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第30話 ゴブリン騒動の後始末

すみません出張の疲れで帰って早々にうたた寝してました。

8/4 題名追加

「リード、ユーニャ。終わったよ」

「う…あ、あぁ。お、お前セ、セシルだよ、な…?」

「ん?そう、だけど…」


 リードは青い顔で私を指差しながら見ている。

 ユーニャにいたっては顔を背けながらチラチラとこちらを見ているだけだ。

 二人を傷つけられた怒りで自重をやめてしまった私を見て怖くなっちゃったかな?困ったね…。


「あー…まぁ何て言うか。ちょっと怒っちゃった」

「おこ…あ、いや。そうか…」


 う、むぅ…?ひょっとして周りにまだゴブリン達の死体があるせいで安心できないのかな?

 水の中に浮かんでいるもの、潰れて何が何だかわからなくなったもの、焼け焦げて炭になっているもの、その全てを地魔法を使ってその直下に大穴を開けて落とすと直ぐに上から土を被せて見えなくした。どのみちゾンビ化したら困るしね。


「ひっ…」


 するとその様子を見ていたユーニャが短く悲鳴を上げた。


「…ユーニャ…?」

「あ、セ、セシ、ル。あ、あぁ…っ」


 ユーニャは完全に怯えてしまって私と話をすることが出来なくなってしまっている。

 あれだけ普段「お嫁さんにするー」って言ってた子が突然こうなるとさすがの私でもちょっとショックだったりする。


「大丈夫だよユーニャ。もう終わったから。怖いことなんかないよ?」


 ユーニャを抱きしめに行こうとして伸ばした腕を見てやっと気付いた。

 私の全身はゴブリンを文字通り血祭に上げてしまったことで、頭の天辺から足元まで血塗れになっていた。しかもゴブリンの血なので鉄臭いだけでなく妙に生臭いし真っ赤ではなくかなり黒味がかっているので墨でも被ったかのよう。これじゃ確かに近寄られたくないね。


洗浄(ウォッシュ)


 特異魔法で作った生活用魔法の一つを使って全身を水で包んで洗うとゴブリンの血は完全に洗い流された。

 ちなみにこの魔法は小さな気泡をたくさん入れることで肌触りもよく繊維に絡んだ汚れも落ちやすくなるし、ちゃんと炎魔法で水の温度を上げてある。更に洗った後は炎魔法と天魔法を併用した温風で乾かすという至れり尽くせりの便利な魔法。自分で作った特異魔法の中でも特にお気に入りの優れ物です!使ってる間が少し息苦しいんだけどさ。


「ごめん…あんまり頭に来ちゃって自分の姿まで気にしてなかったよ。汚かったし、怖かったよね?」

「あ…ごっごめんなさい!わ、私そんな、セシルを…セシルを怖がるとかそんなんじゃなくて!えっと、汚いとかもなくて…えっと…」


 ユーニャは慌てて言葉を紡いでくるけど、言いながら顔はどんどん俯いていく。

 うん、大丈夫。気にしてないよ。私は大丈夫だよ。こんなことは前世でもよくあったしさ。施設育ちってだけでこんな風に拒絶されたことは数えきれないんだし、いちいち気にしてられないよ。


「セシル、本当に助かった。なんと言えばいいか…」

「…もういいよ。でも二人は本当に反省してね。毎回私が都合よく助けに来られるわけじゃないのよ?」

「あぁ。身に沁みた」


 私は苦笑いを浮かべながら二人を促して村へ戻ることにした。道中の森で他の魔物に襲われることはなかったものの二人からは一言も声を掛けられることはなかった。私はそれ自体を気にすることはなかったけど、二人はなんとか話をしようと試みて口を開きかけては閉じてを繰り返していた。

 気にしない……正直なところを言えば、すっごい気になる。でも二人が私から距離を取ってしまったとしてもそれは仕方のないことだと思う。私は他の人とはちょっと違うみたいだし、異端者が疎外されるのはどこの世界でも同じこと。だから仕方ない、気にしない。

 こんな別れ方は嫌だなぁなんて思いながら歩いているとすぐに森が切れて村の入口が見えてきた。入口付近に自衛団の人が数人いるところを見ると、どうやら二人がいなくなってることがバレてしまってるのかもしれない。時間はもう夕方だし私もユーニャも前科があるからね。




「セシル!」


 村の入口に着くとすぐにランドールから声が掛かった。どうやら入口付近にいた自衛団員が呼んできたようだ。


「父さん、ただいま。二人を見つけて保護してきたよ」

「あ…あぁ。お前は怪我してないのか?」

「うん、平気。父さんと母さんにあれだけ鍛えてもらったんだもん。大丈夫に決まってるよ」


 ランドールは私の前にしゃがみ込むと私を抱き締めて頭を撫でてくれた。こそばゆいけど、ちょっとだけ誇らしい。


「よくやったぞ、さすがセシルだな。父さんの誇りだ。…でも、行くならちゃんと他の大人に言ってからにしなさい」

「えぇぇ…言ってる暇がないくらい切羽詰ってたんだってばぁ」

「それでもだ」

「むー…父さん、そういうのって横暴って言うんだからね?」


 折角しっかりやって二人を無事に連れ帰ったのに私がお説教を受けることになるなんて…解せないよね?

