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第288話 パートナー

「なるほどね…やっぱりそうだったんだ」

「はい。僅か二日でこれですから、しばらく続くようであれば何かしらの対策が必要かと思われます」

「こんなにわかりやすく危惧していた通りのことが起こるなんてね」


 モルモから報告を聞いて驚いていた。

 ユーニャと初めて褥を共にしてからたったの二日。

 それなのにユーニャはカーバンクルでいくつものミスをしていた。

 発注されていた商品の仕入れ忘れ、帳簿上の計算ミス、勤務中にぼーっとしたりとモルモの両親からも目に余ると報告が上がってきたらしい。

 まぁ気持ちはわかるけど、ちょっと有頂天になってるんだと思う。けど仕事は仕事でしっかりやってくれないと、私もユーニャに仕事を任せておけなくなる。


「わかった。この件は私がなんとかする…っていうか、私にしか出来ないね」

「すみませんセシーリア様。私共ではユーニャさんに意見するのはちょっと…」

「いや、いいよ。そもそも私が断れなかったのが原因なんだから」


 確かにユーニャのことを拒絶することは出来たんだけど、私もそうすることが出来なかった。

 宝石で出来たアレを一人で味わうのはまずいと思ってたけど、ユーニャが持っていたことで受け入れてしまった。あの誘惑は無理だって。

 けど、今は違う。

 私も拒絶するつもりはないし、ユーニャとギクシャクした関係になりたくないから、やっぱりハッキリ言っておこう。

 それに、こんなことくらいでユーニャが潰れてしまうようなら、そもそも私の側にはいない方がいい。


「それと、もう一つ。ローヤヨック伯から宝石加工の技術と引き換えに月間産出量の一割をもらうことになったから」

「月間の一割、ですか…」

「それは…かなりの量になるのでは…」

「量はかなりのものになるけど品質は最低ランクのものかな。私以外だと価値のある宝石には出来ないと思う。それでそれらを運び入れるための倉庫を作りたいと思ってるの」


 月間の一割といえばかなりの量になる。

 確かコロンビアのエメラルド産出量が月間平均で四十万トンくらいだったはず。異世界で魔法があるとは言え、鉱夫のほとんどは魔法を使えないような人だから機械がない以上は人力での掘削になる。となれば産出量は遥かに少なくなると見ていい。月間一トン程度は納入されると考えられるね。

 ふふ、今から楽しみでしょうがないよ。


「これから更にオーユデック伯とゴルドオード侯とも商談するつもりだから、かなり余裕を持って用意してほしい」

「でしたら屋敷の前にある更地を使いましょう。以前整地した際に土地の所有権は獲得してありますので、セシーリア様の望むままにご利用可能です」

「ありがとう、モルモ。インギス、早速明日から倉庫建設の段取りを進めてくれる?」

「はっ、承知致しました! 必ずやセシーリア様にご満足いただける物を!」


 いつも通り忠誠心が振り切れてるね。

 私とユーニャの関係を好ましく思ってないんじゃないかと思ったけど、そういうわけじゃなさそうだ。

 まぁインギスの考えてることはよくわからないからいいや。優秀なのは間違いないし、忠誠心は確実に高いことはわかるからね。


「それと、一応カボスさんに他領で支店を出す候補地を見繕ってもらってるけど、運用に当たって何か問題点はある?」

「特にはないかと。ただブリーチさんの馬車は王都へ戻ることを前提にしていましたので、それらの商品を取り扱えないというのは支店ではデメリットになるかと思います。セシーリア様に運んでもらえれば心配はなくなるのでしょうが、そんなことは頼めません」

