第284話 視察旅行
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リーゼさんの研究はあれからかなり進んだ。
ちゃんとした試作品が出来上がったところでカンファさんにも見てもらうことにしたところ、彼の商人としての琴線に触れてしまった。
物が物で、原価もかなりするため売れるのは貴族だけになるだろうということでヴィーヴル商会でのみ取り扱うことになった。
カンファさん曰わく「貴族の間に蔓延し続けている性病予防にも繋がる」と言っていたので、彼なりの勝算はかなり高いのだと思う。
ちなみに試作品は全て私に届けられ地下室に封印されている。
自分で作ったフォルサイト製のソレも未だ未使用のままである。
はぁ。
そんなわけでヴィーヴル商会もカーバンクルもかなり軌道に乗っており、売上はずっと右肩上がり。
カーバンクルでは連日の盛況で従業員も追加で雇うことになり、その面接やら教育やらでユーニャとモルモは大忙し。
そのため屋敷での事務仕事は全てインギスがやることになってしまったけど、時折セドリックが手伝っているようなので切羽詰まった状況には程遠い。
カンファさんはそのあたりはさすがで、相応の従業員を既に確保しているという。
ヴィーヴル商会からカーバンクルへ出向という形を取ることも出来たけど、貴族や富豪相手の接客に慣れた人だと平民や冒険者相手にはあまり向かないようなのでその話は流れた。
どちらにしろ、それだけ人を雇って人件費は増えたはずなのにまだまだ売上は上がり続けているそうだ。
『そうだ』っていうのは最近は粗利益の三割貰うことを止めたせいで週毎の売上を把握出来なくなったからだ。今も毎月の試算表は貰っているので全くわからないわけじゃないけど、いろんな資産運用もしているみたいで黒字であること以外はわかってない。
まぁモルモがお金の管理で月末月初に徹夜続きになってる姿を見れば悪すぎるか良すぎるかのどちらかだろうということはわかっているので、ひとまずは任せることにした。
ということで、私は貴族になってから今日初めて視察に行きます!
話の脈絡がないかもしれないけど。
つまりは私がやらなきゃいけない仕事が粗方片付いたってことさ!
今回の視察が終わったら次はディックと一緒にクアバーデス侯爵領へ行くことになっている。とにかく今回の視察は私がやらないといけないことがいくつかあるので、結構大事だったりする。
行先はローヤヨック伯爵領から北上してオーユゴック伯爵領、更に北上してゴルドオード侯爵領へと向かう。それぞれが帝国との国境を持っている領地ばかりだけど、そもそも帝国との国境というのが大陸を南北に走る『ドラゴスパイン山脈』を元に出来ているためローヤヨック伯爵領にしろ、オーユデック伯爵領にしろ帝国との諍いはほとんどない。ゴルドオード侯爵領では少しばかりの小競り合いがあるみたいだけどね。
ちなみに以前携帯電話のエリア確認をした際に、ドラゴスパイン山脈の中心には巨大なカルデラ湖があることを確認している。
あの時は時間が無くて調査出来なかったけど、鉱物操作や地魔法、ガイアを使って念入りに調査したいところだね。カルデラ湖があるってことは、火山があるってこと。火山があれば、その地下には大量の宝石が眠っている可能性が高い。
オーユデック伯爵領都から飛行して一時間くらいなんだけど、その時間が取れたらの話。
それは今回の同行者によるためだ。
「いやぁまさかセシルちゃ…っとと、セシーリア様と一緒に買い付けに行くことが出来るとは」
「今は昔みたいに『セシルちゃん』でいいよ、カボスさん」
ヴィーヴル商会から同行してもらったカボスさんだ。
宝石の買い付けならこの人はとても詳しく、国内であればどの領地の宝石工房にも顔が効くのだとか。
クアバーデス侯爵領にいた時から何度もお世話になった人だし、カンファさんがうまくヴィーヴル商会に引き抜いてくれたおかげで今も私のためにあちこちから宝石を集めてきてくれている。
今回も白金貨二百枚を資金に渡してあるので存分にその腕を振るってほしいものだね。
「それにしても、あのセシルちゃんが貴族様になるとはねぇ」
「本当にね」
「おいおい、自分のことだろう?」
「そうだけど、私だってこんなことになるなんて思わなかったし」
馬車の御者席に二人並んで腰掛けてそんな話をしながらのんびり馬車の旅を楽しんでいる。
勿論同行者は他にもいる。
まず護衛のために専属契約しているBランク冒険者パーティ『鋼鉄の城塞』という男性四人組で、全員が三十歳以上で冒険者歴は十五年から二十年というベテラン達だ。
護衛だけを専門で受けていたわけじゃないけど、全員がある程度の年齢になってきたことを機に今回の話を受けて二つ返事で受けたと聞いている。
私も貴族院時代に王都冒険者ギルドで何度かすれ違っているし、お互いに顔見知り程度の面識はある。
他にもヴィーヴル商会の丁稚や番頭見習いが二人。彼等のことは今回初めて会ったのでよくは知らないけど、カボスさんが同行させるくらいなのでそれなりに見込みがあるのかもしれない。
それと。
「くっ…ああぁぁぁぁぁぁっ…。ねっむいなぁ…」
大きなあくびをして幌の上で寝ているアイカ。
そして幌の中で寝ているクドーだ。
やっぱり私が安心して連れていけるのはこの二人。アイカとクドーがいてくれればたいていのことは何とでもなる。
「カボスさん。さっきも説明は聞いたけど、もう一回今回の日程を教えてくれる?」
