが怯えた顔でこちらを振り向いてきた。
危ないから前向いて運転してほしい。
「前方に待ち伏せしてる連中が百五十人くらい。あと、さっきの町を出てからずっと追い掛けてきてるのが五十人くらいだよ」
「たっ、大群じゃないかっ! い、一体どこの盗賊団なんだ?! は、早く町に入って騎士団を…」
「町よりもかなり前で待ち伏せてるし、他の道はないよ。後ろにいるのは昨日絡んできた町長の息子とかいうのが率いてるっぽいね」
弱すぎてイマイチ把握し辛いけど、この感じは間違いないと思う。
「あ、あぁぁ…。ど、どうしたら、どうすればいい…」
「カボスさん落ち着いて。前にいる待ち伏せしてる連中が見えてきたら一旦馬車を停めて待っててくれればいいから」
怯えた顔から更に真っ青な表情になった彼の肩を叩く。
全身が小刻みに震えているけど、私達がいるのだしそんなに怯える必要もないのにね。
そしてしばらくカボスさんはほとんど口も聞かずにただ馬車を走らせて、ようやく待ち伏せしていた連中が見えてくると私が言った通りに馬車を停めてくれた。
「待て! この先に行きたかったら荷物と女を置いていけ!」
うわぁ…テンプレいただきました。
集団の真ん中に立っていた男が声を張り上げてきたけど、私としては笑うしかない。
面白そうではあるけど、こいつらを始末するのに時間をかけるつもりはない。
安全安心確実に、そしてスピーディに終わらせるなら魔法で一発やってしまえば済むしね。
そう思って御者台から下りて馬の前まで進んでいくと上から声が掛かった。
「セシル、ウチがやってえぇか?」
アイカが幌の上から飛び降りて私の横に並び立った。
ずっと寝てただけだから暇だったのかもしれない。
「いいよ。じゃあ私は後ろの方をやっちゃうね」
「おっけーや。万が一はないやろうけどクドーはおっちゃんら守ったってや」
アイカの言葉に馬車の後ろからクドーが降りてきてその手には以前ユアちゃんのダンジョンで使っているところを一度だけ見た弓を握っていた。
打ち出される矢が自動で装填される上に、あれは矢じゃなくて槍だったっけ。攻城兵器のバリスタっていうのがあるけど、それを持ち歩いてるようなものだ。
普通は重すぎて兵士数人で取り扱うような物だったと記憶している。
けれどクドーが持ってるレジェンドスキル『武具自在』はその手に持つ武具の重量をゼロにしてしまうので、彼はどんなに巨大な武器でも枯れ枝を振るうような感覚で使えてしまう。
それはあの弓に張られている弦にも効果がある。
余程のことがなければクドーの弓を避けて馬車に攻撃を加えることは出来ない。
「アイカ。別に生かしておく必要はないけど、とりあえず先頭にいる男は可能なら殺さないようにしてくれる?」
「…可能か不可能かなら可能やな」
私達の話を聞いたカボスさんはこれから起こることが何なのかわかっていないようで護衛がいる馬車へと走っていった。
出来れば邪魔になるから護衛にも出てこないでほしいんだけどね。
「やっと後ろも追いついてきたし、さっさと終わらせちゃおう」
「了解や! ほないくで!」
私達はお互いに背中を向けて片手を前に突き出した。
「町長の息子だけは辛うじて生かしておかなきゃね。いくよ、剣魔法 光縛剣!」
「虹魔法 ジャッジメントですの!」
私達の手から放たれた魔力はそのまま上空へと向かい、そこにいくつもの光の剣が現れた。
この時点で二百人いた盗賊だかゴロツキだかの戦意は失われていたと思う。
悲鳴と呻き、そして私達へと向けられる敵意の籠もった声と慈悲を願う声だけが響くことになった。
当然ながらあっさり盗賊らしき賊を片付けた私達はその後始末をしていた。
生き残っていたのは町長の息子と前方の集団で先頭に立っていた男の二人だけ。
他は軒並み殲滅しておいた。
あぁいうのは残しておいても碌なことにならないからね。もう身に染みてますとも。
約二百人分の死体を魔法でひとまとめにした後、地面に大きな穴を空けて放り込み火を放つ。
うん、単純明快。明朗解決。
私の煉獄浄焦炎なら魔法防御がかなり高くないと灰しか残らない。炭にすらさせないよ。
そんな私達の様子をカボスさん達だけでなく護衛達すらも青褪めた表情で見ている。
そんなに怯えなくても敵にならなければ攻撃されないんだから気にしなくていいのにね。
「さて。そろそろだね」
「せやな」
後始末を終えて主犯格二人を拘束したのに私達が出発しなかったのは理由がある。
それがウェリントン側から今まさにここに到着した騎士団だ。
「領主オーユデック閣下のお膝元で旅人を襲わんとする不埒な輩どもよ! 我らオーユデック伯爵騎士団がいる限り、そのような大罪を許しはせ………ん、んん?」
いきなりやってきて馬鹿みたいな口上を上げ始めた男。
軍馬らしき立派な体格の馬に乗り、剣を頭上に掲げて大声で叫ぶその姿は確かに騎士団長としては格好いいかもしれない。
普通ならね。
今はただ間抜けにしか見えない。
この騎士団自体は本物みたいだけど、私達が賊に接触する少し前から賊よりも更に馬で十五分くらいの場所にいたのはわかっていた。
つまりは私達が襲われたのはこの騎士団の、ひいては領主であるオーユデック伯の差し金と見ていい。証拠はないけどね。だからこの茶番にはもう少し付き合う必要がある。
「貴殿は?」
私が先頭に立って騎士団長らしき人物に声を掛ける。
年齢は四十くらいか。赤茶色の髪を短く刈り上げ、体だけでなく顔までもゴツゴツした厳ついおじさんだ。
全身を振るプレートメイルで覆い、勇ましく吠えていただけに恰好だけはついてる。
しかし本当に盗賊退治に来たのであれば装備の選択ミスだ。あちこちに逃げていく盗賊達を、あんな重い鎧を着ていたら追いかけることも出来ない。
まぁ本来ならば現時点でも盗賊と私達が戦闘中であったはずなのに既に主犯格しか残っていないことに呆けており、私が問いかけたのに答える様子もない。
「きっでっんっはっ?!」
「…あ、はっ! 私はオーユデック伯爵騎士団にて副団長をしておりますボグリノースであります!」
「…私はセシーリア・ランディルナ至宝伯だ。それで? オーユデック伯は訪ねてきた貴族に対し馬上からの挨拶を許しているのか?」
「っ! しっ失礼しました!」
馬鹿過ぎない?
あまりに馬鹿すぎる騎士団副団長に呆れながらも、捕らえた賊を渡してほしいと言われたのでそのまま部下の騎士に縛り上げた縄ごと手渡した。
それから彼らに率いられてウェリントンへと向かうことになった。
当然ながらその行軍の途中でいつの間にか捕らえた二人は消えていた。
今日もありがとうございました。
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ノクターンでユーニャの思い後編の後に起こったことをアップしています。
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