第285話 一夜明けて
この世界のセシルは成人しています。
ギリギリの表現にならないよう注意はしています。
おはようございます、セシルです。
最近ではセシーリア・ランディルナという貴族名を名乗っています。
家名のランディルナは父親のランドールと母親のイルーナの名前をくっつけたものです。
アルマリノ王国から至宝伯という伯爵と同じ立場の爵位を賜りまして、一年くらい前から貴族家の当主をしています。
なんでこんな話してるかって?
今の私の現状を、客観的に夢じゃないかと確認するためだよ!
「んんっ……セシルぅ…」
私のすぐ隣では水色の髪の美少女が幸せそうな寝顔で寝言を言っています。しかもその寝言は私の名前ときた。
私達二人とも布一枚も身に着けていないのです。完全に全裸のままです。
私の左手はユーニャにしっかり握られております。
ユーニャはすごく力が強いから多分普通には引き剥がせないと思う。
タレントの影響で弱体化しているはずだからユーニャの全力で握られていたら手が潰されていたはずなのに、全然そんな感じはない。というか、肉体自体の強さまでは弱体化していないみたいだ。私が『これは痛いな』って思う痛みだけはしっかり感じてしまうっていう訳の分からない状態。
まぁそれは置いておこう。
はい。
リアル朝チュンです。雀とかいないけど!
前世では結局縁がないままだったけど、転生してから十六年で前世の経験を超えるとは思わなかったよ!
しかも相手は男の人でもないし、女の子で、実際に破ったのはフォルサイトって宝石で出来たモノだし!
そして、その証拠が私達の間にある二つの赤い染みである。
実はまだ痛い。
ユーニャの暴走は止まることを知らず、すごい勢いだったし、目がいっちゃってたから「あんまり痛くないよ」って言っておいたけど、実はメッチャクチャ痛かった!
…ユーニャは最初あの盗賊達に無理矢理こんなことされたんだよね…。きっとすごく辛かったに違いない。
彼女のその時の傷は私の魔法で何も無かったように治療したし、記憶もアイカの力で別の物にすり替えてある。
だから昨夜はユーニャにとっても初めてだったことになったはずだ。いや勿論私も初めてだったけどさ!
とにかく、今回のものは治療しない。
回復魔法を使ったとしても意図的にそれだけは治さないことも多分出来るだろうし。一月もすれば体に刻まれるだろう。
というかアイカ!
ユーニャに渡した魔法の鞄になんて物入れておくの?!
両方についてるやつとか、絶対私達のことそういう目で見てたでしょ?! しかも二本入れておくとか正気じゃないよね?!
…いや、うん。いろいろな『初めて』がお亡くなりになりました。
途中から私も正気じゃなかった気がするよ。聖魔法の極鋭感ってこういう時に使う魔法じゃないんだけどなぁ。索敵する時に使うための魔法なのに、なんで使っちゃったんだろ…。
…はぁ、凄かった。ハマっちゃいそうで怖いよ。
コンコンコン
「ひぃやっ?! はは、はいっ!」
控え目に鳴らされたノックに驚いてつい返事をしてしまった。
朝来るのは間違いなくステラだけど、今入られるのはマズい!
だってユーニャはまだ隣で気持ちよさそうな寝息を立ててるんだから!
「おはようございます、セシーリア様」
「おお、おは、よう、ステラ」
ドアの前でこちらに向けてお辞儀をするステラ。
普段なら指を鳴らしてカーテンを開けてくれるのに今日はまだ開けようとしないどころか近寄ってすら来ない。
けれど一瞬だけ視線が私の隣へと流れたのは気付いた。さて、なんて言おうかと悩んでいるところへステラは音も無く近寄ってきた。
「セシーリア様。『昨夜はお楽しみでしたね』、とアイカ様より朝一番で伝えるようにと伝言を頼まれておりました」
「ぶふぉぁっ?!」
「それと、私はセシーリア様が何方と添い遂げようとなされても何も申しませんが、貴族家当主の役割はお忘れないようお願い申し上げます」
「え、えっと…。ステラ、まさかと思うけど昨晩のことって、ひょっとして…?」
「私が監視を禁じられているのは地下室のみですので当然屋敷内の他の場所は全て監視しておりました。本日の朝食はやや塩をきかせたものをご用意しておきましたし多目にお茶を飲んでいただくためにいつもより多目に湯を沸かしておきましたので、視察に戻られましても体調に問題は来さないと思われます」
「…直接言わないのが優しさじゃないのよ。というかそんな気遣いが逆にゴリゴリと私の精神を削りに来てるよ…。なんで如何にも『すごく汗かいてたよね?』って言わんばかりなのよ…」
ステラの完璧すぎる気遣いが今日はとても痛いよ…。
「朝食前に湯浴みのご用意をしておきましたので、ユーニャ様とご一緒に入ってこられては如何でしょう?」
「…あぁうん。そうするよ。じゃあユーニャを起こしたら一緒にお風呂入ってくる」
「はい。出発時刻を鑑みますとそれほど時間があるわけでは御座いませんので、あまり長湯しませんようご注意下さい」
わかった、わかったってば。
もうそろそろ許してください。
さっきから私の心が泣いてるよ。メンタルへのダメージがすごいことになっちゃってるんだよ。
ステラが退室した後、ようやく私は隣で眠るユーニャに声を掛けた。
「ユーニャ。ユーニャ起きて」
「うぅん……セシル…? …っ?! おっ、おはようセシル! あっあの、その昨日の、こと…なんだけど……えっと…」
「ふふ、もういいよ。『しちゃった』のは本当のことだからね」
「怒ってない? 嫌じゃなかった?」
「怒ってもないし、本気で嫌だったわけじゃないよ。それよりお風呂行こう? 昨日のままだから体中ベタベタだよ」
「…うんっ!」
ユーニャとは手を繋いだままだったので覚えたばかりの『短距離転移』を使って、瞬時に浴場の洗い場へとやってきた。
「あれ? さっきまでベッドの上にいたのに?」
「うん。私のスキルでね。これがあるからちゃんと毎日帰ってくるつもりだったんだよ。ただうまくいかなかったら我慢してもらう必要があったから、ユーニャには内緒にしてたの」
「もおぉ…それならそうと教えてくれたら良かったのにぃ」
繋いだ手は離さないまま、頬を膨らませたユーニャは空いてる片手で私を抱き寄せてきた。
お互い裸のままなので、ふにゅんとユーニャの大いなる実りと私の普通のものとが狭間で潰れ合う。
昨晩散々こんなことしたはずなのに改めてやるとちょっと恥ずかしいかもしれない。
「とっ、とりあえず私は視察に戻らないといけないから、早く入浴と朝食済ませなきゃっ」
「あ、そそ、そうだね! うん、じゃここからはいつも通りでね!」
チュ
って言いながらなんで軽く唇を合わせてくるのよ?!
