第283話 何やってんの
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職人街の奥でひっそりと研究している貴族令嬢、リゼメジャー・ゾノサヴァイル。
彼女が開発していたのは前世で言うところの所謂ジョークグッズだった。
「いや、えっと……その…」
私も普段から夜にかなり励んでる方だけど、そういうこととちゃんと向き合ったことはないのでいざとなるとさすがに動揺を隠せないでいた。
「おいアイカ。ひょっとしてセシルは?」
「正解や。ウチらとはちゃうんやからしゃあないやろ。ま、ホンマのところはムッツリの好き者やろうけどな!」
「アッ、アイカ! 変なこと言わなくていいの!」
「あひゃひゃひゃっ、そらスマンかったなぁ!」
リーゼさんを鑑定した時に気付いているけど、彼女も夜人族だ。だから多分私が思ってるよりも遥かに経験が豊富なんだろう。
女の私でさえ綺麗だなって思うくらいの人なんだし、当然と言えば当然か。年齢もかなり上だしね。
「リーゼ。セシルはアンタが夜人族やって気付いとる。まぁちょっとばかし昔話したってや」
「ふむ? 人物鑑定を持ってるのか。それなら私の年齢にも気付いてるだろうし、いいだろう」
それからまたしばらくリーゼさんの話は続いた。
彼女はずっと昔にゾノサヴァイル家に生まれ、特異的に夜人族になってしまったらしい。
というのも母親側にヴァンパイアの、父親側にはサキュバスの血が含まれていたために起こった一種の先祖返りということだった。
そして最初に結婚したのが二十になる前。その時の旦那を絞りすぎて衰弱死させてしまい、以降も何度結婚しようが絞りすぎるために結婚を許されなくなった。
また子どもも出来ず、夜な夜な色町に出ては男を探しまくった時期があったとか。
そして最初の百年ほどでタレントの色魔を手に入れたという。
参考までに。
色魔:万人を貪った色欲を支配せし者。自身の魅力に補正。
つまり男だったらもっとリーゼさんが魅力的に見えちゃうってことだね。危ないからディックの家庭教師を頼むのはやめておこう。
実家では夜人族の力を恐れもしたが、うまく使うため様々な教育も施した。その中で興味を持ったのが魔道具だった。
彼女は最早男の精を貪ることは必要無くてかなり制御出来ているらしいのだが、身体を持て余している現状には納得がいかない。世の中にはそんな人がたくさんいるに違いないと始めたのが現在取り組んでいる大人のための性欲を満たすための魔道具開発。
その構想から始まって既に四十年以上。
魔石の問題と金の問題にいつも悩まされ遅々として開発は進まなかったらしい。
そして彼女自身の高い知能と普通の人間よりも長い寿命を持つためゾノサヴァイル家のことについていろいろ助言を与えることも多いのだとか。長寿種族をそこまで良しとしない家系であるため、あまり他人に会わないよう実家を出て研究所に引きこもっている。但し家族には一番上の姉ということで通しているのだとか。滅多に会わないから今もそれでずっと通しているけど特に困ったことは起きてないそうだ。
「ということさ」
「はぁ…。なんというか…凄まじいの一言だね」
「一般的な夜人族はこんなもんや。サキュバス族みたいに種族全体で力の使い方を教えてくれるようなことはあらへんからな。失敗しながらちょっとずつ自分の力を制御出来るようにならなアカンねん」
なるほど。
アイカはクドーに早い段階で出会うことが出来たからそういう失敗が少なかったってことか。
クドーの生命力なら相当絞ったところで衰弱死することは無いだろうし、アイカは錬金術師で精力剤も作れるからそれでいろいろ勉強したのね。
「馬鹿で低俗な研究と思われるかもしれないがいつもあたし達…いや、人間や亜人に類される者達は欲に溺れるものだ。結果として弱い者を強い者が食い物にするのではなく、きちんと発散して正常な社会生活を送れるようにしたいと思っている」
思った以上にしっかりした考えだった。
確かに色に狂って弱者を襲うような馬鹿者達はどこにでもいる。
前世での最期だったり。
リーアを攫ったゴランガ達のような盗賊団しかり、ユーニャ達成人する前の男女を見境いなく襲った屑のような盗賊団しかり。
貴族の中でも黒い噂の絶えない人物はいくらでもいる。
それこそ十歳くらいの若い男の子が大好きな伯爵夫人(御年五十歳)とか、何人もの男を侍らして酒池肉林を体現するような子爵令嬢や、筋肉質の男性ばかりを集めてそれを傷つけることにしか興味がない侯爵令嬢とか。
そういうのを少しでも減らせれば、小さなことでもまともな社会が出来上がるのは本当だと思う。
自分の意思の強さがあれば、なんていう理想論なんかスライムにでも食わせておけばいい。
実現可能な、現実的な方法を考えているリーゼさんを尊敬する。
「あ、けど出来上がったら一番使いたいんは自分やろ?」
「勿論だとも!」
「ついでに言うとさっきのは建前やな?」
「世の中の理は常に本音と建て前で出来ているのさ!」
おい、私の尊敬を返せ。
でも…これ、絶対滅茶苦茶売れる、よね?
どんなものを考えてるかによるけど、より刺激的なことを求める人には絶対必要とされる。間違いない。
「リーゼさんの建て前云々はともかく。それでも私は支援したいと思うよ。出来上がった製品は私の商会で取り扱いさせてもらえるのも条件になっちゃうけど」
「構わないとも! 私は自分と周りの人が身体を持て余す夜を無くすことが出来ればそれでいい!」
それが一番の本音だよね?