 尤も、そう言ってるランドール自身も笑いながら言ってるところを見ると「仕方ない子だな」くらいにしか思ってないのかもしれない。それだけの信用を得ていることがとても嬉しい。


「まぁまぁ。ランドールさん言いたいことはわかりますけどセシルちゃんが無事に二人を連れてきてくれてよかったじゃないですか。見たところそっちの二人も怪我は無さそうだし」

「それも、そうだな。よし、それじゃみんなは二人を連れて村長の家へ行っててくれ。俺はセシルを家まで送ってから合流する」

「了解っす」


 ランドールはまだ若い団員へ指示を出して村へ戻ろうとする。念のため私は森の方へ気配察知を向けて魔物が向かって来ないかだけ確認してみたが他にゴブリンがいるような感じはしない。あのゴブリンの集落はあそこにいた分で全てだったようだ。もし生き残りがいればまたやってくるかと思ったものの取り越し苦労で済んで良かった。

 その後私はランドールに手を引かれて家までの道を歩いて帰る。ディックに構ってばっかりで最近あまりこういうことをしてなかったので私から甘えて手を繋いでもらった。「セシルはまだまだ甘えん坊だな」なんて言いながら顔がふにゃふにゃになっていたし、何より今もかなり嬉しそうにしている癖に。

 それでもそんな会話ができることが嬉しくてたまらない。特に多分今日で二人友だちを無くしてしまったから尚更に。


「しかし、二人はただ森の中にいただけなのか?セシルが連れてったわけでもなく?よく見つけられたな」

「え…あー、ホラ、今日は丘に行くのが遅くなってね。でも丘にいなかったからひょっとしてって思って探しに行ったんだよ」

「…相変わらずセシルは嘘が下っ手くそだなぁ…」

「う、嘘じゃないもん…。私は連れてってないもん…。二人がどうして森に行ったかはわかんないし…」

「そうか。しかし森には危険があるかもしれないから入ったらダメだというのに。セシルも他の人にちゃんと言っておかないと…そっちの方が危ないじゃないか」


 ランドールの言うことは尤も、というより完全に正論だ。ただ最初から疑われたことが悔しい。信用を得られたと思っていたけど、どうやら私の気のせいだったらしい。

 仕方ないのでさっき森の中であった出来事を詳細に話すことにした。いつも通り丘で訓練をしようと向かったもののユーニャがいなかったから不審に思って森へ向かったことから。但し知覚限界と気配察知、魔力感知を複合的に使って近辺の魔力や気配を調べたことは伏せた。どんなことをしてもランドールとイルーナなら見捨てたりしないとは思うけど他の村人まで同じとは限らないしね。こういうことするから信用を得られないのかもしれないけど…それでもやっぱり普通じゃない力をたくさん持ってることはなるべく隠しておきたいと思う。

 その後二人を見つけたもののゴブリンの集落があり、そこにいたゴブリンを殲滅して二人を連れ帰ったことをランドールに説明した。


「ゴブリンの集落!?何匹くらいいたんだ?」

「百匹くらいだと思うよ。ホブゴブリンが6体いたけどそれより強いのはいなかった」

「ゴブリン百匹を殲滅…よく二人を守りながら数時間でできたものだな…」

「うぇっ!?う、うん。頑張ったもん!」


 ランドールが再び疑うような眼を向けてくるが、私は明後日の方向を向きながらスルーすることにした。なんと言われようともこれ以上は説明しない。数時間じゃなくて数分だったなんて言ったらまた無駄な疑惑を向けられるかもしれない。二人が大怪我していたことは余計な心配をさせてしまうだけだし、傷ならさっき私が癒しておいたから問題ないはず。


「はぁ。セシルが普通の八歳児とは全然違うことはわかっていたつもりだが…そこまでだったか。もう父さんより強いのかもしれんなぁ」

「う…。と、父さんより強かったら…」

「ふはははははっ!また『気持ち悪い?』か?セシルはそういうところだけ気にしすぎたぞ。いいじゃないか、親より強い子ども!父さんはディックにもそうなって欲しいと思ってるぞ」


 豪快に笑いだすランドールを見て可笑しくなった私は一緒に笑いながら「ディックには優しくしてね」と忠告しておくのを忘れない。私と同じようにしてしまったらディックがあまりに可哀相だからね。

 そうして話してる内に家に着いたがイルーナは私の帰りが遅いことを少しだけチクチクと責めてきた。

 心配だったからなのか夕飯が遅くなるからなのかわからないけど、さっきまでの楽しい気分が少しだけ飛んでしまった。急いで夕飯の支度に取り掛かってるとランドールは再び出掛けていった。これから村長の家で集まりがあるんだと言っていた。昼間のことはきっと夜にでもイルーナに話すのだと思う。

 今日は時間も遅くなったせいもあったし、狩りもできなかったので夕飯は有るものだけで済ませることにし、野菜と保存肉の炒め物とパンだけという質素なものになってしまったが、それについてはイルーナは何も言わずにいつも通り「セシルちゃんのご飯はやっぱりおいしいね」と褒めてくれた。

 二人から向けられる愛情はとても嬉しいのにどうしても距離感が掴めなくなってきている。最近は近寄っていいのか離れた方がいいのかわからず戸惑う日々が続いている。

 ディックが育つほどに二人はディックに夢中になっていくのかもしれない。でも、それでいいのかもしれない。私はどれだけ早く独り立ちできるのか考えながら眠りに落ちていくのだった。

今日もありがとうございました。

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