第289話 プレゼント
ぶっ壊れ状態だったユーニャもようやく落ち着きました。
ユーニャとの話し合いは何とかうまく進んだので、彼女にかけていた拘束を解除して私達は二人でテーブルを挟んでお茶を飲んでいた。
ステラは呼ばす、昔みたいに私が用意したものだ。
いくらユーニャとは言え、私がお茶の用意をしたなんてステラが知ったらさすがにちょっと怒るかもしれないね。
「はぁ…懐かしいな、セシルのハーブティ」
「そうだね。村にいた時はよく一緒に飲んでたもんね。私も最近はステラに任せてばっかりだったからほとんど飲んでなかったよ」
ステラにお願いすると王都内でも有数の高級茶葉で入れてくれるので、味は良いんだけどね。
ユーニャと二人だけなら、こちらの方が良く合う。
うん、完全に落ち着いてくれたみたい。
ユーニャの目に以前のようなとても知性的な光が見えるよ。
そんな彼女の前に手の平サイズの箱を一つ置いた。
「それじゃ、ユーニャにこれあげるね。恋人にはなれないけど、ユーニャは私のとっても大事な人だから受け取ってくれる?」
「セシルからの贈り物なら何でも受け取るに決まってるよ。それが例え毒薬でもその場で飲んでみせるよ」
知性的で、理性的で、その上でおかしな方向へズレてしまってる気がする。
でもこれがユーニャなんだろうね。
今までは言えなかっただけで、ずっとこう思ってたんだと思う。それはさっきも言った通り、以前のような光がユーニャの瞳に見えるから。
嫌なことがあってアイカに記憶の改竄をされて少しずつおかしくなっちゃったけど、以前のようなユーニャだと思いたい。
「じゃあこれ。私のスキルで自重無しに作ったの。ここまで本気で作ったのは私のブローチくらいだよ」
「セシルのブローチって、あの虹みたいなアレ?」
ユーニャにもわかりやすいように装着で白い貴族服に着替えてあげる。
その服の左胸につけているのがそのブローチだ。
花型にミスリルを加工して、花びら一つ一つにそれぞれ七色のトルマリンにペアシェイプカットを施したものを嵌め込み、中央にカボションカットにした大きなオパールを設置した極上品。
私のスキルを全力で使い、また用意した宝石を考えるとこれ一つで聖金貨一枚や二枚は軽く超える。
「いつ見ても綺麗なブローチだよね」
「ふふっ、ありがとう。すごく嬉しいよ」
「セシルじゃなくて宝石を褒めたんだけど」
苦笑いするユーニャだけど、私という人をよくわかっているからこその笑いだと理解している。
「宝石を褒められるのは私のこと以上に嬉しいからね」
「勿論、それを着けてるセシルがすっごく素敵なのも本当だけど」
「それはもっとありがとう」
「もうっ、話が終わらないじゃない」
確かにそうだ。
私はユーニャの前に置いた箱を彼女に見えるようにゆっくりと開いた。
「うわぁ……」
箱の中身を見たユーニャはそれだけで言葉を失ってしまった。
ユーニャが普段から見てるのは私が身に着けてる宝石くらいで、あとはそこらにある加工されていないほぼ原石のままの宝石くらいだからか、私のプレゼントを前に完全に固まってしまっていた。
「これを…私に? ちょっと、凄すぎて…さすがに受け取るのをちょっと躊躇っちゃうね」
「何でも受け取るって言ったのはユーニャだから絶対に貰ってもらうよ」
「えぇぇぇ…そういう揚げ足取りは卑怯じゃない?」
「卑怯じゃないでしょ。ユーニャにいつも身に着けててほしいの」
「うん。…本当に嬉しいよ。ありがとう」
私がユーニャに送ったのはペンダントだ。
ペンダントの台座はハートと羽根をあしらった台座を作り、そこにユーニャに似合いそうな青い宝石をいくつか嵌め込んだ。
ペンダントの台座とチェーンはオリハルコンで作ったため全体が金色になっている上に、非常に頑丈でちょっとやそっとでは千切れることもない。
当然、いろんな効果を魔石に付与しておいたので某有名ゲームの呪いのアイテムと同じくらい身に着けたら外せないくらい自重無しに付与しまくったよ。
「それにしても、たくさん宝石がついてるけど…よかったの?」
「うん。ローヤヨック伯爵領ですごく良いアクアマリンがあったからね。折角ユーニャに贈る物だし、こっちに戻ってくる前に急いで作ったの」
そう。ローヤヨック伯爵領のアクアマリン、というかベリルは非常に質が良かった。
しかし深い色合いのアクアマリンはこの世界ではあまり良いとされない。それは偏にカットの技術が発展していないせいで、正しく海を閉じ込めたような深いブルーと淡いブルーが混在した、それは見事なアクアマリンだった。
前世でならサンタマリアアクアマリンと呼ばれているものに等しいはず。
加えてゴルドオード侯爵領産の高品質で深い色合いをしたロイヤルブルーサファイアと、以前見つけておいたパライバトルマリンの三つを透かし彫りにしたハート型の台座の縁に嵌め込み、ハートの両側に付けた羽根の付け根部分にはブルーダイヤモンドを設置した。
青い宝石とオリハルコンの虹色に煌めくゴールドはとても良く合う。
正直に言えば自分で着けたいくらいだけど、それくらいのものじゃないとユーニャへの贈り物としては不適切だと思って自重無しに作り上げたという訳だ。
五つの宝石にはそれぞれ違う効果の魔法を全力で付与してあるので、ユーニャ自身の実力も相まってこれを奪うならSランク冒険者くらいの実力は最低でも必要になるだろう。
「ありがとう、セシル。じゃあ早速…、セシルが着けてくれる?」
ペンダントを手に持ったユーニャは自分で身に着けようとしたけれど、思い直して私へと差し出してきた。
それを笑いながら受け取るとユーニャの後ろからそっと着けてあげた。
「ありがとう。じゃあセシルからの贈り物も貰えたことだし、そろそろ休まないとね?」
「うん。流石にそろそろ眠いしね」
ハーブティを飲み干したユーニャはすぐに立ち上がって部屋の入り口で振り返った。
「ふふっ、遅くまでごめんね。それじゃおやすみなさい」
「うん、おやすみユーニャ」
バタンとドアの閉まる音がすると久しく静かな部屋になった気がする。
この二日間、夜はずっと嬌声が上がっていたからね…主に私のだけど。この部屋自体、元から防音がしっかりしてるからステラ以外には聞かれてないと思うけど、やっぱり朝になって思い出した時にすごく恥ずかしくなるんだよね。
でも、今夜からは平和な夜になるよ!
