第287話 ローヤヨック伯と商談
ようやく宝石の話に戻ってこれました。
まだちょっとユーニャとのアレコレがありますが…。
累計PV100万、累計ユニークPV13万超えました!
いつも読んでいただいてありがとうございます。
まだまだ続けていきますのでよろしくお願いします!
「ようこそランディルナ伯。先日の夜会以来ですな」
「ご無沙汰しております、ローヤヨック伯。今回の視察の件、お受けいただきましてありがとうございます」
予定通り、いや元の予定よりの半分の日程でライドングに到着した私達。
カボスさんは従業員と護衛を連れて領都の宿に泊まり、私とアイカ、クドーはローヤヨック伯の領主館に招かれていた。
ローヤヨック伯は以前王宮で開かれた夜会で話した際にも、またクアバーデス候のところでお世話になっていた際にナージュさんから聞いた話でもかなり評判の良い領主で、領内の運営に熱心な方だった。私の宝石を見て何とか同じ加工が出来ないかと熱心に聞いてきたり、是非一度ローヤヨック伯爵領の鉱山に視察へ訪れてほしいと強く希望されていた。
見た目は少し丸くて白い口髭を生やした垂れ目で人の良さそうなおじさんなんだけど、とても熱心だったから妙にギャップがあって私的にはかなり好感が持てる相手だ。
「なんのなんの! やっとこうしてランディルナ伯に視察に来ていただいて嬉しいのは私の方だとも! さぁ自分の屋敷だと思って寛いでくれ」
「ありがとうございます」
早速執事のお爺さんに案内されて客室へと向かう。
部屋に入るとそこには大きなアクアマリンの原石が置かれていた。その存在感は他にも置かれている数々の調度品よりも圧倒的であり、あまりの素晴らしさに言葉だけでなく動くことも忘れて見入ってしまった。
「ほっほっ、見事でございましょう?」
後ろから執事のお爺さんに声を掛けられてようやく我に返ったが、視線だけはその巨大な原石から外すことが出来なかった。
「え、えぇ…ここまで巨大な原石を私は初めて見た。加工前だからこそこれだけ巨大なアクアマリンを見ることが出来るのだとすれば、ローヤヨック伯爵領の領民は皆恵まれている」
「…なんと勿体ないお言葉…。是非、主人にもお聞かせくださいませ」
「えぇ、勿論。とても良い部屋をありがとう」
遜った言い方にならないよう注意してそれだけの返事をすると執事のお爺さんは私に気を利かせて退室していった。
夕食まではもう少しあるからそれまでは存分に見ていてほしいと。
きっとここの領民はみんな宝石が大好きなんだろうね。いいなぁ…私のこの領地に転生してたらたくさんの宝石をもっと早くに手に入れてたかもしれない。
それから六の鐘が鳴った頃に執事のお爺さんが呼びに来て私達はローヤヨック伯と共に夕食の席に着いた。
この領地は鉱山での産業がメインとなっており、食料自給率は高くない。そのほとんどをクアバーデス侯爵領かオナイギュラ伯爵領から仕入れているため食材自体はどこかで見たことのあるようなものばかりだった。
味はクアバーデス侯爵領の方が良かったかな。塩と香辛料での味付けしかされていない。
食事中は当たり障りのない話だけをしていたが、食後のワインを飲む時になってローヤヨック伯は本題を切り出してきた。
「ランディルナ伯、客室に置いたアクアマリンは見ていただけたかな?」
「えぇ、とても素晴らしい物でした。あれほどの原石を私はかつて見たことがありません。そんな宝石に囲まれて暮らしていけるローヤヨック伯爵領の人は幸せ者だと思います」
「はっはっ、さすが至宝伯と言われるランディルナ伯ですな! 我が家には他にも産出された宝石を展示している部屋もある。良ければ後で案内しよう」
「それは嬉しいお誘いですね。是非お願いします」
そこでローヤヨック伯は一口ワインを口に含んで軽く息を吐いた。
「それで、夜会の時にも話したのだが…」
「私の宝石についてですね?」
「う、うむ…」
確かに夜会の時に話し込んだけれど、技術を教えるとも加工済みの宝石を売るとも言っていない。
別に教える分には問題ないと思ってるんだけどね。
何の対価も無しに、とはいかないのが貴族ですから。いくらクアバーデス候の派閥にいる貴族だとしても、そこは譲らない。
「私の宝石をお譲りすることは出来ません」
「…そうか…いや、そうだろうとも」
実際販売するなりプレゼントするのは身内かシャルラーン様、カリオノーラ様くらいにしかしたことがない。
陛下にも献上するつもりはない。私が献上するのはあくまでも原石でだ。
「その代わり、加工の技術はお教えしても良いと思っています」
「おおっ! それは本当かね?!」
「但し」
椅子から腰を浮かせて食いついてきたローヤヨック伯に私は手の平を向けた。
ちょっと落ち着きなさいな。
「こちらの領内から産出される宝石の一割をいただくことが条件です」
「いっ、一割?! そ、それはいくらなんでも暴利が過ぎるのではないかっ?!」
確かに売り物になるような宝石のうち一割を私に差し出していたらそれだけ収入が減ってしまうから言いたいことはわかる。
ただ加工したものが私の身に着けているレベルになればそのくらいの損失は簡単に埋めることが出来るだろう。
とは言え、私も鬼じゃない。
