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第290話 ローヤヨック伯爵領鉱山視察

 街道を歩き始めて一時間も経っていなかったと思う。


「飽きた」

「セシルだからそうなると思ったのだ。すぐ近くには人の反応はないから森にでも行って飛べば良いのだ」


 顕現させておいたメルと話しながら歩いていたけど、やっぱりゆっくり歩いていくのもすぐ飽きてしまった。

 だって鉱山だもん。楽しみすぎて楽しみすぎて。

 ということでメルのアドバイス通り、近くの森へと入るとすぐに上空へ飛び上がって目的地までかっ飛ばしていきました。

 ちなみにメルは顕現させたと同時に蹴っ飛ばしておいたよ。

 前回話した時になんかイライラさせられたからね。何でだったかはもう覚えてないけどとりあえず蹴っとけ、って。

 というわけで四の鐘が鳴るかどうかくらいの時間に私は鉱山近くの森へと着地して、現在は鉱夫達がいる詰め所へとやってきている。

 木で建てられた荒ら屋みたいなものだけど、彼等にしてみれば雨風を防げればなんでもいいみたい。

 ちょうどお昼休みだったので、あちこちから良い匂いがしてそれぞれ貪るように口に詰め込んでいた。

 そんな様子を横目で見ながら、ここの責任者をしているラブンという男性と応接室へと向かって歩きながらとりとめのない話をしていた。


「お見苦しいところをすみません」

「いえ。彼等は身体が資本。しっかり食べてお昼からも仕事も頑張っていただきたい」

「ほぉ…。今王都で一番勢いのある新進気鋭の貴族様と聞いていましたが、しっかりとした考えをお持ちのようで、感服致しました」

「私は元々平民の出だから。…実はこういう堅苦しい話し方もあんまり好きじゃないんだよね」


 ラブンは私から突然小声で話し掛けられ、驚いたように目を剥くと小さく苦笑いを浮かべた。


「なるほど。このような綺麗なお嬢様が何の用かと思っておりましたが…、我々に近いお考えの方でもあったのですね」

「近い、かな? でも、ここの人が頑張って採掘してくれてるから貴族もお金持ちも宝石を楽しめるのは事実だしね。頑張ってほしいと思うよ」

「閣下、貴族様らしい話し方が既に出来ておりませんが?」

「あれ、そうだったっけ?」


 そんな風に談笑しながら、薄暗い応接室へと入るとラブンはソファに座る私に黒豆茶を出してくれた。

 ちょっと懐かしい香りに久々に一人で行動していることも相まって、すっかり貴族らしく振る舞うのをやめてしまっていた。


「さて、早速本題に入りますが…。領主様からは閣下をご案内せよとの手紙だけいただいております。しかし、坑道はしっかり補強してあるとはいえ絶対に安全とは言えぬ場所です。そのような場所へご案内差し上げるのは…」

「大丈夫。これを見たら、多少の危険は問題にならないってわかってもらえると思う」


 普段から腰ベルトに入れっぱなしで最近ではほとんど使っていなかった冒険者カードを取り出して見せた。


「それはっ…まさか、私は話でしか聞いたことがないのですが…、Sランク冒険者のカード、ですか?」

「そう。だから崩落とか魔物の大量発生くらいじゃ危険とは思わないから。折角だし、今掘ってる一番奥まで見てみたいね」

「…なるほど、これならば確かに領主様が好きな場所を見せて差し上げろと言うのもわかります。でしたら採掘班の班長を案内につかせましょう」

「ありがとう。それじゃ彼等のお昼休みが終わって準備が出来るまでズリ山や採掘されたばかりの石を集めている場所も見せてもらえるかな?」


 ラブンは承知しました、と頭を下げると早速私を連れて鉱山の各作業所を案内してくれた。




 あれからずっと作業所を見て回った後、私は採掘班の班長と一緒に鉱山の中へと入っていた。

 ある程度の間隔を置いて灯りの魔道具が設置されており、坑道は暗かったけど普通に歩けるくらいには整っていた。

 松明やランタンで灯りを取っていなかったのは一安心。可燃性のガスが出てたら大変なことになる。


「どうだ、この鉱山は」

「えぇ、とても丁寧に坑道が作られていて感心するね。今はどの程度まで掘り進んでいるの?」

「ここからなら三千メテルくらいでさ。奥に行くほど慎重に掘らねぇとここの宝石はすぐ割れちまう」


 班長は特に名前も名乗らないまま私の案内をしてくれているけど、彼は丁寧な言葉が苦手らしく最初全然話をしてくれなかった。

 巌のようなごつごつした顔と筋肉で盛り上がった肉体だけど、そんなことを気にするような人には見えなかったし、話してくれないと現場の生の声が聞けない。

 普通なら貴族に無礼を働けば物理的に首を飛ばされても仕方ないから当然と言えば当然なのだけど、それは私の望むところじゃない。

 私がいつも通りの話し方でいい、そんなことくらいで不敬なんて思わないから鉱山のことをいろいろ教えてほしいと言ったら、豪快に笑いながらこうして先頭に立って案内してくれている。


