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第292話 いつも通り大量!

「おーいセシル、そろそろ動くのだぁ…」

「やだぁ…もうちょっとぉ…」

「わっち、そろそろ飽きたのだ」

「私飽きないもーん」


 自分の背丈の倍以上もあるアクアマリン結晶に抱き着いたまま、そろそろ一時間は経過したと思う。

 はぁ…最高。

 こうして抱き着いてるだけでもお腹のあたりがキュンとしてくる。

 これが恋?

 そっか、私の初恋はアクアマリンだったのか…。


「セシルが馬鹿なのは知ってるのだ。お腹が空いてるなら早く帰るのだ」

「違うもん。これは恋だもん」

「だいたい、アクアマリンしかまだ掘り起こしてないの覚えてないのだ? 掘り起こしたのは他にもあるのだ」

「……そうだった!」


 メルの言葉をしばらく理解出来ないほど目の前の巨大な結晶にうっとりしていたけれど、言われたことを脳内で反芻する内によやく意識がはっきりしてきた。

 確かにあの時はかなり地下深くに眠っていたベリル鉱石をごっそり動かしたんだった。

 当然そこには他の宝石もあるはず。

 最後ももう一度アクアマリンに抱き着くと、とても寂しい気分でその巨大結晶を亜空間へと収納した。

 さすがにこのサイズだと魔法の鞄に入れるのは無理があるので、直接時空理術を使わざるを得ない。


「お待たせ」

「本当に待ったのだ」

「いいから早くして」

「…本当に人使いが荒いのだ…絶対嫁の貰い手がないのだ…」

「私結婚するなら宝石とするってもう決めたの」


 メルは黄色い身体に無数の縦線を走らせ、私をじっとりとした目で睨んできた。

 なんでそんな残念な人を見るような目で見るのかわからないんだけど。


「それじゃ出すのだ」


 メルから声がかかるとアクアマリンの原石があった場所の下から再度岩が盛り上がって出てきた。

 かなり細かな物を多くあるけれど、鉱床自体を動かしたのだ。それだけでも相当な量がある。

 ボコッと音がして地面から岩の塊が生えてくるとすぐに地魔法で余計な土を払っていく。すると見えてくる、いろんな種類の宝石達。


「おぉ…まず出てきたのはゴッシェナイトだね」


 パッと見て水晶のようにも見えるけど、この緑柱石特有の六角柱の結晶を見ればそうではないことは一目瞭然。無色透明のその結晶は水晶とはまた違った趣のある原石だ。

 水晶よりもジルコンに近いかもしれないね。

 透明度が高いものはあまりないけど私のスキルがあればそんなのはどうもでもなる。

 その後に続くのはヘリオドール。

 これも六角柱の結晶であり、その色は見事なまでのレモンイエロー。僅かに黄緑掛かったその美しい結晶はまるでデビュタントを控えた令嬢のような愛らしさがある。

 思ったよりも多く出てきたのは僥倖と言えるけど、私の目に映ったのはその影に隠れた恥ずかしがり屋なお姫様。


「ゴールデンベリル?! うわぁ…大きい!」


 拳大ほどもある濃い橙色の結晶で、しかも最初からインクルージョンもクラックもほとんど見られない。

 こんなものが貴族の間に流れたらさぞ高い値段がついただろう。

 けど残念。これは私のものです。このお姫様は私がしっかり愛でて愛してあげないといけない。だから他の人には触らせないよ。

 これは是非ともしっかり加工しなきゃ。

 何がいいかな? オーソドックスにファセットカット? それとも広くその色合いを楽しめるステップカット? いや、敢えてここはラウンドブリリアントカットも有りなんじゃないかな!


「おぉ? セシル、今度はピンクのが出てきたのだ」

「ピンク?  あっモルガナイトだね。いやぁぁぁぁぁぁっ! なにこれ可愛いぃぃぃぃぃっ!」


 パステル調の優しいピンク。桜色にも見えるこのモルガナイトはまさに恥ずかしがり屋のお姫様が染めた頬のように庇護欲を駆り立てる。

 こんなの見せられたらすぐにでもお持ち帰りしなきゃでしょ?!

 うん。持って帰ります。

 ちなみに、確か人の名前から付けられた名前だったはず。この世界じゃほとんど認知されてないかもしれないけど、もう一目惚れだよ!

 ローヤヨック伯爵領の鉱山で掘られているのはアクアマリンのみ。しかも薄い水色の物が良いとされている。

 普通宝石は透明度が高くて色がはっきりした濃い物ほど価値が高いとされる…のだけど、それはあくまでも前世での話。この鉱山での需要がアクアマリンのみならば、それ以外の石は全部もらえるように改めてローヤヨック伯との契約をしてしまおう。

 科学的な処理から魔法による処理も含めればこの先百年くらいは彼等から宝石を貢いでもらえそうだしね。

 そしたらもっといろんなお姫様達に会えちゃうよ!

 ごめんね皆、浮気性で!

 でもみんなのこと愛してるから!


「これで最後なのだ。かなり小さいけど赤いのだ」

「…赤…あかっ?!」


 私の手の平の上には小指の先ほどしかない小さな結晶が一つだけ。

 ピンク掛かった赤い柱状の結晶。間違いなく、レッドベリル。

 それこそ少女から大人の女性に成長していく過程の、少しだけ子どもっぽさを残した今の私くらいの年齢の女の子を見ているよう。

 いや私なんかじゃ比べ物にならないくらい綺麗だけど!

