閑話 ユーニャの思い 前編
ちょっと性的なシーンがあります。
運営様に怒られない範囲内だと思いたい…。
「ユーニャさん、ランプの本体の在庫が無くなりそうです」
「ユーニャさん、アロマランプの本体とオイルもいくつか怪しいですね」
「ユーニャさん、南東地区の食堂組合から調理用魔道具の発注が入ってきました。金額と納期回答が欲しいそうです」
おかしい。
私はセシルともっとゆったりとしたお店をやるつもりだった。
あんまり売れなくてもいい。たまに儲けて食べていけるだけの稼ぎがあればと。
昔は王都でも一番のお店になりたいと思っていたけど、ちゃんと勉強すればするほどそれは子どもの夢だったと思い知ることになった。
だから国民学校に入ってしばらくした頃にはそんな風にほどほどのお店をやりたいと思っていたはずなの。
ところが…。
「在庫が切れそうな物は把握してあります。ランプは明日までに二十追加します。アロマランプは来週入荷です。在庫が切れたらそう言っておいて下さい。オイルは明日持ってきます。調理用魔道具の見積もりは作成し次第組合へ届けるように伝えて下さい」
目が回りそうなくらい忙しい。
売上だけで言えば中規模商会くらいあるのにまだお店を開いて二カ月くらい。
当初モルモさんの両親と私だけでやるつもりだった私のお店『カーバンクル』は、そんな呑気なことを言ってられない状況にまでなっていた。
連日押し寄せてくるお客さん。注文が絶えないディックの魔道具関係。毎日売り切れるアイカさんの薬品類。口コミで広がり続けるクドーさんの装飾品。
どれもこれもセシルに関係するものばかり。
対処しきれなくなった私は国民学校時代の同期に連絡を取り、四人を追加で雇い入れた。
そうでもしないと絶対誰かしら倒れていたに違いない。
雇い入れる際にセシルには確認してもらったけど、全面的に私に任せると言われたので特に信用出来る四人を選んだけど、大正解だったよ。
そういえばオープン当初に冒険者崩れのチンピラみたいなのがやってきてみかじめ料を払えって言われたこともあったけど、そういうのはミックにお願いしてあるから普通に追い払うことも出来た。
こういうのって縁だよね。幼なじみが頼りになってくれて本当に助かる。
まぁいつも用心棒がいるわけじゃないからたまにやってくるような変な…。
「こんなもんが金貨五枚もするわきゃねぇだろう! 小銀五枚だ! 文句言うんじゃねぇぞ!」
変な人はやっぱりたまにやってくる。
私は大きく溜め息をつくと店頭で大騒ぎしている現場へと足を運んだ。
店頭では私の同期が彼の頭一つ分は大きい厳つい男から詰め寄られていた。いかにも悪そうな、顔もだけど頭も同じくらい悪そうな男は山賊のような風貌で清潔感もあまり感じられない。
いっそ山賊なんじゃないかな?
あぁいうのを見ると国民学校時代の事件を思い出して心がかき乱されそうになる。
「お客様、いかがなさいましたか?」
営業スマイルで大騒ぎしている男へと近付いていく。
以前なら男性に近付くのも怖かったけど、みんなの協力もあって今では全く気にならない。
「どうもこうもあるかっ! 灯りの魔道具だかなんだか知らんが松明みたいな物に金貨五枚も払えるわけねぇだろう!」
「左様でしたか。確かに松明でしたら小銀八枚くらいが相場ですね」
「そうだっ! ほれ、これでいいな! こいつは貰ってくぜ!」
男は私の足下に小銀五枚を落とすと、拾えと言わんばかりに上から目線で私を睨み付けてきた。
物の価値もわからないのに恫喝で値切ろうなんてチンピラみたいな冒険者だね。
「ただ、これは魔石を入れて長時間灯りを出す魔道具なので金貨五枚は相場になります。ですので小銀五枚ではお売り出来ません」
「なんだとっ?! 俺の目がおかしいってのかっ?!」
「はい。お支払い出来ないのであればお帰り下さい」
お金を払う人はお客様だけど、こうやって不当な値切りをする人は客じゃない。こんなのはカーバンクルに来なくて結構だよ。
目の前の男は顔を真っ赤にしてライトの魔道具を握り締めているけど、あんなに力を入れたら壊れちゃいそうだ。弁償させようにもお金持ってなさそうだなぁ、山賊っぽいし。
「てめぇ……チンケな店の女がいい気になってんじゃねえっ!」
山賊だと思っていた男は本当に頭も悪かったようで魔道具を持っていない方の手を振りかぶると私に殴りかかってきた。
こんなことしたら衛兵に突き出されて牢屋行きなのにね。
ぱしっ
「なっ?! お、俺の拳を…、っていだだだだだだだっ?!!!」
私は突き出された拳を片手で受け止めると、うっかり粉砕しないように気をつけながら力を入れた。なのに、あんまり力を入れない内に山賊っぽい男は床に膝をついてしまった。
なんとか手を離そうと引っ張ったり私の手を退かそうとしたりしてるけど、全く以てびくともしない。
こんなの王都管理ダンジョン四十階層にいるゴーレム系の魔物に比べたら子どもにじゃれつかれているくらいのものでしかない。
…うん、クドーさんはスパルタだったよ。教え方は丁寧でわかりやすかったけど。
「はっ、離せ! てて、手がっ、潰れっ…」
「恐喝や恫喝などによる店員への暴力行為と不当な値下げ要求は王国法で定められている商業規則によって禁じられております。ですのでこのまま衛兵に引き渡します」
「てっ、てめぇ…ふざ、ふざけんじゃねぇぞ…。俺に、なんかありゃあ、仲間達がこんな店潰しに来るからな…」
痛みに悶えてる割にはまだ脅そうとしてくる。
徹底的にやってしまってもいいけど、私はセシル達みたいにうまく手加減出来ないからなぁ…、どうしよう?