なんせさっきユーニャに渡したペンダントの魔石には聖魔法の安穏心を付与しておいたからね!
よっぽど抑えきれないくらいの獣欲にでもならない限りはこの二日間みたいなことにはならないはずだよ。
私は別に同性愛者じゃないけど、ユーニャならまぁ仕方ないか、くらいの気持ちだったんだよ? あんなことがあったし、男性相手は今後難しいかなとか思ってたよ?
けどやっぱり私は宝石を愛でたいし、愛でられたい。
ユーニャが最初にフォルサイトで出来た張り型なんて持ち出さなかったらちゃんと拒否出来てたはずなのよ。多分。
言い方は悪いけど宝石は自分で動けないから、そのためにユーニャがいるってことなら私は大歓迎だけどね!
なので半分は同情。「ユーニャに求められるのは嬉しい」っていうのに嘘はないけど、百パーセント本気かと言われると…ノーとしか言えない。
もう半分は、やっぱり人肌の柔らかさに触れるのは心地良いから、かな。
どんな形にしろユーニャがそばにいてくれるのは嬉しいし、手放したくないけど私が宝石以上に愛せるものは多分ないから。
でもさすがにこんなこと言ったら怒られるどころかユーニャを泣かせてしまいそうだもんねぇ。
人の心を操るような真似をしていいのかって問題はあるけれど、そんなの今更だしね。
ユーニャは既にアイカの手で記憶操作されているし、今回の件も潜在的にあの事件の反動と捉えることも出来るし、何が正しいかはわからないけど、さっき見たユーニャは私が大好きな親友のユーニャの眼だったから、あれでいいんだよ。
ともかく、やっと平穏な夜なんだしね! それじゃ今夜はゆっくり寝ようっと!
翌朝起きたらいつも通りステラがやってきて、いつも通りの挨拶だけしてきた。
食堂へ行けばユーニャも既に起きていて、いつも通り知性的な雰囲気のある大人の女性オーラを醸し出していた。
とりあえずこれで一安心だろうね。
食堂で眠気覚ましの紅茶だけ飲むと私とアイカとクドーの三人はローヤヨック伯の領主館へと戻った。
そっちで朝食を食べるとアイカとクドーに昨日決めた職人への指導の件を任せて、私は貴族服を着たまま一人領主館を出ていく。
「予定では鉱山の視察と工房の見学と合わせて十日程度ですかな」
「そうですね」
「ランディルナ伯に余計な心配かとは思うが、それでも気を付けてくだされ」
「ありがとうございます、ローヤヨック伯。それでは」
なんか久し振りに一人で行動するよ!
ユアちゃんのダンジョンに行くだけでも必ず誰か同行しないと行かせてもらえなくなっちゃってたし、数ヶ月ぶりかも。
元々一人で冒険者活動してたから、なんか初心に返るみたいで良いね!
ローヤヨック伯から馬を貸し出すと言われていたけど、町の外に出たら走るつもりなのでそれは強く辞退しておいた。町からもっと離れたら飛んでいくかもしれないしね?
領都内の工房見学は戻ってからの楽しみにするとして、ひとまず鉱山を目指すことにする。
ここからだと普通は馬車で二日間くらい行き、更に歩きで一日くらいかかるところにある。ここの鉱山は良質なベリルが産出されるらしいので今からとても楽しみで、すぐにでも駆け出したい衝動に駆られるけど町を出るまではちゃん我慢しますとも。
一応町から出るまでは付き添いとしてローヤヨック伯爵領騎士団の人がついてきた。
「それでは私はこれで。ランディルナ伯、お気をつけて!」
「ありがとう。では」
なるべく貴族らしく振る舞いながらも門からゆっくり歩いて出る。
なんか久々の感覚。
町を出てからこんなにゆっくり歩くこと自体も懐かしい。
クアバーデス侯爵領で冒険者してた時はいつもこんなだったのにね。
あの辺りは近くの森に行くことがほとんどだったから景色も草原か森くらいしか見てなかったけど、ここには巨大な山が聳えている。しかもそれがずっと先まで続き、国を分ける国境代わりになっている。
私の目的地もあの山にある。
以前、最初のeggを獲得したのもあの山にある廃棄された鉱山跡だったっけ。
王都からもたまにこの辺りには来ていたんだけど、こうしてゆっくり景色を楽しみながら歩くのは初めてかもしれない。
そうして改めて異世界にいることを身体全体で感じながら、人通りが少なくなる街道まではのんびり散歩がてら歩いていくのだった。
今日もありがとうございました。
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セシルとユーニャが二人ですることはしばらくの間は無さそうです。