「正しくは、『領内で産出される宝石の一割に相当する量』ですね。ローヤヨック伯のところでもこのようなものはたくさんあるのではないですか?」
私は腰ベルトからアクアマリンのクズ石を一掴み取り出すとテーブルの上にばらまいた。
大量に産出されているのであれば、こういう小さな石もかなりの量が出ているはず。基本的に売り物にならないのでだいたいは鉱山の近くにズリ山と呼ばれる、そういう『捨て石』を積んだ山が出来上がっている。そこには爪先ほどの宝石がいくつもあったりする。
何度も言うけど売り物になるような物じゃないので一般的には無価値なのだけど、私の宝石関係のスキルにかかれば全く問題にならない。
「…そのようなものなら確かに捨てるほどあるが……よろしいのか?」
「えぇ。勿論、客室に置いてあったような巨大な原石もいただけるのであれば有り難く頂戴しますが」
にこやかに交渉を進めるが、この条件ならば迷うことはほぼないだろう。
貴族に売れるような宝石となればかなり大きなサイズが必要になるけど、平民が求めるようなサイズでさえそれなりの大きさが必要になるのだ。
それ以下の物など、以前のカボスさんのような奇特な商人くらいしか取り扱ったりしないからね。
「承知した! では取引成立だ!」
「えぇ、取引成立ですね。では明日、彫金が得意な職人を何名か集めておいてください。クドー、その人達に技術指導をお願い。アイカも手伝いをお願いするよ」
「あぁ、任せておけ」
「おっけーやで」
今回クドーを連れてきた大きな理由はこのためだ。更にアイカには私が鉱山の視察に行ってる間に領内の情報収集をしてもらい、カボスさん達は取引と同時にヴィーヴル商会とカーバンクルの二号店候補地を探してもらう役割もある。
私がただ個人の楽しみだけのために視察に来てるわけじゃないのよ?
「しかしそうなると明日鉱山に向かうのはランディルナ伯一人ということになるが…?」
「えぇまぁ…私は元々冒険者ですから。それにこの国に私に危害を加えられるような人や魔物がいるとしたら…しっかり討伐しておく必要がありますから」
さっきまでの微笑みを無くして一瞬だけ真顔になって殺意スキルを使えば、周囲に強烈な圧迫感が生まれる。
まるで暴風が吹き荒れたようにローヤヨック伯は感じただろうけど、これがSランク冒険者の実力だと思ってもらえればいい。
「ふっ、ふはははっ、違いない! では私から鉱山への立ち入り許可と至宝伯の説明を書いた手紙を用意しよう。ランディルナ伯は好きなだけ視察してくると良いだろう。勿論、陛下より許された範囲内での宝石は持っていってくれて構わんよ!」
「ありがとうございます。とても楽しみにしていましたので、今夜は眠れないかもしれませんね」
「うむ、我が領地の中枢とも言える自慢の鉱山だ。期待は裏切らぬと言っておこう!」
その後上機嫌なローヤヨック伯としばらく話した後、私達はそれぞれの客室へと戻ることにした。
部屋には浴槽が設置されており、既に湯が張られていたけどそれには入らずにアイカとクドーがやってくるまで待ち、昨日までと同様に屋敷へと転移した。
屋敷へ戻るなり、やっぱり私はユーニャに捕獲されてしまった。それ自体はまぁいい。いや良くはないんだけど、予想通りだったし、ユーニャのそれが入学してすぐ付き合った大学生カップルのやってることと変わらないし、そういう知識はあるから。
ただ今日はやっておく仕事がある。
「ん…ユーニャ、お風呂、上がったら、はぅん…先に、私の、部屋にぃあぁっ、行ってて、くれ、る?」
「え…ど、どうして? このまま一緒に、一緒にイこう?」
なんか今一瞬別のことのように聞こえたけど聞き直したら墓穴掘りそうな気がする。
「ひゃあんっ! きょ、今日は、やらないといけない、し、しごぉぉっ、仕事がっ、あるからぁぁぁぁっ」
さっきからユーニャが私のあんなところやこんなところをずっと触り続けているせいでまともに言葉が出てこない。
お願いだから普通にお風呂入らせて…。
「むぅ…わかった。なるべく早くしてねっ?!」
「~~~~っ!」
ユーニャの機嫌を損ねてしまったようで、最後の一撫でで目の前がパチパチさせられてしまった。
これは本当に早く終わらせないと今夜もひどい目に合わされそうだね。
お風呂から上がった私はフラフラしながらも、自分の執務室ではなくインギスやモルモのいる文官用執務室へとやってきた。
私の執務室に彼等を呼び出してもいいんだけど、隣にユーニャがいる状態では落ち着かないし、ちょっと聞かれたくない話もする。
なのでステラに部屋の監視をお願いして、わざわざこちらへとやってきたのだった。
ガチャ
「お疲れ様」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様でございます、セシーリア様」
二人は私が入室すると立ち上がって挨拶してくれた。
そんなこと教えた覚えはないんだけど、インギスの影響だろうね、間違いなく。
「夕食後まで仕事してくれてありがとう。ちょっと話したいことがあるから、少し時間をもらうよ」
今日もありがとうございました。
感想、評価、レビューなどいただけましたら作者のやる気が出ます!