「ユーニャ、そこらへんにしとけよ」
私の名前を呼ばれたので店の入り口を見ると幼なじみのミックがそこに立っていた。
「あぁミック。ちょうどいいところに」
「事情は知ってるから、そいつのことは俺に任せとけ」
左右に揺れながら歩いてきたミックが山賊っぽい男の首に手を回したので、私は安心して男の手を解放した。
よく見ると指先が拳にめり込んでいたみたいで、ガントレットの指先に血がついていた。それをモルモさんのお母さんから渡されたハンカチで拭っておいた。
汚らしい。
「じゃあミック、よろしくね」
「おうよ。んじゃ、一緒に来てもらおうか。ついでにお友だちのことも俺に教えてくれよ、なっ?!」
ミックが男に凄むとバタバタと暴れていた男はようやく大人しくなった。
私の方がレベルは高いはずなのになんで私だとこんな風に絡まれちゃうんだろうね。納得いかない。
それでも迷惑な山賊はミックに連れて行かれたので、それからは通常通り店を営業させた。
彼があの後どうなったかは私が知る必要のないことだしね。
カーバンクルの営業が終わり、屋敷に戻った後すぐに明日店に持っていく商品を魔法の鞄に入れた。
最近は同期を雇ったおかげで帳簿をつける作業も私がやらなくて済むようになったのは助かるね。これなら王都かベオファウムに二号店を出すのも有りかもしれない。
その場合は店員の補充と用心棒もまた考えなきゃいけないからすぐに動ける話ではないけれど。
明日の支度を終えた私は夕飯を食べるために食堂へ向かう。
広い屋敷とは言え、ここで働く人は少ない。屋敷の維持もステラがいればこと足りてしまう。本来なら私がここにいちゃいけない気がするのだけど、セシルが別のところに住むことを許してくれなかった。
私としては助かるんだけど、ちょっと過保護だよね?
ガチャ
食堂のドアを開ける。
この屋敷は元が大公様の屋敷だけあってとても広い。当主家族が使うこの食堂にしても十人以上が座れる席があるけれど普段は五人しか使わない。
でも今日いるのは二人だけ。
「ユーニャ姉ちゃん、おかえり」
「…ただいまディック。ステラ、夕飯の用意をお願いしていい?」
「承知致しました」
セシルとアイカさん、クドーさんは今日から視察に出てしまった。王国の西側をぐるっと回ってくるため二カ月もの長い旅になるそうだ。
屋敷のことはセドリックさんもいるし、インギスさんもいる。警備もいつもの四人がいれば何の問題もない。
けれど私が一番いてほしい人はいない。
いつもはおいしいステラの食事だけど、なんだか今日は味気ない。調味料を入れ忘れたのではないかと思うほどに味がしない。
そんな筈無いのにね。私が寂しいから、セシルがいないからそう思ってるだけで。
国民学校を卒業してからはずっと一緒にいたからか、突然セシルのいない生活になってしまったことに心が追い付いてこない。
セシルは貴族。伯爵だ。それが私みたいなただの平民がこんな風に思ったらいけないのかもしれないけど、ずっと優しくてカッコ良くて可愛くて…親友だけど、やっぱりそれ以上に好きになってしまって…。
「はぁ…」
気付けば食事も終わり、お茶を飲みながら小さく溜め息を漏らしたのをディックにまで気付かれてしまった。
小さな瞳が心配そうに私を見ているけど、何でもないと、大丈夫だよと思わせるために微笑んだ。
ちゃんと笑えているだろうか?
余計に心配を掛けていないだろうか?
あの子は昔からマイペースだけど、他人の機微には敏感だったから多分駄目だよね。
「なんか今日はちょっと疲れちゃった。ステラ、お風呂入れるかな?」
「はい。ご用意出来ております」
「じゃあお風呂済ませたら先に休ませてもらうね。ディックもあんまり夜更かししちゃ駄目だよ? セシルから毎日注意させるように言われてるんだから」
「大丈夫だよ。ねえねには心配かけないくらいの時間までにしておくから」
それって夜更かしはやらないって意味じゃないでしょ。
けど何度言っても効果はないみたいだし、セシルからも言うだけ言っておくようにと言われただけだったし、これでいいのかな。
入浴を済ませた後、部屋に戻るために屋敷を歩く。
やっぱりいつもよりなんか屋敷全体の雰囲気も暗い気がする。当主がいないだけでこんな風になる貴族家なんて聞いたことがないよ。
やっぱりセシルはすごいね。
いるだけでみんな楽しくなっちゃうんだから。
少なくとも、私はとっても毎日が楽しいよ。
部屋に入る前にふと横を見るとセシルの部屋がある。書斎と繋がるその部屋は特に鍵もかけられておらず、いつでも、誰でも入ることが出来る。それはセシルがいつでも、誰の話でも聞くという意味を込めていたらしい。
今日は聞いてくれないじゃない…。
セシルに会いたいよ…。
今日も読んでくださってありがとうございました。
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