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第291話 テコ入れ

 翌日、ユーニャもすっかり落ち着いて昨夜は何事もなかった私はすぐにラブンのところへ行き、そのまま班長に鉱山の最先端、今一番坑道を進めている場所へと案内された。

 どの方向に掘り進めるかは専らここの責任者や班長達の経験によるところが大きく、言ってしまえば勘でしかない。

 そんな状況なものだから、掘り進めてみたもののほとんど産出されないなんてこともまま起こる。

 今回はその最たる例だろう。


(メルから見ても、これは無理よね?)

(なのだ。この方向に掘り進めても昨日の場所ほどは出てこないのだ)


 それはまぁ全くないわけじゃないけど、彼等の求める産出量を鑑みたら足りないだろうということはすぐわかる。

 それよりもここから少し戻った脇道に入った途中から掘り進めればそこそこの産出量が見込めるはずだ。

 この鉱山自体の産出量はまだまだ枯れることはないのでこのペースで進むなら百年くらいは大丈夫だと思う。

 それも人力で進められる場所に限定してもだ。


(さて、それをどうアドバイスしたものかな)

(一番手っ取り早いのはヘンゼルとグレーテルみたいにすれば良いのだ)

(お菓子の家? 宝石の家でも作るの? そんなのあったら私がもらうよ)

(セシルの馬鹿話に付き合うつもりは無いのだ。パンクズの話なのだ)

(パンクズ? …あぁ、そういうこと)


 私は彼等が掘り進めるのを見ながらこっそりと時空理術で鉱山内の鉱脈を把握、オリジンスキル『ガイア』を使って適当に位置をずらして目的の鉱脈へ辿り着けるルートを作っていく。


「まぁ坑道を広げるのは時間が掛かるもんだ。こうして見ててもあんまり面白いもんじゃねぇ」

「なるほど。それじゃ戻ろうかな」


 なるべく興味無さそうにそう言えば、班長も少し安心したように小さく息を吐き出したのが見えた。

 いかに言葉使いを気にしなくていいとは言ってもやはり貴族の案内は彼等にとってはかなり緊張するだろう。余計な仕事と思われているかもしれないので、早めに切り上げさせてやりたいとは思っている。

 まぁこれから大変な思いをしてもらうけど。

 元来た道を引き返し、鉱山から出るために歩いていくとさっき私が作った目印を設置した脇道まで戻ってきた。

 あの目印は少し分かり難いようにしたけど、それなりに宝石を見ている鉱夫達なら見分けがつくくらいのものにしてあるつもりだ。


「ん? あれは?」

「…どうかしたんで?」

「ここの道の途中に青い石が見えた気がしたんだよ」

「…気のせいかなんかじゃねぇか?」

「ちょっとだけ見ていい?」


 私がそう言えば彼等は従うしかない。

 その脇道には元々原石はなく、本当にただの通り道として掘っただけのものだと班長は知っていたがために、若い女貴族がここに来てワガママを言い出したか、としか思っていなかった。

 空気読めないとか人の気持ちを考えないとか言われる私でもさすがにこの班長みたいにあからさまに表情に出ればわかる。

 ま、今は貴族のワガママだと思ってもらっても構わない。


「えっと、ほらここ」

「閣下はずっとここにいて宝石ばっかり見てたんで、見間違えたんじゃ……本当だ。小せぇが、確かにちょっとだけ顔を出してやがる。おいっ!」


 班長はちょうど近くを通った鉱夫からツルハシとハンマーがついたようなロックピックハンマーを受け取り、私が指示した場所を丁寧に掘り始めた。

 厳つい外見からは想像出来ないくらい丁寧な仕事であり、ゴッシェナイトの原石が少しずつ見え始めていた。


「…こいつは…大きさはそんなでもねぇが、かなり綺麗なやつだ。このまま掘り進めていけばもっとあるかもしれねぇ。閣下、こいつは大発見でさっ!」

「そうなの? それは良かった。早速ラブンと相談して採掘計画を練り直した方がいいんじゃない?」

「おぅよっ!」


 班長は飛び上がるように喜ぶとさっきの鉱夫にロックピックハンマーを返し、この脇道にだれも入らないように指示して自分は私を連れて急ぎ鉱山から出ていくために歩き出した。

 ちなみに、彼等も良質な宝石が出ればいくらかのお金を貰えることになっているらしく、今回私が動かしてあげたゴッシェナイトがずっと産出されれば班長といえども金貨数枚は手に出来るはずだ。

 まぁ奥にはアクアマリンの鉱脈があるからボーナスはもうちょっと貰えるかもね。




 あれからラブンと班長は採掘計画の見直しとローヤヨック伯への報告をするための話し合いをすると言って応接室に籠もってしまった。

 一応私貴族なんだけどね? いやまぁ気にしないけどさ。

 とりあえず放置されたのをいいことにズリ山から小さなアクアマリンとゴッシェナイトを拾い、母岩がついたままの原石をいくつか貰い受けた。

 彼等の中では無価値とされているようなモルガナイトの大き目な物やヘリオドールの結晶を貰えた時には飛び上がってしまいそうなほど嬉しかった。

 そうして過ごし、鐘一つ分ほど経過した頃に応接室へ戻ってみると青い顔をしたラブンと班長が向かい合って座っていた。


「どうしたの?」

「「か、閣下っ!」」


 私が部屋に入れば二人は勢いよく立ち上がって両膝をついた。

 このまま頭を下げたら土下座の姿勢だ。

 それにしても何だろう? 私が掘り出せそうにない原石を動かしたのバレちゃったかな?