「じゃ、じゃあどんなものを作ろうとしてるか教えてもらえるかな?」
「む…? うぅん…それは構わないが、セシルは未経験なのだろう? ちょっと刺激が強すぎないか?」
「大丈夫やって。こう見えてなかなかの好き者やから」
「アイカ」
私が睨むとアイカは「おぉこわ」と言ってまたもそっぽを向いた。
そんなに言われるほどじゃないもん。
私は宝石さえあれば男なんかいなくてもいいと思ってるだけで。
「じゃあざっと見せていこう」
それからいくつもの試作品、構想、理論をリーゼさんから披露された。
いくつかは魔石さえあればすぐに完成しそうなのだけど…。
「なんだろうね。なんかあともうちょっとって感じがする」
「せやな。これやとちぃとばかし拙いと思うわ」
というように私やアイカからは不評だ。
細かい言及は避けるけど、素材が木や金属じゃちょっとね。
「ねぇアイカ。なんかいい方法ないかな?」
「あるで。シリコンとかゴムとか」
「…あるのっ?!」
「当たり前やろ。錬金術は科学の前身になる学問やったんで? ウチ自身は使い道あらへんからずっと前に作って以来やけどな」
アイカが高性能すぎる。
「それなら…あんなのとかこんなのとかも作れるってこと?」
「それだけやあらへん。男用のアレとかソレもや。他にもヌルっとする例のやつもいけるな」
私達は前世で見たことのあるいろんな物を想像しながら話を進めていく。
しかしリーゼさんは私達の会話に全く入ってこられないので少しイライラし始めていた。
「おい、そっちだけで話をするな」
「スマンスマン。リーゼに作ってもらいたいんはこんなもんやな」
アイカは紙に書き出した魔道具のベースを作ってもらうようにリーゼさんに依頼している。
それらを包み込むための物を薄い金属で考えているらしいけど、リーゼさんなら四則魔法(下級)もあるし問題はないね。プラスチックがあれば一番良いのだろうけど、さすがに石油製品なんてのはない。
それから更に話は盛り上がり続け、日も傾き出した頃にようやく全ての形が整った。
「うんうん! セシルからこれだけ魔石と金を貰ったし、すぐにでも開発に取り掛かるぞ!」
「あぁ…はい。お願い、します…」
リーゼさんとアイカのあまりにも明け透けな話に中てられてちょっとだけ顔が熱い。
あんなに直接的な形状の物を金属で作らされるとは思わなかったよ…。
私の四則魔法(上級)とオリジンスキル『ガイア』のおかげでやたらリアルな形をスムーズに作れてしまったのがそもそもの原因なんだけど。
大きく溜め息を吐き出す。
「はぁ。普通の人はやっぱりそういうものが必要なんだよね」
「なんだい? セシルはどういうものが必要なんだ?」
「私は別に宝石さえあれば…」
「なんだセシルは宝石が好きなのか? それならいっそ『コレ』を宝石で作ってしまえばいいじゃないか」
そう言ってリーゼさんは私が作った金属製のアレを掲げた。
いやいや、いくらなんでも宝石で作るってそんなにたくさん使ったら勿体ないでしょ。小さくても輝いてるから可愛らしくて綺麗だっていうのに。すごく大きなサイズの宝石があれば考えるかもしれないけ…ど……。
その瞬間私の頭の中で弾けるかのように一つの宝石が思い浮かんだ。
あるじゃんか。フォルサイトが。
あれなら魔物をいくらでも宝石に出来るよ。
ガシッ
気付いた時にはリーゼさんの両手を掴んでいた。
「リーゼさん天才!」
「うん? そうかい? そうなんだがな!」
高笑いを上げるリーゼさんと赤い顔をしながらも楽しそうに笑う私。
そんな私達をアイカだけが冷めた目で見ていた。
リーゼさんの研究所から帰ってくる途中、アイカにこっそり言われた。
「セシル、何してもえぇけど最初くらいはちゃんと好きな人としとき。後悔するかもしれんで?」
「え? いや好きな人とかいないし、宝石さえあれば私はそれでいいかなって」
「…まぁえぇけどな。忠告だけはしといたで」
そんな話。
夕飯もお風呂も済ませた後、一人執務室の机で魔法の鞄から取り出したフォルサイトの塊へ魔力を集中するまではドキドキして仕方なかった。
そして私の前にはフォルサイトで作った例の物が置いてある。
私凄い物を作ってしまった!
と大歓喜していたのはさっきまで。
冷静になってみると、自分への嫌悪感が凄まじい。
「何やってんの、私は…」
勢いで作ってしまったものの、取り扱いに困るものになってしまった。
勢いのままに使ってしまっていたら事後にとんでもない自己嫌悪に陥るところだったよ…。ちゃんと冷静になった自分を少しだけ褒めてやりたい。
いやそもそも作るなよって話なんだけど。
開いた手のひらの親指から小指くらいの長さがあり、太さは指二本分くらいの丸い棒。先端も丸くなっていて、さっきアイカとリーゼさんが話していた物の中では『初心者向け』と呼ばれていたものだ。
けどこれを自分で使うのはあまりにも抵抗感が強い。
しばらく逡巡したけど、そっと立ち上がり『棒』を机の引き出しに収納した。
いつか使うことがあるかもしれないけど、今は封印しておこう。うん、忘れておこう。
それから一日中ドキドキしっぱなしだったせいか、夜の一人作業がとてもとても捗って長くなってしまったのは誰にも言えない秘密になった。
今日も読んでくださってありがとうございました。
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