「あぁ。まず今目指しているのがローヤヨック伯爵領都ライドングだね。そこまで順調にいけば七日。そこでセシルちゃんが伯爵様に挨拶した後は領内の工房周りと鉱山の視察を十日くらい見てるよ。残り二つの領地でも同じような日程になるけど、オーユデック伯爵領都ウェリントンへはライドングから五日。更にゴルドオード侯爵領都バスタルザまで七日。王都へはイーキッシュ公爵領を南下して凡そ十二日。約二か月の予定だ」
相当濃い視察になりそう。
それぞれの領主への挨拶はちょっとだけ面倒だけど、工房や鉱山への視察は楽しみで仕方ない。
ちなみにどの領主も夜会で一度挨拶だけはしているので顔は覚えている、はず。一応。
ローヤヨック伯は評判の良い領主で、領内の運営に熱心な方だった。私の宝石を見て、自領でも何とか同じ加工が出来ないかと熱心に聞いてきたっけ。
オーユデック伯も宝石の加工については聞いてきたけど、あれは力を借りようとかじゃなくて私を何とか自分のものにしたいという思惑が強く表れていて、良くも悪くも貴族らしい人だった。
イーキッシュ公は先代国王の兄に当たる人で、領内にあるダンジョンをうまく経営することで利益を出し続けているんだとか。規模としてはユアちゃんがダンジョンマスターをしている王都管理ダンジョンに比べると小規模ながらも複数をうまく管理しているそうだ。時間があれば攻略してみたいよね。
ゴルドオード侯は…何度も会ってるから省略。
「かなり長い日程になるね」
「ははっ。セシルちゃんにとっちゃそうかもしれないけど、こんなのは行商人なら普通のことさ」
むぅ。
一応今回視察に同行してもらう礼として最新式の馬車をカボスさんに三台進呈しているけど、折角私がいるのだからもう少し日程を早められるようなことをしてあげたいよね。
というわけで。
「うっ?! おぉっ?! おぉおおぉぉぉぉっ! なん、なんだって馬がこんなにっ?!」
そりゃ勿論私のせいです。
普段は全く使わない補助魔法の効果で馬達がとっても元気になっている。
当然私が乗ってる馬車の馬だけじゃなくて護衛や行商に使う商品を載せた馬車の馬にもだ。
体力重強、速度重強、筋力重強を。ついでに空気抵抗を減らす為に天魔法でずっと進行方向へと風を送り続けている。
馬に疲れが見えてきたら回復魔法の出番。
同時に普通ならすごく揺れるだろう馬車は出発前にアイカが魔改造したおり、シャフトにサスペンション入りで車輪にはゴムが巻かれ、座席のシートにもスプリングが入っているため気になるほどのものでもない。
「あひゃひゃひゃひゃっ! こりゃえぇなぁっ!」
幌の上で寝転んでいるアイカも楽しそうで何よりだ。
尚、後ろからついてきてる護衛を乗せた馬車と商品を乗せた馬車の御者役である丁稚と番頭見習いは真っ青な泣き顔で手綱を握り締めていたよ。ごめんね?
旅程は順調過ぎるほどに進み、途中魔物や盗賊に襲われることもなく三日目の休憩に使うはずだった野営場所に着いた。
領都に繋がる街道にはこうして半日分の距離毎に野営場所が設けられており、行商や冒険者はそこで休憩している。
私がこういう場所を使うのはとても久し振りだけどね。
今回私は貴族として参加しているため夜営の準備には参加していないのだけど、つい最近までは『鋼鉄の城塞』と同じBランク冒険者だったのでちょっとだけ落ち着かない。
まぁ食事に関しては完全に別にするって言ってあるからあとは寝床の問題くらいしかないけど。
夜番は護衛の役目だよ? 私達三人がいれば全く必要ないけど、彼等の仕事を奪うわけにもいかないでしょ。
というわけで私とアイカ、クドーの三人は異空間庫から出した組み立て済みのテントを取り出して中にいる。
このテントは今回の視察に出る前、アイカと二人で作った物でサイズ的に最早テントの域を超えている。なんだったかな? モンゴルの遊牧民が使ってる大きくて頑丈なテントくらいのサイズがある。当然全体を木の枠で囲い、蔦を伸ばして補強させているのでちょっとの風や雨くらいじゃびくともしない。
勿論雨降って水が入ってきたら嫌だから地面から拳二つ分くらい高くなるように金属で基礎を作ってあるよ。
「自分で設計しといてなんやけど、メッチャえぇやん」
「広いし、家具も全部備え付けにしたしね。当然各種魔石も設置済みだよ」
「もうこれは家だろう」
クドーは備え付けられている長椅子に腰掛けて早速寛いでいる。
けど実はそんな時間はなかったりする。
今回の旅の目的の一つは『実験』なのだから。
「とりあえず一人で近い場所からは成功してるから、問題ないと思うけど早速やるよ」
「ウチはいつでも」
「そういえばそうだったな。俺もいつでもいい」
折角落ち着いてたところだったけどすぐにクドーも立ち上がり私のすぐ近くまでやってきた。
「じゃいくよ。『長距離転移』」
オリジンスキル『ガイア』でゲンマを使ったのと同じくらい魔力の喪失感がして自分の周囲がぐにゃりと歪んだ。
そのまま徐々に景色がブラックアウトした後、再び明るくなっていく。
ぐにゃぐにゃになっていた景色がすっかり元通りになった時、私達が立っていたのは王都の屋敷にある私の私室だった。
「…うん、成功かな? 二人とも問題ない?」
「ちょっと酔いそうになったくらいのもんやな。後は何もないで」
「俺もだ」
よし、実験は成功だね!
「セ、セシル…?」
誰もいないはずだった部屋から声がしたので振り向くと何故かユーニャが私のベッドの上で丸くなっていた。
予想外のことに私が固まってしまったのは仕方ないと思うけど、まず何よりもなんでユーニャが私の部屋にいるの?
今日も読んでくださってありがとうございました。
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