「し、至宝伯であるランディルナ伯を放っておいてしまうなど…大変失礼致しました!」

「ど、どうかこの件は領主様には秘密にしてもらえない、だろうか」


 びっくりした。

 普通に考えたら岩の中にある鉱床やら原石の塊を動かすなんて出来るとは思わないよね。


「気にしてないよ。ほら、いつまでもそんな格好しないで。そんなことよりここの人達が宝石をいっぱい掘り出してくれればその分私がもらえる宝石が増えるんだからしっかり計画立てて、頑張ってくれることの方がよっぽど嬉しいよ」

「か、閣下…」

「…私は貴族様についてあまり存じ上げませんが、話に聞く中で領主様と閣下を見ていますとさすが人の上に立たれるお方だと、感激致します。我らが領主ローヤヨック伯爵様のためにも、閣下にお喜びいただける結果を出してみせます!」


 二人の手を取って立ち上がらせただけなのに彼等は目を剥いて驚いていた。

 恐る恐る私の手を取る様は私が見たことのない宝石に触れる時と同じくらい震えていた。

 平民出だって話したはずなのになんでこんなに感激するのかよくわからないけど、頑張ってくれるなら私も嬉しいし態々水を差すこともない。


「楽しみにしてるね」

「「はっ!」」


 二人は騎士団みたいな敬礼をすると、とてもやる気に満ちた笑顔を浮かべた。




 鉱山を出たのは五の鐘が鳴る少し前だった。

 このままだとすぐ近くで夜営することになるから明日の朝出るように引き止められたけど、仲間も待ってるからと強引に出発してきた。

 アイカとクドーが待ってるのは間違いないだろうけど、それよりも早く鉱山を離れてしまいたかった。

 私の時空理術でガイアによって動かした原石や鉱石の場所へ一刻も早く行きたかったからだ。

 早く見たい。私の頭の中にはそれしか考えられなかった。


「さすがセシルなのだ」

「何? 馬鹿にしてるの?」

「そうじゃないのだ。やはりオリジンスキルを得るくらいだから欲に塗れた女だと思っただけなのだ」

「やっぱり馬鹿にしてるじゃない!」


ドッ


「のだあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!!」


 顕現して私の左上に浮かんでいたメルに対し飛び上がりながら右足で後ろ回し蹴りを食らわせると黄色いボールは勢いよくずっと先にある森に向かって飛んでいった。

 うん。我ながら良い威力だ。

 そして周囲を見渡すとその森、私が鉱山に来る時に着地した場所へと長距離転移(ゲート)を使い移動した。

 かなりのMPを消費するものの、時間短縮には最適な魔法だから今後もよく使うことになりそうだ。

 地図があるわけでもないのに迷いなく歩き出し、五分も歩いた頃には木にぶつかって目をぐるぐるさせた顔文字になったメルを発見した。


「メル、そんなところに貼り付いてないで、そろそろ行くよ」

「…セシルが悪魔に見えるのだ…」

「こんな女の子が悪魔だなんて失礼だよ」

「普通の女の子は飛び後ろ回し蹴りなんてしないのだ。自陣ゴール前から相手ゴールにシュートするようなものなのだ」


 そんなウィング主将のシュートなんて知りません。というか私は前世でそんなにサッカー詳しくなんてなかったのになんでメルが知ってるのよ。


「とにかく、行くよ。もうすぐそこなんだから」


 木に貼り付いたメルを引っぺがして放り投げると再び黄色いボールになって私の近くに浮かび上がった。


「最近、セシルがどんどん凶暴になっていくのだ…」


 うん。なんとなく自覚はあるよ。メルに対してだけね。

 多分前世とは言え、元々自分だったものに対する嫌悪感からかもしれないね。自分だったってことには自覚ないけど。

 メルの言葉を無視してまた十分ほど歩くと地面から少しだけ飛び出している青い岩を発見した。

 あからさまに突出させたりして誰かに見つかるのを避けたとは言え、これが宝石だとは普通の人は気付けないだろう。

 そのまま地魔法で地面に埋まった原石を掘り起こすと、ようやくその全貌が明らかになった。


「思った以上に、大きいね」

「デカすぎなのだ。屋敷にあるものより大きいのだ?」

「そうね。まだ『ガイア』の使い方がうまくないからこれがどのくらいの大きさだったのかまでわかんなかったんだよね」


 掘り起こしたアクアマリンの原石はその高さが五メテル、幅三メテルほどにもなる。花崗岩や玄武岩の塊ならその重量は五十トンを超えてくるだろうけど、これは中に隙間もあるのでそこまでじゃない。そこまでじゃないけど、どう考えても三十トンは超えるだろう。


「これどうやって部屋に飾ったらいいかな?」

「セシルは馬鹿なのだ。床が抜けるのだ。馬鹿なのだ。大馬鹿なのだ」

「っ!」

「のだっ?!」


 馬鹿馬鹿五月蝿いメルをもう一度蹴っ飛ばして改めてその塊を見上げた。

 うん。はっきり言ってやり過ぎた。

 これを貰った上でローヤヨック伯から毎月一トンものアクアマリンを貰ったらさすがに貰いすぎだろう。

 うん…貰いすぎ? かな? いやいや、クドーの技術は安くないもんね。全然大丈夫。

 さて。

 気分を切り替えたところで意識を集中させてオリジンスキル『ガイア』を使った。

 今のままでもアクアマリンの原石としてとても綺麗なんだけど、折角だからこの大きさのまま純度を上げていく。どんどん母岩と結晶に分かれていき、縦横無尽に走っていた結晶内のクラックですらも消えていく。僅かな時間の内に私の目の前には高さ三メテル、幅二メテルもの巨大アクアマリン結晶が現れていた。

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >僅かな時間の内に私の目の前には高さ三メテル、幅二メテルもの巨大アクアマリン結晶が現れていた  これがかの有名な、城を空中へ浮かせられる飛○石の原石!?  浮力を制限する重しがなければ、こ…
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