「まぁそうだね。それに関してはちょっと考えてることがあるから少し待っててほしい」


 別に私が運んでもいいんだけど、いつも私がフリーでいられるとは限らない。

 今考えてる時空利術を使ったシステムを使えれば問題ないけど、まずその構築からやらないといけないのですぐには解決しそうにない。


「よし。それじゃこちらからは以上だけど、他に何かある?」


 話を切り上げるべく一つ頷いてみせたけど、二人からはこれ以上の報告はないようなので、そのまま立ち上がると文官用執務室から出ていくことにした。

 はぁ、今日はこれからが一番大変だろうなぁ。




 文官達との話を終えて屋敷の廊下を歩く。

 急げばすぐにでも自分の部屋に戻れるけどあえて遠回りをしながら向かっている。

 ランディルナ家の屋敷はいたるところに魔道具が設置してあり、それはこの廊下でも同じだ。

 例えば今は夜だけど灯りの魔道具で明るくなっているし、真夏日だけど温度調整の魔道具で快適な温度に保たれている。

 他にも侵入者に備えた防犯用の魔道具なんかもあったり、火事の時にスプリンクラーと同じことが出来るものもある。

 監視カメラとかはないよ。必要ないから。


「ステラ」

「はい」


 私が呼び掛ければすぐその場に現れるランディルナ家のメイド。家精霊(シルキー)であるステラは魔力さえあればこんなことは朝飯前だ。屋敷内は全て彼女が常に目を光らせている。


「ユーニャは、どうしてる?」

「お変わりございません。セシーリア様の私室のベッドでセシーリア様の枕に顔を埋めております」


 そこまで聞いてないけどね?!

 最近ユーニャの優秀さに感動してたけど、変態さ加減もかなり上向きになっているんじゃなかろうか。

 でもまぁ…ちゃんと向き合ってしっかり話さないとだよね。


「ありがとう、ステラ。じゃあそろそろ私も部屋に行くよ」

「はい。存分にお楽しみください」


 …いや、今夜はそうはならないと思うよ?

 更に遠回りしようかと裏庭方面へ向けていた足を返し、ようやく自分の部屋へと向かう。

 その時点でステラは姿を消していて、今は私一人だけだ。

 昨日に比べて足取りは重いけど、なんて切り出そうか考えてる内に部屋の前に着いてしまったので、大きく深呼吸すると意を決してドアノブに手をかけた。


「おまたせ、ユーニャ」

「遅いよセシルぅっ!」


 私が部屋に入ると同時にユーニャもその気配を感じ取ってベッドから飛び降りて突撃してきた。


どふっ


「ぐっ?!」


 ユニークスキル暴力で異常なほど怪力になっているユーニャのタックルをモロにお腹に受けて夕飯が口から出そうになってしまった。

 さすがに年頃の女の子がそんなことをしたらまずいので根性で飲み込んだ。喉の奥まで上がってきてたけど頑張ったよ。

 ユーニャは私に抱き付くと同時にその場に止まってくれたので吹き飛ばされることはなかったけど、そうしてなかったら屋敷の壁をぶち抜き、王都の城壁までも貫いて夜の草原に放り出されるところだった。


「ユ、ユーニャ…もうちょっと、手加減、して…」

「あっ! ごっごめんセシル! 待ちくたびれてたから嬉しくてついっ!」


 嬉しいのはこっちもだけど、それ以上に厄介な話をしなきゃいけないから憂鬱だし、何よりもハグで瀕死にされたくはない。実際に瀕死になったら即座に戦闘状態に切り替わるだろうけど。


「はぁ…とりあえずちょっと座ってお話しよ?」

「うん、わかった。じゃあお詫びに私がセシルを運んであげるね」


 私のお腹に抱き付いたままだったユーニャはそのまま私の膝裏と首に手を回し、お姫様抱っこの格好で私を抱き上げベッドまで運んでいった。

 って、ベッドに行ったらまたなし崩し的に朝まで何の話も出来ないままになっちゃうって!


「ちょ、ちょっと、待って! ユーニャ、お話が先! ね、お願い!」

「うん、大丈夫だよ。私が勝手にするだけだし、ちゃんと話は聞くからセシルはそのまま話してて?」


 いやそれ絶対聞かないやつ!

 しかもユーニャはこの二日で私の身体を好きなように触ってたせいで全部弱点がバレてて一度始まったら絶対止まらない。

 仕方ない。こんなことはしたくなかったけど!


「結界魔法 逃走制限(リストリクション)


 咄嗟に魔法を使ってユーニャの身体から指二本分くらいの極狭い範囲を指定して脱出不可能になる結界を張った。

 以前は新奇魔法で登録しておいた魔法だけど、時空理術に似た魔法があったので改めて作り直しておいたものだ。

 おかげでかなり使い勝手の良い魔法になった。こうして相手を拘束する時なんかにね。


「…あれ? ん~~~っ! …え? 動けないよ?」

「はぁ…ごめんねユーニャ。こんなことしたくなかったけど落ち着いて話がしたかったから」

「…セシルって、動けない私に何をしたいの…? 言ってくれればその通りにしたのに…もうっ」


 なんか別の意味に捉えられているような気がするよ?!