「けど、さすがに今日これから行ってたんじゃ晩飯に間に合わねぇなら一番奥に行くのは明日にして、今一番宝石が採れてるところに案内するぜ」

「一番? それはすごく楽しみだね。そこからはどんなものが採れてるの?」

「青いやつだな。薄い青のもあるが、濃い青が多くて領主様はあんまり好きじゃねぇらしいんだが…」

「あぁ…確かに王国だと色の濃いアクアマリンは好かれないからね。でも私は好きだよ。濃いのも、薄いのもどっちも!」

「へへ。閣下みたいな人に見てもらえりゃ俺達も掘ってる甲斐があるってもんでさ。連中、こんな美人さんが見にきたなんて言やぁ飛んで喜ぶに違いねぇ」


 お上手ですね、と微笑んであげれば事実でさ、とそのエメラルドの母岩みたいな顔を赤くして頬を掻いていた。案外可愛いところがあるみたいでちょっと面白い。


「着きやした。ここが今一番青いのが採れてるところでさ」


 辿り着いたその場所では鉱夫達がそれぞれに違う道具を使って宝石を掘り出していた。

 豪快にツルハシを振るう者もいれば、小さなハンマーで少しずつ壁を割りながら巨大な原石を取り出そうとしている者もいる。

 行き止まりになっているため少し空気が悪い中、彼等は口と鼻を布で覆い、作業を止めることなく続けている。

 そんな彼等の周りにはあちこちにアクアマリンが露出していて、さながら青い星々が彼等にエールを送っているみたいだった。私はここよ、ここにいるよって。

 お願い、彼女達を早く日の当たる場所へと連れて行ってあげてほしい。

 暗い土の中じゃない、光を通して、その身を更に輝かせるために。


「えっと…か、閣下? な、なんですかい、今のは…」

「ふぇっ?!」

「なんか…やたらこっぱずかしい言葉を言ってたもんで…」

「うそっ?! 私口に出てたっ?!」

(いつも通り普通に口に出してポエムを読んでいたのだ。セシルの黒歴史追加なのだ。よくそんな恥ずかしいポエムを読めるのだ。前の世界の自分に『よく耐えた』と褒めてやりたいのだ)

(黒歴史って言うなっ。次また絶対蹴っ飛ばしてやるから覚えてなさいよっ!)


 メルからの突っ込みはこの際置いといて、今はこの空気をなんとかしないといけない。

 こういう時は下手に言葉を重ねても良いことはないから無理矢理でもなかったことにするのが一番、だねよ?


「あ、あはは…。そ、それより少し近くで見たいんだけどいいかな?」

「は、はぁ…。そりゃ構わんが…いきなり崩落するようなことはねぇが、それでも気をつけてくれよ?」


 えぇ、と頷きながら私は壁際へと歩いていく。

 私が近付いていくとそこで作業していた鉱夫達がこちらを見上げてはひゅぅ、と口を鳴らしていた。

 口を布で覆っているがために口笛が鳴らないのだろう。


「あぁ…素敵な色だねぇ…。ここのアクアマリンは色の薄い物が多く採れるの?」

「あぁ、ここから採れたやつは貴族様向けに販売することになるってんで、いつもより慎重にやらせてんでさ」

「なるほど。それでこういう小さな破片なんかは放置されちゃってるんだ?」


 足元に散らばるアクアマリンの欠片をいくつか手に取るとそれを班長へと見せる。

 これだって集めてさざれ石として販売すればいいのにと思うけど、基本的に宝石は貴族や金持ちの見栄のために使われることが多いからあまりに小さな石には見向きもされない。

 とっても嘆かわしいことだと思うけどね!

 宝石はどれ一つ取っても同じ顔をしてないんだから、それぞれに愛でてあげるべきなのにさ。

 だから私は自分自身に可能な限り宝石を常に身に着けているのだし。


「ここいらの採掘が終わったらちょっとばかり大きめのやつだけ拾って、後は放ったらかしだな」

「勿体ない…」

「は?」

「いや、何でもないよ。じゃあ今ここに落ちてるものだけでも貰ってってもいいかな? 勿論ローヤヨック伯に許可は貰ってるよ」

「は、はぁ…俺ぁ別に構わねぇんだが、そんなもんで本当にいいのか?」


 その言葉を了承として受け取ると嬉々として落ちて散らばっているアクアマリンの欠片を自らしゃがみ込んで拾い集める。

 そしてそれと同時に時空理術を使って鉱山内の鉱床を把握していく。


(メル。貴方にも今私が見えてるのと同じものって見える?)

(無論なのだ。セシルの言いたいことはわかるし、どれが欲しいかもわかるのだ)

(おっけー。じゃあガイアを使うからナビよろしくね)

(それは良いが、わっちがセシルのスキルを使うとセシルはそのスキルを使えなくなるのだ)

(うん? それって永続的に?)

(わっちとセシルが同じスキルを使えないだけなのだ。わっちが使うのをやめれば使えるようになるのだ)

(それなら問題ないよ。じゃよろしくね)


 時空理術は決して使うのが難しいことじゃない。鉱床に埋もれている宝石を位置を探っているだけだから。でもガイアは使うだけで相応の集中力を求められるので他との併用に向かない。

 メルみたいにただ話をするだけのポンコツならともかくね。それとも慣れの問題かな?


(後者なのだ)

(あそ。じゃあ今回の視察の間に慣れるほど使い込まないとね)


 メルに手渡しするかのように魔力を注ぎ込めば、その反応として脳内に私が目当てとする宝石の位置が素直に表示される。これを即座に対応してくるあたりなんだかんだ言ってもメルもかなり高性能なんだろう。

 後は一纏めにされた宝石や原石の類を鉱山から出て少ししたところにでも移動させておけば全部完了っと。

 あ、ちなみに坑道を掘り続けたら掘り出せそうなものには手をつけてないよ?

 あくまで『それ人力じゃ辿り着けないでしょ』というものばかりを狙うようにしたから。

今日もありがとうございました。

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