ダメダメ! 時間ほんとに無いんだから!
「遅いでー。こっちはもう準備万端やで」
「ごめんね。じゃあすぐ戻ろう」
「えぇねん。『昨夜はお楽しみでしたね』やったんやろ? あっひゃひゃひゃひゃっ!」
アイカに揶揄われて顔がすごく熱くなってきた。
きっとすごく赤くなっているだろうけど、アイカは相変わらず笑い続けている。
さすがにちょっと頭にきたので石射をおでこにぶつけやった。ざまぁみろ。
気を取り直して長距離転移を使い昨日テントを貼ったところまで戻る。
テントの中に誰かが入り込んだ形跡はない。
一応結界魔法で中には入れないようにしておいたから当然といえば当然なんだけど。
服装を昨日と同じ貴族服にしてアイカ達もそれぞれローブや軽鎧に着替えてみんなで頷き合うと揃ってテントから出た。
「おはよう、セシルちゃん。昨日はちゃんと休めたかい?」
「おはよう、カボスさん。これでも冒険者だからね、夜営も問題ないよ」
「はは…まぁ夜営するようなテントじゃ無さそうだけどね…」
カボスさんは私達の後ろに立つ立派なテントを見上げてそんなことを呟いていた。
それ外見だけじゃなくて中は空間魔法を使ってもっと広くしてあるし、ベッドとかも備え付けてあるから普通に住めるんだけどね。それに毎晩屋敷に戻るつもりだから置いてるだけで使う予定も無かったりするんだよ。
なんで作ったかと問われればそのうち使うことがあるかもしれないからとしか言えない。今回は使う予定がないというだけだ。
「さ、それじゃ片付けが済んだら出発しよう」
カボスさんに促されるままに出発の準備を進めていく。
とは言え、テントを収納してしまえば私達はすぐにでも動けるのであっさりと片付けは済んでしまい、クドー作チタン製マグカップでカモミールティーを飲みながら彼等の準備が終わるのを待つことにした。
しかし、見れば見るほど荷物が多い。
カボスさんには当然大容量の魔法の鞄だけでなく、超大容量の魔法の鞄の箱タイプ…って魔法の箱って商品名だったっけ。あれも渡してあるから見た目以上に商品を積んであるはずなんだけど、馬車で長距離移動するってだけでもそれなりの荷物は必要になるんだね。
「セシルちゃん、お待たせ。それじゃ出発しよう」
「はーい」
残っていたお茶を飲み干して洗浄するとすぐに私の腰ベルトへ収納し、馬車へと乗り込んでいく。
実際中に入るのはクドーだけで彼はずっと寝てるんだけどさ。アイカはやっぱり幌の上で日向ぼっこだし、私も御者席でカボスさんとのんびりしている。
しかし、今日は昨日までとは違った。
確かにサスペンションも入れて衝撃には強くなったし、車体もあんまり揺れない。御者席だろうとクッションとスプリングを仕込んでお尻が痛くならないようにしてある。でもっ!
痛い…。
昨夜のアレでユーニャにあげちゃった例のモノのせいでお腹の奥に疼痛が…。何もしてなければそこまでの痛みじゃないはずなんだけど、馬車の揺れはなかなかに響く。
なのでこっそりと空間魔法の浮揚で座席から少しだけ浮いておくことにした。
これならあんまり痛くない。
これに関しては絶対に魔法で治療しないと誓ったのだから痛いからってすぐに誓いを破るわけにはいかない。
それからまたカボスさんと話しながら、昨日と同じように元気なお馬さん達が頑張って非常に早いペースで走り抜けることが出来、お昼過ぎにはローヤヨック伯爵領に入ることが出来た。
これなら明日の昼にはローヤヨック伯爵領都ライドングへ到着出来るだろう。
ローヤヨック伯爵領に入ってからは魔物の気配をそこそこ感じられたけど、幌の上にいるアイカが魔法で威嚇するか、そのまま討伐していたため護衛達も出番は無し。
これだけ順調な視察旅行なら何度か行くのも悪くないね。
今日もありがとうございました。
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