 というか、言っても聞いてくれなかったじゃんか。


「とにかく、ちょっと話をさせて」


 私の表情から真剣なことを読み取ったのだろう、ユーニャは体の力を抜いてしっかりと私と目を合わせてきた。

 少しだけ表情が強張っているのは、今からあまり良くない話をされるからだと思ってるせいかもしれない。


「あのね、モルモから聞いたの。最近仕事の調子が良くないみたいだって」

「…そんなことないよ? いつも通り、今日もお客さんたくさん来てたし、売り上げだってほとんど変わってないもの」

「そうだね。けど、そんな表面的な数字の話じゃないの。今日渡す約束をしていた商品を持っていくの忘れて、大口のお客さんに怒られたんだって?」


 実際、金額自体は白金貨二枚くらいのものだからカーバンクル全体としての損失はそこまでじゃない。

 少し大きな冒険者のグループがあってそこからポーション等、彼等の活動に必要なものを用意することになっていたけど、ユーニャが商品を仕入れていなかったためにその場で渡すことが出来なかった。

 幸いなことにポーション類は屋敷にあったし、その他の備品もすぐに用意は出来た。けれど、そのために彼等は依頼に出発する時間がかなり遅れてしまったのは事実だ。


「…あれは、ちょっとうっかりしてて…」

「人間だからそういうこともあるのはわかるよ。彼等冒険者グループとは今後もお付き合い出来るかわからないけど、間違い無く、信用は失ったよね」


 私の言葉にユーニャは黙って頷いた。

 そう、ただ売ればいいわけじゃない。信用を積み重ねていかなきゃいけないことくらい商売する者ならば常識だよ。それは商人だけじゃない。冒険者だって、貴族だって同じこと。

 そんなことがわからないようなユーニャではないからこそ、何も言わずに頷いた。


「他にも、帳簿の計算ミス。ユーニャは商人でしょう? お金の計算を間違えて、それで胸を張って商人ですって言えるの?」

「…言えない…」

「仕事中にもぼーっとしてることが多いって話も聞いてる。ユーニャは私とお店をしたいって言ってたのに、いざ私とこっ、こういう、関係になったら、それすらどうでも良くなっちゃうの?」

「そっ、そんなことない! 私はずっとセシルとお店やるのが夢で」

「その夢を自分で壊しちゃうの?」


 とても辛辣な言い方をしていると思う。

 それでもこのままじゃユーニャは駄目な人一直線だ。目先の利益しか考えないような商人は、私の近くに置けない。


「ねぇユーニャ。私はユーニャとこういうことするのが嫌なわけじゃない。でも、もうちょっと周りを見なきゃ。私はユーニャのこと信じてるから、今のままじゃいけないってわかるよね?」


 コクリと首を縦に振り、自分の服の裾を強く握り締めている。

 私にお説教なんてされたくないだろうけど、このままのユーニャでいられるのは私も嫌だから。


「少しだけ、我慢して? ユーニャに求められるのも嬉しいけど、私達はそれだけの関係でいたくない。ちゃんと頼れるパートナーでいてほしいの。勿論、私もユーニャにそう思われたい」

「セシルはっ…いつでも、すごく頼りになって、なんでも出来て…いろんな人から、それこそ偉い人からもすごいお願いもされてて…だから、私じゃセシルを振り向かせられないかもと思ったら、もう…」

「大丈夫。私はずっと何も変わってないよ。あの村にいた時のまま、宝石が大好きなただの女の子のまま。ユーニャのことは親友だと思ってるし、頼りになるパートナーだって思ってる」

「変わらない、かぁ…。恋人には、なれないんだね…」

「私の恋人は宝石だけだよ! これだけは変えられません!」

「…ふふっ、本当だ。昔のセシルのまま、変な女の子のままだ」


 変な女の子って言われた!

 けど、さっきまでの泣きそうでずんっと暗い顔は無くなって、ちょっと不格好なままだけど。


「ホント、私が好きなセシルのままだよ」


 やっと前と同じ笑顔を向けてくれた。

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ホント、私が好きなセシルのままだよ」 >やっと前と同じ笑顔を向けてくれた。  ……と思ったのも束の間。  ユーニャは顔をひどく歪ませて、ニヒルに笑う。 「だからこそ、それを都合のい…
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