 でも、そんな一瞬の輝きを閉じ込めたような愛らしさと美しさを兼ね備えた光は他の宝石にはない魅力がある。

 そんな小さな小さな結晶を大事に布に包むとすぐに腰ベルトへと収納した。


「なんなのだ? いつもみたいにだらしない顔でペロペロしないのだ?」

「こんなに小さなお姫様が折角私のところに来てくれたんだもの。大事にしなきゃいけないじゃない」

「ふむ。珍しいのだ」

「そういうこともあるんだよ。それとだらしない顔は認めるけど、原石のままペロペロなんかしないから」

「加工した後はどうなのだ?」

「全身で楽しませてもらうに決まってるでしょ」


 ジト目の顔文字になったメルの言葉は完全に無視して採取出来た宝石をそれぞれ腰ベルトへと収納していく。

 どれもこれもとても可愛くて愛しくて綺麗で…ここで眺め出したらまず間違いなく屋敷に帰ることを忘れる。断言出来る。

 さすがにそれは拙いので、ここはちゃんと収納した上で今夜楽しませてもらうことにします。うふふ…。




 全ての宝石を収納し終えた後、まだ少し日が高かったこともあってもう少しだけ移動することにした。

 転移してしまえば一気にローヤヨック伯の領主館まで行けるのだけど予定ではもう四日くらいかかることになっているので時間を調整する必要があった。

 そこで領都ライドングに近い森までやってきてから王都の屋敷へと転移することにした。

 問題があるとすればすっかり日が暮れてしまってこの場所をイメージとして印象つけられないことだろう。

 転移は便利だけど明確にその場所がわからないとどうしても魔法が成功しない。もしくはピンポイントな位置情報が必要となる。

 まぁそんなのは位置登録(ポイント)があればどうとでもなるんだけどさ。出来れば使わないで済むのが一番だけど。

 そんなわけでいつもより少し遅い時間だけど、屋敷に戻ってきてユーニャとディックの三人で夕飯を食べ終えた。

 アイカ達はローヤヨック伯の領主館で至れり尽くせりされてるはずだよ。さっきも携帯電話で話したところだから。


「そうそう、セシル。例の倉庫の件なんだけど」

「モルモとインギスにお願いしておいたやつね。ユーニャがやってくれてるの?」

「ちょっと他にも必要なことがあったからついでにね。あの更地に十棟建てることにしたから報告をね」

「とりあえずはそれだけあれば十分だね。やり方自体はみんなに任せるけど後で私が分かり難いことにならないようにだけは注意してくれる?」

「勿論大丈夫だよ。ちゃんと管理体制もインギスさんと相談してあるから」


 さすが、と褒めるとユーニャは頬に手を当てて嬉しそうに体をくねらせた。


「ご褒美はまた今度セシルと、ね?」

「あ、はは…。じゃ、じゃあこの視察が終わったらってことで…」


 ユーニャにそんなことを言われたら拒否は出来ないよ。この前と違ってちゃんとやるべきこと以上のことをしてくれてるなら、ちゃんとそれに対する報酬は用意すべきだからね。

 でもユーニャの完全に好きなようにはさせないよ。

 そのための用意をこの四日の内に終わらせておこう。


「ねえね、僕は来月から貴族院に入るからしばらく会えないね」


 そう、秋の入学式は来月であり、ディックはリーアを連れて貴族院へ入ることになっている。

 私も入っていたわけだけど、貴族院自体は五年間。基本的には休みの日にしか家には帰れない。今はこの屋敷が王都にあるから毎週帰ろうと思えば帰れるんだけど…。


「やっぱり毎週帰ってはこないの?」

「うん。それよりも寮で魔道具の研究したい。研究自体は机があればどこでも出来るし」


 まぁそうなんだけど…ちょっと自立が早過ぎるでしょう?

 お姉ちゃんはちょっと寂しい。

 そんな表情が出てしまったのかディックが慌てて両手を胸の前で振った。


「ね、ねえねに会いたくないわけじゃないよ? 僕の我が儘だし、夏と新年は帰るし、えっと…。でも魔道具くらいしか僕ねえねの役に立てないし…その…」


 なんだこの可愛い生き物は。

 この子、私の弟なんだよ? えへへ。


「大丈夫。ありがとうディック。でも必要なものがあればちゃんと屋敷に取りに来るんだよ? お姉ちゃんがちゃんと用意するから」

「うん、わかった。もっとねえねの役に立てるように僕も一生懸命勉強してくるよ」


 健気過ぎて涙が出そう。

 私はステラが無言で差し出してきたハンカチを目尻に当てると、ディックとリーアのために最高のアクセサリーを用意することを心に誓った。

 夕食、湯浴みも済ませた私は研究するという名目で地下室へと向かった。

 最近では公然の秘密になっている地下室だけど、魔石を改良して私もステラしか入れないようにしてある。

 こればっかりはユーニャやアイカでも立ち入りを許可出来ない。非常に遺憾だけどステラだけは拒否出来ないので仕方なく、だ。

 地下室に入るとそこはいつもの展示室。部屋の真ん中には大きなベッドが置いてあり、私の憩いの場になっている。

 そして、この地下室だけど実は拡張してあるのだ。

 広さもだけど、地下二階も作ってある。

 そこには影の出来ないように配置した灯りと、広い作業テーブルが設置してある。

 宝石の加工や魔石化、様々な付与の実験を行っている。

 研究室だけど、完全に趣味の部屋である。

 地下に設けたのは紫外線を受けると褪色してしまう恐れがある宝石のためだ。


「それじゃ早速今日採ってきた戦利品を出していこうかな!」

今日もありがとうございました。

感想、評価、レビューなどいただけましたら作者のやる気が漲ります!

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― 新着の感想 ―
[一言] >「私結婚するなら宝石とするってもう決めたの」 >「加工した後はどうなのだ?」 >「全身で楽しませてもらうに決まってるでしょ」 ステラ|△゜).o0(もしやパールを入れて加工したアレを持っ…
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